クソザコ従者の赤錆ちゃん(仮)   作:やーなん

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生き様

 

 

 

「我が主よ、今度の仕事はどのような内容なのです?」

 

 またどこかの世界の民家の一室に顕現した私は、我が主に問うた。

 

「……実はまだ、保留中なんだよ」

「保留、ですか?」

 

 仕事の話なので私は事務的に対応した。

 私は真面目なのだ。

 

「この町の人間は、領主の圧政に苦しめられているらしい。

 領主は税金を法律の規定より多く取り立て、私腹を肥やしているんだってさ」

「それは問題ですが、良くある話では?」

 

 例えば、領主から徴税を代行する徴税人は民衆から取り立てれば取り立てるほど儲かるのだ。

 無論、暴動の際などに真っ先に八つ裂きにされると言うが。

 

「そう、良くある話さ。

 別にそれはいい。だけど肝心の依頼人が問題だ」

「依頼人? 今回の召喚者ですか?」

 

「魔剣“ファントムシフト”よ、かの者の幻影を映し出せ」

 

 我が主は鏡の形をした“魔剣”を取り出した。

 “魔剣”とは魂の宿った霊的物品の総称で、実際に剣の形をしている方が珍しいらしい。

 

 魔剣の鏡から光が溢れ、依頼人の幻影を目の前に映し出す。

 

『正直、本当に召喚できると思ってなくて』

『ぶっちゃけただの腹いせっていうか』

『そりゃあ税金はキツイけど、別に領主に恨みは無いって言うか』

 

「……」

 

 そりゃあ我が主も保留にするわ。

 

「悪魔の召喚なんて、所詮火遊びと言うことか……」

 

 これには本物の悪魔になった我が主も溜息を吐いた。

 

「動物霊を呼び出す感覚で召喚出来てしまう我々にも問題があるのでは?」

「ぐうの音も出ない正論は止めろよ」

 

 身も蓋も無い事を言う師匠に、投げやりな態度で我が主は言った。

 

「お前はどう思う、二世」

 

 今日は教授が不在で、もう一人別の従者が居た。

 その彼女に、我が主は意見を求めた。

 

「はーっはっはっは!!」

 

 彼女は、大仰に笑い声を上げた。

 

「私腹を肥やす貴族なぞ、この怪盗レディ・ジョーダンの格好の獲物である!! 

 ワガハイはやるべきだと思うぞ!!」

 

 シルクハットに漆黒のマント、黒塗りのマスクを付けたこの変人は二世。自称怪盗。

 序列は四位、そして従者たちの中では数少ない私の知己でもあった。

 

 

 

 §§§

 

 

 彼女との出会いは、よく覚えている。

 

「なんだ、これは」

 

 私達四人がたまたま出向いた街の広場に、騒ぎが起こっていた。

 我が主が、その原因である紙を足元から拾った。

 

 そのこう書かれていた。

 

『今宵、三日月が夜空の頂点に達する頃。

 肥え太った領主の隠し持つ八つの至宝のひとつを頂戴する。

怪盗レディ・ジョーダン♠』

 

 それと同じ内容の予告状が、広場の至る所に張られていたのである。

 

「怪盗レディ・ジョーダン? 

 ミスター・ジョーダンのパチモンでしょうか」

 

 私達は人目を避けるように日陰に移動すると、師匠がそう口にした。

 

「ミスター・ジョーダン?」

「三十年前くらい前に吟遊詩人どもがこぞって歌っていた怪盗ですよ。

 私の子供の頃は非常に流行っていて、劇団が題材にしておりましたな」

 

 小首を傾げる我が主に、師匠はそのように解説した。

 

「所謂義賊ですな、悪人からしか盗まず、殺さず、姿を見せず予告したお宝を盗んでいく。

 吟遊詩人どもの話など、誇張されていて当たり前なのでどこまで本当か分かりませぬが」

「ふーん……」

 

 我が主は予告状に目を落とした。

 

「怪盗に狙われていると言う八つの至宝とは何なんですかね?」

「神話にも登場する魔術的オーパーツですな。

 炎、水、地、風などを司っていると言われ、その一つを手にするだけで魔神にも匹敵する力を得られるとか」

 

 無学な私に教授がお宝の正体を教えてくれた。

 

「そんなもの、実在するんですか?」

「しますとも。私は現物を見たことがありますので」

 

 てっきり伝説に登場するような眉唾かと思った私だが、教授は微笑ましそうに私を見てそう言った。

 

