王様との会談の後、我々は王城を後にした。
「なあ、本当に魔王と戦うつもりなのか?」
「まさか」
我が主はあっけらかんと言った。
「じゃあなんで引き受けたんだよ!?
魔王だぞ、正気かよ!?」
そう、こいつはさっき王様に安請け合いしたのだ。
魔王? うんうんおっけーおっけーなんとかしてみるわ、と雑に快諾したのである。
信じられない暴挙である!!
「落ち着け赤錆。我が主は契約をしていない」
「相手が対価を提示していない以上、所詮は口約束ですな」
イライラしている私に対して、師匠と教授が私を諫めた。
「まさかあれを本気にしたのか、お前?
仮に契約したところで、あの猿の王様は対価を払ったりなんてしないよ」
「どうして、そう思うんだ?」
「あの召喚魔法陣。一方通行だ。
呼んだ相手の帰還なんて考えていない」
それを聞いて、私は絶句した。
それはつまり……。
「私たちは捨て駒にされるのか!?
じゃあ、なんでそれをわかっていて──」
「だってお前、会ってみたいじゃん」
我が主はニヤリと笑った。その表情を見て、私たちはゲッとなった。
「魔王に、さ」
これが、本日の我が主の無茶振りであった。
§§§
王国の態度は腹立たしかったが、相手の事情がひっ迫しているのは本当らしかった。
魔王の軍勢は、この国の首都の首元にまで迫っているようだった。
王都で情報収集した限り、王国軍は連戦連敗。
次の最終決戦で敗北したらこの王国は滅亡するのだ。
かといって、逃げ場は無い。
もうほとんどの国が、陥落しているからだ。
魔王軍は本気でこの世界から人類を滅亡させようとしている。
「俺達を中に入れろ!! 殺す気かぁ!!」
「魔王軍がそこまで迫ってるのよ!! 開けてぇええ!!」
「お母さんどこぉ~、怖いよぉ」
城門の前には、難民が大勢押し寄せていた。
だが、王都の城門は固く閉ざされており、守備兵は今にも難民に攻撃を加えそうであった。
「末期だね」
我が主の言う通りだった。
城壁から見下ろす光景は、この世の終わりそのものだった。
「勇者様、こちらにおられましたか」
私達が振り向くと、神官服を来た堅物を絵に描いたような男が立っていた。
「私は神官のアルデンと申します。
陛下より勇者様たちの補佐を行えと命じられました」
「要するに、監視だろ?」
そうとも言います、とアルデンはクソ真面目に頷いた。
「ですが、勇者様がこの世界で活動するにおけるお手伝いは必要では?」
「まあ、そうかもね」
確かに、私たちはこの世界の事を知らなすぎる。
案内人が居た方が楽ではあった。
「じゃあ、魔王についてどこまで知っている」
「……魔王は、一年ほど前にこの世界に現れました。
天から地上を見下ろし、自らを神の代行者と嘯いたのです」
ふーん、と我が主は自分で聞いておきながら興味の無さそうな素振りをした。
「そして、自らこう名乗りました。
────魔王オクタビアータ、と」
魔王、オクタビアータ……か。
「魔王はどこからともなく無数の軍勢を呼び寄せ、またひとつ、またひとつと街や国を落としていったのです。
もはや我が国が、この世界唯一の国家となったのです」
「そりゃあ、勇者なんて胡散臭いモノに頼ろうとするわけだ」
そして、その最後の国家も滅亡が目前と迫っているわけだ。
「……お前は、この世界が滅びようとしてることに対してどう思う?」
それは、かなり突っ込んだ質問だった。
「私如きには何とも。ただ、滅びるべくして滅びるのだと、そう思うばかりでございます」
アルデンは城壁の縁に歩み寄り、城門に押し寄せている難民たちを見下ろした。
「陛下に、彼らを救う度量さえあれば、と。おっと、これは不敬でしたな」
「いいや、僕はお前の事を気に入ったよ。
ただの堅物かと思ったけど、自分の意思を持っている」
同じ嫌な奴に対する悪口で盛り上がるモノ同士の親近感みたいなものが、我が主には芽生えたのかもしれなかった。
「それで、魔王軍はいつ攻めてくるんだ?」
破滅の軍勢の割には、その進軍は停止している。
ここから見える景色は、地平線の果てまで魔の軍勢が陣営を構えている様だ。
まるで追い詰められたネズミの足掻きを見て楽しんでいるかのように、異様なほどの静けさだった。
