10話です。どうぞ
「なぁ柳」
「どうした速水」
「どうでもいいこと言っていい?」
「無理」
「柳と速水ってイントネーション似てるくね?」
「俺に拒否権ねーの?つか本当にどうでもいいな」
現在、総武高校二年F組の授業は体育である。
授業は内容がテニスなので俺は速水と適当に打ち合いをしていた。
速水は一応バスケ部のエースらしいからなかなか運動神経がいい。
対して俺もこれといってスポーツはやっていなかったが、運動はそれなりにできるほうなのでラリーは続いていた方であった。
でも初心者だからミスはするよ!
「そういやお前のシスコンの噂落ち着いたな」
「まぁもともとそんな騒ぐ話でもないだろ。そもそも俺シスコンじゃねーし」
「お前の姉ちゃん美人だと思うぜ?」
「……それは他人だからだよ」
実際、美人な姉なんてものがいてもいいことはない。紹介しろとか言われるし、街で二人で歩いてたら絡まれるし……。あれ?ほんとにいいことないな。
まぁ別に姉さんが嫌いってわけじゃないだけどな。
「お前、目が死んでるぞ」
「ほっとけ」
常に目が死んでる比企谷くんはいつもこんな気持ちなのだろうか。
そう思って比企谷くんの方を見ると一人で壁打ちをしていた。
……さすがボッチ。
「柳!危ない!」
「へ?」
振り向いた瞬間、俺に向かってテニスボールが飛んできていた。
俺はそれを避けようと体重を右に向けて体を傾けた。
テニスボールは俺の顔の横を通り抜ける。よし、避けきれた。
「柳足元!」
速水の声が聞こえ、反射的に足元を見る。
すると、浮かせていた左足の下にテニスボールが転がっていた。
「やばっ」
ズルッと俺はそのテニスボールの上に左足を置いてしまった。
ゴンッと頭の中に嫌な音が響いた。
「柳!大丈夫か!?やな……」
速水の俺を呼ぶ声も遠ざかっていく……。
「啓くん……私ね……」
「柳、今宮佳奈と宮田孝は預かったぜ。返して欲しければ工場跡に来い!」
「啓介、俺も行く」
「お前ら絶対ぶっ殺してやる」
「孝ぅぅぅぅぅ!!!!!」
「ハァハァハァハァ」
夢、か。なんで今あのことが夢に……。
身体中汗だくだ、気持ち悪い……。
つかここは……保健室か。
「やっと起きたのね、柳くん」
「雪ノ下さん?なんでここに?」
「由比ヶ浜さんがあなたを心配してずっとここにいるものだから平塚先生が特別に許可をくれたのよ。それで私は由比ヶ浜さんに呼ばれて」
なんだ、お見舞いイベントとかじゃないんだ。
「っでその由比ヶ浜さんは?」
「お弁当を取りに行ってるわ」
「なるほど」
「それより随分うなされていたみたいだけど?」
「いやぁ、悪い夢見ちゃってさー」
冗談めかしに笑う。
正直あのことは思い出したくない。
「そう、言いたくないのならこれ以上は問わないわ」
「ありがとう」
無意識のうちに俺の口からこの言葉が出ていた。
「え?」
雪ノ下さんが不思議そうにこっちを見る。
「ま、まぁ一応の感謝の気持ちってことで……」
あわてて誤魔化す。我ながららしくないな。
「一応ってところがあなたらしいわね」
そう言って雪ノ下さんはフッと笑う。
なんだろう、すごくバカにされてる気がする……。
「ゆきのーん、おまたせー。
あ、やなぎん起きてる!」
声がする方を見ると弁当を持った由比ヶ浜さんが立っていた。
これ以上ないナイスタイミング。
「おはよー」
「おはよーじゃないよ!心配したんだからね!」
ほんとこの子はいい子だなぁ。涙が出ちゃう。
「いやぁごめんごめん」
「まぁ、無事ならいいよ」
由比ヶ浜さんがそう言って笑う。
この笑顔で何人の男が惚れるのだろうか。
「どーも、じゃあ俺着替えるか行くよ」
そう言って俺は立ち上がる。
体育からそのまま運ばれたんであろう俺の姿は体操服のままだった。
「もう大丈夫なの?」
「まぁ今のところ痛みはないし大丈夫だよ。まぁ今日は部活休むわ」
「分かったわ。お大事に」
「じゃあ雪ノ下さん、また明日」
由比ヶ浜さんとはまた教室で会うしね。
挨拶は放課後でいいだろう。
「あれ比企谷くん?」
「……よう」
保健室をでたすぐそこにウインナーロールを頬張っている比企谷くんがいた。
「なにしてんのこんなとこで?あ、もしかして俺のお見舞い?」
なんだ、比企谷くんもいいとこあるじゃないか。
「ちげーよ、いつもここで昼飯食ってんだよ。てかなにお前?なんかあったのか?」
「あれー?俺ら同じクラスじゃなかったけ?」
期待はしてなかったけどこのレベルとは思わなかった。
「ボッチだからな俺は」
「いや、理由になってないからな!」
どんだけ人に興味ないんだよ……。マジで。
「比企谷くんはまず人に興味持ったら?ほら自分から近づいて行くことも大事だよ!」
「それは違うぞ、柳」
「へ?」
「俺は人に興味がないわけじゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
比企谷くんは少しためてこう言った。
「人が俺に興味を示さないだけだ」
そう言った比企谷くんの目は少し輝いてる気がした。
いや、言ってること全然カッコよくないからな?
