これは、ある意味必然と言うべきなのだろうか。
「まったく、何なんですかね、あの人は!!」
「ホントだよ。いつも他人を小馬鹿にしてさ!!」
私とオリビアはすぐに仲良くなった。
あのクソガキの被害者という共通点もあったし。
「あいつの愛情表現が、気になる相手に意地悪をする程度しかないのは私の失態だよ。
もっとちゃんと女の子の扱いを教えるべきだった」
「赤錆さんは悪くないですよ。
五百年も生きていて精神的にまったく成長してない方が悪いんですから!!」
共通の相手への愚痴と言うのは盛り上がるもので、気づけば私達は話し込んでいた。
「昔の彼って、どんな感じだったんですか?」
「今と変わらないよ。
長生きした分今の方が厄介だけど」
「そうなんですね。
魔術的には身体と精神は相互関係にあるそうで、肉体年齢は精神にも影響するそうです。
あの人がずっと子供っぽいのはその所為かもしれません」
「そりゃあいい、あいつはこれからずっとクソガキのままなわけか!!」
私達はげらげら笑い合っていた。
「その点、私はずっと十七歳のまま。
うーん、永遠に同じ年齢とするなら丁度いいよな」
「まあ、享年より若い姿をしてる人も多いみたいですね」
「姿形は自由自在だからな」
例えばアイアンハートなんかは、私と大して変わらない見た目で居る。
それは若さを求めていると言うより、その方が便利だと考えているかららしい。
「それに対して、私は剣と言う実体があるばかりに……」
「元気出せよ……」
私が彼女の柄を撫でて慰めていると。
「でも、これからずっと一緒に居られるのなら、それも悪くないのかな……」
愛、か。
「オリビア、どうやって『黒の君』を倒せたんだ?」
それは皆も怖くて聞けていないことだった。
「もう一度、同じことをしろと言われても無理ですよ。
殆ど遊ばれていましたし、油断した隙を突いた形です」
「逆にあれと対等に戦えるなんて想像できないよ」
「強いて言うなら、勝因は
「独りだった? まざか大勢で挑んだんだのか?」
「まさか。私の魔法は少々特殊らしくて、……なんて言ったらいいのかな。
赤錆さん、なにか武器とかあります?」
「ああ」
私は頷いて、虚空からいつもの剣を取り出した。
「じゃあちょっと実践してみます。
──“炎”の概念を
オリビアの
「これで、その剣は炎を出せるようになりました」
「へー、スゴイじゃないか付与魔法か?」
鞘から剣を抜いて、軽く振ってみる。
ぼう、と刀身が炎を纏い、高温で室内を熱気で包んだ。
「普通、同じ魔法なら効力は一定の筈ですよね?
私の場合、個人差が生じるんです」
「個人差?」
「今の“炎”なら、皆が想像する火力は違うと言いますか。
人によってはマッチの火だったり、燃え盛る山火事の炎だったり、と。
私の魔法は、概念……人間の共通認識を利用するものなのです」
それは、私にはよく理解できない話だった。
「人間には共通認識、無意識の海がある。
それを丸ごと叩きつけてやったんです。『黒の君』も人の身で神と畏れれていても、全人類の膨大な認識の激流には抗えなかったみたいです」
「よくわからないが、ものすごく凄いことをしたのは分かった」
なるほど、一人だから勝てた、か。
「その共通認識を借りたのが、偶々地球と言う世界で、後から知ったんですがそこには六十億もの人間が居るそうで。
それだけの人数が揃っていたのは幸運でした、人間すべての認識で攻撃したわけですから」
「もはや私には想像も出来ない領域の話だな」
だが、ある意味必然なのかもしれない。
暴君を玉座から引きずりおろすのは、いつだって民衆なのだから。
「じゃあ、オリビアの魔法でもっと概念を付与をすれば、この剣ももっと強くなるのか?」
「それは難しいです。
私の魔法は要するに、それは炎の魔法の剣だ、と言い張るようなモノでして。
概念とは周囲の認識によって形成されるモノじゃないですか、つまり理由が居るのです」
「はあ……」
「例えば、その剣はかつてドラゴンを倒したという“竜殺し”の概念を付与したとしましょう。
でも実際、そんなことないですよね?