「魔王は、一か月の時間をやると言ってきました。
その間に絶望するがいい、と」
「あはは、まるで大魔王ギルフェイネスの完全包囲の逸話みたいだ!!」
我が主は魔王の行動に面白がっていたが、私にはさっぱりである。
「教授、それってどういう逸話なんです?」
「大魔王ギルフェイネスは二度目の復活の際に、主要国家の都市全てを魔物の軍勢で埋め尽くしたという逸話です。
そして一週間後に攻め入って、皆殺しにしてやろうと言ったそうです」
「どこの魔王も悪趣味なんだな」
少なくとも私は、他者の命を弄んで喜ぶ気質が理解できなかった。
「それで、これから勇者様はどうなされますか?」
アルデンが問う。
ハッキリ言って、もはや個人の武力で同行できる局面ではなかった。
私達が戦ったところで、津波のように魔物の軍勢が雪崩れ込んできて本丸のこの王都は滅亡するだろう。
「とりあえず、赤錆。
サイケデリアを起こして来い」
「えッ」
私はちょっと耳を疑った。
「本気ですか、我が主」
サイケデリア。彼女は魔術師であり、我らの拠点たる城砦を構築した人物でもある。
ただ我ら従者たちの中でも、かなりイカレた人物である。
イカレ切って、逆に静かになってしまった奴なのだ。
「いいから行け」
「はい……」
私は気が重くなりながらも、城砦に戻ってサイケデリアを叩き起こした。
魔術師がイカレた野蛮な連中なのは教授の語る彼らの首魁がそうであるように、サイケデリアもまたそれが極まった存在だ。
彼女がどんな人物なのかは、それはまた別の機会にするとしよう。
§§§
虚空から、轟音と共に巨大な物質が出現する。
概念に過ぎない私達が現実に出現すると実体を持つように、それもまた実体を持って出現した。
それは、我らが居城たる城砦だった。
いやぁ、とんでもない光景である。
「所詮空想の産物でしかなかった我らの居城が、こうして実体化する。
……まさに壮観ね」
城砦のベランダから魔物の軍勢を見下ろす魔女殿がそう言った。
サイケデリアは空想を現実にする魔法の使い手らしいのだが、ハッキリ言って制約が多いらしい。
具体的には魔法の反動が彼女の死因らしいのだが、もはや肉体を失った彼女に反動なぞあってないモノだ。
だからこんな大規模な魔法行使も可能ということらしい。
「赤錆さん!!」
そして、この事態に歓喜しているアホが一人。
「アレ全部、爆破していんですよね!!」
大砲を押しながら歓喜の表情のボマーがだった。
「我が主に聞け」
と言ったモノの、多分この城砦を持ち出した時点で魔王軍と一戦交えるつもりなのは明らかだった。
「仮にも相手は軍勢だ。
一戦交えるとしても使者は必要だろうか?」
「相手は魔物どもだ。必要無かろう」
私の独り言に反応したのはリブラだった。
どうやらベランダに来ていたらしい。
「同じ魔族と言うことで、ウルフさんに行って貰うのはどうでしょう」
「それは良い考えかもしれんな」
何はともあれ、全ては御主人が戻ってからだ。
「お前たち、大事なことを忘れてたよ」
そして我が主は城砦に戻って来るなり、皆を集めた。
「この城砦の名前、考えてないじゃん!!」
知るか!!
「虚空から現れるので、虚空城で良いのでは?」
「採用!!」
そして決めるの早い!!
「さて、相手は自分たちに攻め込んでは来ないと舐め腐ってる魔王軍が相手だ。
一発かましてやって、向こうの幹部を引きずり出そう。
そして交渉の余地があるか試してみよう」
会議室は狭いので、食堂で会議が始まった。
「我が騎士、ウルフ、センセイ!!」
我が主が呼んだのは、我ら従者の中でも特に接近戦に秀でた面々だ。
「ひゃはは、腕がなるぜぇ!!」
「報酬はこの国の酒で手を打ちましょうぞ」
師匠は言わずもがな、魔族のウルフはやる気十分だ。
そしてセンセイと言うのは、東洋出身の元騎士だ。異国の言葉で先生と言う意味らしい。
「ボマー、爆弾が最強の兵器だったと言うお前の前世の知恵を借りるぞ。
敵勢を吹き飛ばせ!!」
「はい、我が主!!」
ボマーは乙女のように目をキラキラさせていた。
大丈夫かよ、こいつ。
……そして私の不安はすぐに的中することになる。
「残りは後方支援だ!!
