クソザコ従者の赤錆ちゃん(仮)   作:やーなん

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彫刻家

 

 

 

「お前たちに意見を求める」

 

 いつもの朝礼の時間、我が主は食堂に集まった私達にそう言った。

 

「僕らってもっと知名度が必要だよね、ってことになった。

 お前たちの知恵を借りたい。意見が有れば手を挙げて発言しろ」

 

 どうやら、我が主は二世の言葉を真に受けたようだった。

 

「……我が主よ、何ゆえにそのような結論に至ったのですか?」

 

 あの時、その場に居なかった教授が手を挙げ発言をした。

 

「はあ。何度か召喚に応じてみたのはいいけど、どいつもこいつも意識が低い!! 

 悪魔と契約するんだぞ!? 火遊びや肝試しじゃないんだ!! 

 僕はもっと、魂を掛けた欲望に満ちた願いを持った召喚者が良いの!!」

 

 そんな子供が駄々を捏ねるような……。

 

「チラシを配るのは?」

「怪しい店か、却下」

「では、私が我が主の歌を歌いましょう!!」

「僕らが呼び出されてからか? 却下」

 

 他にもいろいろと出たが、しょうもない内容だったので我が主は却下を繰り返した。

 そもそも、我らは学の無い者も多い。教育を受けると言うは、それだけ贅沢なことなのだ。

 

「……事前にそれらしい人物をリサーチして、あらかじめ召喚方法を吹き込むというのはどうでしょう?」

「なるほど、それはアリだな」

 

 結局、まともな意見は教授ぐらいしか出なかった。

 と、思いきや。

 

「我が主よ」

「マイザー、何か意見があるのか?」

 

 手を挙げたのは、冴えないオッサンである。

 確か元商人であると、自己紹介された覚えがある。

 

「長期契約や大口の顧客を求めるのはどうだろうか?」

「どういう意味だ? 

 魔剣は一人一つしか現れないんだ。長期契約に意味を感じない」

「俺は魔術には詳しくないが、特定の手順で我らを召喚できるのなら、例えばある依頼主の依頼が終わり、我らの召喚手順を教える。

 それが子々孫々の危機にでも試すように言えば良い。

 後は、個人ではなく国家の依頼を受ける、とかな。こちらが大口の顧客と言う奴だ」

 

 マイザーは商人らしい切り口で我が主に説明してみせた。

 

「確かに、考慮に値する。

 恐らく僕らに時間の概念は無い。依頼主が親なら、その子や子孫に召喚させるってのはアリだ」

「後は、我が主は契約料を魔剣で払わせるようですが、個人的には他に代替できる物を探すべきかと。

 小麦などと同様に、主食は安定供給されるべきですからな」

 

 マイザーの言葉に、我が主はうんうん頷いている。

 彼の意見は尤もである。

 

「それで、僕らを確実に呼べる方法ってのは技術的に可能なのか?」

「召喚呪文に特定の文言を織り交ぜれば。

 幸い、我らの召喚難易度はかなり低いようですので、再現性はかなり高くなりましょう」

 

 教授の言葉を受け、我が主は満足そうに頷いた。

 

「よし、これからは客を選ぶ方向で行こうか」

 

 今後の方針が決定したところで。

 

「我がマスターよ、ひとつ良いでしょうか」

 

 我が主は、その声の方へ目を向けた。

 

「いいよ、彫刻家(スカルプター)

 君の意見を聞かせてくれ」

 

 我が主だけでなく、暇そうに欠伸をしていた連中も緊張感をもって彼女を見た。

 特に、元教会関係者たちは畏怖が混じっていた。

 

「私たちは本能的に、我々を知るモノの前に現れることが出来る。

 ……そういうことですよね?」

 

 皆の視線の先に居るのは、ダークエルフの魔女。

 彼女はスカルプター。序列は七十位。

 序列はエリュシオンに次ぐほぼ最下位に近いのに、誰もが彼女を“上”と認めていた。

 

「ああ」

「だとしたら、不思議だと思いませんか? 