周囲にそう思い込ませるだけの、時間が必要なわけです。
それは“矛盾”として、つじつま合わせが起きるんです。
結果として、その剣は急速に劣化をするでしょう。一度振るくらいが精々の筈です」
「それはつまり、逆に言えば一度だけはこの剣を伝説のドラゴンスレイヤーにできると言うわけか?」
「まあそうですね。だから私の主兵装は投げナイフでしたし。
どんなナマクラでも、一度だけなら竜の鱗を引き裂ける武器にできます。
だから“緋色の
そりゃあ、盟主も“あの”なんて形容するわけだ。
多分オリビアの全盛期は物凄く強かったんだろうな。
「でも、この身体になってから、上手く魔法が使えないんです……。
前は自壊前提で五回ぐらい重ね掛けとか出来たんですけど」
それが今はこの有様なわけか。
サイケデリアの奴もそうだが、本当に魔法ってのは無茶苦茶な力だ。
「私も師匠みたいな魔剣が欲しかったんだ。
今度我が主に自慢してやろう」
「あんまり効果時間は長持ちしませんよ。
それに魔力の貯蓄機能が有るわけでもないので、基本使い捨ての一回きり思ってください」
「まあ、そんな上手い話は無いか」
なんとなくそんな気はしていた。
でもちょっとだけ惜しい気もする。
「あの時も、この魔法の剣が有ればな……」
「あの時ですか?」
「ああ、生前の話だ」
私は我が主と師匠と教授の三人で旅をしていた。
いや、旅と言うより逃げ隠れる日々と言うか。
あの世界で教会の息のかかっていない場所なんて無い。
私達は連中に補足されないように場所を転々としていた。
勿論路銀なんてまともに稼げない。
でも野盗の類に身をやつす程堕ちてもいなかった。
今思い返せばみじめだったよ。
だけど、私にとっては全てだった。
だから、時折親切にしてくれる人たちが現れた時は本当に嬉しかった。
あれはある宿場町に訪れた時だった。
街と街の中継地点で、旅人や商人が馬を休ませたり、旅の疲れを癒すために訪れたりする。
私達はそんなところのど真ん中に止まるわけにもいかず、宿場町の端っこの方の安宿に泊まることになった。
安宿と聞けば粗末な店と思うだろうが、そこの女将さんは気風が良くてな。
私達のような怪しい旅人も受け入れて、たらふく食べさせてもらったよ。
後に常連から知る人ぞ知る、と言うような場所だった。
何より、看板娘が私と同い年だったらしくな。
彼女を目当てにする者も居たくらいだ。
「我が主、食べないのか?」
久々に塩と干し肉の欠片のスープと硬い黒パン以外の食事にあり付けた。
だが我が主はもそもそと黒パンを齧っていた。
あのスープでも無いととても食べられたもんじゃない、岩みたいな黒パンにだ!!
「要らない。僕は安くてお腹に溜まればなんでもいい」
オリビアは今の生き生きした我が主しか知らないだろうが、当時の彼はそんな生気の無い抜け殻みたいな子供だった。
私も路銀が潤沢じゃないことから、子供はもっと食べろ、なんて言えなかった。
それを理解しているから、我が主もそんな物言いをしたんだ。
「何言ってるんだい、子供なんだからもっと食べな!!」
代わりにそれを言ってくれたのが、女将さんだった。
テーブルにドンと大量のジャガイモの乗った皿を置いて行ってくれた。
申し訳程度に酢漬けの野菜が添えられていたのを覚えている。
まあ所詮、安宿だからな。
我が主はそれを見てそっと私の方に皿を退けた。
それでも私には久々の御馳走だった。
それに、食べれる時に食べないとお腹を空かすだけだ。
塩やスープを駆使して食べれるだけ食べたよ。
師匠と教授はキャラバン隊の護衛でもして路銀を稼ごうか相談していた。
だけど、我が主はハッキリ言って気味の悪いガキだ。
黒髪なんて異国でしか見ないし、赤い瞳は魔族に見られる特徴だ。
悪魔呼ばわりされても、仕方なくはあった。
私だって最初は気味悪がっていたしな。
そんなガキを連れた四人組が目立たないわけがない。
すぐに常駐していた教会の騎士がやってきたよ。
「おい、このボロ宿に怪しい連中が入ったと通報が入った!!」
「ふざけんじゃないよ、そんな客を店に入れるわけないだろ!!」
すぐに騎士に女将さんが対応した。
私達は食堂の方に居たので、受付の有る入り口からはその様子は見えなかった。
だが何が起こったかはすぐにわかった。
「怪しいな、おい、そこの娘!!」
「ひッ、止めて!!」
「こちらの詰め所で尋問してやる、連れていけ!!」
「お前たち、娘に手を出すんじゃないよ!!」
あの騎士と言うのも憚れるゴロツキどもには、口実なんて何でも良かったんだ。
以前から目を付けていた看板娘を連れ込める手立てになるなら。
「助けよう!!」
「そんなことして何になるのさ」
もちゃもちゃと黒パンを齧る我が主が言った。
「だって、あの子は私達がここに来たから連れて行かれたんだぞ!!」
「それとこれとは関係ないよ。
ここに来た騎士どもが下種な連中ってだけさ」
それは一つの側面から見れば正しいかもしれない。
だけど、私達が来たからその口実を与えたのもまた事実の筈だ。
「だったらお前はその石ころみたいなパンを齧ってろ!!」
私はすぐに宿を飛び出した。
途中、横目で見た女将さんが泣き崩れている姿を見て、私は間違っていないと確信した。
私はすぐに騎士の詰め所に突撃した。
勿論、すぐに返り討ちにあったさ。
多勢に無勢、相手は四人くらい居たし、私は十四歳の小娘だった。
「お前が怪しい旅人の一味か!!」
「ガキが、大人の楽しみの邪魔をするんじゃねえぇ!!」
私は足蹴にされ、地面に這いつくばるしかできなかった。
目の前で泣き叫ぶ看板娘を、私は助けることも出来ずに悔しさで涙を流すほかなかった。
その後どうなったかって?
