クソザコ従者の赤錆ちゃん(仮)   作:やーなん

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醜悪

 

 

 

「そんな馬鹿な!!」

 

 そう言ったのは、私だったかもしれないし、他の誰かだったかもしれない。

 私は呆然としていたかもしれないし、うろたえていたかもしれない。

 

 とにかく、それぐらい私にとっては衝撃的な事実だった。

 

「……まさか、知らなかったのか?」

 

 魔王は我が主の方を見やると、彼は肩を竦めてやれやれと首を振った。

 

「だとしたら、悪いことをした。

 故郷の世界が無くなったという困惑と不安は、痛いほど理解できる」

 

 そう言った魔王は私達を労わるように見ていた。

 

「う、うそだ、嘘だと言ってくれ……」

 

 二世の声は震えていた。

 当然だ。例えば、あのボマーの爆弾で自分の住んでいた都市国家が吹き飛んでいた、と言われても同じ反応をしただろう。

 そんな彼女の普通さが、ありがたかった。

 

「本当よ」

 

 ダークエルフの魔女殿が、目を伏せて言った。

 

「私は、我がマスターの死後も千年以上生きた。

 この目で見たわ。荒廃し、朽ちた故郷の星を。

 それを齎した最悪の魔王“星喰い”の恐ろしさも」

 

 最悪の、魔王……。

 

「魔王の出現は、自然現象と考えられていたわ。

 その役割は過度な人類の発展の抑制や、人類の総数を一定数に保つことだと。

 つまり、リミッターが存在すると考えられた。

 魔王は決して人類を絶滅させることは無い。

 だけど、“星喰い”は違った。古代文明から発掘した兵器での戦争で疲弊した世界に、魔力を枯渇させると言う方法でトドメを刺した。

 結果、我らの住む世界は滅亡した」

 

 魔女殿の言葉に、がくりと崩れ落ちる者、呆然とする者、やはりかと納得する者など反応は様々だった。

 

「そう考えられていた、か。

 だが、恐らく事実はこうだろう」

 

 魔王はより残酷な仮説を提示した。

 

「魔王を産む我が母は、己の産まれた世界を憎んでいた。

 だから人類を滅ぼさない程度に魔王を創り出しつづけた。

 より長く、その世界の住民たちを痛めつけ、苦しませる為だ。

 最終的にその世界の滅亡の時が来た時、終幕を下ろした。それが神のとしての役割だからだ」

 

 そんな仮説は、私の耳には入らなかった。

 だって、信じられないじゃないか。

 

 幼い頃駆けまわった野山も、水浴びした川面も、町の面影さえ消え去ってしまったなんて。

 

「人間は自らの産まれた土地や、祖先が過ごしていた土地を神聖視したり、憧憬を抱く生き物だ。

 お前たちの悲しみは察して余りある。

 詫びと言ってはなんだが、この城に好きなだけ滞在するがいい。

 この世界に残された時間は一か月程度でしかないがな」

「……いや、何だか悪いね。

 これは僕の役目だったはずなのに」

「気にするな、動揺するなと言う方が無理がある」

 

 我が主がしおらしいのは久々に見た。

 彼も、己の故郷が滅んだと言うのは複雑な気分なのかもしれない。

 たとえどんなに、嫌な記憶しかなくとも。

 

「わ、私は自分の眼で見るまで信じないぞ!!」

 

 そう口にしたのが二世だったのは、或いは運命だったのかもしれない。

 

「それは、お勧めしない」

「なぜ!!」

「お前たちの故郷、即ち我らが拝する御二柱の故郷は、彼女らによって禁忌の地と定められているからだ」

 

 意味が分からなかった。

 なんで、滅びた世界の跡地が、禁忌の地として神々に名指しされているのか。

 

「悪いことは言わない。あの地に行くのはやめた方が良い」

 

 魔王の表情は分かりにくい。

 だって竜の顔がどんな表情をしているかなんて私達にはわからないからだ。

 

 だけど、その魔王の表情が強張っているのが分かった。

 

 

「──あの、我らが御二柱を崇める人々が“聖地”と呼び神聖視する、あの場所にはな」

 

 

 

 §§§

 

 

 結局、私たちは魔王……魔王様の厚意に甘えることになった。

 