 なぜ我々は、文化も時代も違う数多の世界へ呼び出されたのかしら?」

 

 彼女の意見に、皆が顔を見合わせた。

 

「偶然、我々が召喚魔法でその対象になった。

 スカルプター殿はそうは思えないと?」

 

 教授が問う。彼は優秀な魔術師だが、彼女に比べたら子供と同じに違いない。

 だって彼女は、我が主が生まれるより何百年前からも生きていて、我が主が死後もずっと生きていた筈なのだから。

 

 ダークエルフというのは、そう言う魔族だ。

 

「私たちが知らないだけで、死後に知名度だけが独り歩きしたと言うのはどうだろう? 

 無名の画家が死後に評価されるなんてよくある話だ」

 

 我が主の側に控える師匠が言った。

 しかし、魔女殿は納得していないようだった。

 

「それは、あり得ないのよ。

 我がマスターの知名度が、数多の異世界にまで波及するなんて」

「だから、それはなぜだ?」

「……それは──」

「スカルプター」

 

 魔女殿が何か言おうとして、我が主が制止するように声を張った。

 

「それについては、頃合いを見て僕から話す。良いな?」

「……はい」

 

 魔女殿は頭を下げた。

 

 ……なぜだろう。

 その我が主と魔女殿のやり取りに、私は言いようのない不安を抱いてしまった。

 

 

 

 §§§

 

 

「赤錆と二世、他に何人か、付いてきたい奴は付いて来い」

 

 今回は、我が主からお呼びがかかった。

 我がご主人は私を同行させないだけで、何度か召喚に応じているようだった。

 

 ただ、正直なところ、誰を同行させるかなんてあんまり意味など無い。

 我らは全体で一匹の悪魔。我が主は呼ぼうと思えばいつでも、そしてどこでも、我ら従者たちを呼びだせるのである。

 さながら、本の好きなページを開くように。

 

「二世、我が主がお呼びだ」

「分かった、すぐ行く」

 

「新しい料理の構想を得たいので、私は行きたいです!!」

「僕も、僕もたまにはお外行きたい!!」

 

 私が二世を連れてくると、近くに居たグルマンとエリュシオンが動向を希望していた。

 

「じゃあ、あと一人ぐらい」

「私が同行しましょう」

 

 そう言ったのは、ダークエルフの魔女殿だった。

 

「今日は総長が居ないのでしょう? 私がマスターをお守りします」

「なら百万人力だね」

 

 多分、比喩じゃないんだろうなぁ。

 ちなみに総長とは、師匠の事である。皆からはそう呼ばれている。

 どうやら、今回師匠は別行動しているらしい。

 

「お兄さん、僕も、僕も居るよ!!」

「はいはい、分かってるよエリュ」

 

 我が主はポンポンと彼の頭を撫でた。

 

「我が主よ、ボマーに見つかる前にいきましょう」

「そうだね」

 

 あいつに見つかると、連れていけと言うに違いない。

 そうなるとうるさいので、私たちはさっさと現場に向かうことにした。

 

 

 

 

 私達が顕現したのは、夜の森だった。

 

「ひッ!?」

 

「僕は『赤い文字の悪魔』だ。

 僕を呼んだのはお前か?」

 

 より正確には、夜の森に停車した馬車の中だった。

 そこで魔導書を手にしていた身なりのいい女性が私達をみて悲鳴を上げた。

 

「姫様、何事ですか!!」

 

 悲鳴とほぼ同時に、護衛らしき人間達が駆けつけてきた。

 

「誰だ貴様ら、どうやってここに!?」

「どうやら、お呼びじゃないようだね」

 

 面倒を嫌ったのか我が主は契約を結ぶ前に帰還しようとしたようだが。

 

「待って。皆も、落ち着いて」

 

 姫様と呼ばれた若い女性はその細い手を私達に向けた。

 

「貴方たちは、本当に悪魔なの?」

 

 彼女は意外にすぐに冷静になって、私達に問うた。

 

「赤錆」

「御意のままに」

 

 私は我が主の意向を受けて、悪魔の角と翼や尻尾などを生やして見せた。

 