「魔神に匹敵すると言うのは誇張が過ぎますが、例えば炎の至宝を手にすれば、赤子でも炎の魔法を自由自在に操れるようになりますな。

 都市一つ滅ぼすなど容易いでしょう」

「ほう、我が風の魔剣と、風の至宝とどちらが優れているのだろうな」

「汎用性、という一点のみならば至宝の方が優れていましょう。

 あれは才能が無い人間でも、魔法を使えるようになりますので」

「す、スゴイ!!」

 

 私も教授に魔法を習おうとしたことが有る。

 だが、才能が無い、で終わった。

 多分生涯を掛けて修行し、マッチの火ぐらい火力の魔法を使える程度だと言われた。

 こんなに才能の無い者は始めてみた、と言われるくらいだった……。

 

 まあそれぐらい、魔術師の世界は才能の世界なのだ。

 私だってこのぐらいの頃は、自分が教授みたいに魔法をバンバン連発して敵をなぎ倒す光景を夢想することもあった。

 

「そんなものが、この街にあると?」

「さて、それまでは……」

 

 師匠の問いに、教授は言葉を濁したけど、要するに八つの至宝とは戦略兵器みたいなモノ。

 持っているなら持っているで誇示するだろうし、持ってないなら持ってないでブラフにはなるだろう。

 

 そのどちらもしていない時点で、お察しという感じのようだ。

 

 

「ねえ、これ僕らが横取りしたら、面白くない?」

 

 その言葉に私達三人は、げっ、となった。

 

「領主と怪盗、両方の面目を潰してやろうよ」

 

 このクソガ……我が主は時折そんな無茶振りをする。

 彼は別に、至宝が欲しいわけではないのだ。

 

 我が主ははただ、この世を憎み恨んでいるだけなのだから……。

 

 

 

 §§§

 

 

 結論だけ言うなら、領主の屋敷に至宝は無かった。

 ただ領主がデカい宝石を買ったのを、尾ひれがついただけだった。

 

 私達四人は領主の館を襲撃し、私だけ逃げ遅れて衛兵に捕まった。

 そして屋敷の地下牢にぶち込まれた。

 

「明日処刑してやる!! 

 そこのバカ女ともども、覚悟するがいい!!」

 

 そのように領主に口汚く罵られた。

 

 ……そう、地下牢には先客が居たのだ。

 

 

「くくく、まさかこのレディ・ジョーダンが盗みに入る日に、襲撃をする者が居ようとはな」

 

 格好つけているが、このポンコツは両手両足を縛られて床に転がっていた。

 勿論私も同じ有様だったけど。

 

 私達は年齢も近かったし、何より暇だったのでお互いの事を話していた。

 

「私の祖父は、あの怪盗ミスター・ジョーダンなのだ!!」

 

 彼女は二世議員ならぬ、二世怪盗だったのである。

 

「祖父は義賊として教会や悪徳領主相手にお宝を盗み出し、民衆に還元していたんだ!!」

 

 嘘かまことか、そんな話を彼女は延々と語ってくれた。

 

「父は衛兵でな、祖父の事が世間にバレるのを恐れ毛嫌いしていた。

 祖父は、あんな風になってしまったのに……」

「あんな風に?」

 

 彼女の祖父こと、ミスター・ジョーダンが捕まって処刑されたと言う伝聞は無かったそうな。

 それもそうだ、彼女の言い分によると、怪盗一世まだ生きているらしいのだ。

 

「祖父は、魂を無くしてしまったのだ……」

 

 要するに、廃人となって寝たきりなのだそうだ。

 

「魂を、無くした?」

「祖父の手記には、神々の秘宝を盗みに行ったというところで内容は途切れている」

「神々の秘宝? 八つの至宝じゃなくて?」

 

 彼女は首を横に振った。

 

「教会が何で一神教だと思う? 

 それは、神々の秘宝を隠す為なんだって」

 

 なんか陰謀論染みて来た話だった。

 

「伝説では……」

 

 彼女は語り部のように、その話を口にした。

 

「そこは果てしなく何もない場所なのに、見上げるような巨大な門があるんだって。

 教会はそこを“聖地”として隠している。

 そして、その門の奥には、神々の隠したどんな願いも叶える秘宝がある。らしい……」

「馬鹿馬鹿しい」

「じゃあ教えてよ」

 

 彼女は真っすぐ私を見てこう言った。

 

「両方の目玉を無くし、両耳も引きちぎられて、歩くことも出来ずにうわ言を言うだけになったおじいちゃんが、どうやって私の家に帰って来たの?」

 

 私は、その真剣な瞳に何も言えなかった。

 

「おじいちゃんはある日、突然家の前に倒れてた。

 真っ昼間なのに、誰もそこに運んだのを見ていない!! 

