愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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三話

 口元をティッシュで拭いながらニノは言う。

 

「まあ、お兄さんが吐き出せって言ったんです。だったらもう隠す必要なんてないですよね~」

「に……ニノ?」

「ええはい。わたくし、アイちゃんが――大嫌いです

 

 ドロリと。

 ニノの雰囲気が変わった。誰に対してものんびりとした雰囲気で接してきたのが嘘みたいに。

 光のない瞳でこちらを、アイを射抜く。

 視線を向けられたわけでもないのに、視界の端でミネとナベが少し震えている。無理もない、ミネは歳下、ナベにとっては同い年であるのんびり少女が急に危ない雰囲気を出し始めたのだ。

 だが我慢してくれ。自分の隣に座っているアイは震える手を必死に抑えながらニノの視線を真正面から受け止めているのだから。

 

「初めて会った時から気付いていました。ああ、この子はわたくしと違うと。この芸能界(せかい)で一番になれる才能(かがやき)があるって」

 

「数日掛けて必死に覚えたことを、あなたは一日も経たずに覚えてしまった。わたくしたちができないことを、あなたは平然とこなしてしまう」

 

「頑張って、頑張って……頑張って頑張って頑張ってっ、どんなに頑張っても、あなたには手が届かない」

 

「最初のライブ、当然のようにあなたはセンター。わたくしはバックダンサー。あなたの引き立て役」

 

「社長の考えはすぐにわかりました。わたくしたちを踏み台にしてB小町を売り込むと。それでいいか、とその時のわたくしは思っていました」

 

「でも、すぐに社長は方針を変えて、わたくしたちを個別に売り込み始めた。結果はご存じの通り、少しずつですがあなた以外も人気が出てきました」

 

「だけどこれっぽっちも嬉しくありませんでした。なんですかそれ。どうしてやり方を変えたんですか。どうしてあのまま引き立て役に甘んじさせてくれなかったんですか。どうして、どうしてどうしてどうして!」

 

「もう頭の中はぐちゃぐちゃの感情でいっぱいでした。でも、そんなぐちゃぐちゃの中でも変わらないものがありました」

 

「アイちゃん……わたくしはあなたが大嫌い」

 

「輝きでわたくしを焦がすあなたが嫌い」

 

「贔屓を受けるあなたが嫌い」

 

「全ての中心にいるあなたが嫌い」

 

「妬ましい! 憎らしい!! あなたと一緒のグループになんかなりたくなかったっ!!」

 

 

 

 荒い息を吐きながらニノは顔を俯かせる。

 いつもの姿からは想像できない彼女の告白に、三人は何も言えなかった。

 誰も言葉を出せない中、ニノは顔を俯かせて隠し、言葉を続けた。

 だけど、と。

 

「だけど……ええ、本当に。お兄さんの口から暴露されたのは気に食わないけど」

 

「わたくしはB小町のアイに、どうしようもなく焼き焦がされてしまったファンですよ」

 

「おかしいですよね。散々、嫌いだって感情を吐き出したのにファンだなんて」

 

「でも、わたくしは自分の中にある相反する感情を悪くないと思ってるんです」

 

「きっかけは通しの練習で初めてアイちゃんのパフォーマンスを見て。わたくしは不覚にも魅入ってしまいました」

 

「別にすごく上手いからじゃないですよ? ダンスはミネちゃん。歌はナベちゃんの方がきっと上手い。負けるつもりはありませんが」

 

「けれど、アイちゃんは違う。上手いや下手ではありません」

 

「アイちゃんの一挙一動全ての動きがわたくしの目を離させず、耳をふさがせず――脳を焼き焦がしました」

 

「焼き焦がされながら胸の内は叫ぶのです。ああ、この子は。この子はわたくしの手が届かない夜空に輝く一番星――推しの子だと」

 

「同時に嫉妬も芽生えました。これはまあ先程も言ったことです」

 

「相反する気持ちに最初は戸惑いました」

 

「でも、それもいつしかどうでもよくなりました」

 

「だってそうでしょう? アイちゃんを嫌いでも、誰よりも近く、早く、推しの子を見られるのですから」

 

「それからのわたくしは、アイちゃんを嫌いな感情でファンという気持ちに蓋をして、ずっとアイちゃんを見ていました。練習を、ライブを、活動の全てを、ずっと一番近くで見てきました」

 

「アイちゃんは嫌いです。大嫌いです。この気持ちは嘘じゃありません」

 

「だけど、だけれども」

 

「アイちゃん……わたくしはあなたが(あなたをわたくしは推し)大嫌い(ています)

 

輝きでわたくしを(あなたの輝きでもっ)焦がすあなたが嫌い(とわたくしを焼き焦がして!)

