はい、どうも。 今回もギリギリで仕上げました。 やっぱ人間締め切りに追われると必死になって終わらせるモンですね。
おかげで作者は今頃寝不足でヒイヒイ言いながら働いてますヨ。 まぁこの前書き書いてる時点じゃ単なる予想でしかないわけですが。
皆さんもプライオリティーはしっかり管理しましょうね・・・、まぁ私は成功体験あると後悔しても反省はしないタイプなんで手遅れですが・・・。
それじゃ、くっだらない作者のプライベートはその辺にポイして本編行きましょー!
◁ 時は数分遡り、校庭 ▷
「さあ、烏間。 保健室へ行った二人以外から一人、お前の育てたイチオシの生徒を選べ。 そいつと俺が戦い、俺に一度でもナイフを当てられればお前の教育の方が上だったと認め、大人しくここを出ていこう」
対殺せんせーナイフを手に持ちそう言った鷹岡の言葉に、ある者はナイフを手にやる気を見せ、ある者は安堵する。
「ただし、もちろん俺が勝ったら一切口出しはさせないし、使うナイフはこんなオモチャじゃない」
そう言って自らの鞄の側にナイフを放り投げ、鞄から一本の、
「殺す相手が人間なんだ、扱う刃物も本物じゃなくっちゃなぁ」
「よせ! 彼らは本物を扱う訓練などしていない!」
「安心しな、寸止めでも当たったことにしてやるよ。 俺は素手だし、見ての通りついさっき斬られたばかりの手負いだ。 さっきのガキは俺にこれだけの傷を付けた、同じ烏間の教え子なんだ、コイツらも同じことをできるはずだぜ?」
赤黒く染まったシャツと焼け爛れて血が固まっている痛々しい傷痕を示しながら巫山戯た論理を振りかざす。
「さぁ! 選べよ、烏間! 選ばないなら無条件で俺に服従だ! 生徒を見捨てるか、それとも生贄に差し出すか、どっち道ヒドい教師だなぁお前は! はっははは!!」
始めて眼前で見る"
そんな中、烏間は一人迷っていた。 今この場にいる者の中に、一人だけ可能性のある者がいる。 しかしその生徒を危険にさらしていいのか、そうしてでも鷹岡のやり方を否定しなければならないのか。
そんな葛藤の中、しかしその足取りに躊躇いはなく───
「───渚君、やる気はあるか?」
それを聞いた皆が疑問と驚きに満ちる中、烏間は自らの見解を続ける。
「選ばなければならないのならおそらく君だが、返事の前に俺の考えを聞いてほしい。 地球を救う暗殺任務を依頼した側として、俺は君達とはプロ同士だと思っている。 そしてプロとして君達に払うべき最低限の報酬は、"最低限の中学生活を保障すること"だと思っている。 ・・・だから、無理にこのナイフを受け取る必要はない」
そこで一度鷹岡の傷跡を見やり、続けてこう言った。
「蓮霧君の攻撃が与えた傷跡は本物の刃物で与えた斬撃とも遜色がない。 鷹岡が提示した条件を彼は既に満たしている。 だからその時は俺が鷹岡に頼んで"報酬"を維持してもらえるよう努力する」
それを聞いた渚は少し考えたのち、ナイフを受け取った。
「・・・・・・やります」
その目に迷いや怯え、弱気な様はなく、強い意志に満ちている。
その心にあるのは、烏間への強い信頼。 そして前原や神崎、蓮霧のやられた分を返さんとする決意。
「おやおや、よりによってそんなチビを選ぶとは・・・、お前の目も曇ったなぁ烏間」
「渚君、鷹岡は素手対ナイフの戦いも熟知している。 全力で振らないと掠りもしないぞ」
「・・・・・はい」
そうして決闘という名のワンサイドゲームが始まった。 誰もが息を呑む静寂の中、クラスメイト達の心情は渚への心配と悲観で溢れている。
そんな視線を向けられながら、渚は本物のナイフを手に迷いながらも烏間のアドバイスを思い出していた。
『いいか、鷹岡にとってこの勝負は見せしめを目的とした"戦闘"だ。 二度と皆を逆らえなくするためには攻守ともに強さを見せつける必要がある。 そしてそれは先程の蓮霧君も同様だ。 彼の場合は鷹岡の教育を自分だけに課してもらうため、自らがそれに値するだけの力を示す必要があった』
烏間のアドバイスではそこで一旦区切り、先に挙げた二人と渚との決定的な違いを口にした。
『・・・だが、君の場合は彼らと違って"暗殺"だ。 彼らのように強さを示す必要はなく、ただ一回当てればいい』
