暗殺教室 孤独な捨て子の物語   作:rixk

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よし、今週も無事間に合ったワタシ偉い!
前々から裏で彷徨の時間のベースをコツコツ進めてた甲斐があるってもんです。 たぶんベースにできる部分がなかったらまぁた隔週になってたでしょうねぇコレ・・・・・。

ちなみにもうストックはありません。 来週に投稿できるかは作者次第・・・・・。

それじゃあ本編、行ってみよー!



29話 彷徨の時間

 

 

 

「あークソ痛ったいなぁ、あのサイコ紫・・・」

 

蓮霧君がひどく焦燥し錯乱しながら走り去り、僕たちが呆然としていた中、その静寂を破ったのはカルマ君の一言だった。

磯貝君とカルマ君の傷はすでに殺せんせーによる治療が施されており、傷跡一つすら残っていない。

 

「じゃ、行くよ寺坂。 あのシスコン剣士探して連れ戻さないと」

 

「おう、さっき説教された分、今度は俺が説教してやんねぇとな」

 

「寺坂が説教とかムリでしょ、バカだし」

 

「あァ!?」

 

「ちょ、ちょっと待てよカルマ! まずは速水にアイツと何があったのか聞くべきじゃねーのか!?」

 

寺坂君とカルマ君がそんな話をしていると、前原君がもっともな事を言う。 僕も、おそらく皆も同意見だろう。 蓮霧君は速水さんを"姉"と呼んだことを言われて様子がおかしくなった。

どうして彼がそうなったのか、一度速水さんから聞かないとわからない。

 

けれど、カルマ君はいたって真剣な表情でこう言ってきた。

 

「そんな悠長なことしてたら、アイツどんどん悪い方向に覚悟決めちゃうよ。 ここに来る前の荒れてたアイツを知ってる俺だからわかる。 アイツは不安定な時に放っとくと勝手に病んでどんどん壊れてってどう暴走するかわかんなくなるタイプだ」

 

「・・・カルマ君の言う通りです。 彼は自身を客観視した自信こそ非常に高いものの、その反面著しく自己肯定感が低い。 早いうちに説得しなければ先程の自責で埋め尽くされてしまいかねません・・・・・」

 

「そういうこと。 時々"自分には価値がない"みたいなこと言ってるけど、アレ間違いなく心の底からそう思ってるだろうし」

 

「つーワケだ、俺とカルマはアイツを探す。 アイツと相手になんのは俺等くらいだろ」

 

・・・・寺坂君の言う通りだ。 蓮霧君と対峙するのは僕らじゃ話にならない。 烏間先生の訓練で鍛えられているのは蓮霧君も同じ、戦闘技術が違い過ぎる。

 

「い、いやいや、まだ戦うことになるって決まったワケじゃねぇだろ。 一度話せば・・・」

 

「いえ、それも難しいでしょう。 彼は自身を客観視し、自身の行動を見通すことができる。 修学旅行の時、彼は"いつか内心の虚無と狂気に呑み込まれて暴走する"と言っていました。 おそらく、今がその時なのでしょう」

 

「・・・じゃ、俺等は行くよ。 皆はアイツの情報でも集めといて、家とか探せばあるでしょ。 律、アイツの居場所はわかる?」

 

『・・・申し訳ありません、どうやらスマホを教室に置いたままのようでして。 呼び止めようとはしましたが、まるで何も聞こえてないかのように行ってしまいました・・・』

 

「・・・ま、そうだろうね。 刀もここに落としていったんだし、ホントに最低限のモノだけ持ってった感じかな。 どうせ家にはいないだろうし、勘と考察だけが頼りだね」

 

そう言って、カルマ君と寺坂君は蓮霧君を探しに街へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

────俺は、ひとりだ。

 

・・・・・何度、世界を呪ったろう。 何度、過去を嘆いたろう。 何度、・・・・・・心と向き合うことを恐れ、拒んだろう。

最早、それらは数えきれないし数える気もない。

ただ事実として、過去と現在(いま)を繋ぐ唯一の架け橋としてあらゆる負の感情が存在している。

────それだけだ。

 

こうなったきっかけはいつだったか・・・。

それは、一歳になったあの日かもしれないし、十五歳になったあの日かもしれない。

・・・・・どっちも雨の降る夜だった。

 