いくぞ、お前たち!!」
こうして、私たちは初めての総力戦をすることとなった。
私はベランダに出て、誰かしらの補佐をすることになった。
この戦いで私にできることは少ない。
「敵勢、打って出てきました!!」
魔法式望遠鏡を覗いていたゲミニが叫んだ。
「どうやら、先制攻撃するまでもなかったか」
我が主はやれやれと肩を竦めた。
ここからでも遠くの軍勢の一部がこっちに攻め込んで来ようとしているのが見えた。
だがたったそれだけでも、軽く二百の敵が向かってきているように見える。
「よし、撃て撃て!!」
魔法が使えるものは魔法を、弓矢などの飛び道具を持つ者はどんどん攻撃を始めた。
火力重視の魔法が爆発し、弓矢が的確に敵を撃退していく。
しかし、この物量の前では半分も削れない。
これはこちらの攻撃が威力不足なのではない。
「あいつら、まとまりが無いな」
「恐らく、指揮官が不在なのでしょう。突発的な戦闘と言う奴ですな」
我が主と教授の言葉が聞こえる。
そう、魔物どもはバラバラにこちらに突撃してきており、効率的に敵を撃破出来ているわけでは無かった。
「それに、連中の死体が見えません」
「あれだけの化け物ども、どこに居るのかと思ったけど召喚術の類かな?」
「恐らく、そうであるかと」
確かに、大地を埋め尽くすほどの敵勢が居るのなら、この世界の覇権はとっくに魔族が掌握しているだろう。
まさに魔王の力と言うわけだろう。
そんな中で……。
「燃焼爆弾!! ブラストボム!! クラスター爆弾!!」
大砲を使って、まだ動き出していない場所を狙って爆弾を連発させているボマーが一番戦果をたたき出していた。
「はぁ~、国際法とか人道的とか下らない言い訳が無いってサイコー!!
批判なんかで日和るテロリストが居るかボケが!! 古巣のファッ〇ンケ〇穴共め、アメ公に爆撃される程度でビビりやがってよー」
爆音と爆風が次々とこちら頬を撫でる。
やべぇ、こいつヤバいよ……。
「テンション上がってきたぁ!!
我が主、私も爆発してきていいでしょうか?」
「止めろバカ」
身体に筒状の爆弾を巻き付けてるボマーを我が主が睨んで止められた。
「じゃ、じゃあ、とっておきの大型爆弾をぶっ放してもいいでしょうか!!」
「もう好きにしなよ」
ボマーのアホは、これを了承と受け取ったらしく。
「赤錆さん、とっておきのを用意したんです、見てください!!」
さっきまで本当に男のように口汚く何かを罵っていた様とはうって変わって、子供のようにキラキラした目でこっちを見ていた。
「赤錆、子守をしてこい」
我が主もこれにはうんざりした様子。
私は仕方なく彼女に付いて行くことになった。
「設計図は頭に入っていたのですけどね!! 生前は資金や設備の面で作成が不可能でした!!
ですが!! サイケデリアさんの協力で実現できたのです!!
──これを見てください!!」
「うわ」
思わず、呻いてしまった。
屋上に見たことも無い物体が設置してあったのだ。
「なにこれ」
「私は“マザー”と名付けました。原型が全ての爆弾の母と呼ばれていましたので」
デカい。とにかくデカい。
私が五人分くらいの全長があった。
まるで神殿の巨大な柱みたいな物体だった。
それにドクロマークが塗られていたのである。
「あとはこれを敵陣の約1.8キロ上空で爆発させるだけです」
「どうやって?」
「それは勿論、輸送機で……」
ボマーは押し黙った。
「いや、運べないのかよ!!」
「仕方ないではないですか、これはミサイルではないので、自力で移動もできないのです」
「つかえねぇな!!」
私はがっくりしているボマーに溜息を吐いて見せると、“マザー”を指差した。
「これ、邪魔だから片付けておけよ!!」
「そんな、これは子供のオモチャではないのですよ」
「爆弾をオモチャにしている奴が言うな!!」
ボマーの無計画のせいでぐだぐだになっていると。
「お困りのようですね」
私達が振り向くと、そこにはアルデンが立っていた。
「これを、空へ運べばいいのですね?」
「ええ、そうですが」
「何とかなるかもしれません」
「本当か?」
「はい」
アルデンは屋上に魔法陣を描き始めた。
「召喚魔法の応用で、呼び寄せるのではなく指定の位置に送り込むのです」
「へー、そんなことができるのですか」
これにはボマーも感心しているようだ。
「詠唱開始から一分後には指定の場所に出現します、準備はいいですね?」
「わかりました、そのように設定しましたわ」
ボマーが爆弾を弄ると、アルデンが詠唱を始めた。
魔法陣が輝く。
巨大な爆弾が魔法陣に落ちるように吸い込まれていく。
そして、私は目を疑った。
閃光。
身体が砕け散るような衝撃、振動。
遅れて、轟音。
城砦の縁にしがみついて、私は何が起こったのかを見た。
真っ赤に染まる大地。
空に広がる黒煙はキノコのような形をしていた。
敵軍にはぽっかりと大きな空白ができていた。
「あは、あはは、あははははは!!
