愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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二話

「――というわけで、今から食事会を始める。はい拍手」

 

 二週間後。自分の部屋に集められたB小町四人の前でそう宣言した。

 パチパチパチ、と手を叩いてくれたのは二人だけ。後の二人はジトっとした視線をこちらに向けていたり、スマホを見ている。

 

 あれから壱護さんの頼み通りミヤコさんの下でマネージャー業を手伝い、四人全員の予定が取れる日を狙い、自分の部屋へ連れてきた。四人が座って囲んでいる机の上にはホットプレートが置いてあり、キッチンには仕込んでおいたタネがいくつも準備してある。

 

「つまり、あたしたちはアンタにた、食べられるってこと?」

「いかがわしいことを言うな。恋愛初心者め。言い回しだけで耳が赤くなってるぞ」

「なっ……そっ、そうよ! アイドルなんだからアンタみたいに四六時中イチャコラしてる恋愛上級者じゃないし!」

「残念だったな。恋愛のレの字も知らない恋愛ド素人だ自分は」

「……それ自分で言ってて虚しくならない?」

 

 最年長で一応グループのリーダーとなっている、ミネこと高峰。

 クール系キャラで売っているが割りと素が出やすい。あと色恋に興味はあるが耐性はかなり低い。

 

「ウチは別にどっちでもいいけど。それより名桐。これテイクアウトってできる? 弟たちに持って帰りたいんだけど」

「可能だ。調理前でも後でも構わないが、嵩張るので調理後をオススメする」

「ならお願い」

 

 言うだけ言って携帯に視線を落とす、ナベこと渡邊。

 プロフィールから三人兄妹の長女であり、母親の負担を減らすためにスカウトを受けたらしい。ちなみに携帯で見てるのは近隣のスーパーのセール情報だったりする。

 

「お兄さん、今日は何作ってきたんだろ~」

「鉄板ときたら定番物だ」

「……丸焼きたこせん?」

「なんでだ。調理機材買ってくれ。そうしたら作ってやる」

「そこはほら~、お兄さんの筋力で」

「無茶を言うな。……多分できるが

 

 色気より食気で壱護さんのスカウトを受けた、ニノ。

 普段からアイの弁当を持っていくたびに一口ねだりにくる困った子だ。あと、丸焼きたこせんではない。

 

「丸焼きたこせんって何? ハルカ」

「タコを丸々一匹プレスして作る煎餅だ。自分も食べたことはないが」

「作れない?」

「作れない。……こともないが」

「……わくわく」

「……わかった。今度、どうにか作ってみる」

「お兄さ~ん」

「ニノの分も作る」

「えへへ、やったねニノちゃん!」

「そうだね~」

 

 最後にたこせんを食べてみたいとねだってきたアイ。

 作り方はだいたいわかるが一度レシピを確認してみるか。そもそも家のキッチンで作れるのか? アレ。

 

 以上四人がB小町結成時から変わらないメンバーだ。

 四人とそれぞれ会話しながらも――その実、メンバー間ではほとんど会話らしい会話はないが――タネと具材を持ってくる。

 

 油を引いたプレートの端に豚肉を並べ、中央に千切りにしたキャベツ、青ネギ、紅ショウガ、天かす、少量の鰹節を卵と混ぜた擦り下ろした長芋の中に入れ混ぜ合わせたタネを注ぐ。

 片面が焼けるタイミングで別で焼いた豚肉をタネの上に並べて、

 

「よっと」

 

 ヘラでひっくり返す。

 返した拍子に焼けた面がぐちゃっとしたり中身が飛び出るなんてミスは犯さない。

 

「お~」

「話には聞いてたけど、本当に料理が上手いのねアンタ」

「まあ、人に誇れるような特技はこれしかないからな」

「嘘でしょ」 「嘘ね」 「嘘ですね~」 「嘘だー」

「なんでだ?」

 

 仲が悪くなってるんだろ? 何故そこで意見が重なる。

 首を傾げながらマヨネーズと少しはちみつを混ぜたからしを回しかけ、次にかけた今回のために調合した自家製ソースと共に全体に塗る。最後に青のり、は明日がオフとはいえ女性が相手なので鰹節だけ散らしてお好み焼きの完成だ。

 四等分に切りわける。

 

「完成だ。熱いうちにどうぞ。青のりは個々の自由でかけてくれ」

「いただきまーす!」

「いただきます~」

「いただきます」

「い、いただきます」

 

 早速アイが青のりを振りかけて頬張り、熱さに口をハフハフさせている。すぐに顔が緩み、美味しいという表情が浮かんできた。

 ニノは切り分けたお好み焼きを更に小分けにしてから綺麗な所作で食べ始める。熱いはずなのに次々と口に消えていく。お前はピンクの悪魔か。もう次を作らないと待ちが出来てしまう。

 ナベはあまり表情の変化はなかったが、口に入れたあと小さな声で「うまっ……」と聞こえたのは聞き逃さなかった。そうか、好きなだけ持って帰れよ。

 最後に食べたのはミネ。ある程度冷ましたお好み焼きを恐る恐る口にする。

 

「……美味しい」

 

 何度か咀嚼したあと、驚きと共に口にした一言。同時にヘラを動かす速度が早くなった。

 

「アイがお弁当食べる時、美味しい美味しいって鬱陶しいぐらい言ってたけど、本当に美味しいわね」

「そいつはなにより」

 

 ミネの感想を聞きながら、次のお好み焼きを作り始める。次は安くて小振りだがエビやホタテで作るシーフードだ。

 

