愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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四話

 食禅中に約束した通り、今日の夕飯は白魚そうめんを主食とした献立。

 どんな料理にするか迷ったが、そういえば少し前の依頼で山形県の郷土料理について知る機会があったことを思い出す。鍋物や乾物、漬物と色々ある中の一つに『ひっぱりうどん』という料理があった。本来は名前の通りうどんで作るのだが、レシピを見る限りそうめんでも問題ないだろう。

 

「食材に感謝を込めて──いただきます」

「「「いただきます」」」

 

 全員で合掌し、食べ始める。

 ひっぱりうどんは鯖の水煮と納豆を醤油と一緒に混ぜて作ったタレの中に茹でたうどんを入れて食べるという割と簡単な料理だ。そこに好みで色々な薬味や調味料を加えることで味や食感に変化が出ていいアクセントになる。

 一応、子どもたちが食べやすいように茹でた白魚そうめんは水で締めた時にコンビニのおでんに入っている白滝のように軽く縛って纏め、箸やフォークですくえるように。鯖の水煮は缶から出してから一度加熱し、納豆はひきわりの物を用意した。

 三人とも少しずつ食べては薬味を入れて味変しながら食べている。ただ、普通の食材とはいえ幼い体に影響が出ないか心配なので子どもたち二人が使える薬味は制限している。

 

「アクアマリン、ルビー。ママのドラマが始まる前に寝る準備だけ済ませておこうね」

「ちゅるちゅる……うん! ママのドラマ、楽しみ♪ あ、パパ。次はとろろと海苔がいい」

「もぐもぐ……うん」

 

 瑠美衣から受け取ったお椀に白魚そうめんとタレ、オーダーされた薬味を加えながら、アイが二人に言った言葉で思い出す。

 

「ああ、そういえば今日だったか。この前の撮影の放送日。──はい、どうぞ。とろろと海苔だからさっきよりもよく噛んでね」

「ありがとパパ──もしかしてママのドラマのことすっかり忘れてた?」

「えー、私のこと忘れるなんてパパひどーい」

「悪ノリして変な言い方しないの。忘れてたわけじゃないよ。ああ、そういう仕事あったなーみたいな感じで言っただけだよ」

「ふーん」

「前から思ってたんだけど、父さんって内心はどうであれ仕事中のアイに対して結構淡白だよね。サポートは手厚いけど」

「あー、そうだね。アイとの関係性を匂わせないためってのもあるけど……この際だから言っちゃうけどお父さん、アイドルのアイはあまり好きじゃないからなぁ」

「はあ!?」

 

 自分の言葉が予想外過ぎたのか、瑠美衣は驚きで大きな声を上げる。隣で藍久愛海も目を見開いて無言でこちらを見ている。

 アイはアイで少し不満げな顔だ。理由はわかってるはずなのに。

 いやまあうん、二人が驚くのも無理はない。けど、事実だ。

 アイが演じている『B小町アイ』。完璧で究極な偶像。ファンの妄想を詰め込んだ着ぐるみ。

 色々言い方はあれど、アレの真実を知ってしまっている以上、どうしても好きにはなれない。ましてやそうなってしまった原因が自分にあるのだから。

 

「え、は? パパ、ママのこと好きじゃないの!?」

「お母さんのことは好きだよ」

「ん、え? ……う、うぅん? け、結局パパはママのことは好きなの? 嫌いなの?」

「お母さんを──アイを嫌う要素は何一つないよ。アイドルとして好きじゃないってだけで嫌いではないし。藍久愛海と瑠美衣のお母さんであるアイのことを。それから斎藤アイっていう一人の女の子として好きなだけ」

 

 それに約束したしな。

 アイドルとしてのアイはファンに譲るが、それ以外のアイは全て自分のものだ。でもそれは子どもたちには内緒。これはアイと自分の二人だけの誓いだし、何より我が子相手とはいえ人に言うのは恥ずかしい。

 瑠美衣の質問に答えると何故か呆けた表情をされ、

 

「んぐっ、~~っ!?」

 

 アイが喉に食べ物を詰まらせたのか、むせ込んだ。

 慌てずに水を渡し、近寄って背中を叩く。

 

「大丈夫か? アイ」

「こほっ、こほっ……だ、大丈夫。ありがとハルカ」

「思い切り啜ったのが悪かったかもな」

「……」

「ん、どうした?」

 