 

贔屓を受ける(あなたが贔屓をさ)あなたが嫌い(れるのは当然のこと!)

 

全ての中心に(あなたが中心じゃない)いるあなたが嫌い(世界なんて考えられない!)

 

妬ましい!(手が届かなく当然!) 憎らしい!!(あなたは完璧で究極のアイドル!) あなたと一緒のグループになんかなりたくなかったっ!!(で本当に良かったっ!!)

 

 

 

 

  ★★★★

 

 

 

 

「……これがわたくしの全てです。満足しましたか?」

 

 荒い息を整えてニノは笑顔を張り付ける。

 光のない瞳にドロリとしたナニかを浮かべて、叫びすぎて赤くなった頬を口と共に三日月みたいに緩ませて。

 笑顔というか、狂気の笑みと言うべきか。

 

 いつもの姿からは、絶対想像できない彼女の告白に、

 

「「「こっわ……」」」

 

 自分とミネとナベは声をそろえて恐怖した。

 

…………はえー

 

 クソ重感情をぶつけられた当の本人のアイは固まっていた。見る者を虜にする星の光を宿す瞳も今はまったく輝いていない。ぐるぐると渦を巻いて混乱の真っ最中だ。

 その場に合わせた嘘を即座に言えるアイもコレには対応できないか。少しそっとしておこう。

 

 ナニこれ、怖い怖い。

 アイに対する負の感情も大概だったが、こいつそれ以上に、アイという推しに対する感情がメーター振り切ってるじゃねぇか。え、これずっと隠し続けてきたの? 自分はともかくとしてアイの前で!? 二年間ずっと!?

 生まれて、いや前世まで遡ってもニノみたいなタイプはいなかった。澄ました顔で腹に一物抱えるならわかるが、澄ました顔の裏で悪感情と好感情の二つをごちゃ混ぜにして、かつそれを隠すなんてどうやればいいんだ。下手すればアイと同等の嘘つきの才能があるぞ。

 いや、しかし。これが本物のドルオタという生き物なのか。自分は生まれて初めてドルオタというモノが何なのか知った気がする。知りたくなかった。

 

「怖いとはなんですか! 全て曝け出したというのに、言うに事欠いて怖い!? 失礼ではありませんか!?」

「怖い! 怖いわよニノ! ドルオタはキモイって思ってたけど考えを改めるわ! ドルオタは怖い!」

「わたくしをそこらへんの小汚いオタクと一緒にしないでください!」

「そもそもその喋り方はなんなの!? いつもの間延び口調はどうしたの!?」

「こちらが素です。わたくし、これでも良家の娘ですので。いつもの口調は身バレ防止の変装みたいなものなんです~」

「……うわ、見て鳥肌すっごい」

「こっわ……」

「ミネちゃん!? ナベちゃんも静かに離れないでくれません!?」

 

 恐怖で自分で自分の腕を抱き締めるミネ。

 そっとニノから距離を取るナベ。

 

 いや待て。ニノでこれということは、まさかこいつらも……

 

「…………」

「……どうしてウチとミネを見て引いてんの? 名桐。ないから。アイへ向ける感情はあっても、ニノみたいな頭沸いた感情なんか持ってないから」

「……ウソダー」

「こ、こいつ……。いや、もういい。ミネ」

「なっ……なに!?」

「ここまでクッソ気持ち悪い感情をニノが吐いたんだ。ウチたちがアイに向けてる気持ちが大したことないって証明するためにゲロれ」

「女子が言っていい言葉じゃない!?」

「気持ち悪くありません! 推しと嫌いな相手に向ける当然の感情です!」

「ひぇっ! ……で、でも……」

「このまま黙ってたら、アンタ……ニノと同類と思われるよ」

「耳の穴かっぽじってよく聞きなさいアイ!」

「え、あ、う、うん!?」

 

 ニノと同類は嫌だったのか、迷っていた素振りを即座に捨て、ビシッと指をアイに突き付けるミネ。もうクールキャラは無理だろ、ポンコツキャラだろこいつ。

 そこでようやく固まっていたアイも再起動を果たした。

 

 

 まあ、やはりというかミネとナベのアイに向けて思っていたことはニノとは比べ物にならない、いや、ごく普通の、どこにでもいる中高生の女子として当たり前でありふれた感情だった。

 

