クソザコ従者の赤錆ちゃん(仮)   作:やーなん

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帰還
"暴君”


 

 

 

 

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「ここが“聖地”。ここが本当に、我らの故郷なのか?」

 

 私の視界には、ただひたすらに荒廃した砂の大地が広がっていた。

 文明の痕跡は、何も無い。

 

 最果てまで続く死の大地が、この世界の全てに思えた。

 

「嘘だ、嘘だ嘘だ!!」

 

 愕然として膝を突く二世に寄り添う。

 彼女を慰めることぐらいしか、私は出来なかった。

 

「ああ、帰って来たのね。あの人の眠るこの地に……」

 

 魔女殿がどこか遠くを見ながら呟いた。

 

「しかし、何もありませんぜ」

「人の気配も、動物の気配も無い。不気味なほど静かだ」

 

 ゲミニが望遠鏡で索敵をし、サジタリウスが感覚を研ぎ澄ませていた。

 しかし、何もない。それ以外の結果など無かった。

 

「解せませぬな。この何もない場所の、何が神々の禁忌なのでしょうか」

 

 師匠のぼやきが聞こえる。

 

「とにかく、歩いてみる他ないよ」

 

 私達は己の主人の言葉に従い、歩き出した。

 

 

「え?」

 

 

 

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 それは、二歩目だったかもしれないし、一万歩も歩いた後だったのかもしれない。

 

 私達は、気が付けば石造りの巨大な見上げるほどの門に行き付いていた。

 

「伝説の、通りだ」

 

 二世の言葉に、私も頷く。

 この何も無い場所に、唐突に巨大な門が現れたのだ。

 

「誰かいるよ」

 

 我が主の言葉に、私達も人影に気づいた。

 白いローブを纏った何者かが、門の目の前に立っていた。

 

 遠近感が狂うほどの巨大な門の側にいる人影が、逆にその門の大きさを引き立てていた。

 

「ようこそ、“聖地”に。或いは、おかえりなさい、と言うべきでしょうか」

 

 だが、私たちは気が付けば見上げるほどの巨大な門の目の前に立っていた。

 その前に立つ白いローブの人影が、話しかけてきた。

 

 驚くべきことに、その人影の正体は女性だった。

 

「あ、あなたは……!!」

 

 その姿を見て、教授は全身が震えていた。

 

「盟主!! 生きて、おられたのですか!!」

 

 私達は驚いた。

 まさか、彼女が教授の知己だとは思いもよらなかったからだ。

 

「盟主? まさか彼女は、あの魔術師同盟の盟主なのか!?」

 

 リブラも驚愕していた。

 私は以前、彼から聞いた授業の内容に出てきた人物だと思い至った。

 

 魔術師同盟。魔術師たちの寄り合いであり、盟主を頂点とする古い組織だと。

 

 そのトップが、今だ生きているだって!? 

 

「これが生きているように見えるのですか? 

 私もあなた達と同じですよ」

 

 しかし、盟主は首を振った。

 ある意味で、そちらの方が現実的であった。

 

「久しぶり、盟主。

 あんたの馬鹿弟子をとっちめた時以来かな」

「……そうかもしれませんね」

 

 そしてどうやら、我が主も盟主とは面識がある様だった。

 

「盟主。ここは一体何なの? 

 本当に私達の故郷なの? それがなぜ、“聖地”なんて呼ばれているの?」

 

 魔女殿が盟主に尋ねた。

 どうやら二人も顔見知りらしいが、今更挨拶を交わす仲でもないのかもしれなかった。

 

「そして、────あの門の奥には何があるの?」

 

 全員が、巨大な門の扉に目を向ける。

 巨人が押しても開かなそうな、重厚すぎる途方も無い大きさのそれに。

 

「もう、気づいているのでしょう?」

 

 盟主は淡々と口にした。

 

「まさか……」

 

 教授の身体が、また震えた。

 

「やっぱり」

 

 魔女殿は、以前見せた魔導書を取り出した。

 

「これは、あの御方の遺物。

 これを造れるのは、あの御方以外ありえない。例え、悪魔の能力としての再現だとしても」

「そう。この私がここに居る理由などただ一つ」

 

 すっ、と盟主は片手を扉の方に向けた。

 

 

「この先は、我が偉大なる師。

 ────全知全能なりし“暴君”の寝床に他ならない」

 

 “暴君”。

 その異名に相応しい人物は、ただ一人しかいない。

 

