忘却の川の跡   作:鯵nius

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真夜や穂波、また達也の発言や考えから、深夜は実は達也のことをしっかりと息子としてみてたんじゃないかなと思いました。
細かいことは割愛しますので、原作の伏線等気になる方はぜひ感想等で質問ください。

今回は四葉継承編の話がメインです。


真夜の話

 

 

 

――姉さんは貴方を愛そうと努力していたわ。結局、愛せなかったようだけど。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 司波達也は『あの日』、叔母である四葉真夜から聞かされた言葉を反芻していた。

 

 達也は人造魔法師実験をはじめとして、数多の非人道的なまでの戦闘訓練の末、兄妹愛を除いた感情を失い、また異常なまでに達観していた人間であった。

 そんな達也にとって、些細な悩みや疑問というものはないも同然、次の瞬間には解決するか少なくとも納得できる形で答えを出すのが常だ。

 

 今の達也を悩ませているものも、そんな些細な問題で片付くような内容のはず……だった。少なくとも、真夜から聞いた当時はそこまで気にすることもなかったはずだった。

 

 しかし、どうしてか思い出してしまった達也は数日たっても真夜の言葉を忘れることができなかった。

 

(何故、あの言葉が頭から離れない……)

 

 達也は自問するが、その答えはいまだ出ず。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

――ことの発端は『あの日』、四葉本家で行われる一族の有力者たちが顔をそろえる新年の集いである慶春会の前日のことだ。

 

 四葉家現当主、四葉真夜は達也の妹である司波深雪を四葉家次期当主として指名、さらには達也が深夜ではなく真夜の子であるという偽りの事実とともに深雪の婚約者に指名した。

 

 深雪は今にも涙でうるんだ瞳、今にも泣きだしそうな顔をしながらも桜井水波――説明は割愛――に連れられて部屋を後にした。

 

 真夜は達也に顔向け、微笑んだ。

 

「では達也さん、私たちも場所を変えましょうか」

「はい」

 

 真夜が立ち上がり、達也が続く。

 四葉家の執事長であり、真夜の側近でもある葉山がドアを開け、達也は真夜に連れられて移動していった。

 

 

 

 真夜に連れられた先は真夜の書斎であった。

 達也は初めて見る部屋に疑問を感じるが、真夜によると完全なプライベートスペース、外界とのやり取りが一切発生することがないオフライン空間とのことだ。

 

「何故、あのような嘘をついたのです?」

「嘘?」

 

 達也は葉山の入れたコーヒーを口にしつつ、真夜に問いかける。対する真夜の口調は白々しいものではあったが。

 

 嘘とは、もちろん深雪が達也の妹ではないという話である。

 達也は確信をもって、真夜の発言を嘘と言っていた。

 

「叔母上、俺を誰だと思っているのですか?」

 

 達也は、自分の異能をもって自分と深雪が嘘偽りのない兄妹であると断言する。

 

 達也の異能とは、精霊の眼(エレメンタル・サイト)と呼ばれる、物質の構造とその構成要素を認識する特殊な「眼」である。この異能をもって、達也は自身と深雪を構成する要素のさらに先、「由来」までを認識していた。

 

「人間を構成する要素は、現に存在するものの中にあります。それを視ることに、時間の縛りというものは存在しません」

 

 達也の言葉に真夜と葉山は素直に驚くような表情をしていた(それぞれ抱いた感情はことなるが)。

 

「えぇ、そうね……」

 

 真夜はため息をつきつつ、ティーカップに口をつけて気持ちを落ち着かせる。

 

「確かに、達也さんと深雪さんは姉さんの子供よ。でも、貴方と深雪さんが実の兄弟ではないというのも、ある意味正しいの」

 

 

 

「だって深雪さんは調整体なんですもの」

 

 

 

 さすがの達也もこの言葉に対する驚きは隠せるものではなかった。

 目を見開き、一瞬息をすることすら忘れてしまう。そして、真夜の言葉を否定をする言葉は出てこない。

 

「深雪さんは、完全調整体、という言葉がふさわしい……調整体としての歪さ、不安定さは一切存在しない四葉の最高傑作よ」

 

 

 

「そう、貴方のための」

 

 

 

 再び、いや、先ほどよりも強い衝撃に達也は絶句するしかなかった。達也は、生まれて初めて「頭が真っ白になる」という現象に近いしいものに陥っていた。

 

 達也の内心を考えつつ、真夜は話を続ける。

 

「貴方の力は暴走させてはけないものだった……姉さんなら止められたでしょうけど、姉さんは貴方より先に寿命を迎えてしまう……だから、貴方を止められる楔として深雪が作られた。貴方のために」

 

 

 

――俺が深雪のためではなく、深雪が俺のために――

 

 

 

 頭の中で浮かべたつもりが、達也は気づかぬうちにその言葉を呟いていた。

 その様子を見て真夜は満足そうに微笑む。

 

「深雪はこのことを?」

「いいえ、知らないわ」

 

 知っているのは四葉の中でもほんの一握りの人だけ、そう真夜は呟く。

 

 再びティーカップに口をつけ、達也に向き直った真夜の雰囲気が変わる。

 これまでの甘い雰囲気を塗り替えるほどに濃密な、ある種殺気にも近いような、それでいてドロドロに溶けた蜜のような雰囲気を醸し出し、話始めた。

 

