愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
今年もよろしくお願いします。(激遅)
PCはどうにかなりましたが、話の流れを考えていたらだいぶ遅くなりました。相変わらず遅筆ですが、のんびりとお待ちいただけると幸いです。
一話
「本日最後の品──クルスティアン・デゥ・フロマージュです」
見た目40~50代くらいのシェフが自ら
春巻きのように何かの皮で巻かれて焼かれた品のようで、ナイフで切り分け持ち上げると、断面から流れ出るトロトロに溶けたチーズが糸を引くように伸び、見てるだけで食欲を駆り立ててくる。
「ピザみたいな春巻きだね、パパ。あれも美味しそう」
「後でどんな料理か調べておくね」
瑠美衣の囁く声に言葉を返している間に、えりなちゃんが出された料理を無言で口に運ぶ。目を閉じたまま静かに咀嚼して、
「不味いわ」
二口目を運ぶことなくナイフとフォークを置いた。
「前評判は最高だったのに、いざ見に行ったら微妙すぎて評価に困る映画のような味です」
「は、はあ……?」
「火入れは悪くありません。皮と具材、共に申し分ない焼き加減です」
「あっ、ありが──」
「しかし選択したソースでダメにしています。付け合わせも──」
等々、褒めるところは褒めるが、倍以上の指摘を容赦なく突き付ける。言われ続けるシェフは顔を悔しそうに歪ませているが、最後まで反論することなく評価を聞き、頭を下げて料理と共に部屋を出て行く。
緋沙子ちゃんが見送りのためか、部屋を共に出て行き、すぐに戻ってくる。
「お疲れさまでした、えりな様。これにて本日の味見役は終了です」
「ええ……ふぅ」
えりなちゃんは一息つくと、
「緋沙子」
「はい。予定通り、人払いは済ませています。連絡もしましたので、じきに仙左衛門様もいらっしゃるはずです」
「そう、ご苦労様──もう姿を見せて大丈夫ですよ。悠お兄様、ルビー」
調度品が置かれただけの部屋の奥へ向かって声を掛ける。
その言葉に自分は椅子に座ったまま消命を解除して姿を見せる。膝に座らせていた瑠美衣にもういいよ、と言うと、ぴょんと膝から跳び下りてえりなちゃんの下へ、とてとて向かっていった。
今日は薙切家に瑠美衣と二人で来ていた。藍久愛海はアイと家で過ごしている。そういえば二人を別行動させるのは風呂や睡眠以外では初めてだったりする。
消命で姿や気配を消して薙切家に侵入し、味見役の途中休憩中に姿を見せた時は、
『お、お兄様は忍者だった!?』
『た、確かに初めて会った日の身のこなしは忍者のそれでしたけど……』
『なら姿を消せるのも忍者な悠お兄様ならできるわね……。じゃあヨシッ!』
『ヨシじゃありませんよえりな様……いえ、もう悠様だからで納得します、ハイ。そういうことですので悠様。申し訳ありませんがすぐに休憩が空けてシェフが入ってくるので、ルビーと共に姿を消してお待ちいただけますか?』
なんて遠い目で言われた。うん、常識外でごめんな。
そんなこんなでえりなちゃんの仕事が終わるまで隠れて過ごし、現在に至る。
「お疲れ様、えりなちゃん。話には聞いていたけど、大変な仕事だね」
「お気遣いありがとうございます、悠お兄様。ですが薙切家の者としていつものことですから」
「お仕事してるえりなお姉ちゃん、カッコよかった! あとすっごく偉そうだった!」
「ふふ、そうでしょう。それとねルビー。
「そうなんだ。いつもこんなに食べてるの? 太らない?」
「うっ……だ、大丈夫よ。体形維持は心掛けているから。……も、もう少し運動の時間増やしておこうかしら」
和気藹々と話す瑠美衣とえりなちゃん。ただし、純粋だが容赦ない瑠美衣の一言に言葉を詰まらせる。こっそり手をお腹に添えて小声で呟いているが、聞こえていないフリでもしておこうか。えりなちゃんはまだ小学生なので、よほど食事に偏って運動不足にならない限り大丈夫だと思うが。
そんな風に話す三人を眺めていると、扉が開き、爺さんが部屋に入ってきた。後ろにはクロッシュでフタをした皿がいくつか乗ったトレイを持った花邑が続いて入ってくる。
爺さんの入室に気付いた瑠美衣は声を上げて小走りで近づく。
「あ、おじいちゃん! 花邑のおじさんも!」
