愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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 今話は前話より前のお話です。


十六話

「アクアマリーン、ルビー。お風呂の時間だよ~」

「ッ──!」

「あーい!」

 

 お風呂道具片手に宣言したアイに、双子は勢いよく駆け出した。

 ルビーは喜びの返事をしながらアイの下へ。

 アクアはベビーベッドから跳び起きバタバタと皿洗いをしている悠の下へ逃げるように駆ける。到着するとヒシッ! と悠の足にしがみ付いた。コアラかな。

 

「……藍久愛海は自分が入れるから、お母さんは瑠美衣を入れてくれるか?」

「またかー。たまには二人一緒にお風呂入りたいんだけどな~」

「二人共大人しいし、お風呂用の抱っこ布は買ったから風呂に入れることはできると思うけど、流石に二人いっぺんは危ないからな。もう少し大きくなるまではどっちかで我慢しような」

「残念残念。じゃあルビー、お風呂行こっか」

「あい!」

 

 ルビーを抱きかかえ、アイはリビングを出て行く。

 しばらくして浴室から入浴している音が聞こえてくると、ようやくアクアは悠の足から離れた。

 

「そんなにお母さんとお風呂は嫌か? 藍久愛海」

「嫌っていうか……むしろ父さんはいいの? いくら生まれ変わって赤ん坊だとしても、中身オッサンなんだぞ」

「中身がオッサンでもアラサー、アラフォーでも、今は藍久愛海という自分とアイの子ども。息子に嫉妬するのもおかしな話だろう。アイも精神的にも問題ないみたいだしな。それにそんなこと言ったら、お父さんなんて前世含めたら中身アラフィフ近くだぞ」

 

 アイとダブルスコアどころかトリプルスコアだ、と悠は苦笑を浮かべる。

 

「確か父さんって今19だよね。それでアラフィフって……前世は30近くで?」

「ん、そうだな……」

「なんでそんな若さで……」

「色々あったのさ。──よっと」

 

 同じぐらいの歳で死んだ自身のことを棚上げしたアクアの質問に、あいまいに答えつつ皿洗いを終え、足元のアクアを抱き上げてリビングに戻る悠。まるであまり話したくないような話題の戻しかたに、アクアもそれ以上追及せずに話題がお風呂に戻る。

 腰を下ろし、胡坐を掻いた足の間にアクアを座らせる。

 

「藍久愛海の気持ちもわかる。お父さんも同じ頃は……いや、よくよく思い返すと、若い職員は少なかったから特に恥ずかしいと思ったことなかったな」

「ちょっと?」

「はは……すまない。まあ、これからも庇ってあげるけど、たまにはお母さんと入ってあげてほしいんだけどね」

「……も、もうちょっと心の準備ができたら」

「よし。あと、お父さんもたまには瑠美衣と入りたいしな」

「やっぱりずっと父さんと入る。ルビーと一緒に風呂になんか入らせるもんか」

「はは、残念だったな。既に瑠美衣の沐浴も入浴も経験済みだったりする」

 

 うりうりと優しく頭を撫でまわす父親(ハルカ)に、藍久愛海はされるがままになりながらも体の向きを変えて、ぽこぽこと悠の腹部を叩く。ダメージのない攻撃に悠は笑みを深くして一層アクアを撫で続けるのだった。

 

 その翌日。

 今日も今日とて入浴は悠とアクア。アイとルビーで入ることになった。いつもと違うのは、

 

「父さんがアイより先に入るなんて珍しいね」

「そうか? ……言われてみれば、最近は後から入ることの方が多い気がするな」

 

 一番風呂に悠とアクアが入っていた。入浴用の抱っこ布でアクアを抱えて湯船に浸かっている。

 今日はアイからやることがあるから先に入って、と言われたため、悠はその言葉に甘え、アクアを連れて先に入浴していた。

 湯加減は? と悠が聞く。

 気持ちいいよ、とアクアは返す。

 会話は少なく、浴室には水音か悠の鼻歌だけが響く。選曲は当然アクアが好きなB小町の曲。加えてアクアを抱いている手はトン、トンと、ゆっくりとリズムよくアクアに優しい振動を与えているため、次第にうつらうつらとアクアの瞼が重くなってくる。

 心地よい感覚に身を委ねアクアは夢の世界に旅立つ──

 