「達也さん……貴方は遺伝子的には確かに姉さんの子供かもしれないけど、精神的には私の『息子』なのよ」

 

 「精神的に……?」達也はそう返そうとしたが、言葉は出なかった。

 

「だって貴方がもって生まれた魔法は私の望み通りのものだったから」

 

 その瞳にはこの空間にいる葉山はおろか、達也ですら写っていない。

 真夜は歓喜、狂気の表情で話し続ける。

 

「貴方の魔法は私から私の女としての幸せを……過去と未来を奪った世界を壊せる」

 

 

 

――真夜は12の年で大亜細亜連合に統一される前である大漢の魔法師開発期間「崑崙方院」に拉致され、人体実験の被検体となり、精神崩壊、そして生殖能力を喪失した。

 

 

 

「姉さんが妊娠してから私はずっと願っていた。私が祈り、私が想っていた。そして貴方が産まれた。他の人たちは姉さんが産んだと勘違いしてるけど、魔法師として貴方を産んだのは私なのよ」

 

 真夜が一息つく。ただ、それは話を終えたのではなくただ息継ぎをするためだ。

 

「姉さんだけは理解していた。自分のお腹の子が、私の願いに乗っ取られていたことを。私は姉さんに私自身を奪われた……そして私は姉さんの子供を奪った……姉妹そろって、酷い話よね」

 

 最後の言葉は、自嘲するようでありつつも凍え切ったように冷ややかだった。

 

 

 

「それでも、『姉さんは貴方を愛そうと努力していたわ。結局、愛せなかったようだけど』」

 

 

 

 あの母親にそのような気持ちはなかっただろう、真夜の想像か……実の姉である深夜に対する嘲りを隠そうともしないその言葉をそう解釈した――少しの頭痛を感じながら――。

 

「貴方に施した人造魔法市実験では、姉さんは貴方から兄妹愛以だけを残して強い感情を奪い取った。本当は何一つ残さず感情を消し去った方が姉さんの負担は軽かったのよ。でも、姉さんは自分の精神を、寿命を削ると知ったうえで貴方の精神に手を加えた……」

 

 何かが引っかかる、だがその「何か」はわからない。

 

「そして、深雪さんには貴方を殺してしまわないように、徹底した無関心を刻もうとした」

 

 「何か」はわからないが、とりあえず今は考える必要はないだろう。達也は思考の片隅に追いやる。

 

 

「何がどうあれ、俺と深雪は実の兄妹です。夫婦になれと言われても無理があるでしょう」

「何故?」

 

 達也の疑問に、真夜は心底不思議そうな顔で首をかしげる。

 

「深雪さんは『完全調整体』、貴方との間に生まれる子供に異常をもたらすようなことは決してないわ」

 

 達也が反論をする前に真夜が続ける。

 

「それにね、深雪さんは喜ぶと思うわよ。貴方と、肉体的に結ばれることに何も問題がないということですもの。達也さん、貴方から深雪さんにこのことを教えてあげなさい」

 

 達也が真夜と目を合わせる。

 思考を巡らせ、自分が何をすべきか、なにが一番深雪のためになるのかを考える。

 

「……わかりました。おっしゃる通り、伝えるべきだと俺も思います」

「ええ」

 

 

 

「深雪さんを、大切にしなさい」

 

 

 

 真夜の口調が変わった。達也もそこから雰囲気を感じ取り真夜に向き直る。

 

「深雪さんを失えば、貴方は世界を壊す……私はどっちでもいいのだけれどね。貴方が世界を壊せば、私の復讐は達成される。貴方が深雪さんを守り通せれば、屈服した世界を嘲笑うことができる。だから――」

 

 

 

「達也、貴方は深雪を娶りなさい」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 達也は『あの日』の話を思い出す。

 

 真夜から聞かされた話はどれも衝撃を覚えた。とはいえ、それだけであれば、いつもの自分なら咀嚼して飲み込み、納得することができたと達也は思っている

 

 だが、どうしても理解ができない……いや、納得ができない部分がどうしても頭から離れないと気付いた日から、達也は何度も頭を悩ませる。

 

 

 

 それは母、司波深夜の話だ。

 

 

 

 

 達也は深夜から母親の愛情というものを受けたことがない。

 そんな深夜に対して達也は「母親」と認識してはいれど、そこに付随すべき親子の愛情というものは存在しない。

 深夜が亡くなった時であっても、達也は特別な感傷を覚えるようなことはなかった。

 

 それが当然であり、何一つ変わることがなく、何一つ疑問を覚えることも今まではなかった。

 

 

 

 そう、真夜から話を聞かされるまでは。

 

――本当に母は自分を愛そうとしていたのか、子供としての愛情を、注ごうとしていたのか。

 

 なぜ自分がこんなことに疑問を持つのか、達也には理解ができなかった。

 

(そういえば、母はいつも深雪と……俺と生活していた。人から発せられる微弱なサイオンのノイズですら母は感じ取り、負担になっていたと聞く)

 

 

 

 そして達也は数年前……深夜と深雪と、自分が生活していたあの頃の情景を思い出す。

 

 

 

――その感情、「親子の愛情」というものを知るために、達也は記憶をたどり始めた。

 

 

 




改めて……はじめまして、鯵niusです。

基本的に勢いで書いていっているので日本語がめちゃくちゃだったり誤字脱字があるかもしれませんが、もしあればご指摘ください。
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