(・・・そうだ、闘って勝たなくていい。 殺せば勝ちなんだ)
渚は笑った。 ナイフを片手に、恐れもなく、迷いもなく、笑って、歩いて、そうして普通に近づいてナイフを振った。
首元まで接近したナイフを見てようやく自らが殺されかけていることに気付いた鷹岡はギョッとして大きく体勢を乱した。
渚が鷹岡の服を引っ張ると重心が後ろに偏っていた鷹岡はあっけなく転び、そのまま渚は背後に回って首筋にナイフを当てた。
「・・・つかまえた」
「そこまで! 勝負ありですよね、烏間先生」
いつの間にやらその場に飛んできていた殺せんせーがひょいと渚からナイフを取り上げ、バリボリと嚙み砕く。
「まったく、生徒に本物のナイフを持たすなど正気の沙汰ではありません。 ケガでもしたらどうするんですか」
そんな教師陣をよそに級友達が渚に駆け寄り祝福と称賛、安堵の言葉が飛び交う。
「やったじゃんか渚!」
「大したモンだよ、よくあそこで本気でナイフ振れたよな」
「いや・・・烏間先生に言われた通りやっただけで・・・。 鷹岡先生強いから、蓮霧君みたいに本気で振らなきゃ驚かすことすらできないかなって。 ・・・って痛っ! 何で叩くの前原君!?」
「あ、悪い・・・、ちょっと信じられなくてさ。 でもサンキュな渚! 今の暗殺スカッとしたわ!」
そんな彼らを遠巻きに眺めながら烏間は先ほど渚が見せた"暗殺の才能"に頭を悩ませていた。
(この才能は喜ぶべきことなのか? このご時世に暗殺者の才能を伸ばしたとして、
「烏間先生、今日は随分と迷ってばかりいますねぇ。 あなたらしくない」
「・・・悪いか」
「いえいえ。 でもね、烏間先生────」
そうして殺せんせーが続けようとすると、殺されかけた恐怖で放心していた鷹岡が起き上がり今にも渚に襲い掛からんとしていた。
「どいつもこいつも俺に逆らいやがって・・・! まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか!? もう一回だ! 今度は絶対油断しねぇ、身も心も全部残らずへし折ってやるゥ!」
「・・・確かに、次やったら絶対に僕が負けます。 でも鷹岡先生、一つハッキリしたのは、僕らの"担任"は殺せんせーで"教官"は烏間先生です。 これは絶対に譲れません。 父親を押し付ける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。 ・・・本気で僕らを強くしようとしてくれたのは感謝しています。 でも、ごめんなさい、出て行って下さい」
渚は毅然とそう言い放ち、頭を下げた。
「────教師をしてて一番嬉しい瞬間はね、迷いながら自分が与えた教えに生徒がハッキリ答えを出してくれた時です」
「さっ・・・きの奴といい・・・、ガキの分際で、大人になんて口を・・・!」
そうして鷹岡は渚に襲い掛かる、がしかし彼が渚にたどり着くことはなく。
瞬間追い付いた烏間によって顎に肘を入れられ、後方から飛来した刀の柄に強く頭を打ち付けて仰向けに倒れ伏す。
「「「「刀!?」」」」
「おーおー、戻ってきたらなんだか大変そうなことになってんねぇ」
「・・・なんでその怪我でまだそんな動きができるのよ・・・」
「いや~、俺も結構しんどいんだけどねぇ。 ま、反射よ反射。 おかげさまでさっきより体が痛てぇぜ・・・」
声のする方を見ると、階段の上から刀を正確に蹴り飛ばした蓮霧とそれを支える速水の姿が目に入る。
「皆、俺の身内が迷惑をかけてすまなかった。 後の事は心配するな、俺一人で君達の教官を務められるよう上と交渉する。 いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」
「ぅぐ・・・・、やらせるかそんなこと、俺が先にかけあって・・・」
「交渉の必要はありません」
先程まで蓮霧達がいた校舎の方から厳かな声が響き渡る。
そこにはこの学校の支配者たる浅野學峯が立っていた。
「・・・ご用件は?」
「経営者として様子を見に来てみました。 新任の先生の手腕に興味があったので」
そう言いながら鷹岡の前まで歩いていくと倒れる鷹岡の横で屈み、至近距離で鷹岡の目を見つめながら続けた。
