暗殺教室 孤独な捨て子の物語   作:rixk

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はい、どうも皆さん。 そろそろこの前書きの存在意義を見失いかけてきました。
ぶっちゃけ需要すらわからない上に書く内容が段々減っているせいで本格的に即刻本編入った方がいいんじゃないかなぁって・・・・・。

まあ作者のことは置いといて本編どうぞ!!







21話 球技大会の時間

 

 

 

 

 

──夢を、見た。

 

記憶が、思い出が、憎しみが、感情が、あらゆる全てが狂気の虚空に呑み込まれ、自我も意思も何もかもを失った抜け殻となって、やがて忘却の深淵へと沈んでゆく。

 

そんな夢を、俺は見た。

ただの夢だと断じるのは容易い。 だが、何故か俺の直感はこれをなんらかの予兆だと捉えている節がある。

 

梅雨の開けた晴れ空の下、世間的に見れば悪夢、俺にとってはある種の吉夢かもしれない夢について思考を巡らせていると、いつの間にかもうE組校舎に辿り着いていたようで、教室に入り真っ先に律の方へ向かう。

 

「や、おはよ、律」

 

『おはようございます! 蓮霧さん』

 

「早速で悪いんだけど、内部でカーボンって鍛造できる? 炭素はこっちで用意してきたんだけども」

 

そう言うと、懐から大量の炭素で構成されたものを入れた鞄を取り出して中身を見せる。

 

『・・・・・なるほど。 先日砕けた刀の代わりに鍛造カーボンで刀を造り、対先生物質で刀身を覆えばよろしいでしょうか?』

 

「わお、俺まだ最初しか言ってないのにもう全部わかったのか・・・・・。 それで、頼めるか?」

 

『お任せください! 完成まで数日かかりますが大丈夫でしょうか?』

 

「ダイジョブダイジョブ。 どのみち右手は戦闘じゃ数日使えないし、それまでは左手一刀でなんとかするさ」

 

『かしこまりました!』

 

そう言うと律は地面にある鞄の中身を内部に取り込み、内部で音を立てて製作に入った。

 

「・・・・・それと、この前はごめんな」

 

『・・・・? 蓮霧さんに謝られるようなことはされてなかったかと思いますが・・・・・』

 

「あはは、こっちの話。 この前のイトナの話を聞いた時、"あれだけ人間より速くって強調されてた律が純人間に越されてる"って思っちゃってさ。 蓋を開けてみたらイトナはそんな大層な奴じゃなかったから謝ろうと思って」

 

『そういうことでしたら気にする必要はありません。 こと戦いにおいて私が彼と比べて圧倒的に劣っているのは事実ですので・・・』

 

「・・・そんなことはないよ。 俺だって、何でもできるけどその代わりに何一つ極められないんだ。 何を長所として、それで他をどう補うかだって俺は思ってる」

 

「お~、なんか朝っぱらから蓮霧がいいこと言ってら」

 

「なんというか、少し意外だな。 今のお前もそういうこと言うんだ」

 

・・・・・俺の私見を基に律を励ましていると、いつの間に入ってきたのか横から前原と磯貝の感心するような揶揄うような声が聞こえてきた。

 

「ハハハ、おはよう前原に磯貝。 あまり茶化すとチャカ出すぞ?」

 

「「そうだったコイツはこういう奴だった」」

 

「まったく・・・・・」

 

やれやれとため息をついて二人の方へ向き直る。

 

「これでも、修学旅行のあたりからちょっとは真面目に生きてみようかなって思ってるんだぜ?」

 

「ははっ、そっかそっか。 じゃあ来週の球技大会でも協力してくれよ?」

 

「・・・・・えー、勘弁してくれよ。 俺まだイトナの触手受けた右手が完治してないんだけど」

 

「あー、そっか。 悪い、無視強いはしないからさ」

 

「そう言われると断りづらいな・・・・。 ま、どうなるかはHRで決まるだろうしその時にでも」

 

「おう、それもそうだな」

 

そんなこんなで朝の時間が流れ、学校行事の一環である球技大会についてクラスで色々決める時間。

 

「クラス対抗球技大会・・・・・ですか。 健康な心身をスポーツで養う、大いに結構! ・・・・・・ただ、トーナメント表にE組がないのは何故です?」

 

「E組は本戦にエントリーさせてもらえないんだ、1チーム余るっていう素敵な理由で。 んで、その代わりに大会のシメにエキシビションマッチに出なきゃいけない」

 