 彼は滅亡の使者で、邪悪の化身なのかもしれないが、その人格は敬うに値する物だった。

 それに、彼にとってこの世界の破壊は仕事に過ぎない。

 それを咎めるならば、戦争で人を殺す人間全てを咎めなければならない。

 もう私には、彼の所業が善悪で語れない神々の行いであり、悪役として汚れ仕事をしているに過ぎないと思うと、頭が下がる思いだった。

 

 そんな魔王様と我が主が、城のベランダで見える景色を見ながら話していた。

 私はそれを我が主の側に控えて聞いていた。

 

「僕らはお前の母親を倒した仇敵なんだろ? 

 ここまで良くしてくれるのはどうしてなの?」

 

 我が主が隣に並ぶ魔王様に尋ねた。

 

「私は半神とは言え、連続した時間を生きているに過ぎない。

 かつて歴史家として生きた身としては、その身で人々の歴史を体感するのは何事も変えがたい喜びなのだよ」

 

 魔王様は立つと身長が三メートルぐらいある巨体で、我が主はその半分くらいしかない。

 その二人が並んでいると、ちょっとデコボコしてて笑ってしまいそうになる。

 

「我が母の死は、多くの世界にとって歴史に影響を与えた。

 お前たちはその特異点なのだ。

 まあ、つまりだな、そんな存在を目の前にして、私は感動しているのだ」

 

 魔王様の表情は分かりにくい。

 だが、少しだけ口調が高揚していた。

 

「歴史上の偉人がどんな人物か、誰もが夢想する。そこにロマンを見出す。

 そして、その当事者と出会う幸運などそうそうあり得ない。

 お前たちとこうして会話を交わすだけで、何事にも代えがたい価値があるのだ」

「君がミーハーなのはよく分かったよ」

 

 要するに、魔王様は歴史識者(オタク)なのだろう。

 だからもう既に滅んだ世界の歴史にくわしいのかもしれなかった。

 いや、自分の母親のルーツを確かめたいと思うのはおかしいことじゃないか。

 

「……神は人間らしさを求めている、か。

 僕は愚かさや醜さも人間らしさだと思うけどね」

「それらから目を逸らすのも人間らしさだろう。

 我らの造物主、メアリース様は人間らしさの塊だからな」

「まあ、それが人間の概念そのものってことはそうなんだろうね」

 

 なぜか、二人の背には哀愁があった。

 

「……我が主、本当にこの世界の人達は、神に見捨てられるような人たちなんですか?」

 

 私の胸にはつっかえがあった。

 だって、信じたくないじゃないか。

 

 私の故郷も、この世界みたいに滅ぼされたなんて。

 そりゃあ私達の故郷も、素晴らしい世界だったなんてお世辞にも言えない。

 だけど、滅ぼされるほど醜かったと思いたくなかった。

 

「追い詰められた時ほど、人間の本性は表れるって言うけどね。

 生憎、僕は神様は嫌いだけど、人間の善性を信じられるほど幼稚じゃないのさ」

 

 私は、その物言いが悲しかった。

 

「それこそ、悪魔で良かったと思えるほどにはね」

 

 ああ、と私はその時覚った。

 なぜ我が主が悪魔を自称するようになったのか。

 魔王の背中と、なぜ被って見えたのか。

 

 我が主は、自分が人間だと思いたくなくなるほど、人間に失望していたのだ。

 

「私、もう一度あの国に行ってくる!! 

 説得して、立ち向かうように言ってみる!!」

「あ、そう。好きにすれば」

 

 そう言った我が主の顔は冷めきっていた。

 なんでそんな無駄なことをするんだろう、と表情が語っていた。

 

 私はその視線から逃れるように、ベランダから立ち去った。

 

「ゲミニ、サジタリウス。心配だから見て来い」

 

 我が主の勅命。二人のハーフエルフのが現れ、すぐに動き出した。

 

「あの娘は、大切にしてやれ。

 あの真っすぐさがいつか救いだと気づく日がくる」

「生憎、もうとっくの昔に痛感してるよ」

 

 二人は、再び虚空を見ながら語り始めた。

 

 

 

 §§§

 

 