「でもね鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった。 教育に恐怖は必要です、一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。 ・・・が、暴力でしか恐怖を与えることができないのならその教師は三流以下だ。 自分より強い暴力に負けた時点でそれの授業は説得力を完全に失う。 ・・・あなたの場合は一度ならず二度も負けた」
そう言うと一度立ち上がり、一枚の紙を取り出して何か書き、それを鷹岡の口に捻じ込んだ。
「解雇通知です。 以後あなたはここで教えることができない」
そうすると用件は済んだと言わんばかりに踵を返し、去り際に一言、
「ここの任命権はあなた方防衛相にはない。 すべて私の支配下だという事をお忘れなく」
────と言い残して校舎を去ってゆく。
クビを言い渡された鷹岡もまた、屈辱に表情を歪ませながらこの場を走り去っていった。
「鷹岡クビ・・・」
「ってことは、今までどおり烏間先生が・・・」
「「「「「・・・・・よっしゃあ!!!」」」」」
「理事長もたまにはいいことするじゃんよ」
「あっちの方がよっぽど怖いけどね・・・」
「そうだ、蓮霧は大丈夫か?」
「うん、さっき血迷って刀蹴り飛ばしたからまた痛くなった。 小太刀とトランプとナイフの回収に来ただけなのにどうしてこんな目に・・・」
周りから傷の心配をされながら武器の回収をする蓮霧や鷹岡のクビを喜ぶ生徒達を見ながら、烏間は隣に立つ殺せんせーにひとつの問いを投げ掛ける。
「・・・例えばお前は、彼らが"将来は殺し屋になりたい"と言ったらそれでも迷わず育てるのか? 彼等にはその才能がある、そして少なくとも蓮霧君はそれに気付いている。 お前の暗殺に役立つかはともかく、人間相手なら彼らは有能な殺し屋になれるだろう」
「・・・・・答えに迷うでしょうねぇ。 ですが、いい教師は迷うものです。 本当に自分はベストな答えを教えているのか、内心は散々迷いながら生徒の前では毅然と教えなければならない。 決して迷いを悟られぬよう堂々とね。 だからこそカッコいいんです、先生という職業は」
烏間が生徒達を見ながら殺せんせーの言葉を心に留めていると、生徒達から声がかかる。
「ところで烏間先生さ、生徒の努力で体育教師に返り咲けたし、なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」
「そーそー、鷹岡先生そういうのだけは充実してたよね~」
「・・・フン、甘い物など俺は知らん。 財布は出すから食いたい物を街で言え」
「「「「「やったー!」」」」」
「おー、いってらっしゃ~い」
「あれ、蓮霧は来ないのか?」
「この怪我じゃ無理よ、無理。 ということで保健室で安静にしながらお土産待ってるね♪ 俺の好みはそれを把握してる人に聞いてちょうだいな。 それじゃあね~♪」
そう言うと蓮霧は校舎の方へ戻っていく。 そうして蓮霧とこの場にいなかったカルマを除いた全員で街へと向かって行ったのだった。
・・・・・・殺せんせーが報酬にあやかろうと土下座しながら歩いてついてきたのは別のお話。
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「あー、いたたたた」
土産を頼んで同行しない旨を伝えた俺は再び保健室に戻ろうと足を引きずっていた。
「ほんっと、なんであの場面で刀蹴っちゃうかなぁ・・・」
自身への恨み節を唱えながら先刻の行動を思い返す。
・・・さっきのアレはほとんど無意識だった。 渚に鷹岡が襲い掛かろうとする予兆を感じ取って、烏間先生が止めるとわかっていたにもかかわらず刀を軽く投げ上げて全力で蹴り飛ばした。
おかげでこのザマだ、笑えないな。 いつまでこうして偽善的なエゴイストでいるのだろう。
今更そんなことをしても贖罪にすらならない。 ・・・わかっているだろう? 俺の行動存在その須らくに意味はない。
いつまで、過去の正義に縋っているつもりだ・・・! クソッ、修学旅行の時に余計な意思表明なんてしなければこんなに苦しまずに壊れれたハズだったのに・・・!