やっぱ火薬よ!! 原爆とか水素とか、ロマンが無いってんだ!!
火薬こそ至高の爆薬よぉ!! 思い知ったかファンタジーども、これが科学の力よ!!」
イカレた女が両手を広げて高笑いしている。
「あ、やば、着替えてこないと……」
嬉しすぎて粗相までしやがったこの馬鹿の事は見ないことにした。
「私は我が主のところに戻るわ」
「私も勇者殿のところへご一緒します」
こうして、私はベランダに戻ったのだが。
「あはは、何あれスゴイスゴイ!!
めっちゃスゴイよ、あはは!!」
案の定、我が主は語彙力を失うほど大はしゃぎしていた。
無論、他のみんなは爆弾の威力にドン引きしていた。
「我が主、戻りました」
「ねえねえ、ボマーは? もう一回あれやってよ!!」
「あんなのはこれっきりだ!!」
あんなものは、たとえ敵にだって使うもんじゃない。
あれで戦うなんて、狂ってる。
「驚きました、勇者殿。──まさか、MOABなんて持ち出すとは」
アルデンは呆れた表情でそう言った。
「えむ、おー? それがあの爆弾の名前なの?」
我が主が首を傾げたその時、いくら私でもハッとなった。
あの爆弾の名前は“マザー”で、恐らくその正式名称はボマーの奴しか知らないはずなのである。
「我が主よ、気を付けろよ」
その時、祭服を着崩した見るからに不良神官の従者がこう言った。
彼はチェーンクロス。元教会の執行部。裏工作などを主任務とする教会の闇を担う男だった。
「そいつ、マトモな神官じゃねぇ」
私は思わず、彼から距離を取った。
「ええ、我が主はあんな暗愚などではありません」
アルデンは両手を広げ、虚空を見上げた。
「そうでございますよね、──魔王様」
私達は、彼につられて空を見た。
『初めてお目に掛かるな。『赤い文字の悪魔』よ』
そこには、巨大な映像が映し出されていた。
謁見の間らしき場所の玉座に座するのは、異形の人型だった。
それは鱗に覆われた体を持ち、竜の頭部を持ち、ローブを纏っていた。
『我が名は、オクタビアータ。
魔王一族が序列88位、偉大なる母なる神の代行者なり』
地上に、波が起こる。
いや、違った。
波のように見えたのは、地上を埋め尽くす魔の軍勢が一斉に頭上の魔王に向かって跪いたからだった。
『それにしても、意外だった。
かの伝説の『赤い文字の悪魔』が、かような幼子の姿をしているとはな』
「僕を、知っているのか?」
『我が魔王の一族で、お前を知らぬ者は居らぬよ』
魔王は気だるげに、私達を見下ろす。
「序列、八十八位? あんなのがまだ、87人もいるのか!?」
教授が驚愕の声を上げる。
私もその現実に気づいて、愕然とした。
『ああ、しかし我は兄姉たちに比べれば不肖の身だ。
それでも、四百以上居る弟妹達に示しをせねばならない身でね。数多の世界でこうして仕事をしている』
魔王が、おおよそ五百人だって?
スケールが、違いすぎる……。
「なるほど、どうして私達が全く知らない人間達の下に現れられるか不思議だったけど、その疑問が氷解したわ」
魔女殿が、魔王を見上げた。
「あなた達が原因だったのね」
『そうとも言えるし、そうでもないと言える。
詳しくは後で話そう、三大魔女の一人たる“砂漠の魔女”殿』
魔王は魔女殿の詰問に曖昧に返した。
だが問題は、彼が魔女殿について詳しく知っていると言うことの方だった。
「勇者殿。いえ、『悪魔』殿」
アルデンが、我が主に語り掛ける。
「丁度良かったではないですか。魔王様に御会いしたかったのでしょう?
あなた達を我が主、魔王オクタビアータ様がお呼びです」
その時、我が主は舌打ちでもしたさそうな顔をしていた。
次回、魔王との会談。
作者はなろう系を毛嫌いしているので、あのまま悪魔一行が魔王を素直に倒す展開になんてしませんよ!!
感想や高評価を下されば、作者のモチベーションと更新速度が上がります!!
ではまた、次回!!
どの従者のエピソードの掘り下げを見たい?
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序列一位、総長
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序列二位、教授
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序列三位、赤錆
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序列四位、二世
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序列五位、グルマン