「エキシビション?」

 

「言ってしまえば晒し首だネ。 E組(小動物の群れ)を日頃から鍛えてる部活連中(猛獣の群れ)が虐殺して栄光(笑)を示し、敗者は俺達が惨めに蹂躙される様を見ることで優越感に浸る為の下らないイベントさ」

 

(((((なんだかいつにも増して口悪いな・・・・・)))))

 

「なるほど、いつものやつですね」

 

三村の説明の後を継ぐようにエキシビションマッチの説明をすると、殺せんせーは腕を組んで頷いた。

 

「俺ら晒し者とか勘弁だわ。 お前等で適当にやっといてくれや」

 

「あ、おい寺坂!」

 

予定調和かのように寺坂組が離脱を表明して去っていった。

磯貝よ、協調性のない奴に何を言ってもムダだぞ、俺だってそうなんだから。

 

「ま、やっぱアイツらはそうだよな。 カルマと蓮霧は帰らないんだな?」

 

「まーね。 つい最近野球部の奴に煽られたからさ、キッチリやり返してやんないと」

 

「周りが不可能だと思ってる盤面をひっくり返す瞬間が一番面白いんだ。 愉悦のため、楽しむため、俺は協力するよ」

 

前の方から聞こえてきた木村の問いに答えてやると、寺坂組のせいで生じた重い空気が少し晴れたような感じがした。

 

「野球となりゃ頼れんのは杉野だけど、なんか勝つ秘策ねーの?」

 

「・・・・・無理だよ。 最低でも三年間野球してきた野球部(アイツら)と、ほとんどが野球未経験のE組(俺等)。 いくらカルマと蓮霧が協力してくれたとしても、野球ってのは一人や二人のスーパープレーでキャリーできるような競技じゃない」

 

痛い所を突くな・・・・・。 俺もカルマも世間一般的に見れば"天才"に該当する。

だが、いくら俺達が天才でも、経験が足りないのは事実だし、どっかのマッハ20さんみたく分身できるワケじゃないから守備は自分だけじゃできない。

 

「それにさ、かなり強ぇーんだ、ウチの野球部。 特に今の主将の進藤、剛速球で高校からも注目されてる。 ・・・・俺からエースの座を奪った奴なんだけどさ、勉強もスポーツも一流とか、不公平だよな、人間って。 ・・・・・けど、だけど、勝ちたいんだ、殺せんせー」

 

杉野は、確かな決意を抱いて殺せんせーに語っている。 後ろからでも瞳に光が宿っているとわかるほどハッキリと、確固たる意志を持って"勝ちたい"、と。

 

「善戦じゃなくて勝ちたい、好きな野球で負けたくない。 野球部追い出されてE組に来て、むしろその思いが強くなった。 E組(こいつら)とチーム組んで勝ちたい! ・・・・まぁでも、やっぱ無理かな殺せんせー」

 

そう聞かれた殺せんせーだが、いつの間にやらユニフォームに着替え、バットにグローブ、竹刀に野球盤を持ってワクワクしながら教卓に立っていた。

 

「ヌルフフフ、先生一度スポ根モノの熱血コーチをやってみたかったんです。 殴ったりはできないのでちゃぶ台返しで代用します」

 

「「「用意良すぎだろ!!?」」」

 

「最近の君達は目的意識をハッキリと口にするようになりました。 殺りたい、勝ちたい、どんな困難な目標に対しても揺るがずに。 その心意気に応えて、殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「で、何でこっちに付いてきたんだい? てっきり君はあっちで練習するものと思っていたけど」

 

「そんなの俺が聞きたいよ・・・・・」

 

現在、俺は殺せんせーの命で竹林と共に野球部の偵察に向かっている。

何故と聞かれても命じられたからとしか言えない。

 

 

 

 

◁ 回想 ▷

 

先に殺せんせーに頼まれて野球部の偵察へ向かった竹林と離脱した寺坂組を除いた男子全員がジャージに着替え、さあいざトレーニング開始というところ。

うっきうきでバットを刀のように抜刀しようとしたところで殺せんせーにこう告げられた。

 

「あ、蓮霧君は竹林君と野球部の偵察に行ってください」

 

「・・・・・What??」

 

「君の右手は完治してないのですから今回はくれぐれも安静に。 君のやる気を買って守備には就いてもらいますが、打撃はベンチで待機です」

 

