忘却の川の跡   作:鯵nius

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前回は四葉継承編がメイン、オリジナル要素はあまりなかったですね。

今回からは蛇足ということでオリジナルの話が展開できればと思います。


少年と少女の出会い

 

 

 

――司波深夜という魔法師について。

 

 

 

 司波深夜、旧姓四葉深夜。

 日本で最強の魔法師集団、日本の魔法師社会を牽引する十師族が一つ、四葉家三代目当主四葉真夜の双子の姉。

 

 世界で唯一ともいわれる「精神構造干渉」魔法を扱い、「忘却の川(レテ)支配者(ミストレス)」の二つ名をもって畏怖される世界最高の精神干渉系魔法師であった。

 

 表向きの記録によると、魔法を酷使し続けた影響で20年にも及ぶ入院生活の末、結婚もせず、子供も作らぬまま亡くなったそうだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 2085年、6歳の司波達也は四葉真夜と深夜主導のもとで人造魔法師実験の被検体となった。そして、兄妹愛以外の強い感情を全て消去された。

 

 達也の記憶はここから始まっている。

 いや、その表現は正確ではない。実際にはそれ以前の記憶も確かに「知って」いた。ただ、人造魔法師実験を受ける前の記憶は自分のことだとは実感ができなかったため、いわば「映画を見ている」ような印象でしかないものだ。

 

 実験が始まる前、それこそ歩けるようになってから間もなく、達也への徹底した戦闘訓練が始まった。

 そこでおおよそ人としての感情の起伏というものはなくなっていたのだろう。野生動物をはじめとして最終的には兵士を用いて達也は戦士として鍛え上げられた。

 

 それは実験後でも変わらず、むしろ非人道性で言えばより苛烈なものとなっていた。

 

 実験が完了して間もなく、達也は実験により植え付けられた「仮想魔法演算領域」を戸惑うことなく利用し、実戦経験豊富な戦闘用魔法師を躊躇なく殺した。

 

 

 

――母、深夜との関わりは何一つ存在しなかった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 2086年、7歳の達也はある少女と出会う。

 

 

 

 目的地に到着し、ドアが開いたキャビネット(個型電車、リニア式の小型車両のことを言う)から深夜、それに続き達也が降車する。

 降りて軽く頭を振って周りを見るが、そこは達也には見覚えのない住宅街であった。

 

 

 

 府中、閑静な住宅街の某所に立つ一戸建ての住宅、そこに司波家は存在した。

 

 達也はそこに司波家の長男であるにもかかわらず初めて足を踏み入れることになる。

 四葉家により、戦士としてひたすらに訓練を続けていた達也には仕方ないことではあるが、特に達也に思うところはない。むしろ「どうして俺はここに?」という思いが少しあるほどだ。

 

 二人が家の玄関から足を踏み入れ扉を閉めると同時に、家の奥から急ぐように玄関へ駆けてくる姿があった。

 

「お母様、お帰りなさい」

 

 隠しきれない喜びで顔を綻ばせ、少女は深夜へ声をかけた。

 それはこの世のものとは思えない圧倒的な美しさを持つ少女だった。達也より同じか少し幼いと思われる年齢ではあるため、幼さはあるものの、その奥には隠し切れないほどの美を備えている。

 将来はまさしく傾国の美女を約束されているだろうと錯覚するほどだ。

 

「あっ……失礼しました」

 

 少女は達也を認識すると同時に羞恥心を抱いたのか少し顔を赤らめて顔を沈ませた。

 

 深夜はそれを咎めることはなく、表情も変えずに恥じらう少女に声をかける。

 

「ただいま、深雪さん。気にしなくても大丈夫よ」

 

 深雪、と呼ばれた少女には優し気な声で返事を。

 

「達也、挨拶をしなさい」

 

 達也にはそれに対して一切の感情を感じさせない無機質で、冷たい目を向けて命令をする。

 

 

「分かりました。初めまして、司波達也です」

 

「っ⁉ ……初めまして、司波深雪といいます」

 

 