「おお、少し見ぬうちにずいぶんと大きくなったなルビーや」
「お久し振りでございます。ルビーお嬢様」
「アクアは来ておらんが、二人共元気だったか?」
飛び込んできた瑠美衣を抱き上げ、爺さんは笑みを浮かべて訊ねる。
「うん! お兄ちゃんは今日はママとお留守番なの」
「そうかそうか。元気で何よりだ。……それにしても悠。新戸緋沙子から連絡があった時は耳を疑ったが、お主いつの間に屋敷内に?」
「おじい様、悠お兄様は忍者ですから、姿を消すこともできるみたいです」
「む……忍者とな?」
「まあ、忍者は置いておいて、次からはちゃんと連絡して正面から入るさ。それより今日の目的を済まそう」
忍者云々で話がややこしくなる前に話題を切り替える。
「今日はルビーが神の舌かどうか確かめるため、だったな?」
「うむ。少々早いとも思ったが、悠の話を聞く限り、普通の食事を食べられるのなら早い方がいいだろう」
そう言って、いつの間にか花邑が用意したベビーチェアに瑠美衣を座らせ、向かいに座る。
えりなちゃんも座っていた椅子を動かして瑠美衣の隣に席を移し、自分もえりなちゃんとは反対側の瑠美衣の隣の椅子に腰を下ろした。
施設で神の舌疑惑が浮上してから、爺さんは瑠美衣の食生活が気になっていたようで、何度か神の舌かどうか確認してみないか、と提案することがあった。今まではのらりくらり躱していたが、そろそろいいか、とアイと話し合って提案を受けたのだ。
とはいえ、離乳食から始まり、ある程度普通の料理を食べるようになり今日まで過ごしてきたが、正直なところ瑠美衣は神の舌ではないと思っている。イメージが浮かぶとはよく聞くが、細かい味を指摘したこともないし、こっちの方が美味しいとは言っても不味い、味が薄いなどで気分を悪くしたことや食事を吐き出すこともしたことがない。
「それでどうやって確かめるんだ? 噂に聞いた塩の見分けは、流石に塩分の摂り過ぎになるからやめてほしいんだが」
「悠の懸念はもっともだ。それとルビーにアレルギーはあったか?」
「ありがたいことに何も」
「ならばよい」
爺さんの言葉に合わせ、花邑が持って来た皿の名から一皿をナイフとフォーク、布巾と共に瑠美衣の前に並べる。クロッシュを取ると中にはキャベツを俵のように丸めた料理──ロールキャベツがコンソメを軸にしたであろうスープに浸っていた。
「わぁ……!」
「今出した料理はわずかだが調味料の量を変えている。ルビーは一口食べてどんな味だったか感想を言ってもらいたい」
「えりなお姉ちゃんみたいに細かく言えばいいの? 難しそー」
「えりなみたいでなくてよい。そうだの……しょっぱいや味が薄いぐらいでかまわん。それと、もし美味しくないと感じたのならすぐに吐き出しなさい」
「うん、それならできそう。じゃあ、いただきまーす」
「おっと、先にお父さんが切り分けるから」
ルビーが手を付ける前にロールキャベツを切り分ける。ルビーが食べられるよう一口大に切ってナイフとフォークを返す。
ルビーはお礼を言うと改めて「いただきます!」と合掌してロールキャベツを口に運んだ。
「ん~! おいひぃ……!」
「……味に違和感は感じぬか?」
「う~ん……変な味はしないかなぁ」
「そうか……」
「もぐもぐ……あ。味じゃないんだけど」
「よい、感じたことを言ってみよ」
「おっきい牛と小っちゃな鶏が仲良く温泉に入ってるイメージが浮かんできた」
瑠美衣の感じた説明に首を傾げる。
首を傾げなかった爺さんは、
「……タネに使った肉は牛7:鳥3の合い挽き肉だ」
わずかに目を見開いて呟いていた。
なるほど、タネに使った肉の比率がイメージとして表現されていたのか。
「ちなみにこの料理はどういう細工をしたんだ?」
「調味料の量を減らしておる。少量だがえりなであれば間違いなく気付く」
「それに気付かないならルビーは神の舌ではない、ってことだろ」
「しかし今のイメージは無視できん。もう何食か付き合ってくれ」
「……ルビー」
「んく、んく……けぷ。ごちそーさま!」
視線を爺さんから瑠美衣に戻せば、短い時間でロールキャベツは当然のこと、スープまで飲み干し終えていた。人のこと言えないけど、食べるの早いな。しっかり噛んだ?