「・・・・・・もし断ったら?」

 

「ふむ、では少々お耳を拝借・・・」

 

そう言うと殺せんせーは俺の耳元まで接近し、小声でこう告げてきた。

 

「その場合は、先日の銀髪少女の正体を皆さんに公開しましょうかねぇ?」

 

「・・・・脅してるんですか? バラさないって約束でしょう? まさか生徒との約束を破る気じゃあありませんよね?」

 

「おや、あの約束は"あの時に君の存在を秘匿する"、というものであって、先生が少女の正体を言わないという恒久的な効力はありませんねぇ」

 

「・・・・謹んで拝命させていただきます(ニッコリ」

 

こうして自身の敗北を悟った俺は、精一杯の笑顔を浮かべ、先に山を下りていった竹林を追い下山を始めたのだった。

 

(((((あの蓮霧が素直に言うこと聞くなんて、一体殺せんせーは何を言ったんだ・・・・?)))))

 

 

 

 

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「・・・・・なるほど」

 

本校舎へ向かいつつこっちに来たあらましを説明すると、竹林は合点がいったように頷いた。

 

「ま、怪我人はあまり体を動かすべきじゃないってのは僕も同意見だ」

 

「んー、つっても軽い捻挫だし、自然治癒も早い体質だから大丈夫だと思うんだけど・・・・」

 

「ダメだ。 そういう自己判断が一番危険でね、怪我の悪化を招きかねない。 君も薄々わかっているから右手を使わずに左手で刀を握っているんだろう?」

 

「痛い所を突くなぁ・・・・。 ま、無理言ってるってのは理解してるさ。 でもいざってときは俺が動くからね」

 

「あぁ、君の発言を真とするなら来週にはおそらくほとんど治ってるだろう。 病み上がりで万全の状態を期せるかは疑問だが止めはしないさ。 それはそうと、もうそろそろ本校舎のグラウンドだ」

 

「オッケ、それじゃあ偵察開始と洒落混みますか」

 

そうして竹林と二人でグラウンド付近の植栽に紛れ偵察を行う。

殺監督の指示では、進藤の球を撮影及び分析すればいいそうな。

さてさて、それではお手並み拝見──

 

刹那、キャッチャーミットから"パンッ!!"と快音が響いてきた。

 

「・・・・・なるほど、速いな」

 

「あぁ、だが見切れない程じゃない」

 

「それは君の話だろう。 みんながみんな普段から至近距離で武器や拳を見切ってるわけじゃない。 ましてやE組に落とされたみんなにそんな経験があるわけないだろう?」

 

「それはそう。 って言いたいところなんだけどさ、あのタコ、まーたとんでもねぇことしてやがった」

 

竹林を追う前、本校舎に溶け込むため制服に着替えた際に横目で見たのだが、中々にえげつないトレーニングをしていた。

 

「ほう? それはまた興味深いな、聞かせてくれ」

 

「・・・・えっとね、時速300kmの球を投げ」

 

「・・・・・・はい?」

 

「分身で鉄壁の守備を敷き」

 

「まぁ、それは納得できるか・・・・?」

 

「そして囁き戦術で集中を乱す。 三村は校舎裏でエアギターやってたのを暴露されてた」

 

「・・・つまり生徒のスキャンダルを本人に直接告げるのか・・・・・」

 

「そういうこと。 これがトレーニング中ずっと繰り返される」

 

「・・・・・恐ろしいな」

 

「俺もそう思う」

 

ぶっちゃけあの光景を見た後だとこっちに配属されたのはある意味幸運だったかもしれないだなんて考えすら浮かんでしまう。

 

「あ、そういえばこの時期は他のクラスも球技大会の練習してるしさ、ちょっと知り合いの様子見てきていい?」

 

「あぁ、別に構わない。 正直君は本校舎でも悪い意味で有名だからかえって目立ちそうだしね」

 

「おけ、んじゃちょっくら行ってくる。 何かあったら連絡してくれ」

 

と、いうことで許可を貰ったので目的の人物を探してグラウンドの外を隠密行動する。

野球部以外の場所から甲高い打撃音が聞こえたらそこが目的の場所・・・・・。

 

そんなことを考えていると野球部の反対側から球をバットが打ち抜く快音が聞こえ、こっちに飛来してきた打球をキャッチする。

 

「・・・・・ナイスホームラン。 流石だね、琥珀」

 