 おじいちゃんはきっと、“聖地”に行ったんだ!! 

 そこで願いを叶えた代わりに……」

 

 願いを叶える道具が、代償を伴うなんて有り触れている。

 もしその話が本当なら、彼女の祖父は何を願ったのだろうか。

 

「おじいちゃん、その時にこれを咥えていた」

 

 彼女は、胸元から口で紐に繋がれた物体を見せてくれた。

 

 それは、小さな黄金の鍵だった。

 私は知っていたから、一目でわかった。

 

 これは“魔剣”であると。

 

「この鍵、どんな扉も開けられるんだ。

 鍵穴が無くても、それどころか人間の才能も開ける。

 私はこれで、八つの至宝を集めるんだ。

 “聖地”に行く方法は幾つかあるらしいけど、八つの至宝を集めるのもその一つらしいんだ」

 

 彼女にとって、至宝とは“聖地”に至る為の過程に過ぎないようだった。

 仮に何でも願いが叶うお宝があるとして、彼女は何を願うつもりだったのだろうか。

 

 それを、聞き出すことは出来なかった。

 

 なぜなら──。

 

「じゃあ、それを使って縄を解いてよ」

「あ……」

 

 そして、私達は地下牢から脱獄したからである。

 

 

 

「赤錆よ、礼を言うぞ。

 お前の発想お陰で、牢から脱出できた」

 

 私は思った。こいつ、この先大丈夫なのか、と。

 

「そして『悪魔』よ。

 何ゆえに、領主のお宝を狙ったかは知らないが、これだけは言わせてもらう」

 

 彼女は、屋敷“だった”瓦礫に片足を乗せ、格好つけてこう言った。

 師匠と教授が全部ぶっ壊した痕だった。

 

「──美学なき悪は、無様なだけだ。

 お前は己の醜さで肥えたここの領主や、暴力で全てを解決しようとする教会連中と同じになるつもりか?」

 

 ……信じられないかもしれないが、このアホのこの言葉が我が主の後世を決めたと言っても過言ではなかった。

 

 

「美学、だって? 

 そんなものに何の意味が有る、馬鹿馬鹿しいよ」

「お前が真に悪魔なら、すぐに分かる。

 心の腐った人間は、醜悪な怪物に過ぎないのだと、な!!」

 

 そう言い残して、颯爽と彼女は去って行った。

 

「私は行く、悪の華道を!!」

 

 私達は、彼女の笑い声が消えるまでその背を見送った。

 

 

 その後も度々あの怪盗二世とは遭遇することになったが、まあその度に引っ掻き回された。

 

 だけど、私たちは誰も彼女を嫌いになれなかった。

 我が主は口ではクソ生意気な事ばかり言ってたけど、彼女をどこか眩しそうに見ていた気がする。

 

 そして、私は彼女の怪盗活動の行く末を見ることは出来なかった。

 二世は拠点では殆ど見かけない上に、何だかこちらを見るとよそよそしい態度を取る。

 

 だから、私はこっそりグルマンに聞いたのだ。

 何ゆえに彼女が我が主の従者となったかは知らないが、彼女の次に従者になったグルマンなら知ってるかもしれない、と。

 正直、マナー違反だとは思う。でも、尋ねずにはいられなかった。

 

 私の死後、彼女はどうしていたのか、と。

 

 

 彼女は言った。

 

「申し訳ありませんが、二世さんと私に面識は無いのです」

 

 

 彼女は、早死にしていた。

 

 

 そして私は、教授の部屋に押しかけ、聞いたのだ。

 彼女の最期の、その顛末を。

 

 

 

 §§§

 

 

「我が主よ、ワガハイが思うにもっと知名度が必要だと思うぞ!!」

 

 顎の下で親指と人差し指を立てて格好つけながら彼女は言った。

 

「知名度? いや、確かにそうかもね」

「我が主は怪盗では無い故、予告状は無くとも、一体全体!! どこの誰が!! この華麗なる悪行を成し遂げたのか!! 

