クソザコ従者の赤錆ちゃん(仮)   作:やーなん

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今回はアンケート結果より、総長のお話。



SS『総長:嵐の騎士』

 

サーバントストーリー:序列一位『総長:嵐の騎士』

 

 

 肉体が無い、と言うのは存外に便利だ。

 

「あなた、今日も見回りですか?」

「ああ」

 

 妻の顔と声を忘れる心配がないのだから。

 

「お父さん、行ってらっしゃい!!」

「お前もな」

「うん!!」

 

 娘も木刀を手に稽古場へと向かって行った。

 

「あの子ったら、もうあなたの背中ばかり追って。

 将来は騎士になるって聞かないんですもの」

「その時はきっちりしごいてやるさ」

 

 妻の言葉に、私は苦笑する。

 

「その頃には、この子も大きくなってるかしらね」

 

 彼女の腕の中には、まだ幼い男の子が居た。

 

 これは幸せだったころの記憶。

 もはや幻でしかない、夢の果てだった。

 

 

 

「父上、魔獣は強大です!! 

 ここは私が引きつけます、ですから貴方は騎士団の応援を!!」

 

 魔獣。突然変異の化け物。

 肥大化したイノシシの怪物が、我らの前に現れた。

 

 通常、魔獣の強さは変異前の魔物の約十倍とされる。

 周辺の都市国家から応援や教会の主力が投入されるべき相手だった。

 

 そんな相手が、警邏中に現れるなんて予想外だった。

 いや、誰も想像が出来ないから突然変異なのだ。

 

 この化け物を逃せば、我が祖国は壊滅するだろう。

 

「バカを言うな、娘を置いて行く父親がどこに居る!!」

「ですが、このままではどちらも死にます!!」

 

 この時、私の中には冷徹な計算が合った。

 いや、諦めの境地とも言える。

 

 応援を呼んだところで、所詮は時間稼ぎにしかならない。

 この魔獣のエサを増やすだけだ。

 

 だから私は娘を逃がし、少しでも引き寄せて別の都市へ魔獣を擦り付けるほか無いと思った。

 

 だが。

 

「父上!!」

 

 嗚呼、我が娘よ。

 私の清廉さを信じるこの瞳に、私は背けなかった。

 

 そして、魔獣は私達に選択肢などくれなかった。

 

 轟音、それは魔獣の泣き声だった。

 見上げるほどの巨体の化け物は、見た目以上の俊敏さで我が娘を片足で踏みつぶした。

 

 血糊が、私の顔に飛ぶ。

 

 私の中で、何かが壊れた瞬間だった。

 

 

 我が叫びが、我が魂が!! 

 次元を超えて我が半身を呼び寄せたのだ。

 

 それは竜巻となって、魔獣の巨体を押し留めた。

 我が手には、“魔剣”。

 

 風の魔剣“サイクロンウェーブ”。

 その暴威が、私を生かした。

 

 到底釣り合わない代価と共に。

 

 

 

 魔獣を単独で討伐したことになった私は、周辺諸国から名声を欲しいままにした。

 それを喜べるほど、あの時の傷は癒えてはいなかった。

 

 だが、名声は時に妬みややっかみも齎す。

 

「お前に、神聖騎士団からの引き抜きの話が出ている」

「それは断ったはずでは?」

 

 私は祖国の騎士団長の言葉にそう返した。

 

「お前は我が祖国の英雄だ。

 だが、英雄の光は影も齎す。

 これ以上教会のやり方に反発するとどんな嫌がらせをしてくるか……」

「……すこし、考えさせてください」

 

 教会の横暴はいつものことだ。

 だが、その影響力は絶大でもあった。

 

 彼らが欲しているのは、私という戦力だった。

 私は、この国と家族を守りたいだけなのに。

 

 返事を保留にすると、その夜には返答を決めるべく妻に相談するつもりだった。

 結局、その機会などなかったが。

 

 家に帰った私に待っていたのは、妻と子供を預かった、という一枚の紙きれだけだった。

 

 すぐにわかった、これは教会の手のモノによるものだと。

 味方でない者は敵、それが教会なのだ。

 

 私はすぐに二人を探し回ったが、翌日郊外で妻の死体が見つかった。

 暴行され、彼女を見るも無残な姿にした下手人は近くを根城にしている盗賊だったらしい。

 

「言え、息子はどこだ?」

 

 そいつらを探し出し八つ裂きにする前に、私は尋ねた。

 彼らは知らなかった。

 

 だが、その日家に帰ると、小さな指が送りつけられていた。

 言うまでもない、幼い息子の指だった。

 

 私は苦渋を飲みながら、騎士団長に教会の提案を呑む胸を伝えた。

 そうか、としか彼は言わなかった。

 

 だが私はもっと思考を巡らせるべきだった。

 教会の連中の杜撰さを。

 

 翌日、騎士団長の命令で別の盗賊の根城に向かった。

 

 そこに、息子の死体があった。

 私は、手違いがあったんだ、と命乞いをする彼らを皆殺しにした後、家に戻って荷物をまとめた。

 

「結局、お前ほどの騎士を失うことになるとはな」

 

 私は騎士団を辞め、放浪に出ることにした。

 理由なんて、もうこの家にいるのが辛くなったから以外に無かった。

 

「何も出来なくて、すまん」

「それは私も同じですよ」

 

 それが世話になった騎士団長との今生の別れだった。

 

 

 放浪を続け、半年ほど経った頃、私はある都市国家の広場に人だかりがあることに気づいた。

 

「この子供は悪魔である!!」

 

 聖職者たちが、絞首台で子供を処刑しようとしていたのだ。

 一目で異様な子供だと分かった。

 

「この子供の母親は教会の中から一切外出していないというのに、この子供を身ごもった!! 