 何故かジト目で睨まれ、何故か溜め息を()かれた。喉に詰まらせ慌てたせいでほんのりと赤く染まった頬のままなので、ちょっと可愛いと思ったのは秘密だ。

 

「ちょっとお兄ちゃん。パパってもしかして鈍感?」

「鈍感っていうか……あれはアイに対して思ってることを考えなしに言っただけな気がする」

「見てよママの顔。好きって言われて照れて真っ赤になってるのが私でもわかるのにパパの顔、むせたから赤くなってるって考えてるよ絶対」

「理由はどうあれ父さんの恋愛偏差値がどれくらいなのかはよくわかった。──ド底辺だ」

「娘としては嬉しいけど、ファンとしてはすっごい複雑。久し振りにヤッちゃっていい? ぷんぷんラッシュ」

「あとで家事の邪魔にならない程度にヤッちまえ」

 

 子どもたちは子どもたちでひそひそと小声で話している。聞こえてるぞー。

 瑠美衣の言葉にはそうなのかとアイの顔を観察する。見られてることに気付いたアイがふいっと視線を外す。確かに照れてるな。でも好きなんて何回も言ってるんだ。やはり、むせた姿を見られたのが恥ずかしかったのだろう。

 それと藍久愛海、正解だ。愛を知らない自分が恋なんてわかるはずもない。前世含めて恋愛偏差値なんてド底辺どころかゼロだぞ。

 とはいえ言葉にはせず胸の内だけで留め、ぽんぽんとアイを介抱するのだった。

 

 

 食事を済ませ、後は寝るだけというだけにして四人でソファに座る。ドラマの放送を今か今かと楽しみにしている藍久愛海と瑠美衣を自分とアイの膝に乗せて時間まで待つ。

 時間になり、ついにドラマが始まる。

 最初はワクワクしていた藍久愛海と瑠美衣だったが、

 

「ママだ! ……ちょっと、距離遠すぎ!」

「カメラもっと近くに寄れよ」

 

 話が進むごとに疑問や文句をぶつけ始め、

 

「……」

「……」

 

 終盤には無言になってしまい、そしてそのままドラマは終わりニュースに変わってしまった。

 ああ──撮影中の予想が見事に的中してしまった。

 

「ワンシーンだけじゃん!」

「あんなに撮ってたのにカットされすぎ!」

 

 当のアイ以上に不満を爆発させる。

 藍久愛海は自分の膝から跳び下りると、

 

「父さん、ちょっとスマホ借りるから!」

 

 返事も聞かずに仕事用のスマホを掴むと、以前五反田監督から受け取っていた名刺を取り出して廊下に出て行った。ほどほどにな。

 案の定、廊下の奥から通話相手に向けた藍久愛海の文句が聞こえてくる。

 

「ママ、演技下手だったのかな?」

「そっ、そんなことないよ! ママ一番可愛かったもん!!」

「一番可愛かったからこそ、使われなかったんだろうな」

 

 自分の言葉にアイと瑠美衣がこちらに顔を向けた。

 

「可愛かったからこそ?」

「どういうこと!?」

「言葉通りの意味だよ」

 

 リモコンを操作し録画リストから録ったばかりのドラマを再生。早回しでヒロインがアップで登場するシーンまで進めそこで一時停止させる。

 

「瑠美衣。このドラマの主役は彼女だ。彼女を中心にストーリーは進んでいく──ってことはわかるね?」

「うん」

「漫画でもそうだけど、ドラマで一番目立たなきゃいけないのは、彼女を中心とした主要人物たちだ。今回アイが演じたキャラ含めその他の役は謂わばモブキャラ。名前がある役の引き立て役でしかないんだ」

 

 そんな一話限りしか登場しないであろうモブキャラが、主要人物たちよりも目立ってしまうのは話の都合上避けたいだろう。ヒロインよりも可愛いモブキャラなんて特に。

 だからこそアイが画面に大きく登場するシーンはカットされた。それに改めて見て気付いたが、アイやヒロイン等、登場人物の髪形がどれも似たり寄ったりだった。恐らく、似たような雰囲気の中から主役を目立たせる狙いでもあったのかもしれないが、そのせいで逆にアイが目立ってしまったのかもしれない。

 これが理由の一つ。

 

