クソザコ従者の赤錆ちゃん(仮)   作:やーなん

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筆が乗ったので、久々に一日二回投稿です!!



アプリコット

 

 

 

 私は、途方に暮れていた。

 

 この白くて四角い学校の屋上で、見慣れない街並みを眺めていた。

 

「──赤錆、赤錆!!」

 

 だが、その声にハッとなった。

 

「我が主!? どこに!?」

「ここだよ、ここ」

 

 私は声の方に振り返った。

 そこに確かに我が主はいた。

 

 だが、なぜか手乗りサイズの二頭身くらいの、昨日キョウコに見せて貰ったマンガのマスコットみたいな姿になってい宙に浮いてた。

 

「我が主……なぜそんな姿に」

「僕はお前との繋がりを通して音声を送っているに過ぎない。

 要するに、この姿はお前の変身と同じで、お前の認識の一部を弄ってるんだ」

「あのな、私にも分かるように言えよ!!」

「この馬鹿が」

 

 我が主のチビサイズで可愛らしい顔が呆れ顔になってしまった。

 

「まあいいや。状況を報告しろ」

「わかったわ……」

 

 

 

「へぇ、じゃあ赤錆ちゃんはこの世界の人間じゃ無かったんだ」

「ああ……」

 

 私は“暴君”によって直々にこの少女の護衛を命じられた。

 それに逆らったら何をされるか分からないので、私は彼女に付きっ切りだった。

 

 私はキョウコから情報を引き出すことにしたのだが、すぐに私は混乱の極地に追いやられた。

 

 私を召喚した後、キョウコは“暴君から”別れて自宅に帰ることになったのだが、その光景は私の常識からあまりにもかけ離れていた。

 

 道を通るのは黒い車輪のついた鉄の馬車。空には鉄の鳥が飛んでいて、私の想像を絶するほど人々の賑わいのある街並みは綺麗に整っていた。

 

 これまで様々な異世界に行ってきたけど、この世界はまさに別世界だった。

 

「ここは地球の日本って国だよ。

 もしかして赤錆さんって、今ラノベにある来訪系みたいなシチュエーションなの? 

 中世の人が現代日本に来るみたいな?」

 

 私には全くよく分からない表現だったが、キョウコとしては自分に納得できる結論を得たようだった。

 そして、彼女はおもむろに黒い板を手に取って、彼女の自室に備え付けてある黒い箱に向けた。

 

 ぴッ。

 

『明日の天気は全国晴れ模様で、まさに洗濯日和となるでしょう──』

「は、箱の中にヒトが、しゃべって!!」

「すごい、本当にこういう反応するんだ……」

 

 キョウコはちょっと感動していた。

 私はすぐにそれが、“てれび”というマジックアイテムだと説明された。

 

「いや、マジックアイテム違うし。

 電気って言えばわかる?」

「も、勿論知ってるぞ、雷属性の魔法で発生するびりびりする奴だろ!!」

「これはそれで動いてるの」

 

 え、じゃあこれに触ったらびりびりしたりするの? 

 

 私は生前、我が主の盾となる為に雷撃魔法の直撃を受けたことが有る。

 正直、死んだかと思った。

 

「いや、安全だから大丈夫だって」

 

 ガクガクブルブルと震える私を見かね、キョウコはそう言った。

 

「それにしても師匠も私の護衛なんて、過保護なんだから。

 ちょっと一回誘拐されたくらいで」

「いや当然の対応では?」

 

 まだ少ししか話していないが、キョウコはちょっと頭のネジが外れているきらいがある。

 

「それで、彼とはいったいどういう経緯で師弟関係に?」

「あ、それ聞いちゃいます?」

 

 それから彼女の口から語られたのは、惚気話だった上に大した内容ではなかったので割愛する。*1

 

「はあ、学校か」

 

 この世界の社会構造はよく知らないが、彼女の言葉からは度々学校という言葉が出てきた。

 彼女は中学校というところに通っており、あの“暴君”と同級生らしかった。

 

 そもそもあの“暴君”と同級生ってのが意味が分からないんだけど。

 

「学校がどうしたんですか?」

「いや、私は学校なんて行ったことないからな」

 

 キョウコは自分を学生だと言う。

 今も次の試験に向けて勉強しているらしかった。

 

「じゃあ、明日一緒に登校する?」

「え?」

「悪魔なんだし、透明化とかできないの?」

 