 妬み、嫉妬、不満、憎悪、絶望。

 程度はあれど、ミネとナベはアイに向けてた感情を話した。

 

 同時にアイのアイドルとしての姿に魅了されていたことも。

 興奮、期待、憧憬、信仰、希望。

 自分はもちろんだが、アイは今度はしっかりとミネとナベの感情を聞いた。聞いて、少し衝撃を受けているみたいだ。

 

「ハァ……アンタが吐き出せって言ったものはこれで全部よ。どう、満足した?」

「ああ。……じゃあ最後だ」

「最後って、これ以上何もないわよ」

「いるだろ? ――なあ、アイ」

 

 話を聞き終えた自分は、最後の一人であるアイへ視線を向ける。

 三人もああそういう、とアイの方を向く。

 

「……私?」

「ああ。三人の気持ちは聞いたんだ。あとはアイ、お前だけだ」

「で、でも……」

 

 アイは自分を見つめる三人を見渡し、戸惑うように俯く。

 

「大丈夫だ。ゆっくりでもいい。支離滅裂でもいい。アイが三人に思ったことを好きなように言えばいい」

「ハルカ……でも、私、嘘つきだし……言いたくなくても嘘になっちゃうかもしれない……今は、本当のことを話してくれた今だけは、嘘は言いたくないよ」

「今のアイの嘘なら、自分でもはっきりと見抜ける」

「ハルカ……」

「大丈夫」

 

 

「やっぱこいつアイにだけ甘いわね。これで恋愛ド素人ってどんな素人よ」

「家族っていうけど、実際血は繋がってなさそう」

「お兄さん……弱気なアイちゃんの瞳を独占するとは……ああ、ズルいですね! ああああーー!」

「ニノはもう隠さなくなったし……」

「この子の大嫌い発言が今日一番の大嘘ね」

 

 

 真正面からアイを見つめ返す。

 不安げに揺れていたアイの瞳は次第に定まっていき、一度目を閉じて深呼吸。再び開かれた瞳はいつものように星の輝きを宿していた。

 

「ミネちゃん、ナベちゃん、……、えと、ニノちゃん」

「アイちゃん!? どうしてわたくしを呼ぶのを躊躇ったんですか!?」

「……そんなことないよ?」

「見え見えの嘘……! くっ、やっぱりアイちゃんは嫌いです!」

「……アイ」

「えへへ。……ニノちゃん」

「なんですか?」

「メンゴ☆」

え今メンゴ☆で謝った?アイちゃんがわたくしに?待て待ちなさいニノ思い出しなさいアイちゃんがメンゴ☆と謝った相手はお兄さん含めて誰もいないつまり推しの子の初メンゴ☆相手がわたくし?(早口) ――ぷしゅう!」

 

 そこで人に合わせた嘘をつくな。ニノがオタク顔負けの超早口でぶっ倒れたぞ。やっぱりこいつの嫌い発言は嘘だろ。見抜けなかったが。

 閑話休題。

 

 今度こそ、アイは自分の気持ちを三人に話した。真っ直ぐ三人を見つめる瞳に星の輝きはない。

 

「初めに言うとね。私は皆に悪い感情は持ってないの。これはホントに本当」

 

「嫌いだって思われてるのは知ってるけど、私は皆のこと嫌いじゃないんだ」

 

「信じてもらえないだろうけど、私は皆と仲良くなりたい」

 

「ずっと、ずっと前から。苺プロに入ってB小町ができた時から変わらない私の本心」

 

「でも、言えなかった」

 

「私は嘘つきだから。言いたくなくても無意識に嘘をつくから。だから言えなかった」

 

「口にしたら、なんて言っちゃうかわからなかったから」

 

「……それでも」

 

「それでもいいのなら、皆」

 

「私に言いたいことは全部言って」

 

「馬鹿だなって思ったら、私のこと思いっきり馬鹿にして。佐藤社長みたいにこのクソアイドル! みたいに」

 

「私が間違っていたら、私のこと思いっきり怒って。何やってんだ! みたいに」

 

「遠慮なんてしないでほしい」

 

「叩かれるのとかは、ちょっと嫌だけど」

 

「さっきのニノちゃんみたいな早口トークは誰かが一緒に聞いてほしいけど」

 

「えっと、つまりね」

 

「普通を知らないから、どんなのが普通かわからないけど」

 

 

 

「私は皆と仲良くしたい。馬鹿なことも怒られることもしたい」

 

「ちゃんと皆と、普通の女の子みたいなことをしてみたいです」

 

 

 

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