「まだあるの?」

「このヒロインを演じた女優。彼女を所属している事務所がなんて言って売り出しているか知ってるか?」

「うぅん、知らない」

「『可愛すぎる演技派女優』──瑠美衣はアイとこの女優、どっちが可愛いと思った?」

「ママ!」

「くく、だろうね」

 

 即答する瑠美衣の答えに笑みをこぼす。

 まあつまり、そういうことだ。可愛すぎるって売り出してる女優の隣で、アイがもっと可愛いすぎる演技を魅せてしまった。そうなってくると、イメージ戦略として彼女をそう売り出した事務所の上の人間が黙っていない。彼女か、あるいは第三者か。誰であれ、上の人間に報告があがってしまい、完成する前に上の人間が圧力でも掛けてアイのシーンを削ったのだろう。自分たちで持ち上げた女優の価値を維持するために。

 己のために他を蹴落とす──業界ではよくあることだ。瑠美衣にとって顔は怖いが優しい印象の爺さんだってプライベートがそうであって、こと料理人の育成に関しては「九十九%は一%の玉を磨くための捨て石」と公言するほど徹底的な少数精鋭主義なのだから。一応、弁護はできなくもないが。

 

「なにそれ……そんなことでママの演技カットするなんて」

 

 ママ頑張ってたのに、と俯く瑠美衣。

 アイはそんな瑠美衣を優しく抱き締めてよしよしと頭を撫でる。

 

「う~ん……カメラだけに可愛くすればいいから得意分野だと思ってたんだけど、まさか可愛く魅せすぎてダメ出しをされるなんてね。女優って仕事をちょっと甘く見てたかも?」

「アイの配役が主役級や唯一無二な個性を持ったキャラだったら問題はなかったんだろうけどな」

「綾波レイとか日暮熟睡男(ひぐらしねるお)みたいな?」

「ああ。……ああ? …………いや、なんでそんなマイナーキャラを挙げた?」

 

 綾波レイはともかく日暮熟睡男なんてすぐには出てこなかったぞ。確かに四年に一度しか登場しないなんて個性、唯一無二すぎるから思い出せたけどさ。あと、どちらかと言えば綾波よりアスカの方が似合って……いや、どっちもどっちか。

 

「最近読んだ漫画の中からのチョイス。──ところで新刊っていつ出ると思う?」

「三年越しの新刊だったからなぁ。忘れた頃に発売してるってことで」

 

 なんて、ちょっと脱線したところで、

 

「──父さん、ちょっといい?」

 

 廊下から藍久愛海が部屋に顔だけ出して声を掛けてきた。

 呼びかけに応じて廊下まで出ると、通話中になったままのスマホを差し出してくる。

 

「監督が父さんと話がしたいって」

「わかった。アクアはお母さんのところに戻ってな」

「うん」

 

 スマホを受け取り、藍久愛海を部屋に戻してスマホを耳に当てる。

 

「はい、お電話変わりました。薙切です」

『おー、若マネ。今回は悪かったな』

「いえ、監督が悪いわけではありませんからお気になさらず。むしろ削られるほどアイさんの印象をハッキリとあなた方に植え付けられたと考えれば、初仕事としては上々でしょう。こちらこそ息子が急に電話を掛けてしまい申し訳ありません」

『いやいや。あの早熟の推しっぷりからして、文句を言ってくるだろうなとは思ってたからな。まさか放送終了後すぐに掛けてくるとは思わなかったが』

「はは、それについては同感です」

 

 軽い雑談を交わし、本題を聞く。

 最後まで聞いて自分は少し考え、言葉を返した。その後、二、三ほど会話を続けて五反田監督との通話を終える。

 そのまま部屋に戻らず、別の番号を呼び出して掛けた。

 

「──もしもし、壱護さん? ちょっと話があるんだけど」




Tips『白魚そうめん』:
 『トリコ』原作に登場した食材の一つ。原作やアニメでは一匹一匹が太く大きく描かれているが、そうめんのように細長いと説明があるので、本作では説明に合わせてサイズは実際のそうめんぐらいとしている。


Tips『漫画&アニメ』:
 この世界の漫画やアニメは『トリコ』や『食戟のソーマ』、それと料理系漫画を除けばほぼ同じ物が連載・放送されており、例えとして挙げられた『エヴァ』や『こち亀』もしっかり連載している。もちろん、作品内のオリジナル作品──『包丁君味郎』等はちゃんと存在している。
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