暗殺教室 孤独な捨て子の物語   作:rixk

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どうもこんにちは、あるいはこんばんは。
隔週投稿作者にござりまする。
なぜだか今回過去最長になりました。 キリの良いところで区切っときゃーよかったものを・・・・。

それじゃあ長いけどお楽しみ下さい!


追記:えーっと、操作ミスにより完成即日投稿やらかしました☆
しゃーないのでこのままで、次回投稿は多分再来週の火曜か水曜だとお知らせしておきます。




26話 水泳の時間

 

 

 

「「「「「・・・暑っづい・・・・・」」」」」

 

夏、日差し、山奥、空調なんてないE組の校舎・・・。 イコール地獄。 みーんなほとんどダウンしてるヨ・・・。

あ、俺は数分前から既に虫の息。

 

「だらしない・・・、夏の暑さは当然のことです!」

 

ビシッと指し棒で黒板を叩きながら殺せんせーがそう言った。 流石超生物、この程度の暑さはなんともないってこt・・・・・

 

「温暖湿潤気候で暮らすのだから諦めなさい・・・、ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます」

 

「「「「ずりぃ!!!」」」」

 

前言撤回、顔を上げたら殺せんせーもへばってた。 しかも一人だけ逃れようとしてやがる。 なんてひどいんだ。

 

「でも今日プール開きだよねっ、体育の時間が待ち遠しい~」

 

「いや、そのプールが俺等にとっちゃ地獄なんだよ・・・。 なんせプールは本校舎にしかないんだから、炎天下の山道を一キロ往復して入りに行く必要があるんだ。 本校舎(あっち)じゃ"E組死のプール行軍"なんて呼ばれてる、特にプール疲れした帰りの上りは力尽きてカラスのエサになりかねねー」

 

倉橋の期待と希望のこもったポジティブな言葉は、木村の説明によって一刀両断される。

 

「それでも気休め程度にはなるでしょー・・・。 ある程度手ぇ抜けば帰りの体力も回復すると思うのぜー」

 

「「「「E組屈指のフィジカルお化けに言われても説得力ねぇよ・・・」」」」

 

一応俺も現実的なラインで希望を示そうとしたのだが、見事に一蹴されてしまった・・・。

 

「なー殺せんせー、本校舎まで運んでくれよー」

 

「んもーしょうがあないなぁ・・・、と言いたいところですが、先生のスピードを当てにするんじゃありません! いくらマッハ20でもできないことはあるんです!」

 

「・・・だろーね・・・」

 

「ですが、気持ちはわかります。 仕方ない、全員水着に着替えてついてきなさい。 そばの裏山に小さな沢があったでしょう。 そこで涼みに行きますよ」

 

 

 

 

・・・そうして水着にジャージで殺せんせーに着いていく。

俺は山奥で稽古をする時に気分転換がてら山を探索することがあるのだが、確かにその沢は見たことがある。 で、そこはギリギリ足首まで浸かる程度しかない本当に小さい沢で、クラス全員で涼むには正直な話、いささか役者不足に思える。

 

「そういや渚君も蓮霧クンもこの前の暗殺凄かったらしいじゃん。 見ときゃよかった二人の暗殺」

 

「ホントだよー、カルマ君面倒そうな授業全部サボるんだもん」

 

「えーだってあのデブ嫌だったし」

 

「・・・・? あれ、渚、茅野、俺鷹岡が来た日なにかしたっけ?」

 

「「え?」」

 

「いやいやいや、倉橋さん庇って鷹岡先生と闘ったじゃん!」

 

「・・・・うーん、アタマ打ったからかあの日の記憶がどーにも曖昧で・・・。 健忘症かなぁ・・・」

 

カルマ達の会話によるとどうやら俺は鷹岡から倉橋を庇って流れで一戦交えたらしい。

・・・こう、なんというか、あった事は出来事として覚えているがそこで起きた事、話した事などの内容が思い出せない。

・・・ま、特に支障はないだろうからいいんだが。

 