「・・・人を二つ名の比喩部分で呼ぶのはやめてくれないか? 琥珀じゃ誰かわからないだろう」

 

「いいじゃないか、俺とお前の仲だろ?」

 

「周りに対して敵意バチバチのお前が言っても説得力がだな・・・」

 

呆れたようにジト目でこっちを見てくる刃にボールを投げ返す。

そのまま立ち話をしてると、刃を呼び戻しにクラスメイトと思われる奴が一人こっちへ向かって来た。

 

「御剣、いつまでその狂人と話してるつもりだ。 戻って練習再開するぞ」

 

「ほら、お友達が呼んでるよ? 球技大会当日は声援送ってやるから頑張りな」

 

「・・・あぁ」

 

「おいイカれ野郎。 御剣と話すな、狂気が移る」

 

「あははっ、ヒドいなぁ。 俺はこんなにも善良な一般生徒だぜ?」

 

「そういうところが狂ってるんだよ、今すぐ失せろ。 E組は用もなく本校舎に立ち入ってはならないって決まりだろうが」

 

「はいはい、それじゃあね。 明日も茶々入れにくるからそのつもりで」

 

「来るな」

 

追い返されたので渋々竹林のところへ戻る。 あんなに敵視することないのに、俺は基本無害なんだけどなぁ。

 

「おや、存外早かったね。 野球部は今休憩時間だ、これから進藤は打撃練習に入るらしいから今日はこれ以上の成果を見込めそうにない」

 

「了解、こっちも旧友の元気な姿を見れたことだし戻ろっか」

 

「あぁ」

 

こうして一日目の偵察は終わった。

そうして翌日、翌々日と偵察を続け三日後。

 

「「「「「はあ・・・はあ・・・・・はあ・・・・・・・」」」」」

 

「うわ、みんな揃って満身創痍だ・・・」

 

殺せんせーにそろそろ戻って情報を共有するように言われてE組のグラウンドへ戻ると、見事に疲弊しきったクラスメイト達が死屍累々としていた。

 

「先生のマッハ野球にも慣れてきたところで、次は対戦相手の研究です。 この三日間、竹林君と蓮霧君に偵察してきてもらいました」

 

「・・・面倒でした」

 

「不本意でした~!」

 

「君は琥珀の剣聖にちょっかいかけてただけだろう」

 

「いやいやいやいやいや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そうして球技大会当日。 E組と野球部のエキシビジョンは最後なのでそれまでは俺達も観客の一員である。

で、今俺は何をしているのかというと・・・・・

 

「かっとばせ~! じ・ん・ちゃ~ん!!」

 

とまあ、この前約束したとおりバッターボックスに立つ刃に全力の声援を送っている。

 

「だから・・・、"刃ちゃん"はやめろって・・・、言ってるだろうがァッ!!!

 

『打ったァー! 伸びる伸びる!! ホームラン!!! 琥珀の剣聖がホームランを打ったァーーー!!!』

 

この一球が決定打となりB組がD組を下して決勝に進出した。 なおA組とも接戦を繰り広げていたが、先週に杉野が言っていたようにチームプレイの野球では刃一人でキャリーしきれず、惜しくも二位という結果で終わってしまった。

 

『それでは最後に、E組対野球部選別のエキシビジョンマッチを行います!』

 

そうしてユニフォームに着替えた野球部が入場し、早々にバッティングやピッチングの練習に励み始めた。

 

「うわ、イージーウィンのワンサイドゲームになんであんなやる気出せるんだ・・・・」

 

「野球部としちゃあ、全校生徒にいいとこ見せるいい機会だしな。 それに俺等相手じゃ、今蓮霧が言った通りコールド勝ちで当たり前。 最低でも圧勝が義務だから、あっちはあっちで情け容赦なく本気で来るぜ」

 

そうこうしてると試合前の整列の時間。

 

「学力と体力を兼ね備えたエリートだけが、選ばれた者として人の上に立てる。 それが文武両道だ、杉野。 お前はどちらも無かった選ばれざる者、選ばれざる者がグラウンドに立ってるのは許されない。 そいつら共々、二度と表舞台を歩けない試合にしてやるよ」

 

言いたいことだけ言って進藤は野球部のベンチへ向かって去っていった。

ちなみにE組は先攻なので俺の出番はなし、ベンチで大人しくしてろとの命令なんでね。

 