「まさか、『黒の君』!!」

 

 リブラが戦慄する。

 

 覚えている。

 全ての魔術師たちがひれ伏すしかない、絶対的な実力を持つと言う最強の魔術師。

 

 あの扉の先に、彼が居ると言うのか。

 

「道理で。高位の神らしいあのリネンが使いっ走りで伝言なんかさせられるわけだ。

 あいつも召喚魔術師だったからな」

 

 我が主が吐き捨てるように言う。

 全ての魔王を産みだした母神を小間使いのように扱き使う。そんな存在が、この先に居るのだ。

 

「じゃ、じゃあ、何でも願いが叶う秘宝って言うのは……」

「神域に至った我が師の司る理は、全知全能。

 かの御方に不可能は無く、その叡智に果ては無い。

 人間が想像する程度の願いなど、叶えることなど造作も無い」

 

 全知全能の神の寝床。

 それが、願いを叶える秘宝の正体。

 

 余りにも想定外の真実に、二世も言葉を失っていた。

 

「お、おかしいじゃないか。

 彼女の祖父は、ここにたどり着いたんだろ? 

 ならずっと未来の筈のここに、どうやって来たんだ!?」

「ここはかの御方の寝床。

 この地は既にあらゆる世界や因果から独立した場所。

 あの老人も、いくつかある方法を用いてここへやってきた」

 

 私の糾弾に近い叫び声にも、盟主は淡々と答えた。

 

 

 ── おい。いつまでくっちゃべってる気だ? 

 

 

 その声に、背筋が凍る。

 視線を感じる。重力のような重量のある声がのしかかる。

 

「申し訳ありません、我が師よ。

 私の役割は“門番”。ここに来る者にはそう名乗っている」

 

 そして彼女は指を三本立てた。

 

「この先に行く者は、この三つを守らねば生きて帰れる保証は無い。

 ひとつ、かの御方を見てはならない。

 ふたつ、かの御方を知ってはならない。

 みっつ、かの御方を願ってはならない」

 

 それ、無理じゃん。

 

「尤も、お前たちは我が師が直々に呼んだ客。

 例外中の例外だ。最後以外は守らなくても大丈夫だろう」

「どんな願いも叶えてくれるのに、願ってはならないの?」

「お前は、誰かを殺せるとして、何の力も無い相手を殺したいと思うか? それと同じことだ。

 何でもできるからと言って、何でもしたいと言うわけではない」

 

 二世に淡々と盟主は言う。

 

「あと、我が師の機嫌を損ねぬ為に、出来る限り少数で行くことを推奨する」

「わかったよ。いちいち面倒だな」

 

 我が主は盟主の忠告に頷いた。

 

「我が騎士、教授、赤錆、あと彫刻家。

 お前たちがついて来い」

「我が主、私も、私も連れて行ってくれ」

 

 彼の決定に、二世が口を挟んだ。

 正直、その度胸は尊敬する。それが蛮勇でもだ。

 

「お願いだ、お爺ちゃんがどうしてああなったのか、知りたいんだ」

「まあ、いいさ。門番、この六人で行く」

 

「……私は、忠告したぞ」

 

 暗に人数が多いと言っているようなモノだが、我が主は臆しなかった。

 

「さあ、これ以上あの御方を待たせるな」

 

 

 

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 重厚な音がして、門が開いた。

 

 “聖地”と呼ばれるこの地に相応しくない、地獄にでも続くような開門の光景だった。

 

 私達は巨大な門を潜る。

 永遠のような長さだったような気がするし、意外にすぐ通れたような気もする。

 この地では、時間や距離なんて常識は通用しないようだ。

 

 

 そして、私たちは神の御許へたどり着いた。

 

 

「遅い」

 

 

 その声の主は、意外にも若かった。

 見た目は十代半ばくらいで、神経質そうな表情に眼鏡がそれを拍車を掛けている。

 そして魔法使いが着るようなローブを纏っていた。

 

 彼が、『黒の君』。

 今や魔術師だけでなく、神々すらひれ伏す“暴君”。

 

「お、教えてくれ!!」

 

 そして彼を目にして、一番やってはいけないことを二世はしてしまった。

 

 そう、盟主に忠告された通り。

 

 ────彼に、願ってはならない。

 

 

「おい」

 

 

 

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 それは、星をも両断する燃える銀河の鉄槌だった。

 死、そのものだった。

 

 