『つぎのニュースです。 げんざい、台風の接により、今夜から椚ヶ丘市をはじめとした地域で大雨が降り、強風が吹きすさぶことになるでしょう』

 

ポツリ、ポツリと雨粒が落ちる閑散とした住宅街で、民家のテレビから微かにニュースの音声が聞こえてくる。 何でも、台風が近づいているらしい。

・・・台風。 絶えず雨に打たれ続け、痛い程に吹き荒ぶ風に曝され続ける。

・・・それでも、まだ苦痛には当てはまらない。 死をもたらす程の苦痛には遠く及ばない。

 

・・・・わからない、俺は一体、どこで間違えた?

さっきフラッシュバックした、忘れかけていた記憶をもう一度思い返してみよう。

 

『──さようなら、

 

・・・これは、一歳の記憶。 全ての始まりであり、歯車の狂ったきっかけ。

多分、この日の前までは俺もちゃんと愛されていたと思う。 まぁ、自我すらハッキリしてない赤子の記憶を憶えているワケじゃないからただの願望でしかないかもしれないが。

今じゃ母親の顔すら覚えていない。 父親や兄弟がいたかなんてことすらわからない。

 

『──そんな暴力的な子に育てた覚えはない』

 

『──あんたみたいな子は私たちの息子なんかじゃない』

 

これは、十五歳の記憶。 今に繋がる楔であり、ココロを縛る鎖でもある。

この日を境に、俺の心は歪み始めた。

人は一人でも生きていける。 孤独に耐えられるかは別として、一人で生きることは可能だ。

だが子どもは? まだ自分でできることに限りのある子どもは、一人では生きられない。

 

小鳥は巣に留まり、親鳥の寵愛を受け、大空へと羽ばたく日を夢見て育つ。

なら、親の寵愛を受けられない者は?

愛されなかった者は周りに救けを求め、誰かに縋り付かなければ生きることすらできない。

幸か不幸か、俺にはかつての旧友が巣を用意してくれた。 だからまだしぶとく生き残ってしまっている。

 

・・・・・何故、愛されない者が生まれるのだろう?

これもまた簡単でわかりやすい答えがある。 "価値がないから"だ。

愛する価値がない、愛する必要もない、愛される資格もない。 ・・・・・だから捨てられた。

確かに、あの日の前までは"いい子"でいたから愛されていた。

まぁでも、俺だって本当はわかっている。 彼らも、血の繋がりがない俺を疎ましく思っていたということを。

 

・・・・・誰も、家を飛び出した俺の後を追って来なかったのが何よりの証拠だ。

 

『──な、なんなんだよお前! い、いきなり来てこんなことして何が目的だ!!?』

 

『──五月蝿いなぁ、俺は今機嫌が悪いんだ。 黙っていれば、多少は苦痛が和らぐよ』

 

・・・これは、あの日の深夜だったか翌日だったかの記憶。

少し経って現実を少しずつ認識し、悲哀の陰で増幅された憎悪に任せて近場の不良を殲滅した時の記憶。

この時はまだ狂っていなかった。 ただ感情的な衝動に駆られて戦っただけ。

もしかしたら、前の日に理由のある掃討を行ったせいでリミッターが外れてたのかもしれない。

 

だが、何の罪もない・・・かは疑問が残るが、少なくともあの場では何もしていなかった者を一方的に、理不尽に痛め付けたという事実が、俺が狂った最初の引き金になった。

 

それからの一週間はひどいモノだった。

荒みに荒み、目に入った不良を一方的に攻撃し続ける日々。 当然、そんな己の身を省みない日々が続くはずもなく一週間もすればアドレナリンも落ち着いてきたのか冷静になってきた。

冷静になった頭を最初に襲ってきたのは罪悪と後悔。 まだ何もしていない者を何人も仕留めた実感で俺は壊れてしまった。

元々不安定だった状況に罪の意識が重なったことで自ら狂気を作り出し、その仮面を被ることで心を保ち始めた。

 