 それをッ、知らしめる必要があるのではないか!?!?!?!?!?!」

 

 うるせぇ……。

 

「僕ら悪魔だよ。

 あんな意識の低い連中に召喚されて、大して面白くも無い雑用をさせられるなんて我慢できないし」

 

 じゃあ逆に意識高い悪魔召喚ってなんだよ。

 私はそんな言葉が口元から出かかったが我慢した。

 

 二世は我が主が自分の意見が認められたことに満足げに頷いていやがるし。

 

「もっとこうさ、魂を悪魔に捧げるような欲望と執念に満ちた願いを言ってほしいよな。

 なんというかこう、叶え甲斐のある願いって言うかさ」

「わかる。たまたま行きずりで知り合った病気の母親を持つ幼子の為に、厳重な警備で守られた屋敷の薬箱から秘薬を盗み出すみたいな? そして人知れず幼子の枕元に秘薬を置いて去る……ああ、これぞ怪盗行為の醍醐味だナ!!」

 

 前言撤回、この二人話が嚙み合ってない……。

 

 こほん、と師匠が咳払いした。

 

「それで、結局此度の依頼は受けるのですか?」

「まあ、良いんじゃない? 

 依頼主から依頼料を貰うことには違いないし」

 

 と言うことで、我が主は依頼主の元へ向かった。

 

 

 

 §§§

 

 

「コソ泥め、明日公衆の面前で処刑してくれるわ!!」

 

 ガタン、と鉄格子が閉じる音がする。

 

「こうして一緒に閉じ込められると、初めて会った日の事を思い出すナ!!」

「私は思い出したくなかった……」

 

 私と二世は我が主の命令で屋敷に潜入することになったわけだが。

 このアホが見つかったおかげで拘束されて牢屋に叩き込まれてしまった。

 この既視感よ……。

 

「とにかく、早くあの鍵を出して。

 脱出して我が主と合流しないと」

「勿論だ!! 忘れてないぞ!!」

 

 そこまで言って、二世はハッとなった。

 

「“マスターオブマスターキー”……我が主に預けたままだった」

「ドアホ!!」

 

 結局私らは助けを待つしかないわけである。

 いや、別に私達不死身なんだけどね。

 囚われの身って精神衛生上悪いって言うか。

 

「仕方がない、我が主の助けを待つか!!」

「はあ、結局それしかないか」

 

 そうして、何も話すことが無くなった頃、私はぽつりと口にした。

 

「……私の代わりに、我が主を助けてくれたそうだな」

「うん? 何の話だ?」

 

 このアホ、もうちょっと脳みそ詰め込んだ方がいいんじゃないのか……。

 

「あ、あー、あの時か!! 

 なに、友達の力になるのは当然の事だからな!!」

 

 私は、彼女を直視できなかった。

 そんなキレイ事で、命を投げ出せる人間はどれだけいるだろうか。

 

「それが、己の死が結末だとしてもか?」

「己の美学を捨てるよりはずっといい」

 

 彼女は笑っていた。

 いつでも、どの場面を思い出から切り取っても。

 

「正直ナ!! 私は怪盗なんて向いてないと思ってたんだ」

 

 それはそう。

 

「だけど、今はこうして本物の怪盗に成れた!! 

 弱き者の心の中にいる、憧れの怪盗に!! 

 私達は、そうした者の前に現れるんだッ!!」

 

 私達は、概念と化した。

 これは永劫の苦しみかもしれないのに、彼女は嬉しそうだった。

 

「我が主は、今際の際の私の願いを叶えてくれた!! 

 人々は怪盗を望み、願っている。

 あの人はそれを次に繋げてくれた。私はおじいちゃんみたいに華麗でも優雅でも無かったけど、語り継がれることはできた。

 ──伝説の『悪魔』と共に」

 

「怪盗は現れる。決してファンタジーや小説だけの存在じゃない。私は、それを体現できて嬉しいんだ!!」

 

 

 

 結局、我が主は屋敷ごと木っ端微塵に吹き飛ばして私達を救出した。

 

「また一つ、俗悪は成敗された……」

「お前何もしてないじゃん」

 

 屋敷だった瓦礫の上で、格好つける二世に私は言ってやった。

 

「じゃあ、そういうことでお前の“魔剣”を貰うよ」

「むうう!!」

 

 仕事を終えたことにした我々は、依頼人を羽交い絞めにしていた。

 

「開け、“マスターオブマスターキー”よ。命無きモノの墓場への道を」

 

 我が主は、黄金の鍵を依頼人の胸に突き刺した。

 それは物理的な接触ではなく、波紋が広がるように彼の内側へと沈んでいく。

 

「取れた」

 

 そして、引き抜く。

 我が主の手には、剃刀のような物体が握られていた。

 

「うーん、レアリティはコモンってとこかな。しょっぱい」

 

 まあこの程度の奴じゃこんなもんか、とぼやくと、我が主はそれを握りつぶした。

 

 霊的物体である“魔剣”、それを自身の糧として吸収したのだ。

 

「まあ、収支はマイナスにはならなかったと思えばいいか。

 さあ、帰るぞ。お前たち」

 

 目的は達せた。

 私達は依頼主の民家から消え去った。

 

 

 

 後日、私は二世を城砦の広間で見かけた。

 

「おお、我らが主、『赤い文字の悪魔』は命尽き果てんとする怪盗少女の願い聞き届けたり!! 