 司波達也、司波深雪、名字からわかるように達也とこの少女は深夜を母親とする兄妹であった。

 深雪が戸惑ったのは達也の挨拶からそれを察したからだろう、お互い年齢の割に頭が回る子供であった。

 

「深雪さん、少しリビングでお話をしましょうか」

「はい、お母様」

 

 深雪は聞きたいことがいくつもあったが、深夜の言葉に頷きリビングに移動する。

 

 

 

 リビングで深夜の座った正面に深雪が続いて座る。

 達也は深夜の後ろに直立していた。その光景に深雪は大きな違和感を覚えるが、それよりもこの「達也」という人間に対して、あって間もないにも関わらず、得体のしれなさを感じていた。

 

 

 

――何を考えているのかわからない。

――どうして家族なのに当然のように座らず、立っているのか

 

 

 

 そんな深雪の気持ちは伝わらず、深夜が話を始めた。

 

「深雪さん、達也は貴方の守護者(ガーディアン)となります」

「……」

 

 深雪には「なぜ?」という純粋な疑問がでるが、それを発する間もなく深夜が続ける。

 

「以前教えたと思いますが、四葉家次期当主候補に対して守護者(ガーディアン)と呼ばれる護衛がつけられます。これまで深雪さんの守護者(ガーディアン)は選定中で保留だったのですが、この度達也が就くことになりました」

 

 静けさが訪れる。達也は何も発言せず、深雪も驚きが勝っているせいか問いを投げる余裕を持っていなかった。

 

「達也は4月生まれ、深雪さんがそのすぐ3月生まれなので、学校では同じ学年になるわ」

 

 再び深雪に衝撃が訪れた。

 

「……兄、ということでしょうか」

 

 深雪から絞り出すように出された疑問、それは単に達也が兄だということを知り、その兄がどうして自分の護衛として付けられるのかということだった。

 四葉家現当主四葉真夜の双子の姉である司波深夜の次女であった自分がミストレスとして扱われ、どうして長男である達也がマスターではなく護衛になるのか。

 

 深雪の言葉を聞いた深夜の眼が冷たさを帯びる。

 

「深雪さん、確かに達也は貴方の兄、ということになるわ……でも、決して兄として扱うことは許可しません。貴方は私の魔法を受け継ぐ、正真正銘四葉家次期当主候補です。この不良品とは立場が違います」

 

 深夜がここまで言葉を荒げる――実際の声は小さいものだったが――のは、深雪にとって初めてのことだった。表面上、無機質で感情がない言葉ではあったがそこに確かに深夜の思いが込められているのを感じる。

 どうして母がここまで達也に厳しいのか、深雪に対して優しいのかわからなかった。

 

 

 

――淑女として、四葉家として教育されてきた深雪にとって深夜の言葉に多少の疑問はもてど、逆らうような選択肢は一切存在しない。

 

 

 

「わかりました、お母様」

 

 発した深雪自身もゾクリとするような冷たい言葉が出てきたのは深夜の教育の賜物だろう。

 達也は兄ではあるが兄ではないただの護衛、幼い深雪はそのことを認識した。同時に、抱いていた疑問は消え去っていた。

 

「いい子ね、深雪さん」

 

 深雪の心の中を理解してか、深夜は満足そうに微笑みを浮かべた。

 

 

 

 こうして、司波達也と司波深雪は出会った。その出会いは、おおよそ兄妹のものとは思えないようなものであったが。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 少女との出会い、それは少年の感情を大きく揺さぶった。

 

 その少女を見た時から、心の奥から湧き出る熱い感情を感じていた。

 

 今まで感じたことがない感情の変化に、少年は平静を保つので精一杯であった。

 

 妹に対する感情以外が抑制された話は聞かされていたが、それでも動揺してしまう。

 

 『妹』『深雪』、その二つの単語で頭が支配される。

 

 

 

――あぁ、そうか。この子を……深雪を守る、それだけが俺の使命だ。

 

 

 

 この時、本当の意味で司波達也は『兄妹愛』というものを認識し、理解した。

 

 

 




魔法科高校の劣等生で一番好きなカップリングは穂波-深夜です。
メイジアンカンパニーまで合わせると水波-光宣もすごく好きです。
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