そうしてずっと、狂気の仮面を被り続けたまま己を欺いてきた。 胸の奥底で報いを求め、苦痛にまみれた相応しい死を願って闘争に明け暮れた。

そうして一体何を得た? 戦えば戦うほどに罪を重ね、ただの一度も命が脅かされることなく何人、何十人もの屍を積み上げてきた。

手元に残ったのは消えない罪禍と死への渇望のみ。

 

それでも、俺は死を選ぶことができない。

自ら死ぬのでは、ただ己の罪から逃げているだけだ。

贖いのために死ぬ、そのためには苦痛を伴う外的要因による死でなければ意味がない。

 

そうしていつまでも、いつまでも死を願って戦い続け、一つ、また一つと罪を重ねる。

・・・・どうして、こんなにも苦しまなければならないのだろう。

ずっと向き合ってきた。 罪と向き合い、死を渇望し、そしてまた重ねた罪から目を逸らさずにいた。 ・・・だと、言うのに。

向き合い続けても果てはなく、ココロはとっくに壊れかけ、正常な部分もほとんど残っていないというのに。

 

・・・・・いや、違う。 正常な部分が残っているから苦しみが終わらないんだ。

まだココロは保たれている。 まだ脆弱な自我が生きている。 さっさと壊れてしまえばこんな苦痛を味わうことはなかったはずだ。

 

・・・回憶を続けよう。

 

『──速水蓮霧、一週間の停学の後E組行きだ』

 

『──ヌルフフフ。 おはようございます、速水蓮霧くん』

 

これは、俺があの場所に、E組に来た時の記憶。

この日から、俺の鎖は緩み始めた。 あの場には本校舎と違い、全員が俺の評判で距離を置くわけではなかった。

最初はほとんど俺と会話を行う者はいなかったが、磯貝や前原を初めとした面々から段々とそれらしく話し、修学旅行ではらしくもない人助けもして、いつしかクラスの一員として受け入れられるようになった。

 

・・・・・あぁ、正直言って楽しかったさ。 最初こそ警戒されてたものの、同じクラスのメンバーとして、"仲間"として共に過ごした日々は"かけがけのないもの"だ。

 

あの場では、俺の力を忌む者もほとんどいない。 役立てる場面はほとんどなかったけれど、それでも誰かのために動くことができたのは・・・、多少は罪の浄化としての意味合いを持つはずだ。

・・・たとえ、数え切れない罪の積み重なる山々の天秤を動かすことすらできなくとも。 たとえ、自己満足の偽善でしかないとしても。 ・・・・・それでも、だ。

 

『──待て! 蓮霧!!(マタ、逃ゲルノカ?)

 

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

これは、ついさっきの記憶。 俺の、最も大きい望まぬ罪であり・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────これまで背負ってしまったどの罪よりも重く、決して赦されてはならない大罪だ。

 

俺は、彼らを友だと思っていた。 ・・・・うん、きっとそのはずだ。

皆と過ごす日々は楽しかったし、段々と皆に受け入れられて、いつしかあの場を自身の居場所として認識していた、してしまっていた。

 

だというのに、なぜあんなことをした? 彼らはただ苦しむ俺を心配して声をかけただけ、だと言うのに何故"耳障りだ"などと思ってしまったのだろう。

 

あまつさえ、一時の衝動で刀を振るってしまった。 それも切れ味の鋭いカーボン製の刀で。 結果的に律との約束も破り、友を傷つけ、何も言わずにあの場から逃げ去った。

・・・ただの臆病者だ。

 

また、大好きな皆に捨てられるのが怖かった。 だから皆を見るのが怖くて逃げた。

誰しもが、親に、愛する者に捨てられた経験なんてない。 誰にも俺の苦しみと恐怖はワカラナイ。

 

・・・・でも、それでいい。 こんな苦痛を味わうのは俺一人で十分だ。 ・・・けど、やっぱりちょっと羨ましいな。

苦しみも、罰も、己の原罪として受け入れる。 けれど、愛されたいと、誰かと共に在りたいと願うことすら許されないのだろうか?