「・・・さて皆さん、先程先生はマッハ20でもできないことがあると言いました。 そのひとつが君達をプールに連れて行くこと。 それには一日かかります」

 

「一日って・・・。 本校舎のプールなんて歩いてせいぜい20分・・・」

 

「おや、誰が本校舎のプールまで行くと?」

 

そう言った殺せんせーの背後からは水の音が聞こえる。

それに気付いた皆が音のする方へ駆け出し視界を遮る茂みをかき分けると、そこには岩場に囲まれ、25mコース二本、寛ぐのにいいベンチ、遊べる広いスペースの完備された大きなプールがあった。

 

「なにせ小さな沢を塞き止めたので、水が溜まるまで20時間! シーズンオフには水を抜けば元通り、水位を調整すれば魚も飼って観察できます!」

 

・・・なんと高性能で万能なプール。 なるほどこれなら殺せんせーでも一日かけなければ制作することはできないだろう。

 

「制作に一日、移動に一分、あとは一秒あれば飛び込めますよ」

 

いやっほぉう!!と叫びながら皆が飛び込んだ水しぶきを浴びながら俺もジャージをそこらに脱ぎ捨ててプールに入る。

・・・なるほど確かにこれはいい。

 

「渚、蓮霧・・・あんたら────」

 

プールでてきとーに浮き沈みしながら遊んでいると、近くにいた中村が俺と渚を見ながらなにやら神妙な面持ちでこう言ってきた。

 

「────男なのね」

 

「今更!?」

 

「仕方ないヨ、渚。 俺等中性的で声も高い方だし」

 

「渚はもう違和感ないし、蓮霧も髪伸ばすかウィッグでもつければ女で通用するっしょ。 お二人さん、女装とか興味ない? 似合うと思うよ?」

 

「しないよ!?」

 

「・・・・・・・渚、安心しろ。 お前が女装(そっち)側にいったら俺も同伴してやるから」

 

「しないからね!? さも僕が今後女装するみたいな言い回ししないでよ!?」

 

・・・言えない。 正体隠匿のためとはいえ、プライベートで外を出歩く時は基本女装してるなんて。 なんなら一度もバレたことがないだなんて・・・。

 

あまり弄り倒すのも可哀想なので渚を連れてその場を離れる。 すると背後からホイッスルの音が鳴り響いた。

 

「ピピッ! 木村君! プールサイドを走っちゃいけません、転んだら危ないですよ!」

 

「あ、すんません」

 

「ピーッ! 原さんに中村さん! 潜水遊びはほどほどに! 長く潜ってると溺れたかと心配します!」

 

「「は、はーい・・・」」

 

「ピッ! 岡島君のカメラも没収! ピピッ! 狭間さんも本ばかり読んでないで泳ぎなさい! ピーッ! 菅谷君! ボディーアートは普通のプールなら禁止ですよ!」

 

う、うるさい・・・。 最初の木村のは正論、岡島のも正しいな。 原と中村のはまぁ心配なのはあの過保護教師なら納得できなくはない。

ただ、狭間のはあんたの要求だし菅谷のはそんな大声出して注意するほどのことではないと思う・・・

 

「ピッ! 蓮霧君はなんでさも当然のように刀を持ち込んだまま入ってるんですか! 没収するので一旦上がりなさい!」

 

「いやです、刀の抵抗で動きが鈍らないようにする稽古中なんだから邪魔しないで・・・ってかわざわざ上がらせないで水に手ェ突っ込んで強奪しなさいよ!」

 

「エッ」

 

・・・何故だろう、殺せんせーが詰まった。 そもマッハなんだから水に手ェ突っ込んで刀の一本や二本簡単に回収できるだろーに。 何故だかプールに入ってからやったら身体が重く感じるから尚の事。

 

そんなことを考えながらジトーっとした目を殺せんせーに向けていると、殺せんせーの方へ倉橋が泳いでいくのが視界の端に映った。

 

「そんなカタいこと言わないでよ殺せんせー! 水かけちゃえ!」

 