「あー……ルビー。次からそのお皿でスープを飲む時は口を付けたり、持ち上げないように気を付けような」
隣見てごらん。えりなちゃんが目を丸くしてるから。
「……? うん、わかった」
「よしよし、良い子だね。おじいちゃんの話は聞いてた?」
「ぜんぜん!」
「くく……まだ食べられるか? だってさ」
「まだ食べられるよ!」
「……だとさ」
「では、二品目といこうかの」
☆☆☆☆
「──だから夜ご飯食べずに寝ちゃったんだね」
その日の夜、二人が眠るのを待ってから、アイの隣に腰を下ろして今日あったことを話す。
結局あの後、爺さんが持って来た料理全てを平らげた瑠美衣は夕飯までは食べられず満福でうとうとしていたので、先に風呂に入れるとすぐに寝てしまった。まあ、幼いことを除いても何食も食べれば腹一杯になるのは当たり前だろう。
「神の舌かどうかを抜きにしても、用意した料理を全部食べたことに、爺さんもえりなちゃんも驚いていたよ」
「あはは、流石うちの子。ハルカの大食いもしっかり遺伝してるね」
否定はしないけど、アイだって今は大食いだろ。
なんて言いそうになったが寸でのところで胸の内で収め、「かもな」とだけ返し、アイの肩を抱き寄せる。
「んきゅ……そ、それで──神の舌はどうだったの?」
「……なんと言っていいのやら」
言葉を濁しながら、結果を伝える。
結論から言えば──自分の予想通り、瑠美衣は神の舌ではなかった。ただ、神の舌ではないが、劣化あるいは下位互換的な何かは備わっているのではないか、というのが爺さんの見解だ。
『うまうま』
『うん、美味いな』
『……アク取りを疎かにしていますね。味が濁っています』
途中、瑠美衣が食べた料理を自分とえりなちゃんも一口貰ったが、やはりというかえりなちゃんはわざと省いた点を指摘していた。自分? 転生特典である料理人の才能を最大限発揮すればわかるだろうが、自分が食べる時にわざわざ使用する気はない。多少調味料を増減したり、調理工程を省いたところで美味しい物は美味しいのだから。
そこで話は終わりにしたかったが、ならイメージが浮かぶのは何故か? という続きが残っている。爺さんによると、
『神の舌は味の追及だけでなく、調理した料理人の内面──感情や精神面といったものまでもイメージとして捉え、思い浮かべることができるとされている。ルビーの場合、味覚ではなくそちらの方向に特出しているのではないだろうか。
とのことらしい。
どちらにしろ、味覚に関しては鋭いわけではないので、市販の物やジャンクフードも普通に食べられる──という結論で確認は終了した。
えりなちゃんはほんの少し羨ましそうに瑠美衣を見ていたが、「よかったわね、ルビー」とだけ言って、後は普段通りに接していた。また、同じようにイメージが浮かんでくることには喜んでおり、その話題で瑠美衣と盛り上がっていたのも本心だろう。
「……そっか。うん、ならよかったよかった」
「ああ。これで子どもたちの懸念が一つ減ったな」
「だね。あとはアクアマリンのおはだけをどうするかだけど」
「それはそろそろやっていこうと思う」
一応、おはだけを抑える方法がないか爺さんに聞いたが、そもそも神の舌はともかく、歴代の薙切家の人間でおはだけを抑えようとした者はいなかったらしく、おはだけを抑える手段は気合ぐらいしかないそうだ。いや、一人くらいはおはだけを嫌がって封じ込めようとした奴はいてくれよ。歴史長いんだから。
「うん、それに関してもハルカに任せっきりになっちゃうけど、お願いね」
「任せろ」
「……そ、それとね」
「うん?」
「…………、……な、なんでもない!」
「……?」
アイは言い淀んでいたが、すぐに言葉を翻し、ぷいっと顔を背けてしまう。
何かしてしまったのだろうか? 少し気になったが、顔を背けるだけで自分から離れようとしたわけではないので、特に追及することなく髪を撫でながら会話を続けるのだった。
Tips『薙切瑠美衣』:
出掛ける前は緊張していたが、忍者やスパイ気分でえりなのお仕事を見学したり、神の舌かどうかの検査──という名目で色んな料理を食べたりで、最終的に楽しい一日だった。ちなみに1歳では食べきれない量を食べていることにまったく気付いていない。もっとお食べ。
Tips『薙切仙左衛門』:
表情には一切出していないが、娘・孫・曾孫の三代連続で神の舌が出なかったことにホッとしている。また、暗い表情が多かったえりなが明るい表情でルビーと接していることに改めて感慨深いものを感じていた。
Tips『クルスティアン・デゥ・フロマージュ』:
小麦粉で作られた