「あ、悪魔だ!! 何故にここに悪魔が!?」

 

 武器を持った護衛達が騒ぎ出す。

 ……良かった。仮装っぽいって疑われずに済んだ。

 

「もう一度聞く、僕を呼びだしたのはお前か?」

「はい、そうです」

「なら名前を名乗れ」

 

 姫様は小さく頷く。

 

「エリアナ・フィオリータ・ドーンハート。

 ドーンハート王国の第一王女です」

 

 私は驚いた。本当にお姫様らしかった。

 

「その第一王女が、なんで悪魔なんて呼び出すんだ?」

「命を、助けて欲しかったから」

 

 彼女はぽつぽつと己の境遇を話し始めた。

 

 只今、ドーンハート王国は宰相のクーデターの真っ最中。

 彼女の両親は殺され、兄弟は戦って死んだ。

 彼女は唯一の王位継承者となり、されど何の後ろ盾も無い。

 そして今、信用できる護衛を連れて隣国へ亡命する最中だったらしい。

 

「ふーん、それでこんな森の中に?」

「いつ追手がくるか分からないのです。

 私も皆のように、いつ殺されるかと思うと不安で」

 

 だから、悪魔の召喚を試みた。

 まさに追い詰められた末の苦し紛れ、いや気を紛らわせる為のおまじない程度だったのだろう。

 

「わかった。お前の命を助けてやろう。

 その代わり、お前の付けているネックレスを対価として貰おうか」

 

 我が主は、姫様の首元に付けられている大粒の宝石があしらわれたネックレスを指差した。

 言われて、気づいた。

 それはタダのネックレスではない。魔剣のような魂の宿った物品のようだった。

 

「こ、これは我が国の家宝で……両親の形見なのです……」

「じゃあ、それを抱えて死ねばいいじゃん」

 

 気持ちは分かるが、この期に及んで躊躇う彼女を我が主は突き放した。

 

「……一晩、考えさせて」

「良いよ、明日の朝に答えを聞こう」

 

 それで納得した我が主だったのだが。

 

『我が主よ、私に考えがあります』

『ん? なになに?』

 

 魔女殿が念話で我が主に提案をしたのだ。

 

「気が変わった。今晩はお前の命を保証してやる。勿論、無料でだ」

「え、なぜ?」

「お試し期間みたいなものさ。

 その代わり、その働き次第で明日の朝にもう一度契約を考えて貰おう」

 

 タダより高いものは無い。

 要するに、売り込みをするのだ。

 

 そんなわけだから、この姫様……エリアナ姫とドーンハート王国とはそれなりに長い付き合いになることになった。

 

 え、まだ今日一晩エリアナ姫が生き残れるか分からないだろうから、ネタバレするなって? 

 そもそもこの言い方じゃ王国も彼女を据えて存続するみたいな言い方だって? 

 

 ──当然じゃないか。

 

 我が主と魔女殿は、傾国の災厄。

 我々がエリアナ姫に付いた時点で、その国の命運は決まったようなものだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「薬草茶です、どうぞ」

「ありがとう」

 

 グルマンは馬車に残ってエリアナ姫の面倒を見ている。

 さっきまでそこらへんの野草を貪っていたが、植生が自分の知るモノと近いと分かると、薬草を取って魔女殿の魔法で乾燥してもらってお茶を沸かしていた。

 

「二世、追っ手の確認の為に偵察をしてくれ」

「ああ、わかったぞ!!」

「……分かってると思うが」

 

 じろり、と我が主は二世を睨む。

 

「今回は“怪盗”の仕事じゃないぞ。分かってるよな?」

「そ、それは勿論……」

「僕はお前の流儀や美学を否定しないけど、今は僕の従者だ。

 お前が自分の仕事をしたい時は協力してやる。良いな?」

「わかってるさ!!」

 

 我が主に釘を刺されると、二世はばびゅんと森の奥へ消えた。

 

