愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
ドラマの撮影から少し経ったある日。
大きく『食義』と事前に書いたホワイトボードを背にして座禅……は、流石に子どもにはさせられないので、藍久愛海と瑠美衣の二人には思い思いの姿勢で座ってもらっている。
二人の前にはそれぞれ火の灯った『たいまつくし』を置いて食禅をしてもらっているが、
ポヒュン
「あっ」
一分も経たず、気の抜けた音と共に瑠美衣の前に置いた、たいまつくしに灯っていた火が掻き消えた。それに釣られるように藍久愛海のたいまつくしの火も消える。
「あー、また消えた~」
「ルビー……また他のこと考えてたろ。感謝以外は全部雑念になるって父さん言ってただろ」
「むー。無我夢中だか無我の境地だか知んないけど、感謝以外のことを考えちゃいけないなんて、難しすぎるよ! あと、お兄ちゃんだって私のに釣られて消えてんじゃん!」
「まあ、それはそう」
背中から床に倒れ込んで手足をジタバタさせる瑠美衣。藍久愛海も瑠美衣の意見に賛同するように溜め息をこぼしている。
そんな二人に少し離れたところで見ていた自分とアイが近付く。
「懐かしいな~。私やミネちゃんたちも初めて食禅をした時はすぐに火が消えてたっけ」
「ママぁ~、座ってるだけなのに疲れたよぉ」
「よしよし。初めてなのによく頑張ったねルビー。アクアマリンもお疲れ様。辛抱強く続けられて二人とも偉いっ」
そばにしゃがみ込んだアイの膝に飛び込む瑠美衣。受け止めたアイは二人を労い、優しく頭を撫でた。瑠美衣は女の子がしちゃいけない表情で悦に浸り、藍久愛海は少し照れた様子で頭を撫でる手を受け入れている。
「藍久愛海、瑠美衣。今日はさわりだけだったから次で終わりだけど、明日からはもう少しずつ食禅をやっていくから、そのつもりでいるように」
「うへ~」
「やるのは別にいいけど、本当にこんなことが体質改善に繋がるの? や、グルメ食材ってものや父さんの能力を見せられた以上、信じてないわけじゃないけど……」
「……正直に言ってしまうと、わからないって言うしかないかな」
藍久愛海に質問に少し迷ったが正直に答える。
既に二人にはグルメ食材に加え、自分の能力については伝えている。
最初は半信半疑──冗談か自分の中だけの創作物だと思われたが、
実際に何もないところから十黄卵を生み出し、
その場で割って中から卵黄が十個入っているという食材として見たこともない光景を見せて、
割った十黄卵でオムレツを作って食べてもらい、その味に藍久愛海がおはだけし、瑠美衣がいつものイメージ*1が脳裏をよぎり──
そこまでやって、ようやく信じてもらえた。
閑話休題。
藍久愛海の体質──おはだけに関して食義が有効かどうかはわからない。
以前アイと話したように、食義の集中力の向上によっておはだけを我慢するのを最低限の力で出来るようになることを目標としている。──が、食義を習得して本当におはだけを抑えられるかどうかは憶えたあと実際にやってみてからでしかわからないのだ。
加えて、グルメ細胞を宿しているであろう二人は普通の人間より肉体的に強くなる。その時、相手を怪我させないよう食義で向上した集中力で繊細な力加減を覚えてもらう必要があった。
それらを藍久愛海に伝えると、
「まあ、可能性があるなら頑張って続けるけど……座禅以外にも修行方法はないの?」
「食禅な。あるにはあるが……」
原作に登場した修行内容を思い出し、いくつか道具を生み出す。
お椀と箸。水が入った桶。三人が覗き込んだ桶にはそうめんみたいな細長く白い魚が泳いでいる。よく見ると漫画で見た物よりだいぶ細いな。
「ハルカ、これは?」
「グルメ食材だからミネたちには使えなかった修行法だ。魚の名前は白魚そうめん。そうめんのように箸で取って食べるんだけど、表面がつるつる滑って取りにくいから修行にも使われてる」
やってみるか? と聞けば、やる! と手を挙げたのは瑠美衣。
お椀にポン酢ダコから絞ったポン酢を入れ、薬味として刻んだネギを散らして渡す。
「よーし。これなら感謝するより簡単かも」
いっただきまーす、と躊躇いなく箸を桶の中に突っ込む。
ただまあ──
「よっ……あっ、このっ! っ、こ、今度こそ、ってああ!? ──うにゃー! つるつるしてるし、うねうね動くから全然取れなーい!」
「あらら」
「踊り食いの方が簡単そうだな」
思ってるより難しいんだな、これが。
さっきも説明した通り、白魚そうめんの表面はつるつるしているので掴みにくいのに加え、まだ生きているので掴んだとしても魚の方が動いてぬるりと箸から抜け出してしまうのだ。
食義の修行を始めたばかりの瑠美衣が掴むのはほぼ無理だろう。まあ、流石に運良く掴めても食べる直前で止めるのだが。流石に1歳に生魚は早い。
上手くいかずに悔しそうにしている瑠美衣の頭を撫でて、