「誰が、ボクの要件より先に、お前の用を優先して良いって、言ったんだ?」

 

 

 空が、燃える空が落ちてくる。

 それはあやまたず、そして正確に二世に振り下ろされた。

 

「ッ!!」

 

 それを、師匠が庇った。

 二世を横に突き飛ばしたからだ。

 

 じゅッ。

 

 師匠は消えた。

 あれほどの途方も無い規模の攻撃なのに、正確に一人だけを消し去った。

 

 私達は総体。だから分かってしまった。

 師匠は、もうどこにも居ないのだと。

 

「あ、あ、ああ……」

 

 そして、それは二世も嫌と言うほど理解できたはずだった。

 

 機嫌を損ねる。それ即ち、死。

 これが、“暴君”。それ以外に、表現しようが無い。

 

「ああそうだ」

 

 じろり、と彼の視線が魔女殿に向けられた。

 

「ひッ」

 

「お前、誰が最低最悪だって?」*1

 

 それは、彼が知るはずのないことだった。

 いや、違う。知っていて当然なのだ。

 

 だって彼は、全知全能なのだから。

 

 じゅッ、と。魔女殿が消えた。

 最早、何が起きたか説明するまでも無かった。

 

「お、お許しください。『黒の君』ッ!!」

 

「じゃあ、お前が責任を取れよ」

 

 ジュっ、と。今度は教授が消された。

 

「お、おま──」

 

 私は、反射的に我が主に飛び掛かった。

 無理やりその口に指を突っ込んで、激怒する我が主を抑え込むほかなかった。

 

 これ以上彼の機嫌を損ねたら、今度は我が主が消される。

 それだけは、それだけは阻止せねばならなかった。

 

 だが、我が主もその程度で収まる怒りでは無かった。

 

 我が主も、私の指を噛み千切って吼えようとした。

 

 だから、しょうがないじゃないか。

 

 私は、必死の形相で彼の唇に自分のそれを押し付けた。

 人生、いや生涯、死後も含めて初めての口付けだった。

 

 怒り狂う我が主も、私の必死さが通じたのだろう。

 ふーふー、と息を漏らしながら力が抜けていくのを感じた。

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさいッ」

 

 私が起き上がると、今度は二世が泣きながら我が主にしがみついた。

 

「わかった。わかったから」

 

 我が主は噛み千切った私の指を吐き捨て、二世を押しのけ立ち上がった。

 

 

「この世で最も偉大なるモノ、それは何だと思う?」

 

 “暴君”が、話しかけてくる。

 

「ボクは、愛だと思う。

 ある悪魔は言った。それは人間の感情の極地だと」

 

 それは、許されたのだろうか。

 

「つい、いつもの癖でぶち殺しちゃったよ。

 消した三人は外に放り出しておく」

 

 その直後、私達の繋がりにたった今消された三人が復活したのが分かった。

 消すのも、戻すのも、自由自在。

 

 全知全能。その言葉に嘘は無かった。

 

 リネンの言葉の意味がようやく分かった。

 これに比べたら、誰もが神になんて値しない。

 

「じゃあ用件を言うよ。ああその前に──」

 

 “暴君”が、私を見た。

 

 

()()()()()()、赤錆」

 

 え? 

 

「お前、『黒の君』と面識があるの?」

「しらない……」

 

 本当に、私は知らなかった。

 本当にこんな相手とは初対面だった。

 

「もうわかったと思うが、お前たちを蘇らせたのはボクだ」

 

 そうなんだ、としか私は思えなかった。

 私に、彼の行いの理由を問えるわけではなかったから。

 

「なんで、そんなことを?」

「かつてボクに、今そこの赤錆がそうしたように、お前への愛を示した奴が居たんだ。

 そいつとの約束だよ。じゃなかったら、なんでボクがこんなことしないといけないのさ」

 

 我が主は私を見て、私は我が主を見た。

 なんのこっちゃか分からないのはお互い様だった。

 

「別に、今更あいつとの約束を守る必要も無いんだけど。

 だけどボクはマメだから、こういうのを放っておくと気持ち悪いんだ」

「なにが、言いたいのさ」

「オリビアはまだ生きてるよ」

 

 我が主はギョッとした。

 

 オリビア。知らない名前だった。

 それは花の名前。女性名詞。それを、我が主が誰かに送った、と? 