 そんなの出来るわけ……。

 

 

 出来たわ。

 

 

 §§§

 

 

 そもそもの話、この国の人間とは私は根本的に人種が違う。

 私が彼女の護衛をしたとしても、私が目立っては意味が無い。

 

 こういう時、肉体が無いと言うのは便利だ。

 

 

「ねえねえ、師匠。勉強教えてよ、ここ分からないんですよー」

「うるさい、学校で話しかけるな」

 

 キョウコは教室の端っこの席に座る彼に話しかけて、にべもなく追い払われていた。

 

「ねえねえアンズ、河戸くんと何かあったの? 

 最近よく話しかけてるじゃん?」

「彼って帰国子女なんでしょ? 日本語通じないんじゃなかったっけ?」

 

 キョウコの周りの女友達が集まって、そんな他愛もない話をしていた。

 コウド、と言うのが“暴君”のファーストネームらしかった。

 彼は私と同じ世界の住人なので、この国の人間に合わせた名前だろうか。

 

「いやー、なんていうか、人見知りみたいな? 

 ほら、中二病を拗らせて硬派を気取ってるみたいなもんですよ」

 

 おいキョウコ、お前睨まれてるぞ。

 彼なら眼力だけでエリュシオンみたいに人を殺せるに違いないのに。

 私だったら生きた心地がしない。

 

「あの……」

「なんだよ」

 

 私はびくびくしながら彼に声を掛けた。

 私は今透明だけど、彼は当然のように読んでいる本からこちらに視線を向けた。

 

「なんで私をここに召喚したんですか」

「それは昨日言わなかったか? 

 杏子の護衛だ。いざと言う時に身を挺して守れ、初撃を耐えればあとはボクが何とかする」

 

 私が言いたかったのは、“聖地”での出来事でのことだった。

 あの時、私は全く“暴君”から情報を得られなかった。

 

「いえ、だから、“聖地”で貴方が言ったじゃないですか」

「お前何言ってるの?」

 

 私は、彼の機嫌を損ねたと思って硬直した。

 

「お前に命令したのは、昨日が初めてだろ? 

 そもそも悪魔のお前が聖地ってなんだよ」

 

 私はこの時、確信した。

 この人は、あの時に会った“暴君”ではないのだと。

 

 

 

 

「……『黒の君』も元は人間だ。

 あれはまだ、人間だった頃の奴ってことだろ」

 

 私は我が主に言われるまで、それに全く思い当たらなかった。

 

「何でそれくらい分からないのお前? 生前はどんなオツムしてたの?」

「仕方ないじゃないか、“聖地”で会った“暴君”と全く瓜二つだったんだから!! 

 普通にあの暴虐の権化そのものだって思うじゃないか!!」

 

 つまり、あの“暴君”はまだ肉体を持っていた人間だった当時の姿なのだそうだ。

 いくら私達が時間の概念からかけ離れたとはいえ、すぐにそれに順応できるわけじゃない。

 

「それにしても、あの『黒の君』に二人目の弟子ね……。

 まさかこんな魔力が薄い世界の住人から、才能を見出すなんて」

 

 我が主は思案顔になった。

 以前、教授に聞いたことが有る。

 

 魔力は全ての物質や生命に存在しており、一種の生命力に近い概念らしい。

 私達の故郷はそれの枯渇が原因で、あの“聖地”のような有様へとなった。

 

 それはこの世界も例外では無いのだろうが、魔力を使用する存在が殆どいないから、この世界の魔力が薄くても問題は無いのだろう。

 

「おかげで、僕らもそっちに上手く顕現できない。

 何かあったとしても、お前ひとりで対処しろ」

「そんなこと言われても……」

 

 そんな無茶振りされても、私にはどうしようもないのだけど。

 

「それより、そっちは大丈夫なの?」

「ああ。あいつ、用が終わったらさっさと僕らを虚空城へ飛ばしやがった。

 あの三人も無事だよ」

 

 それを聞いて、私は心底安堵した。

 

「ところで、この世界は大分文明が発展してるんだね」

「聞いて驚くなよ我が主。この世界には魔物は居ないんだってさ」

「はあ? いや、この魔力の薄さなら魔物みたいに魔力に依存した生命は生きられないか」

 

 この世界は平和らしい。

 少なくとも、この国はもう何十年も。

 

「ちょっと面白そうだね。

 なにか良いモノがあったら持ち帰って来いよ」

「私、護衛なんだけど」

「昼間はあの『黒の君』が一緒に居るんだろ? 