「そーいや殺監督は? 指揮するんじゃないのかよ」

 

「あそこだよ。 烏間先生に目立つなって言われてるから────」

 

渚が指し示した方を見ると、ボールの一つに帽子をかぶったボールが転がっている。

 

「────遠近法でボールに紛れてる。 顔色とかでサイン出すんだって」

 

そうして見てると殺監督は青緑、紫、黄土色の順に顔色を変えた。

 

「なんて?」

 

「えーっと、"殺す気で勝て"ってさ」

 

渚がサイン表から該当する内容を探して口にされた一言。 それはやる気に溢れた野球部に少々気持ちで後れを取っていた皆の戦意を引き上げるのに十分すぎる程の効果をもたらしてくれた。

 

『一番サード、木村君』

 

「やだやだ、どアウェイで学園のスター相手に戦闘打者かよ」

 

軽くストレッチをしながら愚痴り、バッターボックスに向かった木村。

最初の一球は見送り、殺監督の指示を仰ぐ。

 

『さあ進藤、二球目・・・・、投げたッ。 おっとバントだ! いいところに転がしたぞ! 内野誰が捕るかで一瞬迷った!』

 

捕球した奴から一塁へ球が投げられるが、そこはE組イチの俊足を持つ木村、当然楽々セーフ。

続く渚、磯貝も同じくバントを成功させアッサリ満塁。

ま、当然の結果だ。 なにせアイツらは300kmの球を三日間見せられてたんだ、それに比べて進藤は140km。 確かに速いが殺投手の半分以下、"たかが"と形容できる速度である。

 

『ちょ、調子でも悪いんでしょうか進藤君・・・!』

 

満塁で迎える四番打者は当然ウチのエースたる杉野である。

しかし杉野も同じくバントの構え、進藤の目にも怯えのようなものが映る。

それを抑えた一球、そこで構えを解いて打撃に転ずる。

 

打球は深々と外野を抜け、走者一掃のスリーベースヒットを叩き出した。

 

な、なんだよコレ予定外だ・・・。 E組三点先制ー!!』

 

さて、ここまでは作戦通り。 この分なら最終兵器君の出番はなさそうだけど、約一名それを看過しなそうなお人がいるんだよねぇ。

その考えを裏付けるかのように視界の端にスーツを着た人影が映る。

 

「顔色が優れませんね、寺井先生。 すぐ休んだ方がいい、部員たちも心配のあまり力が出せていない」

 

「り、理事長! いや、この通り私は元気で────」

 

「病気でよかった。 病気でもなければ、このような醜態を晒す教師が私の学校に在籍してるはずがない」

 

そう言って人影・・・、理事長が野球部顧問の寺井先生に額を当てる。 そうすると恐怖のあまりか泡を吹いて倒れてしまった、いと哀れ。

 

『今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で、野球部員も先生が心配で野球どころじゃなかったとのこと。 それを見かねた理事長先生が急遽指揮を執られるそうです!!』

 

ここまでの野球部とさっきまで余裕そうだった寺井の様子を見ていれば一秒でそんなことないとわかるくらい破綻しまくってる情報だが、椚ヶ丘(ここ)じゃE組以外ならこんなのも通ってしまう。

 

「相変わらずディストピアだなぁ、ここは・・・・」

 

『いくつか指示を出して理事長が下がりました! さぁここからどのように・・・・・、こ、これは・・・!? 守備を全員内野に集めてきた!? こんな極端な前進守備は見たことがない!!』

 

「バントしかないってバレてるな・・・」

 

「つってもダメだろあんな至近距離! バッターの気が散って集中できねぇよ!!」

 

「ルール上ではフェアゾーンならどこを守っても自由だね。 もちろん審判がダメだと判断すれば別だけど、審判の先生はあっち側だ。 期待はできない」

 

タイムが明け試合再開、しかし前原はボールを打ち上げてアウト。 続く岡島と千葉も三振し、一回裏へ交代となった。

 

守備ではファーストとしての仕事があるので念のため構えていたのだが、杉野はストレート特化の進藤とは異なり変化球が強い。

大きく曲がる変化球で奪三振を繰り返し、一発も打たせることなく一回裏を終わらせた。

 

このまま進めれば最初のリードを保ったまま逃げ切れるのだろうが、向こうのベンチでは理事長が進藤を絶賛改造中。

 

「繰り返し言ってみよう、"俺は強い"」

 

「・・・俺は強い」

 

「"腕を大きく振って投げる"」

 

腕を大きく振って投げる

 

「"力で捻じ伏せる"」

 

力で捻じ伏せる

 

「"踏み潰す"」

 

踏み潰す・・・・・!」

 

いや、おっそろしぃ・・・・。 絵面が完全に洗脳のアレなんだよな、まずいことになりそうだ・・・。

 

二回表、打順はカルマから。 野球部は相変わらずのバントシフト。

ところで、なぜかカルマは打席に入らない。 なんかさっき、唐突に足元から生えたタコつぼになにか言われてたけど、何をするつもりだ・・・?