 

「いや、生きてるのかな、死んでいるのも同じかな?」

「どっちだよ」

「だから、迎えに行ってやれと言っている。

 これでも、彼女には感謝しているんだ。これはまあ、ちょっとした善意だよ」

「だから、どうやってだよ!!」

 

 “暴君”の曖昧な物言いに、我が主も痺れを切らした。

 

「赤錆」

 

 また、彼は私を呼んだ。

 

「詳しくは、向こうのボクに聞いてくれ」

 

「え?」

 

 そして気づいた。

 私の足元に、魔法陣が現れたのを。

 

「赤錆ッ!!」

 

 我が主が、私に手を伸ばそうとするのが見えた。

 しかし、それを最後に、私の視界は掻き消えた。

 

 

 

 §§§

 

 

「やった、成功した!!」

 

 私は、見知らぬ家屋に立っていた。

 目の前には、当然見知らぬ少女がいた。

 

「ねえねえ、あなたが使い魔さん? 

 初めての召喚魔法なんだけど、乗り物酔いみたいなのしなかった?」

「えっと、あなたは誰?」

 

 私は彼女に尋ねた。

 何やら学院の制服らしき格好の黒髪の少女は、私を見てキャッキャと喜んでいた。

 

「あ、私は──」

「おい」

 

 その声に、私は背筋が凍った。

 私と少女だけだったこの部屋に、扉を開けて誰かが入って来る。

 

 その相手を、私は見間違えるはずも無い。

 

「それは多分悪魔だ。随分低級だけど、みだりに名前を教えるんじゃない」

 

 “暴君”。

 その彼が、肉体を持ってそこに立っていた。

 

「あ、そうでした。でも、全然悪魔っぽくないですよ?」

「まあボクも始めてみるタイプだ。

 これは多分、人間が悪魔になった感じだろう。見た目通りの強さしかないだろうね」

 

 目の前の少女は、“暴君”と親し気に会話をしていた。

 信じられない光景だった。

 

「えー、どうせなら強い使い魔が欲しかったです!!」

「今のお前の実力で扱える、丁度いい塩梅じゃないか。文句を言うなって」

 

 “暴君”は手にした魔導書を広げた。

 即座に、魔法が発動した。

 

「うぐ!?」

 

 私に、何らかの魔術的な拘束が施されたのが分かった。

 

「おい、お前。名前は?」

「あ、あか、さび」

「違う、本名だ」

「■■■・■■■■■」

 

 私は、自分の本当の名前を喋らされた。

 “暴君”はすぐに虚空に魔法の文字を描いた。

 

 私は知らなかったけど、それは使い魔を強制的に従える為の魔法の術式だった。

 

「お前の役割は、こいつを守ることだ。

 見ての通り、未熟な弟子でね。まあボクは有名税みたいなもので色々とよからぬ輩が寄って来るのさ」

 

 “暴君”は、魔法の強制力に呻く私にそう言った。

 弟子? 以前教授が言っていた盟主じゃなくて、この子が? 

 彼女と盟主は、どう見ても似ても似つかない。

 

「死んでも守れ。出来なかったらその魂を砕いてやる」

「は、はい」

 

 頷かされた。それを言質に、契約をさせられる。

 

「もう、師匠!! 相手は女の子ですよ、そんなに乱暴しちゃいけないですよ!!」

「馬鹿、使い魔なんてモノなんだよ」

「アニメでもそこまで言う悪役なかなかいませんよ」

 

 強制的に安全にさせられた私に、少女が歩み寄って来る。

 

「使い魔さん、私は杏子って言います!! 

 これからよろしくお願いします!!」

 

「キョウコ?」

 

 知らない言語なのに、言葉が理解できる。

 召喚魔法自体に、言語を理解できる機能でもあったのだろうか。

 

「はい、友達からアンズちゃんって呼ばれたりもしますね!!」

 

 この出会いは、決定事項。

 運命に定められた筋書き。

 

 後に、私は知るのだ。

 

 この少女こそが、“暴君”の誕生の原因であると。

 そして私は、主演たちを側で見守る脇役として出演を決定づけられていたのだ。

 

 

 

 

 

 

*1
第五話を参照。





挿絵はAIイラストで描かせてもらってます。
聖地の雰囲気が伝わってくれると嬉しいです。

では、また次回!!

どの従者のエピソードの掘り下げを見たい?

  • 序列一位、総長
  • 序列二位、教授
  • 序列三位、赤錆
  • 序列四位、二世
  • 序列五位、グルマン
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