 

人が願いや祈りを捧げる対象は様々だ。 例えば神々、例えば星々、例えば月・・・。 だが、神々は数多いる人間の特定個人に救いを差し伸べるようなことはしない。 神に願うことは虚しいだけだ。

空を覆い隠す雨雲の下では、月の光も星の光も届かない。 そしてまた、こちらの祈りも届くことはない。 この闇に閉ざされた世界では、あらゆる願いが、あらゆる祈りが等しく無力で、虚しいものでしかない。

 

願うことすら、祈ることですら罪ならば・・・・・・、俺は、一体どれだけの過ちを犯し、どれだけの悪業を背負い、どれだけの咎罪を引き継いでこの世に生まれ落ちたのだろう・・・。

 

「───よぉ、ひでぇ顔してんな、蓮霧」

 

「・・・寺坂」

 

気が付くと、自分ですらどこかわからない路地裏にいた。 そして、前から制服姿の寺坂が雨だと言うのに傘すら差さずに現れた。

 

「何か用? 俺は見ての通り忙しいんだけど」

 

「全然忙しそうにゃ見えねぇけどな。 で、用件だが・・・テメェを連れ戻しに来た」

 

「・・・・そう。 で、どうするつもり? 旧友のよしみとして、少しならごたくに付き合ってあげなくもないけれど」

 

「蓮霧、テメェ俺に"自分独りでも道を選べて、時には自ら道を切り拓くことだってできる人間だ"って言ったよな」

 

「・・・そうだね、それで?」

 

「テメェも俺と同じ人間だろうが。 確かに俺は今日間違えたけどよ、それでもテメェは立ち止まりそうになった俺がどうするべきか道を示してくれた。 テメェも磯貝やカルマの野郎に謝りてェって思ってんならよ、どうすべきかくらい考えてんだろ?」

 

・・・寺坂の言う通りだ。 俺は皆への行いを償いたいし、赦されることのない大罪を浄化したいと、確かにそう思ってる。

 

「・・・・・あぁ、そうだよ。 そして、俺はもう進むべき道をハッキリと決めている」

 

「ハッ、そりゃなによりだ。 なら戻ってこい。 アイツらとタコを殺して地球救って、英雄として名を連ねりゃ、それでハッピーエンドだろ?」

 

「・・・ねぇ、寺坂。 言ったろ? "レールを外れた濃霧の中で、自分の足で進むか、はたまた立ち尽くすのか、それとも破滅へ向かうとわかってるレールに戻るのか"、どの道に進むのかは自由だって。 俺はね、"破滅へと向かうとわかってるレールに戻った"人間なんだ、自分の足で進むことを選べたキミと違ってね」

 

「・・・・・は・・・?」

 

「・・・・・俺はおまえみたいに強くない。 意志が弱くて、身の丈に合わないチカラを持て余して、そうして道を踏み外し、その度に破滅へのレールに戻り続けてるんだ。 ・・・・・ゴメンね」

 

自嘲ぎみに微笑を浮かべ、一言謝罪し刀に手をかける。

 

「寺坂、お前は強いよ。 力も、肉体も、精神力も、俺よりよっぽど、ね。 蓮心(はすごころ)───」

 

鯉口を切り姿勢を低くし構え。

 

「───沈み消え逝く───」

 

「ッ!? 消え──」

 

防御の構えを取らせる間もなく突進、すれ違いざまに抜刀し一閃。

 

「───霧の海

 

軽く払って納刀。 刹那、背後で電閃の音が鳴り響き寺坂がその場に崩れ落ちる。

 

「・・・・けど、それだけ。 力はあっても技術はなく、肉体は強靭でも痛みには不慣れで、意志はあっても殺意は足りない。 ・・・・・電圧は抑えておいた、痺れで意識は落ちるが火傷は軽微なもので済む」

 

「待ち・・・やが・・・・・れ・・・・・・」

 

「・・・悪いね。 いくらでも恨んでくれていい、好きに糾弾してくれて構わない。 だからどうか止めないでくれ。 俺は、引き返すわけにはいかないんだ」

 

地に伏す旧友に目も暮れず、何の感慨もなくその場を立ち去る。 空にかかる雲はより暗くなり、雨足が強まってきた。

そんなの、どうでもいい。 あてもなく彷徨を続けることには変わりない、どこへ行くかは無意識のままに。

 

・・・・・肉体の主導権を無意識に委ね、脳は先程の出来事から今に至るまでの道程を思い出し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

◁ 回想 ▷

 