「多分、だけど。これ、小麦粉じゃなくて長芋で作ってる? しかも水を使わずに」

「両方とも正解だ。小麦粉で作るよりカロリーが抑えられる。水も長芋から水分が出て水っぽくなりやすいから使ってない。だから素材の味が薄まらない」

「へえ……今度作ってみるか」

 

 グループの中で一番料理経験があると予想していたが、案の定ナベは材料の一つをあっさり言い当てた。加えて水を使っていないことも。

 料理に使った食材や調味料を食べただけで言い当てるのはグルメ漫画ではよくあることだ。自分が転生したこの世界もその例に洩れず実際、料理に詳しくない壱護さんでも簡単な調味料の一つ二つなら言い当てたことがある。

 

 こういうところがあるから、この世界は『食戟のソーマ』なんだなって時々思い知らされる。

 まあだからといって実害があるわけでもないので気にするものではないが。

 そんな事より食い盛り二人が早く早くと催促している。シーフードのお好み焼きを作り終え、すぐに新しい物を作り始めるのだった。

 次はもんじゃ焼きだぞー。

 

「「わーい!」」

「初めて食べる……どんな味なんだろ」

「か、カロリー……」

 

 粉物でカロリーを気にするな。

 

 

 

 

  ★★★☆

 

 

 

 

「――で?」

 

 満足いくまで食べた後、ナベが自分に聞いた。

 ちなみにアイとニノはまだ食べてて、ミネはカロリーを気にしながらも食べようか迷ってる。

 

「で、とは?」

「ただ食事会をしたわけじゃないんでしょ。ウチらを集めて何がしたいの?」

「……まあ、気付くだろうな」

 

 出来上がったミックスお好み焼きを三等分に切り分け、ナベ以外の3人の前に寄せる。

 

「単刀直入に言う。――お前ら全員、腹ん中に溜めてる不満とか願いとか、そういうの全部吐き出せ」

「……アンタ」

 

 食べようか迷っているミネはその手を止め、自分を睨んでくる。

 アイは嘘の仮面を張り付けてお好み焼きを頬張って首を傾げ、ニノはピタリと動きを止める。

 一方、ナベはわかっていたかのように溜息をこぼした。

 

「急に食事会なんて怪しいと思ってたけど……そういうのは個別にこっそりやるもんじゃない? もしくはこの子がいないところでとか」

「なんでわざわざ個別に他人の愚痴を聞かなければならないんだ。聞くなら本人で、一纏めにだろう」

「……名桐、アンタ、もしかしてアイのこと嫌いなの?」

「っ」

「何言ってるんだ、好きに決まってるだろう」

「っ、むぐ!? んー! んー!」

「あー、水飲めアイ。だから言ってるだろう、口いっぱいに物を詰め込むなって」

 

 喉に詰まらせたアイに水が入ったコップを渡し、背を優しく叩く。美味しいって言って食べてくれるのは嬉しいが、喉に詰まらせるまで食べるな。

 水を飲み干し落ち着いたアイが自分に詰め寄ってくる。

 

「ごほっ、ごほっ……今の! 今のもう一回言ってハルカ!」

「真面目な話だから後でな。……で?」

「ぶー!」

「……アイの前で、アイへの不満を言えっていうの? アンタ、この子の家族なんでしょ。傷つけたいの?」

「それはアイが傷つくとわかるほど不満を抱いているって自白でいいな」

「っ、話題をそらすな! ウチはアンタが」

「傷つけたいなんて微塵も思うわけないだろうが」

 

 ナベの言葉を遮り断言する。

 

「アイが傷つかない方法があるなら選んでいる。ないから全員平等に傷つく短絡的な方法を取っているんだ」

「……」

「それともなんだ、個別に注意しました。『皆これから仲良くやってくれ』なんて単純な解決方法でお前らの不満が消えるのか? そんなわけないだろう。むしろ余計に拗れるってことぐらい、普通を知らない自分でもわかる」

「それは……」

 

 自分は学校の教師でもなければ上司でもない。あくまでB小町アイの身内で所属事務所のバイトでマネージャー見習いだ。転生前の人生分年齢を重ねていると言ってもアドバイスなんて出来る人生経験を送っていたわけでもない。

 

「自分がこの二週間でわかったことは二つ」

 

 一つは壱護さんの予想通り、メンバー内で溝が出来ていること。それは主にアイに対しての負の感情だろうと感じた。ナニか、まではわからなかったが。

 二つ目と指を立てる。

 これは一つ目以上に直観じみた予想だった。

 

「お前ら全員、アイに焼かれてるだろ。簡単に言えばファン」

「「「……っ」」」

「……え?」

 

 息を呑むのが聞こえた。当たりかよ。

 隣でアイも驚いている。

 まあ驚くのも仕方ないだろう。散々、自分(アイ)への不満がどうこう負の感情がどうこう、なんて告げられた直後に「こいつら全員自分のファン」なんて言われたのだから。

 

「え、え……本当?」

「っ、そんなのアンタの――」

「先に言っておくが、自分は多少の嘘は見抜けるし、アイはそれ以上に嘘がわかる」

「もう、そう……」

「施設育ちを舐めるな。相手から向けられる感情の機微には敏いんだ」

「っ……!」

 

 誰もが無言になり部屋を包み込む。

 食事中は多少暖かい空間だったが、今は冷蔵庫のように冷たい。

 無言が続き、もう誰も喋らないかと諦めた時だった。

 

 誰かの溜息が聞こえた。

 

「そこまで言われたらもう隠せませんね~」

「……ニノ?」

 

 やれやれと肩をすくめる。

 口を開いたのは、食事以外で一番口数が少なかったニノだった。

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