「きゃんっ!」

 

水をかけられた殺せんせーはまるで女子みたいな悲鳴を上げた。

予想外の反応に皆が動きを止めていると、カルマがスーッと近づいていって殺せんせーの座ってる監視台を揺らす。

 

「きゃあっ! ゆらさないで水に落ちる!」

 

続けざまに揺られてる殺せんせーに向けて中にたっぷり水を入れた鞘を投げつける。

 

「いやーっ!」

 

そうすると殺せんせーは監視台から飛び降りてプールサイドでぜぇはぁ言っている。 鞘には対先生物質が一切含まれていないにもかかわらずそれを必死になって回避した。 ・・・つまり、

 

「いや別に泳ぐ気分じゃないだけだし。 水中だと触手がふやけて動けなくなるとかそんなことないし」

 

・・・この反応でクラスのほとんどが察しただろう。 ・・・殺せんせーは、泳げないと。

思えば、水分に弱いというのは前々からそういう場面があった。 梅雨の時、湿気でさえあれだけ水分を含んで膨らんでいたんだ。

空気中の水分だけでああなるのなら水そのものに弱いというのは案外簡単に結び付けられそうなものだったが・・・。

 

「手にビート版持ってるじゃん。 てっきり泳ぐ気満々かと・・・」

 

「これビート版じゃありません。 ふ菓子です」

 

「「「おやつかよ!!」」」

 

これまでに集めた弱点の中で最大級といえるだろうこの弱点。 おそらく皆ならうまいこと利用しようとあれこれ試行錯誤するのだろう。

・・・とりあえず俺は避けられて森の奥まですっ飛んでいった鞘を回収しに行こう。 意味もなく刀持ってるってのも物騒だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その日の放課後、片岡の招集によってプールサイドに集まったE組の面々。

内容は今日判明した殺せんせーの弱点、水殺について。

 

「まず問題は、殺せんせーが本当に泳げないのかどうか」

 

「湿気が多いとふやけるのは前に見たよね」

 

「ああ。 さっきも、倉橋が水をかけたとこだけふやけてた。 もし仮に全身が水でふやけたら、死ぬまではいかなくとも、極端に動きが悪くなる可能性は高い」

 

「だねぇ。 人間ですら水中じゃあ抵抗で動きが鈍くなるんだし、あの図体で水中にいたらどれ程速度が落ちるのやら」

 

「だからね、皆。 私の考える計画はこう────」

 

そうして片岡は自身の計画として、この夏で殺せんせーを水中へ引き込みそこに水中で待機していた生徒が仕留める、という作戦を話した。

もっとも、俺の意識は別の方向・・・・・なんとも居心地悪そうな不満の込もった目で遠巻きにこっちを見ている三人組を捉えていた。

 

「あれ? 蓮ちゃんどこ行くの?」

 

「秩序維持」

 

「・・・なんだそりゃ」

 

「なーんかさっきから不満そうな目でこっちを見てる奴がいるからさー。 邪魔されないよう、監視役が必要だろ?」

 

「あー、寺坂たちのことか。 あいつらとも一緒に平和にやれないもんかね・・・」

 

「・・・少なくとも、今は無理だろうねー。 せめて、反骨精神と自分勝手なわがままの分別が付かないうちは、ね」

 

あいつらのアレは反骨精神じゃない。 ただ不満で、このクラスがいやだいやだと言いながら変わろうとも変えようともせず、ただ現状を受け入れることすらせずに停滞を続けているだけ。

・・・ま、変わろうとしないで停滞してるのは俺も同じだが。 そう考えれば案外同じ穴の貉かもナ、ははっ。

 

「私としては、蓮霧君も水中で一緒に待ち構えてくれると心強いんだけど・・・」

 

「勘弁してよー・・・。 俺にそんなやる気ないんだから、そんな期待されても成果は望めないよ? 代わりに、絶対ジャマはさせないからさ。 ・・・あいつらじゃ俺は突破できないし、最悪武力行使も辞さない」

