“魔剣”
「なあオリビア」
「何ですか、我が主」
「創作だと、意思のある剣ってインテリジェンスソードって言われるらしいな」
「それがどうしたんですか?」
「インテリジェンス……お前には一番縁遠い言葉だよな♪」
「むぎぃいいい!!」
どれだけ意思表示をしようとも、かたかたとテーブルの上から震えることしかできないオリビア。
「あれって、どこから声が出てるんでしょう」
「それを気にしたら負けでは?」
チェリーは私の手首を傷口から溢れる血を啜りながら、そんな二人のやり取りを見ていた。
「まあ、我が主が楽しそうで何よりですわ~」
チェリーのお花畑な頭が羨ましい。
こいつに悩みとか無いんだろうな、と思えてならない。
まあ、我が主のオリビアに対する態度は思春期の小僧みたいで、こいつにとっては微笑ましいものなんだろう。
「そう言えば、れありてぃ? と言うのが魔剣にはあるそうです。
オリビアさんのれありてぃは何でしょうか?」
「さあ」
私に聞かれてもよく分からない。
「魔剣って言うのはな」
おい、我が主が食いついて来たじゃないか。面倒な。
「別に必ずしも剣の形をしてるわけじゃない。
じゃあ何で、“魔剣”って呼ばれてるかわかるか?」
「わかりません。
はぁ~、これだから学の無いバカ錆はイヤなんだ。
しょうがないなぁ、教えてあげるよ」
「僕のセリフを取るなよ」
面倒だから省略してやったんだよ!!
「魂ってのはな、万物に宿るんだ」
「センセイが居た、東方の島国の考え方のことですか?」
なんでチェリーがそんなこと知ってるんだよ。
「おや? 拙者の噂でも為されましたかな?
我が武勇伝でも聞かれますかな?」
食堂でお酒を吞んでいたセンセイが話に入ってきた。
相変わらず、防御力の低そうな着流しという異国の格好である。
「後にしろ。今はこっちの話だ。
で、物品に宿った魂も、いつか死を迎えるんだって。
すると、物品専用の死後の世界みたいなところに流れ着くそうだ」
「でも我が主、それ『黒の君』の魔導書の受け売りですよね?」
我が主は無言でオリビアの柄を服の袖でこすりまくった。
摩擦熱が、摩擦熱がぁ、と彼女の叫び声が響く。
「曰く、魂ってのはどんな世界でも、例えば僕らの故郷と、赤錆が行っている地球の二つを比べても、必ず同一人物の魂が存在するそうだ。
それぞれはヒトとヒトとは限らない。
ヒトや動物かもしれないし、動物とモノかもしれない」
なるほど、つまり地球にも私の魂的同一人物が必ず存在する、と言うことか。
「極稀に、感情の起伏や魂の損傷によって、それを補完するように“モノの墓場”から同じ魂の物品が現れることが有る。
それが“魔剣”の正体だ」
センセイが興味深い話ですな、と呟いた。
そして、その腰に帯びている寸鉄の柄に手を落とす。
「我が妖刀“水流切り”もまた、付喪神となって我が祖先の下に現れたと言うことでしょうか」
彼の場合は、それが先祖代々受け継がれているらしい。前に教えてくれた。
「その性質上、“魔剣”とは霊的物体。
触れることはできるけど、実質的な質量は無い。
僕らがそれを吸収して糧にできるのは、そう言うことだ」
「つまり」
それを聞いて、食堂の調理場からグルマンが反応した。
「お料理の姿をした“魔剣”も存在する、そういうことですね!?」
「あ、うん。理論上はあり得るかもね……」
理論上って、現実的じゃないって言葉の言い換えでは?