「じゃあお手本でも見せてあげようか。お母さん」
瑠美衣の手から抜き取った箸とお椀をアイに差し出した。
「え、私?」
「ママ、できるの!? お手本見せて!」
「う、う~ん……二人の前で良いとこ見せたいけど、ママも初めてやるからな~……」
「大丈夫、一時間以上たいまつくしを灯し続けられたんだ。食禅する時と同じように感謝に集中すればいける。……たぶん」
「たぶんがついちゃってるじゃん。う~ん……ま、試しにやってみるか~」
お椀と箸を受け取ると、アイは息を整えて静かに桶の中で泳ぐ白魚そうめんを見つめ、
「──よっと」
音もたてずに箸を水の中に入れ、白魚そうめん数匹を掴むと勢いよく引き上げた。ぴちぴち動く白魚そうめんをポン酢が跳ねない程度に付けてちゅるんと啜る。
「もぐもぐ……鯛のお刺身みたいなプリプリした歯応えにそうめんのようなつるっとした食感。生きてるから口の中で跳ねまわるけど、うん、美味しい!」
「ルビーは全然取れなかったのに一発で。凄いなアイ」
「ママすご~い! いいなぁ、私も食べたいな~……チラチラ」
「そうだね。生は食義を覚えた時に自分で食べてもらうとして、茹でた物を夕飯で作ろうか」
食べたそうにこちらを見てくる瑠美衣に、夕飯の献立に白魚そうめんを追加することを約束する。生も美味しいが茹でたらもっと美味しくなると直感が囁いてるし。
「ねぇねぇパパ。他にはどんな修行があるの?」
「他か? そうだな……」
こちらを見てくる期待のこもった瞳に、苦笑を浮かべて応える。
まあ、結果としては瑠美衣にとっては散々なものだった。
「この豆を隣のお椀に箸で移す修行。移せた分だけ豆は食べていいよ」
「豆なら動かないし、さっきより簡単──」
「ただし、使う箸は修行専用のこれを使うこと」
「なっが!? 私よりも長いし、そもそも……うぐぅ、長すぎて先っぽまで持ち上がらなーい!」
「……それ十メートル以上ありそうだけど、今の僕たちには無理だろ絶対」
「これは……種?」
「ローズハムの種。感謝で成長するハムの花を咲かせる修行。もちろん、咲いたら食べられる」
「感謝するだけで咲くなら……」
「ちなみに花が咲くまでは感謝を続けて寝ずにずっと見守ること」
「……ちなみに父さん。いつ咲くのこれ?」
「早ければ一瞬で。長いと……ふふ、いつまでだろうね」
「言い方がコワイ!」
「今度は簡単だぞ」
「プリン……普通のプリン、だよね?」
「待てルビー! これまでのことを考えれば絶対普通のプリンじゃない」
「わ、わかってる……わかってるけどぉ」
「ふふ、この修行はプリンを揺らさずに合掌……は難しいから、プリンを崩さないように持ち続けるだけだよ。ただし、このプリンはすごく柔らかいから、ほんの少し動いただけで崩れちゃうから集中してね」
「頑張れ、ルビー」
「すぅ、はぁ……いつでもいいよパパ」
「それじゃあ──」
「──……」
アイの応援を受けて、深呼吸して真剣な表情で手を差し出す瑠美衣。その両手にプリンラクダのプリンが乗った皿を静かに置き、手を離す。
手を離した瞬間にプリンが崩れる──なんてことはなかったが、それでも数十秒で、
「ぁ……」
「惜しい。けど、初めてで十秒以上はすごいぞ瑠美衣」
「……」
「……瑠美衣?」
「ちゅる、ちゅるるるぅ……!」
「ルビーさん!?」
崩れてしまったプリンを見ていた瑠美衣だったが、何を思ったのかそのまま口に近付け、飲み物のように飲み干してしまった。
飲み終えた瑠美衣はプリンの味に喜び半分、困惑半分な表情を浮かべている。
「──」
「美味しかった?」
「美味しかったけど、コブがプリンのラクダに文句言われた気がする。食べるなら崩れる前に食え! みたいな感じで」
「相変わらずイメージが面白いな。そのプリンは崩れると味が落ちるんだ。だからだろうね」
「──とまあ、こんなとこかな」
一通り見せられそうな修行を見せて、パチンと指を鳴らす。途端に生み出した物が全て消え、たいまつくし以外のグルメ食材が消え去る。
「……」
「落ち込むな瑠美衣。確かに全然駄目だったけど、食義を覚えたらどれも自分の手で食べられるから」
「……本当?」
「ああ本当だよ。実際、お母さんだって最初はたいまつくしが五分も続かなかった。けど、今では一時間続けられるし、初めてで白魚そうめんを食べられたんだ。お母さんにできて瑠美衣にできない理由なんてないからね」
「……うん。頑張る!」
「その意気だ。それじゃあ最後にもう一回食禅をやって今日は終わろうか。二人とも、準備して」
Tips『食義の修行』:
B小町の四人が行っている修行は食禅のみ。なので今回披露した他の修行はアイも初めてだったりする。ちなみにB小町四人の食禅の記録は数年経った現在、多少の差異はあれど、平均してたいまつくし二~五本ぐらいまでなら一時間前後灯し続けることができるようになっている。