青空と雪原と神託   作:テキサス仮面

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小説パートオンリーです。ウルサスに対して筆者の個人的解釈が多々含まれてますので注意。



青空と義憤と胸

 

『感染者監視隊』

 

 大反乱ののちに増大する感染者を逮捕し、鉱石病という重大な問題を押しとどめられるために作られたその役割は今ではウルサスの大地を搾取する害悪の一つとなり果てた。

 元より誰もかかわりたくない感染者と対峙する仕事を請け負う人間など、金銭に目のくらんだろくでなしばかりだったので当然の結果である。

 

 凍土で暮らす農民が住む場所を移すことがあれば、その理由は天災と監視隊詰め所の移動ぐらいだろう。

 

 農作物を食い荒らす害虫に比喩される威圧感を与える黒い制服を身に纏う感染者監視隊。その存在を喜ぶものなど誰もいやしないが、万が一に感染者が何か問題を起こしたとき彼らが居なければ誰が動くのだろうか?

 感染者は言わずもがな、調査と称してわずかな蓄えを持ち去る彼らを農民が歓迎するはずもない。軍人や都市の官僚から白い目で見られ毛嫌いされる始末。それでも彼らを必要とするのが今のウルサスのあり方だった。

 

 今のウルサスを言葉で表すのなら、「重い鎧を着た死体」もしくは「斜陽」

 

 いや、もう日は沈んでしまったのかもしれない。

 かつての栄光は雪の下に埋もれ、熱く脈打つ熱狂はすでに書物の中だけになってしまった。

 ウルサスを体現したような先帝を育てた四皇会戦、長く続いたカジミエーシュとのカウ戦争、それらを経て聡明な皇太子を汚職から目を逸らさせるために引き起こされた極東との戦争はウルサス国内へともつれ込み、血峰の戦いにて敗北を喫した。

 

 不正を隠すための戦争で負けるなど、なんと酷い有様か。

 

 その失態が大反乱を招き、のちに彼ら感染者監視隊が組織されることとなる。度重なる戦争の負債を他国から奪うことで何とか回っていたシステムはすでに自壊した。

 貴族や軍人の汚職は当たり前。被告人の結末が初めから決まっている絶問主義による司法システム。片寄る富は貧困の格差を広げ、それがずさんな防護策による源石掘削による感染者を増大させた。

 それが感染者監視隊の必要性を強め、切り捨てられることのない彼らは横暴に走る。まさに無限ループ。

 その批判は象徴たる皇帝へ向かい、ウルサスの閉鎖的風潮を打ち破るべきだと言う声が国内からあがり始めるのは必然で、負のサイクルの甘い汁を啜っていた権力者としては面白くない状態だ。

 では、絶対的な皇帝(ウルサス)への不満を少しでも抑えるため、彼ら官僚は一体どうしたのか?

 

 そう、感染者に怒りを押し付けたのだ。

 

 今日まで続く厳しい感染者への厳しい偏見や対応は、国民の怒りや不満から目を逸らさせるためのものであり、あれだけ必死になって迫害する感染者は今のウルサスにはなくてはならないものになってしまっているのは皮肉としか言いようがない。

 

 救いようがないウルサスの現状が生んだ感染者監視隊、その一人であるイーゴリ・フョードロヴィチも求められていた役割をこなしつつ、少しばかり(・・・・・)多めの駄賃を頂いていただけだと、少なくとも彼はそう認識していた。この村に足を踏み入れるまでは。

 

「どう?似合うかしら、愛しの人!」

 

 眼前のサンクタは村娘から譲られた淡い灰色のカフタンをドレスのように揺らし、まるで春の訪れを祝うように軽やかに踊る。

 精神を病んだ旅人か、はたまた愚者を語る物乞いか。

 ただの魯鈍な女とあしらうことができればどれほどよかったものかと、イーゴリは煌く雪原によって反射した日光に目を傷めながら眉間の皺を深くする。

 

「胸?胸が好きなの?」

 