「お料理の魔剣が無いとは言いませんが、その性質上消耗品は魔剣になり難いと思われます。
どちらかと言うと、大切に使われた食器や料理道具として現れるのでは?」
「なるほど!!」
オリビアの補足に、グルマンも目を輝かせている。
こいつ、意外にも道具にもこだわるタイプなんだよな。
「つまり妖刀とは付喪神の死後、死霊となって彼岸から現れるモノである、と」
センセイも自分なりの解釈で納得したようだ。
「我が祖国では、大切にした品物には魂が宿ると伝わっておりますな。
大切にしたモノが壊れても、彼らには彼らの極楽があると思えば、それは救いでござるな」
それはロマンの有る素敵な考え方だ。
「でもそうなると、何故に“魔剣”と呼ばれるのですか?」
「そりゃあ魂ってのは、伝説の剣みたいなものに宿ってしかるべきだろ。
出自不明の強力な魔法の剣、神から授かったとされる聖剣。
伝説に登場する剣とは、権威の象徴だった。
だから“魔剣”なのさ。ただの日用品から、魔法のアイテム、果てには人間では再現不可能な強力な伝説の剣。
それらが人間の魂と繋がっている。夢とロマンのある話だろ?」
確かに、それらを総称し、象徴としての記号は“魔剣”という呼び方以外にあり得ないだろう。
「もしや我が主は人間を宝箱だと思ってるのでは」
オリビアが余計な一言を言った。
我が主は無言でオリビアの柄を服の袖でものすごい速さでこすり始めた。
そこ触らないでぇ体が熱くなっちゃうぅ、という彼女の涙声は無視した。
「僕も生前は“魔剣”の収集が趣味でね。
いろいろとコレクションがあるのさ、見たい?」
「見たいですぅ!!」
あ、これただの自慢だ。
これまでの説明はその前振りだったのだ。
「まずはこれ、つい最近手に入れた魔剣オリビアだよ」
「しくしく、私モノ扱い……」
「レアリティは……アンコモンかな。
ちなみにコモン【C】、アンコモン【UC】、レア【R】、スーパーレア【SR】、スペシャルスーパーレア【SSR】、レジェンダリーレア【LR】の順にレア度が高い」
「想像以上に低い!?」
レアですらないとか……。
「まあ、でもSSRの魔剣は僕でも三本ぐらいしか持ってないし。実質ここが上限かな。
【LR】とか、伝説上のアイテムみたいなものだし、一種の神器だよ」
「師匠の風の魔剣は?」
「【SR】だよ。あれひとつで軍隊を相手にできる」
「じゃあ二世のあの鍵は?」
「文句無しで【LR】。あれはもう特別だよ」
なるほど、確かにあの鍵は成り立ちからして“暴君”が関わっている可能性が濃厚だ。
極稀に起こるはずの現象を、任意に他人から“魔剣”を引っ張り出せるなんて、彼の御業としか思えない。
「もしかして、オリビアさんも何か魔剣としての能力があるのですか!?」
興味を引かれたのか、チェリーがオリビアに尋ねた。
「あ、はい。過去視が出来ます、対象の大体一年ぐらい遡って」
「地味だよな、だからアンコモン」
「ヒドイ!!」
いや、十分スゴイ能力だと思うが……。
「地味と言えば、これも何気に地味だけどスゴイよ」
我が主が次に取り出したのは、十字架を模した魔剣だった。
「これは魔剣“アイアンハート”。あのアイアンハートから取れた奴だよ」
取れたって、果物じゃないんだから。
「これは持ってるだけで精神干渉系の魔法とか異能をシャットアウトできるんだ。レアリティは【R】かな。
あいつの魔剣らしいよな!!」
それは確かに、彼女らしい。
「まあそんな風に魔剣ってのは取り出した当人の性質が反映されていることも多い。
まあ、同じ魂なんだから、当たり前と言えばそうなんだけど」
つまり、この十字架の魔剣はあのアイアンハートと同じ魂を有しているということなのか。
「他には、こう言うのもあるね」
我が主は次の魔剣を取り出した。
「うッ」
一目で分かる、その禍々しさ。
赤黒い血のような刀身の短剣だった。
「これは魔剣“ワンオアハンドレット”。レアリティは【SR】だね。
あの『黒の君』も死者蘇生は不可能だって言ってたけど、こいつを使えばそれも戯言さ!!」
「それにいい思い出が無いんですが……」
自慢する我が主をよそに、オリビアは暗い雰囲気を醸し出し始めた。
「こいつは死後半年以内に死体に突き刺せば、そいつを蘇生できるんだ。
……まあ、一回使うのにこいつで百人の人間の命を殺傷しないといけないんだけど」
代償が重すぎる!?
それに見合った効果なんだろうけど……。
「いやあ、懐かしいな。
こいつの魔力のチャージの為に、戦場で死傷者にトドメを刺して回ったりしてたな」
嫌すぎる……。
そんな私達の微妙な空気も我関せず、我が主は次の魔剣を取り出した。
そして、息を呑む。
「そしてこいつが自慢の逸品。当然レアリティは【SSR】!!
虹の魔剣『ズィーベン・レーゲンボーゲン』!!」
それは、美しかった。
七色の魔力を帯びた、まさに虹のような輝きを持ったロングソード。
「これは、絶世の名刀ですな」
センセイも唸っている。
これは文句無しで最高の名剣だ。
「かつて虹の天使と称された英雄アイリスが使っていた魔剣の実物だよ。
しかも魔剣としても実用的で超強い!! これがあれば当時彼女も魔王とも戦えたってのも納得の逸品だよ」
我が主は刀身の表面を頬ずりしている。
気持ちはわかるが危ないから止めなさい。
「それに比べて、魔剣ノーインテリジェンスの貧相なことよ……」
「それってどの魔剣のことなんですかねぇ!!」
オリビアがかたかたと抗議の声を上げる。
そんな彼女を見て我が主はけらけら笑っていた。
その姿を見て、私は少しだけ彼を遠くに感じていた。
§§§
「赤錆、ちょっと付き合いなさい」
「はい師匠」
私が師匠に呼ばれ、食堂についた。
なに、ロケーションが食堂ばかりだって?