「・・・蓮霧君」
「・・・っ! ・・・倉橋か、みんなと街に行ったんじゃなかったかな、それとも俺に何か用かい?」
「お礼を言いに来たんだ。 さっきは助けてくれてありがと」
「んー? あー、気にしなくていいヨ」
「・・・でも、そんな怪我までして」
「へーきへーき、このくらいの怪我ならしょっちゅうやってたからさ。 俺もここ来る前は野蛮でねー・・・って、今も大概だけど」
そう言うと少し倉橋の顔が明るくなった。
「そんなことより、早くいかなきゃ皆に置いてかれちゃうよ。 俺は保健室でゆっくりくつろいでるからさ、ほら、行った行った」
「・・・うん、それじゃあまたね、蓮ちゃん!」
そうして倉橋は皆を追って校舎を後にした。 ・・・さて、俺もさっさと保健室に────
「────ッ・・・・」
マズい、意識が怪しくなってきた。 さすがにムチャしすぎた、か・・・・・・・・・・。
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(・・・・・・・・・・)
・・・気が付くと、柔らかなベッドに寝転がされている感覚がする。 瞳を開け、上体を起こそうとすると全身に痛みが走る。
「ッうぐ・・・」
やむを得ず再びベッドに身を沈めて周りを見渡す。 天井を見た段階でわかってはいたがここはE組の保健室、時計に目を向けると最後の記憶からあまり時間が経っていないことがわかる。
おそらくまだ皆は戻ってきてはいない、倉橋も完全に校舎から出ていたので倒れたことには気付いていないだろう。
消去法で俺をここまで運んだのは殺せんせーということになる。 土下座しながら走ってついて行ってたのにわざわざ戻ってきたのだろう、ありがたい反面、少し申し訳ない気もするな・・・。
「・・・おや、目が覚めましたか」
・・・予想通り、少しすると殺せんせーが隣に立っていた。
「おはようございます・・・って言うのも変な気はしますが、何はともあれありがとうございます。 殺せんせー」
「えぇ、おはようございます。 それにしても、随分と無茶をしましたねぇ・・・」
「あはは・・・ほとんど無意識でやってましたからね。 ほーんと、厭になりますよ、このクダラナイ正義感のような自己満足には・・・」
「・・・・・蓮霧君」
「・・・なんでしょう?」
殺せんせーの口調が真面目なモノへと変わったのを察知しこちらも真面目モードに移行する。 とはいえ、何を話すのかは不明だが大方あの謎の紫電についてとかだろう。
・・・ちなみにアレに関しては一切の心当たりがない。 いやマジで。
「・・・君は、"希死念慮"を抱いていますね?」
「・・・さぁ、なんのことやら」
「鷹岡先生の拳を烏間先生が止めた時、君が小さく"もう少しだった"と呟いたのを、先生は聞き逃しませんでした。 君はあの時、自身が皆の身代わりとして使い潰され、そしてその果てに死ぬことを望んでいた。 ・・・違いますか?」
「・・・・・・・違いませんね。 けど、それで何も問題ないでしょう? 一人生贄に捧げるのなら俺が適任なのに違いないんですから」
「・・・・・それは違います。 君は既にこのクラスで皆にとってかけがえのない友人となっている。 君が自らを犠牲にして得た平和では、皆の心は晴らせません」
「・・・それがなんだって言うんです? 俺はただ延々と重ね続ける罪悪を清算するために苦痛を伴う死を求めてる。 善行なんてモノを積むつもりはないし、これからも悪業を重ねるなら善行なんかじゃ帳消しにはできない。 あれだって、俺の望む死の副産物として皆の安寧が付随してたのであってその後皆がどうなろうが知ったこっちゃない」
「・・・・・・」
「・・・・・今の俺に何を言ってもムダですよ。 ひたすらに自分を欺き続けている者は、往々にして自分の本音から目を逸らし続けてしまうんです」
・・・そう、俺はいつからかずっと自分を欺いている。 いつからだったかは忘れたしどうでもいい。 目で追うだけならば"真実"は見えてこない。 逆に言うなら、視線さえ奪えれば真相はいくらでも隠蔽できる。
トランプやナイフを使った視線誘導の小技はよく戦闘での常套手段としているけど、その小技は己の心理を欺く視線誘導から着想を得て考え付いた・・・。 皮肉なものだね。
「・・・・・この話はやめにしましょう。 正直、俺は日常で殺されるには実力がありすぎる。 油断していたとはいえ、軍の精鋭である鷹岡先生にすら一度は勝ちかけてしまったんですから」
「・・・・・わかりました。 ではせめて一つだけ君にアドバイスを。 君の病的なまでに自罰的で自己否定的な性格を、先生は否定しません。 これまでに形成された人生観や死生観に基づくその考え方は、そう簡単には覆らないでしょう。 ・・・ですが、君が死ぬことで悲しむ人がいる、君のことを大切に思って気にかけている人がいる。 せめて、これだけは忘れないでください」