「なあサジ、なんで赤錆の姐さんはこんな突っ張ってんだ?」

「ゲミニ。種族に誇りを持たない私達には無縁の感情よ」

 

 私の後ろを歩く二人の会話が聞こえる。

 私だって、自覚している。私はただ、納得がいかないだけだ。

 

 神は傲慢で、不条理を課している。そう信じたいだけだった。

 

「てか姐御、ここ世界の最果てっすよ。

 どうやってあの国まで戻るつもりっすか?」

「……アルデンさんを探すつもり」

 

 私達をここまで連れて来たのはアルデンだった。

 彼に頼めば、連れてってくれるはずだ。

 

 そう考えていたのだが。

 

「貴女が赤錆さん?」

 

 廊下を曲がったところで、見知らぬ女性と出会った。

 なんとなく落ち着く顔立ちをした、深い奈落のような赤い眼をした人だった。

 

「え、人間?」

「まるで気配が無かったけど……」

 

 ゲミニとサジタリウスの二人は、まさか魔王の城でアルデン以外の人間に出会うとは思わなかったようだった。

 

「話は聞いている。私が案内してあげる」

「ありがとうございます」

 

 よく考えれば不審な点はあったけど、私にはそんなことを考える余裕はなかった。

 

「えっと、あなたは?」

「リネン。そう呼んで構わない」

 

 

 

 

 私達はリネンの魔法であの国の城下町の大通りに戻っていた。

 

「それで、無策で来たわけだけどどうするの?」

 

 フードで顔を隠したサジタリウスが言った。

 彼女は長生きしていただけあって、冷静で現実的な女性だ。

 

「まず、王様に言って難民を受け入れるよう言ってみる」

「それって、俺達ハーフエルフが人間の町に歓迎されるのとどっちが現実的なんだろうな……」

 

 ゲミニの言葉は、私を責める言葉では無かった。

 ただ彼は、私の行動の虚しさに悲しんでいたんだ。

 

「とにかく、言ってみるしかないじゃないか!!」

 

 私も半分ムキになってそう言った。

 心の中では私だって同じ意見だ。でも、それを認めたら終わりじゃないか。

 

 だが、現実はもっと残酷だった。

 

「それよりあそこ、面白いことになっているわよ」

 

 リネンがそっと、そちらを指差した。

 

 その光景を見た私は、心底寒気がした。

 

「おい!! こいつが下水道から這い出るの見たぞ!!」

「下水道の道も塞げ!! 外のクソどもを絶対に入れるな!!」

「この国はお前らのような劣等民族が入れる場所じゃないんだよ!!」

 

 どうやら、難民の一人が侵入したらしい。

 民衆はこぞって、その難民に暴行を加えていた。

 

「やめろ、やめて……」

 

 私の声はか細く、震えていた。

 

「てめぇらの国が何で俺達より先に滅んだか分かるか? お前らの国が俺達より劣ってるからなんだよ!!」

「諦めて国に帰れよ!! ああもうお前たちの国なんてないんだったな、清々するぜ!!」

「おい、こいつぶっ殺して城壁から外に投げ捨ててやれ!! 見せしめになるだろうさ!!」

 

 その光景を見た私が感じたのは──。

 

「お願いだ、見ないでくれ……」

 

 羞恥だった。

 私は耐えられず、後ろのハーフエルフの二人にそう言ったのだ。

 こんな連中が、人間の恥としか言えないクズどもが、私と同じ人間と言う種族なのが耐え難い恥に思えてしかたなかったのだ。

 

「気にしないで赤錆。もう生前に見飽きてるから」

 

 サジタリウスの憐れむような視線が、より一層私を惨めな気持ちにさせるのだ。

 

「で、どっちに付くんだ? 姐御」

 

 私はゲミニの言葉で、あの暴行を止めねば、という思考にようやく追いついた。

 

「それは勿論──」

「お前らの国のせいで、俺の息子は戦場で死んだんだ!!」

 

 私の喉は凍り付いた。

 

「私は大好きだった父が殺されたんだ、お前たちの兵隊に!!」

「僕の妹を返せ、返せよ!!」

「お前らのせいで俺の家族はずっと貧しい思いをしたんだぞ!! どう責任取ってくれるんだ!!」

 

 私は、どちらの味方なんだ? 