 衣服を身に纏ったサンクタに新鮮味を感じつつ、相変わらず困惑と同様に揺れ動く頭を悩ませた。

 着替えを済ますなり男を無理やり連れ出して、見ていて気分の良い笑顔を彼だけに向ける。青と白の境で跳ねるその姿は、衣服を纏っていない頃に劣らない神聖さを輝かせる。

 

「どう?柔らかい?」

 

 初対面の時から不思議を通り越し、不気味なまでに馴れ馴れしくその豊満な胸を押し当ててくる女に対し、恐怖を感じるのは当然だろう。

 いくら街中で視線を集めること間違い無しの可憐な美貌だろうと、耳が溶けてしまいそうな声色だろうと、怖いものは怖い。

 

「近づかないでくれ…!」

 

「大きい胸は嫌い?まいったなぁ、後でアリーナちゃんに胸の減らし方聞かないと」

 

 言葉は通じるのに話が通じない、分かりそうでわからない。そんな恐怖に包まれ、天災がもたらした夜中の吹雪よりも激しい悪寒がイーゴリから理性と熱を同時に奪う。

 何か企みがあって自分に近づいているのだ!と、決めつけられたらよかったのだが、残念ながら彼女の一言一句からはとても理性が感じ取れない。やはりただの安本丹な女なのでは?

 恐怖と少しばかりの興奮が入り混じり、理性と欲望は困惑のあまり機能停止状態。お手上げだ。

 

「これからお前はどうする?お前の行った行動が善行とはいえ、これまで行ってきた悪行が消えることも帳消しされることもない。その報いは必ず訪れるだろう」

 

 脳の処理を超える状況にクラッシュを起こしかけていた男を、冷徹な炎の刃のような声が揺り起こす。先刻、恩人に危害を加えたことを忘れたとは言わせない、と尻尾を不機嫌に揺らしながらタルラは雪を踏みしめ男の前に立っていた。

 不穏な空気など気に留めぬまま過度なスキンシップを図ろうとするサンクタから目を逸らしながら、タルラは彼の罪を問う。

 言動次第ではその高貴な装いに溶け込んだ剣を鞘から解き放たんとするドラコの手を、その友人である村娘のアリーナが諫める様に掴んでいなければ流血を覚悟しなければならなかっただろう。

 

「お、俺は…」

 

 しかし、突然の事態にイーゴリの意識は追いついていない。その様子を煮え切らない態度だと受け取ったタルラは、ますますその瞳の炎を高ぶらせ、自身の足元に泥濘が形成されていることに気が付かない。

 彼女が刃を振るうのは時間の問題―――

 

 

「ありがとう監視隊のお方。あなたのおかげで遭難者の命が救われました。彼女は私たちが面倒を見させてもらいます。ですが彼女は命の恩人である貴方様に好意を抱いているようで、よろしければ時折彼女の顔を見に来てはくれませんか?」

 

 

 義憤をいまだ滾らせるタルラと、本来の職務を動揺のあまり忘れていた監視隊の男の間に入り込んだのは、思いがけない助け舟だった。

 

「こちら少ないのですが」

 

「あっ、ああ…」

 

 男は村娘の機転を利かせた行動を理解すると、手渡されたウルサスの硬貨が入った袋を受け取る。

 彼が対応に困っている少女を引き取り、彼は金品を得る。ここは互いに事を荒げず済ませよう。直接言葉を交わしたわけではないが、アリーナとイーゴリの利害は一致。

 間違っていることはすべて燃やしたいという衝動的な怒りを抱えていたタルラは、己の最も嫌う養父のようなやり取りを交わした二人に対し眉を顰めるが、誰も苦しまないのであればと不満ながらも口を閉ざすのであった。

 


登場人物一覧

 

イヴァンジェリスタ

主人公。全裸転生?したカイデー僕っ子サンクタ♀。安価は絶対。

 

イーゴリ・フョードロヴィチ

監視隊の男。どう見ても被害者。

 

タルラ

タルちゃん。そのうちこのカイデーサンクタに無辜の血肉を差し出される。

 

アリーナ

個人的に胸は平らではないと思います。




思い付きで書き上げたので誤字脱字の指摘をくださるとありがたいです。
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