 あいつは人間だった頃から、人の身で神の如きと畏れられていたんだ。

 だからお前も締め出されてる。違うか?」

「……」

 

 そんな理詰めで私の必要性の無さを説明しなくてもよくない? 

 お前うるさいから外に言ってろ、と『黒の君』に言われた私の気持ちはどうなの? 

 

「それは今のご主人様に聞いてからにしないと」

「お前ってそう言うところ無駄に真面目だよな」

 

 私の返答に、我が主はやれやれと溜息を吐いた。

 

「まあ、いいや。進捗が有れば報告しろ」

「わかったよ」

 

 ぽん、と我が主は消えた。

 私は二人が学校を終えるまで、膝を抱いて待ち続けた。

 

 

 

 §§§

 

 

 別世界の学校というのは新鮮だったが、見て回る場所なんてすぐに終わる。

 

「お前たちも、囚われの身なのか。

 私と一緒だな。ふっふふふ……」

 

 私は精神を病んで飼育小屋のウサギに話しかけていた。

 

「なにしてるの? 早く帰ろう」

「あ、はい」

 

 さらば同士。また会う日まで。

 

 

 

「師匠ってさ、異世界人なんですよね?」

「それがどうしたのさ」

 

 魔術師の修業なんて想像もつかないが、『黒の君』は意外と普通に弟子に勉強させていた。

 

 彼の自宅の書斎で、古い魔導書の書き写しをさせていた。

 分からないところを教えていく方針で、理論を叩きこんでいる。

 ちなみに、私は暇なので膝を抱いてボーっとしていた。

 

「確か、自分の故郷が滅んだから、地球に移住したんですよね」

「ああ、千年くらい前だよ」

 

 私は自分たちの故郷の話が話題にでたので、すぐに思考を切り替えた。

 

「僕の弟子一号が主導して生き残りの人間や魔族を連れて地球に引っ越したんだ。

 当時はそこそこ幅を利かせてたみたいだけど、ちょっと前に魔女狩りだの何だので大騒ぎになって、科学の発達で今じゃみんな隠れ潜んで生きている。

 お陰で、魔術なんてこの時代おとぎ話さ」

「あれですね、神秘の秘匿って奴ですね!!」

「アニメの設定か、それ?」

「それにしても、魔女狩りの時代をちょっと前って、本当に魔術師の皆さんって気が長いんですね」

「僕もそれなりに長生きしたからね」

 

 私は話に交わることなく、二人の話を聞いていた。

 そうか、もうそんなに経っていたのか。

 

 でも、私は少し嬉しかった。

 故郷が、そこに住む人々が、全てが滅亡したわけじゃなかったことにどこか嬉しさを感じていた。

 

「じゃあ、師匠はショタジジイなんですね!!」

「は? ぶっ殺すぞお前」

「冗談でーす、ごめんなさーい」

 

 多分、私が言ったらぶっ殺されていたと思う。

 

「ところで、私の姉弟子ってどんな人ですか? 

 何とか連合っての偉い人なんでしょ?」

「ああ、あいつ? 役立たずの無能」

 

 ボロクソだった。

 私は、“聖地”で寝床を守っていた健気な盟主を思い返し、涙が出そうだった。

 

「才能だけで言えば、お前の千分の一にも満たないよ」

「きゃは♪ アンズちゃんってばホント天才なんですねー!!」

「ああ、異常なほどにね」

 

 キョウコは調子に乗っているが、『黒の君』は真顔だった。

 

「お前はいずれ、ボクを超えるだろう。

 ボクが積み上げた年月を、易々と超えて」

 

 私は、その彼の言葉に耳を疑った。

 そんなことが、あり得るのだろうか? 

 

 魔術師の強さは研鑽の長さだと、教授は言っていた。

 つまり、魔術師は長生きすればするほど強くなる。

 

 だから、不老不死と謳われる彼が最強の魔術師なのだ。

 

「でも、師匠が積み上げたものには違いありません? 