 憐れな難民か? 憎悪に燃える民衆か? 

 

「くくく、面白いだろう?」

 

 最初にあの光景を示したリネンが頬を釣り上げていた。

 

「あれはな、滅びを目前にした極限状態故の行動ではない。

 彼らはいつもと変わらない日常でも同じ行動をしただろう」

 

 この世の終わりに相応しい光景に、私は言葉を失っていた。

 

「赤錆、お前はアレのどこに希望を持つ? 

 無辜の民などこの世にはいない。人間とは必ず罪を犯す生き物であり、産まれながら悪を背負う存在なのだ。

 彼らのどちらに正義がある? どちらが正しいと思う?」

 

 私は。

 

 私はッ!! 

 

 

「ホント、馬鹿だなお前」

 

 難民を暴行をしていた民衆が吹っ飛ばされた。

 我が主が、蹴り飛ばしたからである。

 

「お前は誰の従者だ? 

 僕は『悪魔』。正しいか正しくないかで物事を決めたりしない。

 僕の判断こそ価値基準。唯一無二の絶対悪」

 

 彼はなぜそんなことをしたのか。

 理由は簡単だ。気に入らなかったから。それだけだった。

 後先なんてどうでも良い。目の前のそれが気に入らなかったのだ。

 

「結果的に正しいとか、人間の根源が悪だとか、そんなものに興味は無い。

 僕は僕のしたいことをする。僕らの行動の何が正しいかは僕が決める。お前はそれに従うだけでいい。

 ……お前はお前の主人に、なにか文句あるか?」

 

 ああ、と私は理解した。

 なんで我が主に、あんなにも付いてく者が多くいたのか、その理由を。

 

「いいえ、無いです」

「だったら下らないことで悩むな、馬鹿なんだから」

 

 我が主はふんと鼻を鳴らした。

 そうだった。私にとって、救いとは彼だった。

 

「でも我が主。そうやっていつも行き当たりばったりで酷い目に遭ってたじゃんか」

「もうちょっと考えて行動してほしいわ」

「うるさい」

 

 我が主はハーフエルフのコンビの抗議も無視して、私達の最後の一人に目を向けた。

 

「ようやく思い出した。

 まさかお前だったとはね。負け犬のリネン」

「私とて、お前たちに顔を見せるつもりはなかった。

 誰が好き好んで、お前などに会いに来るか」

 

 へ? 

 そして私が状況を咀嚼するのに時間が掛かっていると。

 

「改めて名乗ろう。

 我はリェーサセッタの名として崇められている、邪悪と悪逆を司る者である」

 

 リネンは、そう名乗った。

 私はようやく得心がいった。なぜ彼女の顔立ちに懐かしさを感じたのかを。

 私と、彼女は、同じ人種なのだ。

 

 酒場で相席した相手が酒神だった、なんておとぎ話は有り触れているが、まさか私自身がそれを体験するとは思わなかった。

 

「自ら神を名乗るなんて、教会をあんなに憎んでたお前のプライドの無さには感心するよ」

 

 我が主は、彼女を煽った。

 あの魔王を総括する、母なる偉大なる女神を。

 

「ふッ」

「何が可笑しいんだよ」

「お前は何も分かっていないのだな」

 

 煽られたにも関わらず、女神の化身は皮肉気に笑うだけだった。

 

「私は崇められているから仕方なく神を名乗っているだけだ。

 私自身、自らが神だと思ったことなど無い」

 

 

「──アレに比べたら、な!!」

 

 

 その態度は我が主や私達が、神と同列の存在だと言われたことに実感が無いからの発言とは、全く違っていた。

 ある種鬼気迫る、言葉では説明できない感情があった。

 

「伝言だ。最後の一人を迎えに来い。以上だ」

 

 リネンは、我が主にそれだけを伝えると、霧のように姿が消えてしまった。

 

「最後のひとり、だと? あいつ何を知っている!!」

 

「……」

 

 心当たりがあった。

 私は立場上、従者たち全員に話しかけて、名前と序列をメモしていた。

 

 そして、たったひとり、序列七十一位。

 魔女殿とエリュシオンの間の一人だけ、我ら従者たちから欠けていた。

 