 しかも、金髪碧眼の母親からこのような異様な容姿の子供が産まれたのだ!! 

 これはこの子供の母親が悪魔と交わったが故である!!」

 

 彼らの言う通り、その子供は不気味な子供だった。

 生気のない諦念に満ちた表情。

 全ての絶望を受けいれ、今や死をも受け入れようとしていた。

 

 考えるより先に、私は行動に出ていた。

 

 聖職者たちや聴衆をなぎ倒し、私は彼を連れて町の外へ逃げ出した。

 

 

「なんで、僕を助けたの」

 

 夜の森の中、たき火越しに私と彼は対面していた。

 

「私が私で居る為だ、君が気にすることではない」

 

 彼のか細い問いに、私は答えた。

 彼に幼かった息子を重ねたと言うのは嘘では無かった。

 

「お前は独りよがりで愚かだ」

 

 彼は私をじっと見ていた。

 全てを見透かすような、赤い瞳で。

 

「僕を助けてどうする? 

 それで満足したのか? じゃあ立ち去れよ。

 それとも次は魔物の餌になる僕を助けて満足するのか? 

 お前に対する追っ手はどうする? 

 お前は僕を助けたつもりで、何の解決もしていない」

 

 彼の指摘は尤もだった。

 私は何も解決していなかった。

 私は何も成してはいなかった。

 

 ……私は無価値だった。

 

「ならば頼む、私に君を守らせてくれ」

「ふッ」

 

 鼻で笑われた。

 当然だろう、私は所詮、赤の他人。

 彼にとってあの絞首台の聖職者と私は大差無い。

 

 いや、別にどちらでもよかったのだろう。彼にとっては。

 

「じゃあ、こうしよう」

 

 彼はどこからか精緻な造形の短剣を取り出した。

 処刑の際にそんなものが手元に有るはずが無い。

 私はすぐに、それが我が半身と同じモノだと気づいた。

 

「これは誓約の魔剣。僕の母さんが唯一僕に遺してくれたモノ。

 これに誓え。僕の騎士になると」

「ああ、良いだろう」

 

 その瞬間、私の魂は縛られた。

 誓約によって、悪魔に仕えることになった。

 

「……」

 

 彼は私と言う奴隷を手にしたのに、何の感慨も見せなかった。

 ただ結果だけを観察していた。

 

「我が主よ、これからどうしましょうか?」

「とりあえず、寝たい」

「番をします。どうぞ眠って下さい」

 

 私は自分用の毛布を彼に渡した。

 彼はそれを被って、すぐに寝てしまった。

 

 これが我が主との馴れ初めだが、これを話した時の赤錆はこう言った。

 

 なんで見ず知らずの子供のにそこまでするのですか、と。

 

 正直に言うなら、誰でも良かったのだ。

 私の死に場所になれるなら、私は騎士として死にたかったのだ。

 

 たとえそれが、悪魔の騎士であろうとも。

 

 

 だから、あの時はようやくその時が来たのだと思った。

 

 魔剣を持っているからと言って、無敵ではない。

 人は永遠ではないのは、私がよく知っている。

 

「我が主よ、追っ手が来ております。お逃げください」

 

 本格的に教会を敵に回した。

 我が主に与する私を脅威と認めたのだ。

 連日に次ぐ連日の追撃。私は負傷し、覚悟を決めることになった。

 

「私が、足止めをします」

「バカなことを言いなさるな!!」

 

 教授の魔力も残り少ない。

 私の治癒に魔力を使う余力も無い。

 

「お前も、赤錆のように僕を置いて行くのか?」

 

 我が主の言葉に、私は首を振った。

 

「我が魂は、永劫にあなたの下におります」

 

 そう言って、私は己の魔剣を彼に捧げた。

 

 教会の狙いは私の命。

 魔剣は使い手を選ぶ。少なくとも、私が倒れれば私と言う使い手は居なくなる。

 だが、なんとなく確信があった。我が命尽き果てる時、我が半身も消え去るのだと。

 

「これは誓約です」

 

 しかし、彼には誓約の魔剣があった。

 魂を縛る魔剣が、我が半身をこの世に繋ぎ止めるだろうと。

 

「……お前なんかに救われたのが間違いだったよ」

 

 それが、私が聞いた我が主の最後の言葉だった。

 

「間違いだった、か。たしかに」

 