 

「物騒だからその刀に手をかけながら言うのやめような。 お前が言うとシャレになんねぇ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・冗談・・・だよな?」

 

「・・・ふふっ」

 

「おいアイツ止めろ!!」

 

面白そうだったので意味ありげに微笑を浮かべながらその場を去る。

一部の面々が追ってきたが、木村の次に素早い俺には追い付けない。 あっさりと撒き、適当な茂みに隠れて寺坂たちの動きを注視しながら皆が追跡を諦めて会議に戻るのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その日の夜遅く、何故か俺はE組の山奥にいた。

 

「・・・うーん、ホントになんで?」

 

確か今日の放課後に寺坂達を監視して、アイツらが特段なにもせずに帰ったのを見届けて・・・・・。

 

・・・おかしい、そこから先の記憶が思い出せない。

 

「・・・HEY律」

 

『・・・蓮霧さん、私はスマホの音声アシスタントではありませんよ? それでご用件は?』

 

律ならスマホから様子を見ていただろうし記憶の空白で何をしてたか教えてくれるだろうと思い某S○riみたいに律を呼ぶと、少しムッとしながら応答してくれた。

 

「寺坂達が帰った後から今に至るまで、俺が何をしてたか教えてもらっていい?」

 

『はい、かしこまりました。 あれから蓮霧さんは現在地である山奥へ移動しいつも通り稽古に励んでいました。 ただ・・・・・』

 

「ただ?」

 

『・・・見ていた限りですと、いつもよりも動きそのものがぎこちなく感じられました。 まるで自身の身体を使い慣れていないような・・・。 普段の蓮霧さんとは異なり力任せで、どこまでが限界点かを探っているような印象を受けたことを覚えています』

 

「・・・ふーん」

 

『何かお心当たりが?』

 

「いいや、なんにも」

 

そう言われて軽く刀を抜くと、確かについさっきまで使用された痕跡が残っている。 まぁ、そも律が嘘をつくとは思ってないが俺がここで稽古をしていたというのは本当なのだろう。

 

「あれ、なんでここに蓮霧君がいるの?」

 

「・・・その声は渚か。 そっちこそ一体こんな夜中に山奥で何してんだー!?

 

後ろから聞こえてきた声に振り向くと何故か魚のコスプレをした渚、茅野、片岡と殺せんせー(うすらでかい化け魚)がいた。

 

「おや、見てわかりませんか?」

 

「わかるわけないよね!? ねぇ皆もなんとか言ってよ何しでかしやがるつもりなの!?」

 

「いやー、あはは・・・・・。 なんか蓮霧君キャラ崩れてない・・・?」

 

「・・・ん・・・? ちょっと待てよ・・・? ・ ・ ・ ! あーあーあー! そういうことか!」

 

みんなのコスプレと山奥にいることを結びつけて考えた俺はある一つの結論に辿り着いた。

 

「どうやら理解してくれたようですね。 そういうことです」

 

殺せんせーのお墨付きも貰ったところで確信を持ってその結論を口にする。

 

「・・・渚、安心しろ。 お前がどんな趣味に目覚めようと俺は引いたりしないから・・・」

 

「ねぇなんか盛大な誤解が生まれてない!? 違うからね!? これ好きでやってるわけじゃないからね!?」

 

「・・・・・、だろーね」

 

「ねぇ最初の沈黙なに!?」

 

「・・・さって、じゃあ冗談もほどほどに、説明ヨロシクぅ!」

 

「えぇっと・・・話すと長くなるんだけど・・・」

 

そうして片岡がこうなった経緯を説明してくれた。 内容を簡単に要約するとこうだ。

なんでも去年の夏に多川 心菜とかいう女に泳ぎを教えるよう頼まれ、一回目でプールで泳げる程度になった後は練習から逃げた挙げ句に海で溺れかけ、その全責任を片岡に押し付けてアレコレ要求してきているらしい。

 

