青空と雪原と神託   作:テキサス仮面

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12月14日は2人が出会った記念の日ということで、ジェリスタちゃんたちが同居するきっかけとなった天災のタイミングがずれて、夫婦にならなかったIFの短編をどうぞ。


《iF》薄味の未来

 

 正体不明のサンクタのジェリスタが、感染者監視隊だったイーゴリと出会い、数ヶ月が経過した。

 季節は巡り白銀は大地に溶け、緩やかな風が吹き抜ける。

 そんな人々の往来が本格化してきた時期に、突如黒雲が嵐を伴って現れた。

 

 天災

 

 このテラの大地を過酷たらしめる源石を伴った災害が、すべてを完膚なきまでに破壊する。

 

 今回は発生場所が郊外であり人的被害はなかったものの、ジェリスタが暮らす村とイーゴリのいる街を繋ぐ街道に大型の源石クラスターが発生。

 復旧の見通しは立っておらず、場合によっては半年以上を要するだろう。

 

 ジェリスタがイーゴリに会いに行った翌日に、2人は分断されてしまったのだ。

 

◇◇◇

 

「お塩が足りない…むむっ!」

 

 薄暗い台所で鍋と睨み合うサンクタは唸り声を漏らしていた。

 食卓には欠かせない塩、それが無い。

 どうやら親愛なる同居人が買い忘れていたようで、ジェリスタはガックリと肩を落とした。

 

「今日も薄味シチーで乗り切るしか無いかぁ」

 

 頭上の光輪を灯りにし、寒々しい戸棚の中に何かないかと目を凝らすも、隅に縮こまるオリジムシぐらいしか収穫は無し。

 渋々素材の味を生かしたスープを煮詰めながら、ごぼうサラダを摘む。

 作ったのは良いものの、「木の根を食べなくてはならないほど追い詰められてない」と誰も手をつけずじまい。どうやらウルサス人にとって、ごぼうは食べ物では無いようだ。

 少ない水をうまくやりくりしつつ、キチンと下ごしらえを行ったごぼうにマヨネーズを絡めただけの簡単なサラダを、先ほど見つけたオリジムシに与えながら、サンクタはどんよりとした空を窓越しに見上げた。

 

 彼なら食べてくれるだろうか?

 

 こんなときいつも浮かぶのは、大柄のウルサスが手際よく料理を作る後ろ姿と、楽しそうに食べる姿。

 それが愛らしく、懐かしく、ありありと彼女の目に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 天災により分断されてから数年経った今でも、ジェリスタはイーゴリと会えていない。

 

 

 

 

 

 

 

『俺の方から来るまで、会いにくるな』

 

 最後に会った時に言われた言葉を、今でも彼女は律儀に守り続けている。

 たとえ夏が過ぎようと、季節が一巡しようと、ジェリスタは待ち続けた。

 街道が再び繋がっても、一向に現れなくとも、彼女は待ち続けた。

 

『…次に会うときは、同居でも何でもしてやるよ』

 

 彼女の曇りのない瞳をまっすぐ見ることが出来ず、目を逸らした男が去り際に言い残した言葉を、彼女はずっと信じているのだ。

 

 彼女を家に住まわせる老夫婦は、会いに来ない男を待ち続ける娘を不憫に思い、良い人を宛がおうとしたものの、彼女は決してほかの男に関心を持つことはなかった。

 

 友人のアリーナは彼女を新しい事に関心を持たせようとしたものの、結局何も変わらなかった。

 

 憤慨したタルラがイーゴリの自宅居押し入り、アパートを焼き払わんとする勢いで恫喝したが、まったくもって逆効果。

 彼はより一層意固地になり、決して会うことはなかった。

 

 周りの行動も虚しく、何か状況が動く事なくただ月日が積み重なる。

 ジェリスタは今日も変わらず、空を見つめていた。

 

 

◇◇◇

 

 静かな部屋に異鉄の悲鳴が響いて、男の微睡を劈いた。

 無理やり意識を覚醒させられ、どんよりとした空に怒りを向ける。

 

 サンクタの一方的な親愛に耐えかねた臆病な男は、彼女を突き放すことでようやく心の平穏を手に入れたと安堵したのもつかの間、一度変化してしまった心情が元の形に戻ることなどない。

 ちくちくと胸を刺す嫌悪感に、男は思わずベッドの中で唸り声を漏らしていた。

 

 ロクでもない自分にはロクでもない仕事しかないだろう自然に選んだ感染者監視隊。

 それを辞めてまで、何から逃げたかった?

 不快感が心中に浸潤するたびに、男の脳裏に浮かぶのはあのサンクタのことばかり。

 

 彼は決して愛されたくないわけではない。

 むしろ愛されたいという願望を強く持っている。

 しかしながらそれをはっきりと表現し、他者と関わる勇気が無いのだ。

 

 まともに交友があるのは、元後輩のレオニードのみで、イーゴリがジェリスタと最後に会ってから一年以上が経過した今でも、双方に何一つ進展はない。

 タルラによる強制的介入によってイーゴリの改善の芽が焼かれた影響はかなり大きいようだ。

 しかし、燻った未練は未だ彼の袖を引っ張っている。

 姿形が見えずとも、その耳が、その手が、未だ彼女の存在を忘れさせてくれない。

 なら、どうすればいいのか?悶々としたイーゴリは苦し身から逃げるため答えを求める。

 

 もしも、彼女がまだ待ってくれているのなら。何度思ったことか。

 自分勝手に突き放したというのに、なんと烏滸がましい。

 しかし、期待して止まない自分がいるのもまた事実。

 なら、この未練を断ち切るために明日会いに行こう。

 曖昧な現状を終わらせるのだ…!

 

 ようやく勇気を奮い立たせ、臆病な熊は決心する

も、夕方になればその必要はないと取り消しては、また罪悪感に押しつぶされてのその繰り返し。

 味気ない日々が積み重なっても、人生が濃くなることはない。

 もう一日でも早ければ、思い立ったその時に行動していれば、決して手遅れにならなかっただろう。

 彼はある未来と同様に、唯一といっても過言ではない親しい後輩を助けに行き、命を落とす。

 

 ルカールサの惨劇

 

 のちにそう呼ばれる暴動により、街は悲劇の名残だけを残し火の中に沈んでいく。

 空っぽな聖女は夢を、無数の未来の断片を掴むことはできず、街は人々と共に焼け落ちた。

 

 

◇◇◇

 

 この未来において、ジェリスタはただ待たされることを何一つ苦痛ととらえていない。

 

「約束したから」

 

 そう言って今日も老夫婦の家事手伝いをする。

 ただ与えられたルーティンをこなすだけの単調な生活を、彼女は退屈とすら感じられない。

 

 離れた街での男の末路が、無機質な笑みを浮かべたサンクタのものに届くことはないだろう。

 

 彼女は男が死んだことを知らないまま、あの薄いドアを開けてくれることを待っている。

 




初期のイーゴリ君は愛情の受容キャパが足りないので、付き合わせるためには無理やりにでも同居させる必要があったんですよね。
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