『これぞ契約、其は怪盗として永遠なりき。

 新たな我が従僕よ、その気高き魂を頂戴いたす!!』

 おお我が主よ、魂燃えはつる屍を背に、己の悪の道へと歩み始めん♪」

 

 従者の一人に吟遊詩人が居るのだが、彼女は何名かの従者たちと一緒に彼の歌を聞いていたのだ。

 

「すごーい、かっこいいー!!」

「えっへん。そうでしょそうでしょ」

 

 彼女はエリュシオン相手にドヤ顔を披露していた。

 

「おい、次は俺の曲を頼む!! 

 この間、根掘り葉掘り聞いて来たんだからカッコよく仕上げたんだろうな!!」

「わたくしは赤錆さんの曲が良いですわ~」

「私は神話の曲を聞きたいんけど」

「僕はもっとお兄さんのお話しが聞きたいな!!」

 

 よく見ればチェリーも一緒になって詩吟を聞いていた。

 まあ、この城砦で数少ない娯楽だから別にいいけど。

 

 

 

 ……私は、思い出す。

 教授に魔法で見せられた二世の最期を。

 

「まさか、あの大聖堂の地下に、あんなお宝が隠されてたなんて……」

 

 どこかの夜の森。

 木の幹にもたれ掛かる二世は、どこか上の空だった。

 当然だ。彼女は血まみれで、地面は暗がりでも分かるほど血だまりができていた。

 

「アレに比べれば、八つの至宝なんて目じゃないわ」

「もう喋るな!!」

 

 我が主が叫ぶ。

 教授が回復魔法を唱えているが、もう手遅れなのは目に見えていた。

 

「……ねえ、これで、赤錆に借りを返せたかな?」

 

 なんと、この大馬鹿は初めて会った時の事を貸しだと思っていたようだった。

 ……本当に、救いようのないアホだこいつは!! 

 

「あのさ、聞いてもいい?」

 

 我が主は頷いた。

 

「貴方は、本当に悪魔なの? 

 それとも、周りに言われたから悪魔なの?」

「僕は……」

「私は、自分で怪盗になったよ。

 自ら悪の道を選んだの。結果が同じなら、自分で選ばないとつらいだけだよ」

「……分かったような、口を利くな!!」

 

 だけど、あいつは微笑んでいた。

 

「ひとつだけ、お願いがあるんだ」

 

 返事は聞かずに、彼女は続ける。

 

「あなたが悪の道を進むのなら、己の信念と美学を忘れるな。

 それと、出来ればでいいけど……」

 

 彼女の頬に、血液以外のモノが伝った。

 

「私の事、忘れないで……!!」

「分かった。契約だ」

 

 我が主は、誓約の短剣の刃を彼女に握らせた。

 

「その代わり、お前の魂は僕のものだ」

 

 こくん、と顔を前に倒すように彼女は頷いた。

 

「よかった、これで私はあなたの中で生きられる。

 怪盗は、みんなが希望を望む心に、ずっと居るんだから……」

 

 そして、静寂が訪れた。

 師匠はそっと、彼女の瞼を落とした。

 

 

「わかったよ」

 

 師匠と、教授の二人が、我が主を見やる。

 

「僕が悪魔なのは、きっとずっと変わらない。

 なら、なってやるよ。僕は唯一無二の悪になる」

 

 ……『赤い文字の悪魔』はいつ産まれたのか、それはきっとこの時なんだ。

 

 師匠が助け、教授が彼を導いたのなら。

 二世は、我が主に生き様を示したのだ。

 

 

「僕こそが悪の基準、絶対悪だ」

 

 赤い文字の『悪魔』は、こうして誕生したんだ。

 

 

 





登場人物が多いですが、順番に掘り下げていく予定なのでお楽しみに!!

感想や高評価を下されば、作者のモチベーションと更新速度が上がります!!

それではまた、次回!!

どの従者のエピソードの掘り下げを見たい?

  • 序列一位、総長
  • 序列二位、教授
  • 序列三位、赤錆
  • 序列四位、二世
  • 序列五位、グルマン
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