「しかも迎えに来いって、どこにだよ」

「そもそも誰の伝言なのかしら」

 

 ゲミニもサジタリウスも困惑している。

 

「ふん、これまでの話の流れで、僕らが行かなければならない場所なんて一つしかないだろ」

 

 だが、我が主はもう気づいていた。

 

 

「そう、僕らの故郷。“聖地”だよ」

 

 

 

 §§§

 

 

「そうか、もう行くのか」

 

 魔王オクタビアータ様は、私達との別れを惜しむようにそう言った。

 

「僕らには行かなきゃならない場所が出来た」

 

 我が主は端的にそう言った。

 

「出来れば我が配下の四天王として、仕えてくれればと思ったのだがな」

「君には世話になったけど、それはごめん被るよ」

 

 それは魔王様なりの冗談だったのか、彼は笑って流した。

 

「行くのだな、“聖地”に」

「うん」

「あの場所は普通ではない」

 

 魔王は真顔になって、私達を見た。

 

「以前、我に尊敬できる兄が居た。

 魔王の仕事は破壊だけではない、御二柱の影響下の世界の管理も行う。

 兄はもう成長の見込みも無いほど管理下の世界を発展させた。

 だが、御二柱の故郷たる“聖地”に巡礼を申し出た直後、御二柱の怒りに触れた」

「……」

「我らを愛してくれている母が、即座に我が兄を殺した。

 文明の発展を望み、巣立ちの時を迎えた世界をメアリース様は消し去った。

 我が母は泣いていた。私もそれを見て、かの地を暴くことは諦めた。

 それほどまでに、禁忌なのだ。あの場所は」

 

 そして、そんな場所に来いと、それを禁忌とした女神が言った。

 こんな異常事態は他にないだろう。

 

「わかった。君の母親は気に入らないけど、君には本当に世話になった。

 この誓約の魔剣に誓おう。今後、君のキョウダイを殺すことはしない、と」

 

 我が主は、誓約の魔剣を取り出した。

 これを取り出すことの重要性は、私達の誰もが知っている。

 

「ふはは、我ら一族を不死身と知っての物言いか!!」

 

 確かに、魔王様にとっては笑い事だろう。

 私達は魔王様の軍勢にすら対抗できないのだから。

 

「ああ。その代わり、あの女の使いっ走りに疲れたら僕が君を殺してやるよ」

 

 だけど、我が主は真剣だった。

 それを見て、魔王様も笑みをこぼした。

 

「それには及ばんよ、我は御二柱の理想に共感している。

 人間は尊く、美しい心を持っているのだと、災厄に負けない可能性を秘めているのだと!! 

 それを示してくれる、本当の勇者を待ち望んでいるのだから」

 

 そっか、と我が主は頷いた。

 

「じゃあ、また会えたら会おう」

「うむ、達者でな」

 

 我が主は魔王様に背を向けた。

 

「我が主、どうやって“聖地”に行くのだ?」

 

 二世が問う。

 それもそうだ。簡単に行けるのなら、“聖地”などと神聖視されていないだろう。

 

「僕らには、これがあるだろ」

 

 我が主は、黄金の鍵の魔剣を取り出した。

 

「あ、それは!!」

 

 それは、二世の祖父が残してくれた代物だった。

 

「初めから、決まってたんだろうさ。

 僕らがこの時、この瞬間に“聖地”に向かうのは」

 

 我が主は忌々しそうに呟いた。

 それは、それは、なんて回りくどく、壮大な回り道だろうか。

 

「さあ、“マスターオブマスターキー”よ!! 

 今こそ僕らを、僕らの故郷に導け!!」

 

 そして、私達の姿はこの世界から消え去った。

 

 

 

 

 

 

「…………」

「ね? 私の話に乗って、良かったでしょ?」

 

 魔王は『悪魔』達が消えた場所を見続けていたが、背後から聞こえて来た声に振り向いた。

 

「アンズ様」

 

 魔王は、そこにいる“運命”そのものの姿を認めたのだった。

 

 

 

 

 





次回、帰還。

どの従者のエピソードの掘り下げを見たい?

  • 序列一位、総長
  • 序列二位、教授
  • 序列三位、赤錆
  • 序列四位、二世
  • 序列五位、グルマン
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