「・・・・・あ、刀・・・・・あの場に落としてきちゃったな・・・。 ・・・別にどうでもいいか、約束を違えたんだしもうあの刀を手にする資格はない、よね」

 

カルマと磯貝の返り血でところどころが赤く染まった右腕をそのままに、あの場から逃げ出した俺は誰も追ってきてないのを確認すると覚束ない足取りで一度教室へと戻った。

 

(・・・・・頭が痛い、足が重い、眩暈がする、うまく立てない、力が入らない・・・・・)

 

・・・・・何はともあれ、ひとまずは着替えないと。 水着のまま街中をさ迷ったら不必要に目立つだけだ。

教室へ着くと脇目も暮れず自身の机に直行し、着替えだけ済ますと一度取り外した刀と小太刀をベルトに装着し、ナイフとトランプをポッケに仕舞う。

 

『蓮霧さん、待ってください! カルマさんのスマホから状況は把握してます、もう磯貝さんもカルマさんも殺せんせーに治療されてます。 皆さんなら話せばわかってくれますから、どうか・・・』

 

「・・・・・・・・・・」

 

(何か、聞こえる。 機械音声・・・律か。 ・・・・・耳鳴りで聞こえない、どうでもいいや。 どうせもう裏切り者なんだ、引き返す道は、ない)

 

山を下りてると、耳鳴りの狭間から幽かな声のようなものが響いてくる。 耳から聞こえて耳鳴りに搔き消される声ではなく、耳鳴りと一緒に脳に直接響いてくるような、そんな声だ。

 

《───ドウナリタイ?》

 

・・・・・意識が朦朧とする中、俺の"心"は確かにその問いを"聞いた"。 不思議と、回答に迷いはなかった。

 

「・・・・・・俺は、捨てられたくない。 誰にも、何者にも。 もう捨てられる悲哀と恐怖を味わうのは散々だ」

 

まるで、そう望むことが全て仕組まれていたかのように、迷いも、躊躇いも、一切なく、そう断言できた。

今思い返すと、この望みは、"どうなりたいか"という問いへの答えとしては合致していない。

けれど、そう答えた瞬間、頭痛も、耳鳴りも、眩暈も消え、クリアになった視界と思考に一つの啓示が浮かび上がって来た。

 

(なら、()()が皆を捨てればいい。 ボクを捨てる者がいなければ捨てられることもなくなる)

 

この啓示は声が導いたのか、はたまた自身で見つけた道かはわからない。 けれど、その声は確かに俺が望む"答え"を示してくれた。

 

そして、鷹岡の時に発生した謎の紫電。 今まであの一回しか発動しなかった得体の知れないこの力が、どうすれば扱えるのか、何ができるのかが頭の中に流れ込んでくる。

 

「・・・・・ふふふふ・・・・・・・・あはははははは!」

 

山を下り、次に向かったのは今の居住。 ここには、昔に予備として強化したおもちゃの刀がある。 手に取り、軽く部屋の扉で力を試す。

紫電を纏った刀身は扉を容易く焼き斬り、断面を焦がして真っ二つに割れ床に転がった。

一方で、刀の表面は電流を止めたにも関わらずバチバチと帯電を続けている。 多用すると高熱で溶けそうなので使いすぎには気を付けねばならないと感じた。

 

次に、意識して威力を絞った電流を刀に纏わせて別のドアを斬る。 するとドアは形を保ったまま、斬撃の通った箇所がバチバチと帯電する程度に留まった。 これなら人間に使っても軽傷で済ませてスタンさせられるだろう。

 

(・・・・・・・・・・さて、覚悟は決まった。 ・・・・・帰るべき家はない。 家とは、家族のいる場所だ。 俺はそこに拒まれた。 ・・・・・戻るべき居場所もない。 生きる居場所を自ずから傷つけた者に戻る資格はない。 ・・・・・行こう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「やほ、随分思い詰めた表情(カオ)してんね。 蓮霧クン?」

 

「・・・・・今度はカルマか。 どうしてまたこんなトコに?」

 

無意識に委ねた先にはカルマがおり、強制的に回想を中止させられた。

 