 あのアホに任せても大丈夫か、と思われるかもしれないが、彼女の潜入スキルは本物だ。偵察にはもってこいだろう。

 ならなぜ、毎回捕まって牢屋に入れられているのかと言うと、まあ、彼女はちょっと勘違いしているのだ。

 

 そう、怪盗は華麗に姿を現して、高笑いと共に去って行くものだと……。

 

「二世に任せて良いのか? ゲミニやサジタリウスの二人の方が適任だったと思うが」

 

 私は御主人に言った。

 ゲミニとサジタリウスは森育ちのハーフエルフで、優れた狩人だ。

 森の偵察なら二人に任せた方が適任だと私は思ったのだ。

 

「二世は、死ぬ間際に契約したんだ。

 あいつには僕の従者としての“躾”をしないとね」

「躾ねぇ」

 

 要するに、上下関係の分からせる為に今回は同行させたと言うことらしい。

 

 

「お外はもっと人がいっぱいいる場所だと思ったのにー。

 木ばっかりでつまんないー!!」

 

 待機時間が長引くと、エリュシオンが駄々を捏ね始めた。

 

「我慢しなさい。

 帰ったらグルマンにレモネードでも作ってもらおう」

「レモネード? 冷たいやつがいい!!」

 

 私が小さな怪獣を宥めていると。

 

「大変だ、大変だ!!」

 

 二世が戻って来た。

 

「どうしたのさ?」

「軍隊が大勢、森の中を移動してる!!」

 

 どうやら、本当に追手が来ているらしい。

 

「夜中なのにご苦労だな。

 それより二世、なぜ念話で知らせなかった」

「あ、ゴメン。忘れてた」

 

 こればっかりは責められない。

 自分の身体に突然三本目の腕が出来たとして、それを意識して使うかという話だ。

 

「姫様、追っ手です!! 今すぐ出発しましょう!!」

 

 偵察の結果から、姫様の護衛が馬車に走った。

 

「……わかりました。出発しましょう」

「僕らが囮になってあげるよ」

 

 我が主がそんなことを申し出た。

 

「良いのですか?」

「ああ、また明日会おう。グルマン」

「はいッ!!」

 

 グルマンが馬車から飛び出した後、エリアナ姫を乗せた馬車は出発した。

 

 それを見届けた我が主は、なぜかニヤリと笑っていた。

 

「さて、僕らは足止めでもしてやろうじゃないか」

 

 程なくして、完全武装の軍隊が草木をかき分け現れた。

 

「何者だ、貴様ら!!」

「僕らはエリアナ姫に雇われた者だよ。

 今の僕らの仕事は、お前たちの足止めだ」

「ち、邪魔をするな!!」

 

 隊長らしい男が苛立ちで顔を顰めた。

 

「ところで、お前たちの仕事は何だ?」

「知れたこと、姫を捕らえれば宰相殿の覚えも良くなる。

 さすれば我らの地位は安泰だ」

 

 下の下だな、という顔になった我が主の心中を察する。

 

「これからは宰相殿に逆らう者を炙り出すだけで贅沢な暮らしが約束されるのだ。邪魔をするな」

「わかった。ところで、グルマン」

 

 我が主はグルマンの方を向いた。

 彼女は怒りで顔を真っ赤にしていた。

 

「あいつら殺すけど文句無いよな」

「構いません」

「わかった。スカルプター!!」

 

「はい、我がマスター」

 

 スッと、魔女殿が前に出た。

 

 

「邪魔だ、女!!」

「くすくす」

 

 魔女殿は可笑しくて溜まらないと言わんばかりに、彼らを見てニヤニヤと笑っていた。

 

「何が可笑しい!!」

「裏切者を殺すのでしょう?」

 

 魔女殿はゆっくりと彼の背後を指を差した。

 

「ほら、殺さないと」

 

 隊長が振り返ると、そこには絶望が広がっていた。

 

「たいちょ、たすけ」

 

 そこに居たのは完全武装した兵士たち。

 完全武装とは、金属の鎧や剣を装備していることだ。

 

 ──石だった。

 

 彼らの半数は、石の鎧と剣で全身が覆われていた。

 いや、それは正確ではない。

 