「・・・えぇ、存じてますよ。 そのことからも、必死に目を逸らしているということも、俺はわかっています。 きっかけさえあれば、きっと・・・・・・」
そこまで話して、ふと身体の痛みがだいぶ引いていることに気付いた。 視線を身体に向けると、いつの間にやら処置が施され、傷口がほとんど塞がり普段と遜色ないレベルまで治療されている。
「あ、治療ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず。 生徒が怪我をする事態を止められなかったのは先生の怠慢ですので」
「さいですか。 じゃ、俺はひと眠りしますね。 お土産が届いたら起こしてくださいな」
「えぇ、おやすみなさい」
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◁ 一方その頃、街にて ▷
「・・・・・凜香ちゃん、どうかしたの? さっきから思い詰めたような顔してるけど」
「・・・え? 私そんなに顔にでてた?」
「山下りる時からずっと浮かない顔してたよ?」
「・・・そう。 ちょっと蓮霧のことで考え事してただけだから気にしないで」
烏間先生の奢りということで皆で街に繰り出している中、蓮霧へのお土産を考える中で保健室での蓮霧との会話を思い返しながらあの子とどう向き合えばいいのか頭を悩ませていると、それが顔に出てたらしく矢田と倉橋に心配された。
「・・・あ、烏間先生、蓮霧へのお土産はこのコーヒーゼリーと甘さ控えめチョコ増し増しのアイスをいくつかお願いします」
「ああ、わかった」
あの子へのお土産も無事に確保できたので再び蓮霧との会話を思い返す。
・・・私は、蓮霧みたいに強くない。 去っていく蓮霧の後を追うことができなかった、一年近くもの間、罪悪感であの子と関わろうとしなかった。 何度も、何度もチャンスはあった、同じ学校同じクラスなんだから機会なんていくらでもあった。
・・・けど、そうしなかった。 そのせいで、いつしか私達は疎遠になって、蓮霧はどんどん歪んで、壊れて、孤立していった。
昔からずっと、蓮霧は献身的で自己犠牲的だった。 そんな蓮霧にいつからかひそかに憧れて、私も誰かの役に立ちたいと思うようになって・・・・・。
それなのに、私は一番助けになれなきゃいけない弟に何もできなかった。
・・・今日、保健室で数か月ぶりに蓮霧と二人きりになった。 私は、ずっとわからなかったことをあの子に聞いた。
"どうして、自分の身を省みないで誰かのために戦えるのか"、を。
返ってきた答えは"わからない"。 でも、あの子は理由があったと言った。 何か、あの子にとってとても大切だったことだ、って。
遮られて話を切り上げられたけど、多分蓮霧は、ずっと疎外感を感じてたんだと思う。
あの子は自分が"道端に捨てられた赤子"だということを知っていた、覚えていた。 だから、家族の中で血の繫がりがないことに疎外感と孤独感を感じてて、それでも育ててくれた恩に報いようとして自分の身を削ってでも皆を守ろうとした・・・。
・・・けれど、そのルーツを思い出せなくなったら身につけた力を持て余すだけ。 きっと、それが今の蓮霧の狂気的な暴力性の根源なのだろう。
でも、さっき話してハッキリした。 蓮霧の本質は何も変わってない。 今も、優しくて自罰的、誰よりも周りのために行動できて皆のためなら自分がどうなろうと構わない。
・・・・・本当は、そういうところは危なっかしいからもっと自分を大切にしてもらいたいけれど・・・。
「・・・ふむ。 速水さん、蓮霧君へのお土産はこんなものでいいだろうか?」
烏間先生にそう問いかけられたので思考を中断してカゴの中に入っているスイーツを一通り見渡す。
「はい、どれもあの子が気に入ると思います」
「それはよかった、では会計を済ませてくる。 皆も楽しめたようだし、アイスが溶ける前に彼に届けに行くとしよう」
そう言うと烏間先生は蓮霧へのお土産の会計を済ませに行く。
「・・・私も、もっと強くならないと」
梅雨の日、あの子のために強くなろうと誓った。 けど、まだ今の私じゃ鷹岡に打ち勝った蓮霧には遠く及ばない。 蓮霧は"俺が正常に戻る日を信じていればそれでいい"って言っていたけど、その日が来たとして・・・きっとそこに蓮霧の心からの笑顔はない。
あの子とまた一緒に笑い合うためには、蓮霧をあそこまで追い込んでしまった私がそこから引っ張り上げるだけの力をつけなきゃいけない。
E組の山へ皆と戻りながら、また一つ在りし日の思い出を取り戻すための決意を誓った。