んで、このままだと片岡もまた多川に依存されることに依存してしまう、いわゆる共依存というやつになりかねないから殺せんせー達で泳ぎを教えてどうにか自立させるんだと。

 

渚と茅野はまぁ、殺せんせーが泳ぎを教えるだなんて言ったから水に入れるのか確かめに来たとかだろうか。

 

「ここで会ったのも何かの縁、こんな真夜中になるまで山奥にいたことは不問にしますからキミも協力してください。 こんなこともあろうかと魚のコスプレセットはもう一つありますので」

 

「・・・うぐ、それを引き合いに出されたら断れないじゃんか。 ・・・仕方ないなぁ」

 

そうして俺も魚のコスプレをさせられる。 というか今さらっと殺せんせーも"コスプレ"って言ってたなぁ・・・。

 

「では先生は彼女を連れて来ますので先にプールで待っていて下さい」

 

そう言って飛び立つ殺せんせーを見送り、皆とプールへ移動する。

少しすると殺せんせーが多川をベッドごと持ってきてプールサイドに置いた。

それを見て総員配置に着き多川が目を覚ます時を待つ。

 

「・・・どこ、ここ?」

 

・・・どうやらお目覚めのようだ。

 

「・・・あぁ、夢か」

 

どうやら夢だと思ってくれたようだ。 ま、そうじゃなきゃただの拉致監禁だし都合がいい。

殺せんせーの人外フォルムが都合よく夢だと思わせるファクターになってそう。 アレが役立つことあるんだねぇ。

 

「め、目覚めたみたいだね! えーと、ここは魚の国! さぁ、私たちと一緒に泳ごうよ!」

 

・・・あぁ、なんてぎこちない。 嘘を吐くのに慣れてない実直な人が頑張って嘘を言ってるのは微笑ましいなぁ。

これには蓮霧君も腕組み王騎将軍スマイル。

 

「・・・なんかアンタ、めぐめぐに似てない?」

 

「違うし、めぐめぐとか知らないし。 ・・・魚魚(うおうお)だし」

 

「何その居酒屋みたいな名前!?」

 

「僕の名前は魚太」

 

「私の名前は魚子だよ」

 

「魚子は魚なのに浮き輪なの!?」

 

おー、二人は結構手慣れてるな。 前にも老人ロールプレイをこなしてたし、演技とか結構できるのかね。

・・・っと、俺も自己紹介しとくか。 あとで軽く・・・ほんとに軽ーく脅せるようにちょびっとだけ物騒な内容で。

 

「拙者の名は魚蓮(うおはす)と申す」

 

「天然水みたいな名前だな!?」

 

「い〇はすじゃねーよ! ・・・コホン、拙者はこの国の死刑を執り行っている者でござる。 罪人ならぬ罪魚を捌いて刺身にし、人間界に出荷するのが拙者の仕事でござるよ」

 

「ずいぶん闇深いな魚の国!!」

 

「そして私が魚キング。 川を海を自在に跳ねる水世界最強のタコです」

 

「タコかよ!!」

 

「素晴らしい連続ツッコミ、良い準備運動になってますね」

 

・・・ツッコミは準備運動にならないと思うんだ魚キング。

 

「・・・ところで蓮霧君、そのキャラ何?」

 

「いやさ、一応俺侍じゃん? んだから一回こういうコッテコテのござるキャラやってみたかったんだよね。 ってことでこれからは魚蓮と呼んでくれ」

 

「ノ、ノリノリだね」

 

渚&茅野とそんなことを話している頃、魚キングは触手で無理矢理ストレッチさせ、一瞬で水着に着替えさせプールに放り込んだ。

 

「ぎゃあ! み、水!?」

 

「落ち着いて心菜! そこ浅いから! 泳げるようになりたいでしょ? 少しだけ頑張ってみよ!」

 

「いっ、今更いいわよ泳げなくて! それを逆手に愛されキャラで行く事にしたし! 泳げないって言っとけば、アンタに似てる友達が私のなんでも言う事聞いてくれるし!」

 