 彼らは、石になっていたのだ。

 

「ば、化け物!!」

「殺せ、殺すんだ!!」

 

 兵士たちはパニックに陥っていた。

 なにせ、石像と化した兵士たちは半分。

 

 彼らは、味方を襲い始めたのだ。

 

「やめ、おれら、みかた!!」

「たづけ、いだいぃ、いだぃぃ」

 

 しかも、石像になった兵士たちはまだ自我があり、苦しみ叫んでいた。

 

「あっはははははははははははは!!!!!」

 

 魔女殿の哄笑が森の中に響く。

 

「ひ、ひえぇ」

「あれが、伝説に謳われる“砂漠の魔女”!?」

 

 私と二世はお互いに抱き着いてぶるぶると震えていた。こいつ意外に胸デカいな。

 

 砂漠の魔女。恐ろしいダークエルフの魔女。

 伝説によると、彼女は自分を討伐しにきた軍隊を石像に変え、それを差し向けた国の住人を皆殺しにしたと言う。

 

 私はこの光景を見て悟った。

 その伝説は、寸分違わず事実なのだと。

 

 鉄の鎧の軍勢と、石像の兵士たちの戦いは一方的だった。

 なぜなら。

 

「昔々、不死に魅せられ、狂った魔術師が居た。

 彼は最高で最強で、同時に最低最悪だった。

 あらゆる冒涜さえ顧みず、試行錯誤した。

 その研究成果が、ここに記されている」

 

 魔女殿は見せつけるように、古びたハードカバーの魔導書を手にしていた。

 タイトルは、『石化呪術書』。私が今まで見て来たどんなアイテムよりも、それは呪われていた。

 

「喜びなさい。お前たちの心も、魂も。不死となったのよ」

 

 石像たちは砕かれ、血飛沫や内臓が飛び散っても、すぐに時間が巻き戻るかのように再生していく。

 そして仲間を求めるように襲い掛かるのだ。

 

「だ、だづけでぇぇええ」

 

 身体の半分が石になった隊長が、地面を這いながら魔女殿に助けを乞う。

 

「いやだ、ああんなふうになりだくないぃぃいいい!!」

 

「ごめんなさい」

 

 魔女殿は足元の虫けらがもがく様に微笑んだ。

 

「これ、一度石化の呪いに掛かると、もう私にさえどうしようもないの」

 

 隊長は、絶望の表情のまま、完全に石像と化した。

 

 程なくして、静寂が訪れた。

 

 殺し合いをしていた軍勢は、全員が石像と化していた。

 

「さて、お姫様を迎えに行こうか」

 

 私達はその場を立ち去ろうとしたが、その前に我が主は一言。

 

「エリュ。燃やせ」

「うん」

 

 そして夜の森が、炎に包まれた。

 

 

 

 

「ち、感づいたか」

 

 姫様達にはすぐに追いついた。

 なぜなら馬車は乗り捨てられ、護衛の兵士たちは殺されていたからだ。

 

 足跡を追うと、護衛の一人がエリアナ姫を連れて逃げていた。

 

「この人は、姫を遠くの国に売る腹積もりらしいですよ」

 

 エリアナ姫は人質なのにまったりとそう言った。

 

「動くな、悪魔ども!! 

 姫がどうなっても良いのか!!」

「わーお、典型的な悪党の台詞。僕感動しちゃった」

「動くなと言ったぞ!!」

 

 元護衛は、エリアナ姫に剣を突き付けていた。

 これでは手出しができない、訳も無かった。

 

「勿論、動かないさ。なあエリュ」

「うん!!」

 

 エリュシオンの瞳が輝く。

 一瞬にして、元護衛の持っていた剣が真っ赤に溶けた。

 

「ぎゃあああぁぁ!!」

 

 熱した鉄を持つことになった元護衛はのたうち回った。

 

「い、いったいなにがあぁぁ」

「魔眼だよ。これほど強力な魔眼は僕も他に見たことが無い」

 

 最早趨勢は決した。

 

「最後に、ネタばらしをしてやる」

 

 我が主は、鏡の“魔剣”を取り出した。

 

「魔剣ファントムシフト”よ、真実を映し出せ」

 

 すると、彼が人質に取っていた姫の姿が歪む。

 そこに居たのはグルマンだった。

 

 そして、今まで私達と一緒に居たグルマンの姿が基に戻る。

 彼女こそ、本物のエリアナ姫だった。

 

「ば、馬鹿な!?」

「あのバカどもを手引きしたのもお前だろ? 