「律から寺坂が接触したって聞いてね。 で、蓮霧クンが進んでった方向と君の考えそうなことから行動を予測して待ち伏せしてたって感じかな。 寺坂は勘で見つけたらしいね、あのバカらしい」

 

「・・・・・で、キミはどんな戯言で俺を引き留めるつもり?」

 

「さっきの寺坂との会話、聞いてたよ。 ねぇ、ホントに帰ってこないつもり?」

 

「そうだよ? だってもう戻る理由がないじゃん。 結局あれらはお友達ごっこでしかなかったわけだし。 俺は皆のこと大好きだけどさぁ、でもさっき、誰も俺の後を追い掛けてこなかったろ? それって、本当はみんな俺の事なんてどうでもいいと思ってることの証明にほかならないでしょ?」

 

「・・・・・本気でそう思ってるワケ? もしそうなら、わざわざ君を心配して探した俺と寺坂の心情を蔑ろにするってコトだけど」

 

「お生憎様、寺坂を斬った時点でその理論は破綻してるよ。 ・・・・・どうせ律越しに皆聞いてるんでしょ? 先に忠告してあげる。 俺はいい奴じゃない、今までだってそうだし、これからは皆が相手でも容赦しない。 俺の本性はこんなんだよ。 だからさ、死にたくないならもう俺に構わないでくれ。 不必要に苦しむだけだから・・・・・・お互いにね」

 

カルマの持っているであろうスマホ越しの旧友達に向けてそう告げると、もう話は終わったと言わんばかりに刀に手を掛ける。

 

「・・・・・サヨナラダ。 蓮心──────沈み消え逝く───」

 

「(ッ・・・なんだコレ、速さも威力も今までとケタ違いだ・・・!?)」

 

「───霧の海

 

「ッ!? ・・・なるほどね、寺坂が為す術もなくやられた合点がいったよ。 確かにその速度で電撃まで浴びせられたら、いくらアイツがタフでもそりゃやられるか・・・」

 

「・・・・・ふーん? 手心がすぎたかなぁ。 じゃ、もう一回。 ・・・逃げるなら追撃はしないよ。 蓮心───」

 

カルマは突進を間一髪で回避したが、帯電した経路上を放電させたスパークは避け切れず左腕が軽く痺れかけた状態で立ち上がる。 それを見て、再び構え。

 

「───沈み消え逝く──────霧の海

 

「ぐッ・・・、ほんっと容赦ないなぁ。 事あるごとに皆を守ろうとするお人よしの蓮霧クンはどこに行ったのかねぇ・・・!」

 

「・・・俺は俺だよ。 ずっとずぅっと自分勝手なエゴイスト。 人助けも、誰かのための行動も全て自己満足の押し付けでしかないんだから。 その根底は何も変わってない、傍から見た表面的な側面が善性か悪性かは違うけれどね。 じゃ、三度目だ。 蓮心──────沈み消え逝く───」

 

そうして繰り出した三度目の抜刀もカルマは回避した。 だが、雷撃は確実にヒットしている。 もう左腕は痺れでマトモに動かせないだろう。

 

「チィッ! 俺も磯貝も寺坂も倉橋さんも、誰も今日の蓮霧クンの行動を咎める気はないよ! 一言謝れば済む話じゃん!! こんなことしてたら、ホントに戻れなくなるよッ!!」

 

「咎める気がない? それがどうした? そんなお情けの赦しなんていらないんだよ。 俺を赦せるのは俺だけで、俺は俺自身を赦さないし赦せない・・・! だからこそ、引き返す道を全部壊さないといけないんだ! 蓮心───!」

 

「この・・・ッ!」

 

「───沈み消え逝く──────霧の海ッ!」

 

「ぐゥぁああッッッ!」

 

(ッ・・・少し、加減を間違えた・・・?)