うっわ、重症だな。 依存とゆーか、もはや寄生虫だねぇ。 ・・・仕方ない。 ハスギリ、動きます。

 

「あー、申し訳ないが、泳がないという選択肢はないでござるよ」

 

「は?」

 

「れ・・・魚蓮君?」

 

「ここの水は少々特殊でござってな、溺れた人間は拙者達と同じ魚になる。 そして泳げない魚はこの国には不要、罪魚として拙者の手で捌かれ出荷されて目を覚ますことになるでござる」

 

「・・・ゑ?」

 

「・・・・・つまり、泳ぐか、死ぬか(swim or die)。 さぁ、君にはこの二者択一を選ぶ権利がある。 どちらが賢明か、よーく考えるといい」

 

人は恐怖を抱けば死に物狂いで動けるようになる。 ということで彼女がここを夢だと思ってることを利用して現実だとまずありえないようなへんちくりんで物騒な設定をでっち上げた。

夢だから現実で死ぬことはないが、それはそれとしても死の感覚を味わって目覚めたいと思う奴はいない。

死にたいなら現実で死のうとするし、死にたくないならそんな感覚とは無縁でありたいと思うものだ。

 

「・・・そういうことだからまずは歩く歩く! もっと体を温っためなくちゃ!」

 

俺の意図を汲んだのか片岡はウォームアップのために多川を歩かせ始めた。

一方で、魚キングサイドにも動きが見える。

 

「ところで殺・・・魚キングは水に入らないの?」

 

「ギクッ・・・せ、先生今日のプールは焼きに来ただけだし」

 

「真夜中だよ今。 入らなきゃ彼女に泳ぎ教えられないよ」

 

「それもそうです。 では入りますか」

 

魚キングはそう言うと躊躇なく水に飛び込んだ。 渚と茅野がそれを見て驚愕していると、沈んだ魚キングが浮かび上がってくる。

 

「さぁ、まずは基本のけのびから」

 

(((けのびかそれ・・・?)))

 

浮んだ魚キングは魚の姿をしていた。 顔の部分はガラス?で覆われ、おそらく内部には一切の水分、気体の侵入すらも許さない密閉空間になっていると思われる。

 

「この時のために開発した先生用水着です。 完全防水でマッハ水泳にも耐えられます。 数々の秘泳法をご覧あれ」

 

そういうと魚キングはバタ足?をしてプールの中央に飛び込む。 するとどうでしょう、瞬く間に大きな渦潮が出現したではありませんか!

魚キング・・・いや、この場合は殺せんせーか。 殺せんせーの触れ込み通り、確かにマッハでの水泳に耐えられるだけの強度を持っているらしい。

・・・だが、せめてひとつ言わせてほしい。

 

(強度どうなってんだよ!!? 何を素材に使ったらマッハに耐えれて伸縮性のある水着を作れるんだ!!)

 

あ、多川は流されそうになって慌ててたところを片岡の誘導で流れの少ない端っこでレクチャーを受けている。

・・・なんか見てるだけってのも癪だな。 俺も泳ぐか、ここなら目撃者も少ないし。

 

そうして遊んでいると、岸・・・じゃなくてプールサイドの方から渚と茅野の声が聞こえてくる。

 

「水着とかズルいよ魚キング!」

 

「そうだよ! 生身で水に入れるかどうか見たかったのに!」

 

「まぁ落ち着くでござるよ、二人とも。 わざわざ泳ぐために防水水着なんてモノを開発するんだから、逆説的に魚キングは入水できないということになるでござる」

 

「いいえ、入れますよ。 生身でも」

 

そう言った魚キングは水着を脱ぎ捨てて渚に渡すとプールの中央に陣取った。

そして中央に陣取った魚キングを中心に波が出現する。

 

「水に・・・、生身で入ってる・・・?」

 

「・・・いや、違う。 マッハで周りの水を掻き出してる!!」

 

草。 なにしてんのさ魚キング、絶対疲れるでしょそれ。 掻き出した水が戻る前にまた掻き出してを繰り返して・・・終わらない上に手を止める余裕もない、おっそろしー。

 