 そう、間違いばかりの人生だった。

 あの時も形振り構わず娘を助ければよかったのだ。

 

 あの時の焼き回しのように、赤錆も失った。

 彼女を娘に重ねたことは無かったと言えば嘘だが、私の娘はあいつほど愚鈍ではなかった。

 それでも、私は彼女も守りたかったのだ。

 

「これも報いだな」

 

 そして私は追っ手と戦い、一人でも多く旅路への供とした。

 それが私の惨めな人生の結末だった。

 

 

 

 §§§

 

 

「総長、お話をよろしいでしょうか?」

 

 我が主の従者たち、皆は私を総長と呼ぶ。

 私を呼んだのは、懐かしい紋章を身に付けた騎士だった。

 

「君は?」

「私は我が主にセーフティと呼ばれております。

 序列は六十九位となりますな」

 

 69位。我が主の最期を共にした者達の一人が彼だった。

 

「あなたが我が祖国に伝わる嵐の騎士なのですね。

 こうして御会いできる奇縁に感謝せねばなりますまい」

「君は、まさか」

「はい。同郷の者です」

 

 その言葉に、私は少しだけ目頭が熱くなった。

 我が祖国はあれより五百年も存続できていたのか、と。

 

 私達は食堂で酒を交わしながら話をした。

 

「我が祖国は、最後の騎士の国と言われていました。

 騎士制度はもはや絶滅寸前で、独自の武力を持つことを教会は許さなかったのです」

「連中の横暴もそこまで来ていたのか」

「二百年前の魔王ドレッドの暴虐に何もできず、教会の権威の失墜は歯止めの聞かない状況でしたから。

 自分たちに従わぬ者達を都市ごと滅ぼすなんてザラでした」

「外道どもめ」

 

 私の怒りも他所に、セーフティの顔色はよくなかった。

 

「私は祖国の最期を目にしました。

 たった四十人で、住人を逃がすために五百の軍勢と戦う羽目になったのです」

 

 彼はこぶしを握り締め震えていた。

 

「本来なら、偉大なる先達たる貴方に顔向けなどできる身分などではないのですが、我らの仲間たちの勇士をせめて伝えねばと思った次第です」

「君のせいではない。よく多勢に無勢で生き延びた」

「生き恥を晒しただけですよ、死に際に我が主に救われました」

 

 それに、と彼は己の刃が盾となった剣を取り出した。

 その異質な意匠は、間違いなく“魔剣”だろう。

 

「騎士としての誓いや、守ると約束した相手も置いて行ってしまいました」

「そうか……」

 

 いつの時代も、騎士と言うのは試練に直面するらしい。

 

「申し訳ない、総長。

 私は、あなたの祖国を守れなかった……!!」

「君が謝るようなことではない。気にするな」

 

 頭を下げる彼の肩に、私は手を置いた。

 彼には申し訳ないが、私に祖国への執着は無かった。

 私の家族は、もうどこにも居ないのだから。

 

 私達はそれからしばらく酒を呑み交わした。

 

 

「師匠」

「どうした、赤錆」

 

 セーフティと別れると、意気消沈した赤錆が声を掛けてきた。

 

「私をもっと鍛えてください!! 

 今日も我が主にコケにされたんです!!」

「いや、止めておけ、無意味とは言わんが……」

 

 私達はもう既に肉体を失っている。

 想像通りに体を動かせるし、そもそも体を鍛える意味が無い。

 

 それで弱いのは赤錆の戦闘センスが皆無だからだ。

 こいつと我が娘が比較できないと言った由縁がそれだった。

 

「お前が弱いのは、強い己を想像できないからだ。

 ……いや、それならば型を反復練習させればマシになるか?」

 

 恐らくだが、我らはやろうと思えば岩を斬れる。

 それを想像できないから、出来ないだけで。

 人間の限界に縛られている、と言うわけだ。

 

「剣の技量ならば、センセイを参考にすると良い。

 彼の抜刀術など、目を見張るモノがある。あれを自分の眼で盗むのだ」

「私は師匠に教わりたいのです!!」

「はあ……なぜだ?」

「師匠こそ騎士の中の騎士、私にとって最高の騎士だからです!!」

 

『騎士を目指すなど止めなさい、お前は女なのだぞ』

『嫌だ、私はお父さんみたいな最高の騎士に成りたいの!!』

 

 彼女の純粋さに、かつての娘の面影を見てしまった。

 どうやら、私の負けのようだ。

 

「仕方がない。

 いつまでもお前が弱いままでは我が主に申し訳が立たん。

 これからも厳しく行くぞ」

「はい!!」

 

 教会の神など信じていなかったが、どうやら本物の神は居るらしい。

 死後に死者と会えるのがまやかしだと分かった以上、私は私のできることをするまで。

 

 今度こそ、我が主とこの不出来な弟子を最後まで見守るのだ。

 

 

 

 





次回はストーリー進行の都合で二世の話になりそうです。
他のキャラも順次掘り下げていく予定です。

感想や高評価を下されば、作者のモチベーションと更新速度が上がります!!
ではまた、次回!!

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