「騎士の風上にも置けぬ下郎どもが!!」
「見るに堪えませんな、下種め」
師匠と教授が助けに来てくれたよ。
騎士の詰め所は滅茶苦茶にぶっ壊された。
師匠曰く、あの宿屋の母娘に類が及ばないように、詰所の襲撃が目当てだと思わせる必要があったらしい。
ついでに騎士どもの財布から路銀を頂戴していた。
流石にそれはどうかと私も苦言を呈したが。
「騎士道は同じ価値観を持つ者同士で初めて適用されるのだ。
お前はこいつらが、我らと同じ言葉を解する人間に見えるのか?
私には犬畜生以下のカスどもにしか見えぬが?」
「……そうですね」
そう言えば、師匠も師匠で教会には思うところがあるんだった、と私は思ったよ。
教授もこれには苦笑いだった。
教授は真っ当な倫理観を持ってる人格者だけど、彼はどこまで行っても魔術師なので特に何も言わなかった。
そして当然、大騒ぎになった。
宿場町のど真ん中にある詰め所を襲ったんだからな。
私達はすぐに巡回の騎士たちを相手にして、宿場町から逃げ出したよ。
「バカじゃないのお前たち。
あんなの助ける意味なんてないじゃないか」
逃げ隠れた私達を見つけた我が主は、そんな風に言ってきた。
だから私はこう返した。
「あれを見過ごして生きるくらいなら、死んだ方がマシだ」
我が主は心底理解できないと言った目で私を見ていたのを覚えている。
「そうやって、次は犬死しないと良いね」
私は彼の嫌味を悔しさと共に受け入れる他なかった。
「師匠、私をもっと鍛えてください!!」
「うむ、良いだろう」
ただ、師匠だけは私を見て微笑んでくれた。
「ごめんな、特に面白みの無い話で」
「いえ、そんなことないですよ」
教会の腐敗、その傘下の騎士たちの横暴なんて有り触れている。
「今も昔も、あいつらは変わってなかったんですね」
「そうか。ずっと後もそうなのか」
だとしたら、結局私達の故郷が滅ぼされたのも仕方がないのかもしれない。
「だけど、なんとなく我が主の行動が納得できました。
あの人は何だかんだで、弱者が虐げられているの見るのを嫌ってました。
それは、あなたの背を覚えていたからなんですね」
「そうだったらいいな」
私は愛想笑いをするほかなかった。
「いつかオリビアの話も聞かせてくれよ」
「ええ、最悪の魔剣ソウルイーターの持ち主と戦った話とか、リネンさん達と遭遇して戦いになった話とか、盟主に依頼されて彼女の弟子と戦ったり、色々ありますよ。
あれ、もしかして私達って戦ってばかり……?」
人体があったら遠い目をしていそうなオリビアだった。
「お前たちそんなところに居たんだ」
我らの女子会に我が主が現れた。
「何か用なのか?」
「ああ、次の召喚が決まったみたいだ。
お前たちもついて来い」
「わかりました」
「わかった」
私達は頷いた。
どうやら次の仕事のようだ。
「ああ、そう言えば赤錆」
「なんだよ」
「あの時助けた看板娘の安宿だけど、宿場町が解体されるまで五代続いたらしいよ。
あれのひ孫なんてそっくりでビックリしたくらいさ」
私はそれを聞いてくすりと笑った。
なんだ、ちゃんと様子を見に行ってたりしたんだ。
私は笑みを顔に出さないようにしつつ、彼の後に続いたのだった。
赤錆がメインの話なのに、前半はオリビアの話になってしまいました。
でも元々赤錆は主人公なので、これから幾らでも掘り下げられますし。
そう言う意味では、アンケートの選択肢に入れたのは失敗ですね。
ちなみに、なぜオリビアが魔剣の姿かと言うと、彼女の魔法はチートだから制限を掛ける必要があったからです。
だって、エンチャットとかなろう御用達の強スキルですもの。
だから彼女の魔法には強烈な使用制限がついているのです。
残りのアンケートの面々も順次掘り下げていく予定です。
だはまた、次回!!
どの従者のエピソードの掘り下げを見たい?
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序列一位、総長
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序列二位、教授
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序列三位、赤錆
-
序列四位、二世
-
序列五位、グルマン