「ノックしないでおっじゃま~♪」

「うみゅ……。…………ふぇあっ!?」

 

 直前に、浴室の扉が開かれ服を脱いだアイが突入してきた。腕にはお風呂道具とルビーを抱いており、当然ルビーもすっぽんぽんである。

 眠気に反応が遅れたアクアだったが、次第に意識がしっかりすると素っ頓狂な声を上げて顔を真っ赤に染める。入浴時間が長くなったわけではないのは間違いない。すぐに視線をそらす。

 

「やっぱりか。アクア、お湯に落ちるといけないから大人しくしていような」

「~~っ……ぅぅ」

 

 アイならやりそうだなと、悠はなんとなく直観ではないが予想はしていた。アクアが逃げられないよう先に風呂に入るよう言ったのだろう。

 今暴れたら湯に落ちて大変なことになるとわかっているため、アクアは悠の言葉に大人しく従う他なかった。

 

「よし、いい子だ。お母さん、ルビーをこっちに」

「うん。ちゃちゃっと洗っちゃうから、パパの腕でちょっと待っててね? ルビー」

「……」

 

 いつもとは違い無言でいるルビーを片手で受け取り湯船に浸かる。その間にアイが体を洗い始めた。

 

「……」

 

 抱きかかえられたルビーは声を上げることなく悠を、詳しく言うなら悠の体をジィッと見つめていた。

 

「どうした? ルビー。お父さんをジッと見て」

「……パパ、ムキムキ」

「え、ああそうか。ルビーの前で服を脱いだことなかったか」

「すっごいでしょ~。パパって服着てるとわかんないけど、実は着痩せする筋肉モリモリのマッチョマンなんだよ。マッチョパパだ」

「その呼び方はやめてくれ、ホント。ルビーも真似して呼ばないでね? ……呼ばないでね?」

 

 あはは、と笑うアイに悠は懇願し、心配そうな表情でルビーにお願いする。

 アイの言葉通り、悠の肉体はドーピングに近い転生特典を下地に、グルメ食材の摂取や空いた時間で行っているトレーニングによって筋肉が発達し、脂肪がかなり引き絞られている。腹部もしっかりシックスパックができていた。

 流石に『トリコ』世界の実力者やこの世界のボディビル大会に出場できそうなレベルの丸太みたいなボリュームの筋肉はしていないが、細マッチョと呼べる体つきになっている。

 自分の体を洗い終えたアイはルビーを洗う準備をして、

 

「お待たせルビー。きれいきれいにしようね~」

「……はっ。あ、あう~……」

 

 悠に向けて腕を伸ばした。

 いつもであればすぐさまアイの方へ腕を伸ばすルビーだったが、珍しいことに悠とアイへ交互に視線を向けて悩んでいた。

 さりなちゃん(ルビー)って筋肉好きだっけ? とアクアは赤面したまま内心首を傾げる。

 

「ありゃ、珍しい。──うん、たまにはパパに体洗ってもらおっか」

 

 悠とルビーの答えを聞く前に湯船に浸かる。ついでに悠の腕に抱かれていたアクアを引っこ抜いて自身の胸の中に抱きかかえた。

 一瞬のことにアクアはワンテンポ遅れて出した悲鳴が裏返ってしまう。

 

「ひゃわっ!?」

「こらアクアマリン、駄目だよ。滑りやすいから暴れちゃメッ、だからね」

「や、やぁ……お、おとさーん!」

 

 どうにかルビーと交代できないかと悠を呼ぶも、

 

「あー……お父さんは瑠美衣を綺麗しなきゃいけないから。たまにはお母さんに甘えような」

 

 そう言って湯船から上がり、ルビーの体を洗いはじめるのだった。

 はじめは父親に体を洗われるのが恥ずかしく、筋肉から我に返ったルビーは唸るような声を上げていたが、次第に気持ちよさそうな声に変わっていった。

 

(確かに父さんの触り方ってすごい繊細って感じがして気持ちいいんだよなぁ……)

 

 毎日洗ってもらっていたアクアはルビーが考えてそうなことに同意する。他事でも考えていないと推しの柔肌を意識してしまいそうになるからだ。今日ほど赤子の姿に感謝した日はないだろう。

 