 私はそれを教わってるだけじゃないですか。

 師匠の努力が無駄になるわけじゃないじゃないですか」

「……」

 

 私はそのキョウコの言葉を、彼は何か感じ入ったような表情で聞いていたのを見た気がした。

 

 魔術師なんて、イカレた野蛮な連中で、そこに居るのはその代名詞みたいな人なのに、なぜか彼はキョウコと居ると穏やかだった。

 ほんの失言で神罰を下す、あの“暴君”そのものとは思えないほどに。

 

「ところでさ。お前、なんで居るの?」

「え?」

 

 え? 私? 急に話を振らないでほしい。

 

「お前の長所は運用コストだろ。

 なのに呼びっぱなしなんて魔力の運用コストの無駄だ。

 用がある時に呼ぶから、さっさと元の場所に還れよ」

「は、はあ~? 私、帰れるの!?」

「当たり前じゃん。召喚魔法を何だと思ってるの?」

「生憎、一方通行の召喚を経験したばかりなんだよ!!」

「そりゃ残念。じゃ、さっさと失せろ」

 

 この鬼畜、ド畜生、暴君!! 

 

 私は半泣きになりながら、虚空城に戻ろうとした。

 

 

 ……戻れたわ。

 

 

 §§§

 

 

「お前って、ほんとアホなんだね!!」

 

 我が主に、大笑いされてしまった。

 もう一度張り倒したろうか、このヤロウ。

 

 私は食堂で皆に、滅びた故郷の生き残りが居たこと。

 その子孫が別の世界で生きていることを伝えた。

 

 それを聞いて泣き出す者も居て、私はそれを伝えられただけで良かった気がした。

 

 だが、肝心なことがまだ明らかになっていない。

 

「あのバカ、いったいどこを彷徨ってるんだか……」

 

 未だ、私達の唯一の欠員の姿が、影も形も無い事だった。

 

「まああいつも赤錆並みにバカだから、そのうち出てくるだろ、うん」

 

 私の知性を基準にするな!! 

 

「とりあえず、赤錆。地球の事はお前に任せた。

 なんか面白いモノ見つけたら持ってこいよ」

「いや、そっちが優先かよ」

 

 とにかく、業務連絡はこれで終わった。

 

 私は精神的に疲弊したので、すぐに自室に戻った。

 しばらく天井のシミを数えていると。

 

「赤錆ちゃん、マンガ読む?」

「ああ、読む」

 

 キョウコは召喚された私に、自分の世界がどういうモノか懇切丁寧に張り切って教えてくれた。

 その教材がマンガだった。故郷の文字なんて半分も読めない私にも、召喚魔法の影響か読めるようになったのは幸いだった。

 

「ああ、これ続き読みたかったんだ」

「でしょう? 最終巻まで持ってきましたよ」

「おいおい、これって五巻までしか──」

 

 そこで、私は気づいた。

 アイアンハートの寝床に彼女が横たわっていたことに。

 

 そう、大きなとんがり帽子を被った、キョウコがごろごろしていた。

 

「お、お、お前!?」

「そんなに驚くことですか?」

 

 私が絶句していると、彼女は気だるげにこっちを見た。

 

 ある意味で、当然なのかもしれない。

 あの『黒の君』が、“暴君”となったように。

 

「私はあの人の後継者ですよ? 

 直々に、“二代目”を名乗ることを許された唯一人。

 そんな私が、貴女に会いに来ることに何の不思議が有るんですか?」

 

 その彼に才能を保証されたキョウコが、その領域にたどり着いていないわけが無かった。

 

「じゃ、とりあえず今日はこれを持って来ただけ。

 またあっちで会いましょうね!!」

 

 パチッ☆ っとウインクをかましながら、キョウコは消え去った。

 

「嘘だろ……」

 

 私は、猛虎に気に入られた子猫のような気分になりながら、現実逃避の題材を探すことにした。

 

 

 

 

 

 

*1
詳しくはその内、『“暴君”と私』というタイトルの新作で書く予定。





この作品は昔書いていたシリーズのキャラばかり出るのですが、懐かしい思いをしながら書いています。
当時は、私も若かったのです……(遠い目

そろそろ、誰を掘り下げて欲しいかのアンケートでもしようかなと思っています。
それでは、また次回!!

どの従者のエピソードの掘り下げを見たい?

  • 序列一位、総長
  • 序列二位、教授
  • 序列三位、赤錆
  • 序列四位、二世
  • 序列五位、グルマン
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