俺が言った一言で周りがざわついている中、最初に口を開いたのは葉山だった。
「柳、どういうつもりだ?君は奉仕部の部員のはずだろ?」
まぁその疑問が最初に来るだろうな。
「気まぐれだよ、ただの。それに俺は今回の戸塚の練習を手伝うって依頼には関与してないから問題ないはずだ。そうだよね?雪ノ下さん?」
「何をふざけたことを言ってるのかしら。そんなこと認めるわけないでしょう。」
「どうしたの?俺に負けるのが怖い?」
バカにしたように雪ノ下さんに言う。部室で同じようなことを言ったら瞬殺されるだろうけど今いるのはテニスコートだ。ネットで区切られているから怖くないもん!
「いい度胸ね。いいでしょう、交代を認めるわ」
……チョロすぎだろ雪ノ下さん。ちょっと心配しちゃうレベルで。あ、これが今流行りチョロインってやつか!違うか?違うな
「ってことで交代でいいかい?二人とも」
雪ノ下さんの許可も取れたところで一応この二人にも言っとかいないといけないよな。
「俺は構わないけど……」
そう言った葉山が三浦さんの方を見る。
「あんたどういうつもりなの?」
どうやら三浦さんは納得してないらしい。まぁそりゃそうですよね。
ここは嘘ついても仕方ないから正直に言ったほうがいい。
「簡単な話だよ。今のままじゃ100%君達は負ける」
「そんなのやってみないとわかんないし!」
「わかるよ、その証拠にあのサーブへの対処法が君達にはない。でも俺にはある」
「……勝てんでしょうね」
「負けはしない、あとそれともう一個お願いしていい?」
「なに?」
おぉ聞いてくれるんだ、絶対文句言われると思ったのに。よっぽど勝ちたいんだな。その素直さはグットだよ!三浦さん!
「勝ってもコートの使用権はそのまま戸塚にってことでいい?」
「わかったし」
……こりゃ話聞いてねぇな。すっげー偏見だけど。
「葉山それでいいか?」
仕方なく葉山に確認する。この約束をしとかないと戸塚に悪いからな。
「あぁそれでいい」
「うん、じゃあ交渉成立ってことで」
あまり葉山は好きじゃないけど人の話は聞くから助かるな。
「じゃあ試合再開ってことで」
「雪ノ下、スタミナちょっとは回復したか?」
「ええ、少しは走れるわ。そんなことより絶対に勝つわよこの試合」
こいつ燃えすぎだろ、バテバテなのに。
にしてもなんで柳のやつわざわざこんな面倒なことに首突っ込んだんだ?どうせなら俺と変わってくれればよかったのに。雪ノ下を挑発するから俺が怖いぞちくしょう。
でも、まぁ……
「負けたくないってのは同意見だ」
こんなお約束の負けるパターンで負けるのは気にくわない。
俺は手からボールを離して思い切りアッパースイングで打ち上げた。
ボールは空高く上がっていく。
幼少期友達が0だった俺が一人野球という新スポーツを開発した結果、特大のキャッチャーフライが一番長い時間楽しめることに気がついた。
これは俺のぼっちである結晶だ。
落下するボールは球速をあげて地面へ向かっていく。
「落下地点はこのへんかな」
無駄だ柳、テニスのルール上サーブはサービスコートにバウンドしてからじゃないと返せない。しかもサービスコートに入ることもできないからこれだけ高くボールを上げたらお前の身長じゃ届かない。
落下していたボールがバウンドする。
柳がバウンドした瞬間狙っていたかのようにボールに向かって助走をつけて飛んだ。
俺は自分の目を疑った。
届くはずのないボールの前に柳のラケットがあったからだ。
ドンッっと俺の足元にボールが通過する。
そしてそのあとコートが『あいつすげー』の歓声に包まれる。いや、まだいたのかよ。
「これでまず同点だね」
そう言った柳はクルッと振り返っていった。
「……はは……マジかよ」
「やられたわね。予想外だわ」
雪ノ下が歩み寄ってきた。さすがに責める気もないらしい。まぁそんな理不尽な真似はされないか。
「彼、どんな握力をしてるのかしらね」
「握力?」
「あら、気づいてなかったの?柳くんはグリップの先を握って最大限にリーチを伸ばしていたのよ。普通だったら不安定すぎて前に飛ばすことすら難しいのに」
「なるほどな」
なるほどと言ったものも理解はしてるが納得はしてないの意だ。
あいつ一体何者なんだよ。どっかの王子様か?