しょうがないじゃないか、大人数が座って話せる場所なんてここしかないのだから。
あとでサイケデリアに拡張を頼むほかない。
私が師匠に連れられ、そこに行くと何人かの従者が座っていた。
教授とリブラ、二世も居る。
他にも何人か。共通するのは、皆序列が若いメンバーだと言うことだ。
「ホットワインをお持ちしました」
グルマンもいた。彼女は酒精の抜けたワインを運んで、私達の前に配膳していた。
「どうぞ」
「ありがとう」
私はワインを受け取る。
いい香りだ。
「先日魔王様の御城で味わったワインです。
こんな飲み方をするのは勿体ないですが、実物では無いので」
と、グルマンが言った。
ここ最近、彼女は魔王城で味わった料理の再現を試みている。
やろうと思えばあの美食をそのまま出せるだろうが、それは彼女のプライドが許さないのだろう。
「それでは、乾杯」
「乾杯」
「乾杯」
私も皆に習って乾杯をした。
何の集まりなのかは、言わずともなんとなくわかった。
「……最初、私が我が主に出会った時、彼はこの世の理不尽を一身に浴びていた。
全てを恨み、憎み、絶望していた」
師匠の言葉を、ここの皆が聞いていた。
「私が助けねば、そう思った。
その結果は、彼にとって不幸が長続きしただけだったのかもしれない。
五百年、五百年だぞ? 四十手前で死んだ私には、想像を絶する時間だ」
それを言ったら、私は十七で死んだ。
師匠の半分も生きれていない。
本当に、ダメな弟子だった。
「私は彼に言いました。
知ること無くして憎み恨むのは、ただの知性の放棄であると。
彼はよく学び、そして全てを伝える前に私を置いて行った。
それが惜しかった。ですが……」
教授はワインを呷る。
彼の両目から涙が流れていた。
「悪魔だと聞いて、どんな恐ろしい相手かと思ったら子供だった。
その眼は淀んでいたし、このままだとすぐに死ぬって分かった。
だから私は彼に問わねばならなかった」
最近元気の無い二世が口にする。
「誇りを持たなければ、人間とは言えない。
悪魔のままより、人の心を持った悪魔であるべきだ。
美学を抱いてこそ、自らの誇りに尊厳が生じる。
善行で生きれぬなら、誇りある悪行を。
だって、否定ばかりされる人生なんて嫌じゃないか!!」
二世はヤケクソ気味にワインを飲む。
すぐに咽て咳き込んだのを見て、私は背中をさすってあげた。
「美味しいモノを食べたことが無い。
私は、それを聞いて信じられませんでした。
彼は最初骨のように痩せていて、ずっと粗末なパンと味の薄いスープだけで生きていた、と。
食べることは、生きることそのものなのに」
グルマンの言葉に、私は当時の彼を思い出す。
私達の旅はずっと貧乏で、干し肉が少しスープに入っていればそれで贅沢と言えた。
「知らなけば知らないままの幸せもある、私はそうは思わなかった。
美味しいモノを食べずに生きるなんて、死んだ方がマシだ。
私は死に際にそれを聞けて、安心しました」
彼女も席に座り、ワインを口にする。
今だけは彼女もこの席に参加する者だった。
「彼には天秤が無かった。
何が善で、何が悪か。
全ての罪を同じ尺度で見てはいけない。
慈愛を持って罪を許すか、悪を憎むか。
彼とはもっと、それを語り合いたかった」
リブラは湖面のように静かなワインの水面をじっと見ていた。
「……私は、何も残せなかった」
私は、皆に懺悔するようにそう言った。
「私は何も無くて、弱くて、感情的で言い争ってばかり。
その上、一番最初に死んだ。
我が主は私の背中を押してくれたのに」
「そんなことはないよ」
教授がぽつりと言った。
「ああ、お前はいつも同じ目線で彼を正してくれた。
お前が居なかったら、我が主はどうしようもないほど人の道を外れていただろう。
それは、私にはできなかったことだ。
彼は口にせずとも、お前を姉のように想っていたはずだよ」
「師匠……」
私の死は、無意味では無かったのだろうか?
「ああ、お前の死は彼に刻まれていた。
血糊で出来た錆のように、ずっと、ずっとな」
リブラの言葉に、私は言葉が出なかった。
ワインのグラスにぽたりと音がした。
私はいつのまにか、涙をこぼしていた。
「ああ、だからこそ、あんな彼の姿は初めてみた」
オリビアと楽しそうに寸劇をする姿なんて、私達は想像も出来なかった。
笑うところなんて、死んでから始めてみた。
「もう一度、乾杯だ」
「ああ、乾杯だ」
「乾杯」
「か、かんぱーい、ごほッごほッ」
「皆さん、もう一度杯にお注ぎしますよ」
グルマンだけに給仕をさせられない。
彼の従士は、私だけなのだから。
私達はそのまま、しばらくの間静かに祝杯を挙げた。
偉大なる愛が、我らの絆を紡いでくれたことを祝して。
次回の話は、アンケート結果で決めます。期限は私の気分で締め切ります。
現在の票数のばらけ具合から、皆魅力的なキャラクターとして描けていると思うことにしますww
ではまた、次回!!
どの従者のエピソードの掘り下げを見たい?
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序列一位、総長
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序列二位、教授
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序列三位、赤錆
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序列四位、二世
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序列五位、グルマン