「柳くん、もう大丈夫なの?」
比企谷くんと他愛ない会話をしているところに声をかけてきたのは同じクラスのテニス部の戸塚彩加だった。
それにしても会話続くようになったなぁ。
「よぉ、戸塚。俺は大丈夫だよ」
「そっか、よかった。それで柳くんと比企谷くんはなにしてるの?」
「ちょっとした日常会話だよ。な?」
そう言って比企谷くんに話しを振るが、比企谷くんは首を縦にコクンと振るだけだった。
いやいや、どんだけコミュ症なんだよ……。
「っで戸塚は自主練か?」
「うん、うちのテニス部弱いから僕ががんばらないとね。あ、そういえば比企谷くんってテニス上手だね!」
「そうなのか?」
比企谷くんって壁打ちしてただけじゃね?と思い訪ねる。
「うん、フォームがすごく綺麗なんだよ」
「いやー照れるなー。はっはっはー」
「な、なぁ柳」
小声で比企谷くんが話しかけてくる。
「ん?」
「っであの子誰なんだ?」
……もうツッコまない。
「同じクラスの戸塚彩加だよ」
,「そうか……」
まさか戸塚が男って気づいてないのか?
……これは面白いことになりそうだ。
ちょっとボケてる比企谷くんのお灸を据えてやろう。
「まぁフォローしてあげるからうまくやりなよ」
「……助かる」
「任せなさい!」
さてさて、今からすごくしょうもないいたずらをしよう。
「戸塚」
まずは俺が比企谷くんから距離をとって小声で戸塚呼ぶ。
「どうしたの?」
「テニス部って今部員あんまりいないんだろ?」
「う、うん」
「だったらさ、比企谷くん誘ってみたら?」
奉仕部入ってるけど。
「で、でも入ってくれるかな?」
戸塚が不安そうに言う。上目遣いやめて、新しい扉開いちゃいそうになるから。
「まぁそれはわからないけど声かけるだけかけてみたら?」
「うん!そうしてみるよ」
クックック、全て計画通りだ。
「ね、ねぇ比企谷くん」
「な、なんだ?」
「比企谷くんにお願いがあるんだけど……」
「えっ」
比企谷くんが頬を赤らめている。なにこれ超おもしろい。
「もしよかったらテニス部入ってくれないかな?」
比企谷くんが目を丸くしている。
まぁそりゃそうなるだろうな
「……それはマネージャーっていう意味でか?」
絶対、女テニに誘われてると思い込んでるよ。
「ううん、選手としてだよ。比企谷くんテニス上手だし、もっともっと上手くなると思う。それにみんなへの刺激になると思うんだ。あと……比企谷くんとならぼくも頑張れると思うし……。あ、あの変な意味じゃなくて!ぼ、ぼくも、テニス、強くなりたい、から」
「お前は弱くていいよ……。俺が守るから」
アホか……こいつ。
「えっ」
戸塚が不思議そうにしている。
二人の会話が微妙に噛み合ってないのが最高におもしろいな。
「あーすまん間違えた。まぁ、あれだ。男の俺が女テニに入部するというのは無理があると思うんだが……」
「え?あの……もしかして比企谷くんぼくのこと女の子と思ってる?」
「あぁ……」
さて、みなさん、カミングアウトのお時間です。
「ぼく……男なんだけどなぁ……そんな弱そうに見えるかな?」
「え」
比企谷くんが固まっている。
この瞬間を俺は楽しみにしていた。
「嘘だろ……」
そう言いながら比企谷くんは俺の方を見る。まだ信じられていない顔をしている。まぁそうなるよね。俺がそうなるように仕向けたんだから。
俺はとどめの一言を言う。
「戸塚は男だよ」
そう聞かされた比企谷くんは目を一層腐らせてこう言った。
「柳、騙したな」
「いやいや、俺は戸塚が男だなんて一言も言ってないよ?」
「んなもん言われないと分からないだろうが」
……そうだろうね。俺だって初対面時はマジで女子だと思ったからな。
「とにかくだ、悪かったな戸塚、知らなかったとはいやな思いさせて」
「俺もごめんな戸塚、つい面白くて」
「ううん、いいよ」
そう言ってニッコリ笑った戸塚の顔はまさに天使だった。
って待て俺、戸塚は男だ。
「お、チャイム鳴ったな」
「戻ろっか」
「なぁ、柳」
「どうしたの?比企谷くん」
「その、お前着替えはいいのか?」
「あっ」
………完全忘れてた。
なんかもう方向性が……。