本当に意味のわからない人間だ。
「次は相手のサーブだから助かったかもしれないわね」
「お前まだ勝つ気なのかよ」
「当たり前でしょ」
あぁそうだな、お前はそういうやつだよ雪ノ下。
あ、危なかった。予想よりボールが高かったから届かないかと思ったぞ……。咄嗟にラケット持ち替えて正解だったな。普段から握力鍛えといてよかったー。これでもし空振りとかしてたらかと思うとあぁやめよう想像するのが怖いわ。やっぱり日々の鍛錬って大事だね!まぁあんな真似二度とできないと思うけどな。
なにはともあれ、これで同点になったしもうそろそろ昼休みが終わる。チャイムが鳴った瞬間この試合は強制的にゲームセットだ。そして、残り時間を考えたら多分、あと1ポイントだろう。
状況的にはこっちが有利だけど、絶対に向こうは仕掛けてくるはずだ。
「サーブあんたがやんの?」
「あ、うん俺やるよ。前の方よろしくね」
「……わかった」
元々、あのサーブ打ち返すことしか考えてなかったからこっからはノープランなんだよなぁ。
まぁドラ◯エ風に言うと作戦はガンガンいこうぜってなる。
……とりあえずサーブ打とう。
俺が打ったサーブは比企谷くんの正面に飛び打ち返される。そのボールをまた俺が打ち返す。
そのラリーの3回目俺の打球にネット際にいた雪ノ下さんが反応した。
「三浦さんの左!」
俺の予想通り雪ノ下さんは俺たちから見て左の方へボールを打つ。
三浦さんがギリギリそのボールを打ち返すがそのボールに雪ノ下さんが反応している。
「ちっ!」
次の打球には絶対に三浦さんは反応できない。
となると俺が前に出るしかない。
「来たわね、柳くん」
さっきとは逆の方向へボールが流れる。
俺はそれを打ち返す。いや、正確には打ち返させられたんだ。
俺と三浦さんを前に出させたら後ろはがら空きになるのは当然だ。
この空いたスペースに比企谷くんの山なりボールをぶち込んだらボールは風に乗ってフェンスを越えて外に行くからまず取れないな。
でもな、フェンス登ったらとれんじゃね?
比企谷くんが打ったボールは俺がフェンスへ走っている途中にセンタサービスラインの手前でバウンドする。
「おい、あいつフェンス登ってなにするなんだ?」
「まさか、打ち返す気なんじゃ……」
「ばかなのか?あいつ!」
ここからだとギャラリーの驚いている顔がよく見える。
我ながらなんでこんなことしているのかわからない。ほんとうに気まぐれというのは厄介なものだ。
でも、そんな気まぐれが多くなるのもこの学校に来て面白いやつに会ったからかもしれない。
「ウォォォォォォォ!!」
フェンスの天辺からジャンプしラケットにボールを当てる。
「うわ、とっと」
ボールの行く先を確認できないままに体が落ちていく。当然だ。
この地球には重力というものがあるからだ。
しかし俺は忘れていたのだ。着地の方法を考えるのを。いや、正確には無我夢中で考えてる余裕がなかった。
その時落下していたはずの体が止まった。なんだ?何か背中と膝裏に硬いものが当たってる。
「ったく、滅茶苦茶だなお前」
閉じていた目を開けると、俺の前でゴリラ顏がニカッと笑った。
「………お前カッコよすぎるだろ速水」
俺をお姫様抱っこの状態で受け止めたのはバスケ部エースでおなじみの速水だった。
ほんとなんでこいつモテないんだろう……。
「Foooooooooo!!!!!」
ギャラリーの盛り上がりが最高潮になる。
「っで結局どっちが勝ったんだ?」
「わからん」
「はい?」
「この場にいる全員がお前のこと見てたからな、ボールの行方を見てたやつなんていねーよ」
「……マジかよ。なんだよそのオチ」
本当に今日は厄日だなくそ。
今回は少しだけだけど初めて八幡を語り部にして書いてみたけどすごく難しかったですね
超ローペースですが読み続けてもらえると嬉しいです!