 

後ろを向くと、その場に倒れ一切動かなくなっているカルマの姿があった。 ・・・近づいて状態を確かめる。

・・・うん、脈はある。 呼吸もしてる。 ならあの触手生物であればどうとでもできるだろう。

 

確認を済ませ、より雨が強く打ち付ける方へと歩を進める。

・・・これでいい。 あの場所は、罪業を背負う者には眩しすぎる・・・。

 

「待ちなさい、蓮霧君」

 

「・・・・・チッ、今度はなんですか? ───"元"担任の先生?」

 

「律さん越しの状況からマズイと思って来てみたら・・・、事態は思っていたよりも深刻なようですね・・・・・。 ですが蓮霧君、いつも通り殺せんせーと呼んでください。 私は君の教師ですから」

 

背後から聞こえる声に振り返ると、カルマを抱えて処置を行う元担任の姿を目視する。

 

「へぇ? それはまた随分と笑えない冗談ですね。 俺はあなたの生徒を自らの意思で殺そうとしてるんですよ? こんなロクデナシをまだ生徒だと?」

 

「君がE組の生徒である以上先生は君の担任です。 例え道を踏み外したとしても、決して生徒から触手()を離さず教え導く。 先生は、先生になる時そう誓ったんです」

 

「・・・なら、修学旅行の時の約束を忘れたワケじゃないでしょう? 生憎と人外の出る幕はありませんよ、この舞台には。 それとも、あなたに攻撃するつもりのない"生徒"を力づくで無理矢理止めようと? それは契約違反ということになるのではないでしょうか」

 

「・・・・・!」

 

こう言っとけばコイツは邪魔できなくなる。 いつかに聞いた契約の存在、覚えていて損はなかったと、心の底からそう思った。

 

「そんなことより、こんな雨の中感電してる怪我人を放置してていいんですか? 風邪ひいても俺は知りませんよ? ・・・・・あぁそうそう、聞いていたとは思いますが改めて。 皆にも、"命が惜しければ、俺のことは忘れた方がいい"って伝えといて下さい。 ・・・・・では」

 

「ッ蓮霧君!」

 

伝言だけ頼んで今度こそここから離れる。 アイツはカルマと寺坂の二人を回収し治療しないといけないんだ、しばらくは追ってこれない。 皆にも忠告しておいた、これで、今度こそひとりぼっちだ。

 

「・・・・・やっぱり、寂しいな。 けど、これでもう引き返せない。 ・・・・・行こう。 死に場所を選ぶ権利くらいは、まだ残ってるハズだ」

 

 

 

 

 





はいどうも、後書きの作者です! 今回は蓮霧君の回想と闇堕ち状態での初戦闘回でした!

蓮心 沈み消え逝く 霧の海

この川柳、作者的にはなかなかお気に入りでして。 我ながら見事に蓮霧君のことを纏められたなって大満足しております。
ちなみに蓮霧君の名前の由来もまんまこの川柳の通りですね。

そんな蓮霧君、見れば見る程コイツ強すぎる、多分斬撃とか飛ばせるしビームとか撃てる。 おまけに悪い方向に覚悟ガン決まりときた・・・。
マジでどうやって説得すればいいんだ・・・・・?

いや無理でしょ、収集つかなくなってますって。 最初はカルマと同等のスペックだったのにいつの間にこんな壊れキャラになってんだ蓮霧君・・・・・。
殺せんせーならなんとかできるだろうけどその殺せんせーの動きを制限する台詞言いやがったしさぁこの子・・・・・。

まぁ、闇堕ち主人公が帰ってこないとかいう前代未聞な結末にするつもりはないのでなんとかします・・・・・。 なんとかなるかなぁ・・・?

あ、そうだ。 折角だし今回蓮霧君が使った技?の解説でもしときますか。


・名称不明
刀を鞘に納め内部で蓄電し、縮地による居合斬りを繰り出す技。 紫電を宿した斬撃で空気中及び命中した箇所を帯電させ、納刀時に放電しスパークを発生させる。
冷静さを保っていれば割と自由に威力、電圧を調節できる。


うーん、対人において強力すぎない・・・? 強制スタンとかやってることラスボスなんだよなぁ。
鷹岡の時は感情任せに発動してたから高熱威力特化で麻痺らせれなかったけど、自在に調整できたら人間相手なら痺れさせるだけで容易く完封できるからぶっ壊れなのヨ・・。

なんなら今回、蓮霧君に本気で殺そうって気がなかったからだいぶ手加減してるんですよね・・・。 今回のはあくまで警告の意味合いが強いんで。
本気になったらどうなっちゃうんだろ・・・・・。

ちなみに今後も色々と使える技は増えてくと思われ。

それではまた来週か再来週に!




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