「……アクアマリンはママが嫌いなのかな? 子どもって性別が違う親の方に懐きやすいって書いてあったんだけど」

「……ぅぅ」

 

 嫌ってません。むしろ大好きです。恥ずかしいだけです。

 ──なんて言えればいいのだが、流石に乳児がそこまでハッキリと言うわけにはいかない。

 

「恥ずかしがってるだけさ」

(だからと言って、父さんが言わないでほしい……)

「そう?」

「ああ。知ってると思うけど、テレビを見る時はいつもアイが出る番組か、B小町のライブDVDばっかりだぞ。──瑠美衣、泡を流すぞー」

「えへへ、そっかぁ。それならよかった」

 

 悠の報告に嬉しそうに呟く。そういった情報は記録ノートやミヤコやB小町の面々との会話で知っているが、改めて聞いてアイの顔は綻ぶ。

 アクアの髪を優しく指で梳いてあげ、額にキスを落とす。抱えなおし、

 

「恥ずかしいなら仕方ないか。でも、アクアマリンはもっと甘えてもいいからね。そうしたらママはと~っても嬉しくなるからさ。恥ずかしくなくなったらたっくさんママに甘えてね」

「ママ! ママ!」

「もちろんルビーも、今よりもっと甘えてもいいからね」

 

 体を洗い終え、悠に抱かれて湯舟に浸かりながらアイに手を伸ばすルビー。

 娘に応えて頭を撫でて額にキスをする母親。

 キスをされて体全部で喜びを表現する双子の妹。

 その様子を微笑ましく見つめる父親。

 アイの胸の中で見ていたアクアは恥ずかしさが少し薄れた心の内で呟く。

 

(──ああ、本当に)

 

 アクアは──否、雨宮吾郎(かつての自分)は両親がいなかった。

 父親はわからず、母親は自宅で一人で出産後に出血多量で還らぬ人となった。母方の祖父母に育てられたが関係は気まずく、彼は両親からは当然のこと、育ての親からも本来与えられるべきものを何一つ感じ取ることなく育った。

 だからこそ──今世の父親と母親である悠とアイが自身に向けてくれるもの、与えてくれるものに戸惑う。

 

(これが親から子どもに向けられる愛情ってものなのか……?)

 

 前世含めて産まれてはじめての感覚。恥ずかしいとかくすぐったい気持ちになる。

 でも、悪い気は全くしない。むしろのぼせてしまいそうなほどだ。風呂だけに。

 あまりにも幸せ過ぎて時々夢なんじゃないかと勘繰ってしまう。故に、

 

「ぉ……おか──アイ」

「え? ……今、私を呼んだのはアクアマリン?」

「アイ……アイ」

「っ……うん、ママだよ♪ はじめて呼んでくれたねアクアマリン!」

 

 前世の年齢なんて関係なく甘えてもいいんじゃないだろうか。

 そう考え、今世の母親の名前を呼ぶ。とはいえ流石に推しの子を母親呼びはまだちょっと時間をもらいたいが。

 そんなことを考えながらアイの頬ずりを受けたアクアは、自分でも気付かない内に年相応の自然な笑みを浮かべるのだった。




Tips『薙切アクア』:
 その後、予定よりも長湯してしまったため本当にのぼせかけた。
 この日以降、ごくたまにアイとお風呂に入るようになった。恥ずかしさは変わらないが。


Tips『薙切ルビー』:
 いつもママの裸を見て興奮してるヤベー赤ちゃん。
 初めて見るパパのムキムキな筋肉の体を見て、
「これが男の人の体……ムキムキ、カッコいいかも。──ハッ、もしかしてセンセも実は白衣の下は……!? ご、ごくり」
 大好きな吾郎がムキムキだったら……最高では? なんて妄想に耽っていた。やっぱヤベー赤ちゃんや。
 アクアくんバレた後のハードルがどんどん上がっていくゾ。


Tips『薙切悠』:
 アイ「や~い、ハルカの細マッチョ~♪」
  悠「うん、やめて?」
ルビー「パパ、ムキムキマッチョ~」
  悠「ほら見ろ、瑠美衣が真似しちゃったじゃねぇか」
 アイ「てへぺろ☆」


Tips『斎藤アイ』:
 家族みんなでお風呂に入れて大満足。
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