 あいつらは全員、この世のものとは思えない恐怖を味わって、焼かれて死んだよ」

 

 我が主は、片手をあげた。

 

「裏切者のお前は、王女さまへ永遠の忠誠を誓って貰う。

 嬉しいだろう? 永遠に生きられるんだ」

 

 我が主はにっこりと笑った。

 

「ひ、ひぃ、たすけ」

 

 我が主は、彼の命乞いを聞き入れずに手を振り下ろした。

 魔女殿が呪いを発動する。

 

 愚かな裏切者は、一瞬で石像と化した。

 永遠に、生きながら苦痛を味わいながら。

 

 

「そろそろ、朝だね」

 

 全てが終わり、ただひとりエリアナ姫だけが生き残った。

 

「さて、そろそろ契約の話に移ろうか」

 

 お試し期間が終わり、『悪魔』は孤独になった姫君に問うた。

 

「……ひとり、永遠に苦しませてやりたい者が居ます」

 

「良いだろう。たった一晩で、良い顔になった」

 

 我が主は私達の方を振り向いた。

 

「今日の出来事は、おとぎ話として語り継がれるだろう。

 ────悪魔と契約して、国を取り戻した王女の話として」

 

 

 その後、エリアナ姫は祖国へ戻った。

 

 悪魔の力で宰相の顔以外を石像にした彼女は、裏切者を城下町の広場に飾ったと伝わるようになった。

 延々と命乞いと助けを乞うその石像はその後数百年この広場にこだましつづけ、そこは町の中心地にも関わらず誰も寄り付かなくなったそうな。

 

 

「この度は、助けて頂いて本当にありがとうございました」

 

 エリアナ姫はすぐに女王へと即位するらしい。

 私達は数日、彼女が信頼できる部下で身を固める間滞在していた。

 

「これが、約束の品です」

 

 我が主は、家宝だと言うペンダントを受け取った。

 

「うーん、これを潰すのはもったいないなぁ」

 

 貴重品として相当な価値のあるだろうそれを見て、我が主はご満悦だった。

 

「ああそうだ、スカルプター」

「はい」

 

 魔女殿は教授が開発した召喚呪文を姫君に渡した。

 

「国家の存亡に関わる時にでも、また呼びな。

 頻繁に呼ぶようなら怒るからね」

「重ね重ね、ありがとうございます」

「わかったから、国のトップが簡単に頭を下げるなよ」

 

 いいえ、と片方が空いた玉座に座る彼女は首を振った。

 

「あなた達はこの国を救ってくれました。

 国宝だけではとても足りません」

「それを決めるは僕だ」

 

 我が主は振り返って、苦悶の表情の元護衛の石像をぽんと叩いた。

 

「これからも女王様を守ってやれよ?」

 

 以来、この国の王家は不死身のゴーレムに守られていると言い伝えられるようになったそうな。

 

「帰るぞ」

 

「はい」

 

 グルマンも宮廷料理のレシピ本を貰ったりしたし、暇だったので二世の怪盗の手伝いをしたり、エリュシオンも遊びまわれたので各々相応に満足した結果になった。

 

 悪魔によって政権を手に入れたエリアナ姫。

 彼女がどのような治世を行ったのかは、次に召喚される時の楽しみにしておこう。

 

 

 

 

 

 





彫刻家ことダークエルフの魔女殿はシリーズの他作品の主要人物にも多大な影響を与えている人物です。
詳しくは『ポンコツ勇者VSクソガキ魔王VSダークライダー』にて。

感想や高評価があれば作者のモチベーションと更新速度が上がります!!

それでは、また次回!!


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