「なっ、なにこれ!? 波はこっち来てんのに引きずりこまれる!!」

 

「落ち着いて! 泳ぐ方向こっちに変えて!」

 

「・・・え? 流れるの止まった・・・」

 

「離岸流って言ってね、岸に反射して沖に出ていく流れがあるの」

 

離岸流・・・聞いたことがある。 基本的に突破するのは不可能、まぁ当然自然の権化である海の流れに逆らうのは脆弱で矮小なヒトの身では敵うはずもなく。

 

「そういう時は無理に岸に向かわずに岸と平行に泳いで流れから抜ける! とにかく絶対パニックにならないこと!」

 

「ボホォゥ! ブオォゥ!! ボオォ! タ”ス”ケ”テ”ェ”!!ナ”ガ”サ”レ”ル”ッボボボボボ!!! ミ”サ”エ”!!」

 

「なんかあの魚パニックになって溺れてない?」

 

「あー、多分遊んでるだけだから大丈夫」

 

「こ”、こ”の”川”ッ! 深”い”!!!」

 

「ほら、あの状況であんなふざけてる余裕あるんだから大丈夫大丈夫」

 

「ひどい!」

 

「うわぁいつの間に後ろに!?」

 

ちょっと力試しがてら離岸流に逆らって遊んでたら案の定流されたので、ちょっと溺れる感覚で遊んでたら片岡に雑にあしらわれた。 解せぬ。

エマージェンシー必要な溺れ方だったらどーするつもりだったのさと聞いたら、"ちゃんと息継ぎできてたし、そもそも魚蓮君は溺れるようなヘマしないでしょ"と返ってきた。

・・・ちょっと嬉しい。

 

「知識だけ身に着けてもダメですよ。 朝まで死ぬほど泳いで、魚のような流麗な泳ぎを身につけましょう!」

 

・・・これを聞いた時は比喩だと思ったんだがね、ホントに朝までずっと泳ぎ続けてた。

巻き込まれた俺も徹夜するハメになったし、納得いかないぜ、ったく。

ただ、その間多川は必死になって泳いでた。 教わったことをこなし、体力を消耗しても溺れないようがむしゃらに泳ぎ続けるガッツもあり。

まぁ、その必死さは多分俺がちょいと脅したせいもあるんだろうが。

 

・・・ま、なんにせよそうして夢世界(笑)の魚の国で行われた地獄の水泳練習は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日の放課後、片岡によると無事に彼女は泳げるようになったらしい。 これで片岡も変に気負って背負うことがなくなる、何やら憑き物が落ちたような良い表情をしてるし円満解決かな。

 

「これで彼女に責任は感じませんね。 これからは手を取って泳がせるだけじゃなく、あえて厳しく手を離すべき時もあると覚えてください」

 

「はい。 殺せんせーも突き放す時あるもんね」

 

「・・・それと、お察しの通り先生は泳げません。 水を含むとほとんど身動き取れなくなります、弱点としては最大級と言えるでしょう。 が、先生はあまり警戒していない。 落ちない自信がありますし、いかに水中でも片岡さんや蓮霧君二人くらいなら相手できます」

 

「おーい待ってくれ、さも当然のように俺が参加するみたいな扱いなのは解せないですぅー」

 

「まぁまぁ。 そういうことですから、皆の自力を信じて皆で泳ぎを鍛えてください。 そのためにこのプールを作ったんです」

 

いずれにせよ、こうしてE組にプールがオープンした。

 

・・・しかし翌日、このプールをきっかけに俺の憂いが現実の物となり、火種が大爆発を起こし暗雲を呼び起こすことになるとは誰も思っていなかった。

 

 

 

 

 





どうも皆さん。 なんだか最後が不穏ですねぇ。
寺坂君のアレはせいぜい火種が着火したレベルなのに何が大爆発するんでしょう。

それは作者と神のみぞ知るってヤツです☆
それでは皆様また再来週~♪
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