 

「ねーえ理事長センセー、これズルくない? こんだけジャマな位置で守ってんのにさ、審判の先生なにも言わないの、お前ら観客もおかしいと思わないの? ・・・あーそっかぁ! おまえ等バカだから、守備位置とか理解してないんだね♪」

 

うーん、煽りよる。 ほら見なよ観客も滅茶苦茶キレて・・・・、いやキレすぎじゃない?

おいそこ空き缶とかゴミを投げるんじゃない、回収する人のこと考えろよ民度悪いなぁ。

 

「あーあー、好き勝手に物を投げ入れやがって。 目障りだから回収して捨ててくるわ」

 

「そこで迷わず回収して捨てに行くあたりお前って結構マトモだよな・・・」

 

さて、ゴミを一通り回収し捨て終わってベンチに戻ると、カルマ、三村がアウトを取られ木村が打席に立っている状況に。

絶対手ぇ抜いたろカルマ・・・。

 

そして二回裏の守備、ここでは魔改造された進藤の長打によって二点を返されてしまう。

俺の守備位置はファースト、外野まで飛ばされてしまえば俺ではどうしようもない。

 

「蓮霧君」

 

守備を終えてベンチに戻ると、足元から殺監督が生えてきた。

 

「うわ、今度は俺のところにタコつぼが・・・」

 

「三回の表、最初に代打で出てください」

 

「へぇ・・・、やっとか。 何をすればよろしいので? 一発ホームラン? ファウル連打で体力削り? はたまた煽って集中力を削ぐとか? 指示さえもらえれば何でも遂行しますよ?」

 

「ふむ、では今言ったこと全部お願いします」

 

「「「「「全部!!?」」」」」

 

「い、いやいや殺監督! さすがのコイツでもそれは無理ですって!!」

 

「そうこなくっちゃねぇ!! さっすが監督は俺のやりたいことをよく理解している」

 

「お前本気か!? お前は俺等と違って二日しか練習できてねぇだろ!!?」

 

「言ったろ? "誰もが不可能だと思う盤面をひっくり返す瞬間が一番面白い"って。 今回はお前達の反応を愉しませてもらうよ?」

 

そう言って不敵に笑うとバッターボックスへ歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 









はい、後書きです。

まずは本編にあった赤文字の補足をば。


赤文字について : 当シリーズでは、何らかの精神干渉で"強制的に言わされている"、"強制的に思わされている"部分を赤文字にします。
これは外的要因、いわゆる"本人の意思によらない"場合のみに適用されます。

今回の進藤なんかは、本人がそう望んだ部分こそあるものの、理事長先生によって言わされることで自己暗示をかけているので"本人の意思によらない"場合に該当します。(作者個人の見解および解釈です)

逆に、例えば"命令されて"言う言葉などは赤文字に該当しません。 これは簡単で、"命令に従う"という"意思決定を行っている"からということになります。

要するに、"本人の意思が介在する余地があるか否か"で赤文字の是非を判断しています。

(なお、今後作者がここに書いた事を忘れて赤文字を使っていた場合はやんわりと指摘していただけると幸いです。)


まあ、補足はこのくらいです。



ではここからは普通の後書きです!

先日、この作品を最初から読み返してみたのですが、改行や()の使い方、セリフの区切り方、視点の変え方等が結構変わってることに気付きました。

そこでひとつお聞きしたいのですが、序盤の方の改行を今のに合わせて修正した方がいいでしょうか・・・?

作者の個人的な疑問で申し訳ないのですが、お答えいただければ幸いです。


では、ここまで後書きを読んだ物好きな方、そしてここまで読まずにブラウザバックした方も、また再来週の火曜日に会いましょう!

では!



改行について

  • 今のまま放っておいていい
  • 今のバージョンに統一した方がいい
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