「局長、転入生のデータをお持ちしたので、目を通していただけますか? 」
「転入生…ああ、例のSRTからのか。
そこに置いてくれ、すぐに目を通す」
「了解しました、では」
デスクに積まれた書類の山から局長と呼ばれた女性…尾刃カンナが目を上げ、先程やって来た部下が置いていった書類を持ち上げる。
ヴァルキューレ生としての癖だったのか、それとも単に興味を持ったからか、カンナはまず書類に印刷された写真を眺めて人相を記憶し始めた。
髪は金色で短い、前髪に灰色の毛が一束入っている、自分と同じような犬耳、緋色の瞳、タレ目気味、全体的に童顔な印象、髪の整え方や服の着方からは几帳面そうな印象を受ける…といった具合に写真の生徒の観察を一通り終えると、今度は文字情報の方を何の気なしに声に出して読み始める。
「えー…SRT2年DOG小隊所属、
身長が約183cm、趣味は鍛錬、愛用の銃は短機関銃、そして特技は格闘戦。
大したものでは無いそれらの情報と先程の分析を基にして、カンナは簡易的に転入生のイメージを固めていく。
「単純な
功績としては拠点制圧、人質の救出等が多いか。
とは言えこの図体で隠密行動は難しいだろう、となると派手に動いて囮になり、他の隊員が奇襲を仕掛けるのが基本戦術と想定される。
…どうやら新人には少々苦労をさせる事になりそうだな」
ふう、というため息。
彼女の脳裏に部下達の姿が過ぎったのだ。
無論皆優秀な部下ではある、それでも流石に個々の実力でSRT生に及ぶ訳は無い。
「…今気にしてもどうにもならんか」
独りごちてカンナはまた文字を目で追っていく。
羅列された情報を整理し、分類し、考察し…と、作業を進め、そして書類の最後の1行を読み終わった時、カンナは結論へと辿りついた。
「正義感が強く意志を曲げない…潰れたり問題を起こしたりしないように監視が必要だな、これは」
大きなため息が部屋に響く。
書類上の転入生は、紛れもない正義の人間だった。
治安を維持する側ならば当然弁えているべき道理を弁え、街で困っている人間が居れば助けるだけの情を持つ…いや、持ち過ぎる。
ヴァルキューレに入学するなら本来は理想的とすら言える人物、それが今あるデータから読み取れるトオルという人物だった。
にも関わらず…いや、だからこそカンナの表情は優れない。
「功績の殆どが連邦生徒会の許可を得ずに行った独断専行、今まで退学や転校にならなかったのはその全てが結果的に状況の好転に寄与したからでしかない。
母校の危機に焦っていたのだろうが、その末路が母校を潰す為の布石になる事とは…まったく残酷な物だ」
そう、彼女の転入はSRT廃校派の連邦生徒会員による『SRTの生徒をヴァルキューレに混ぜても問題無いか』という実験的な意味を伴った物なのだ。
諸々絡み合った複雑な政治的要素をあえて無視し、状況を単純化して言うならば、トオルの素行が良ければSRTが廃校になる、という酷くやる気を削がれるような状況に彼女は立たされている。
…もっとも、更に言うなら素行が悪ければ廃校派の唱えるSRTの危険性を補強してしまい、最悪単に取り潰されて生徒が路頭に迷う可能性すらあるのだが。
「彼女からすればかなり追い込まれている状況だ、元々暴走し易いタイプでもあるようだし…いや、本人に会う前から勝手なイメージでこんな事を言うべきでは無いか。
…全てが杞憂で
自分の事を棚に上げ、カンナは転入生が若輩の身で背負う責任への気遣いを声の端に滲ませながら書類にハンコを押して所定の位置へと置いた。
背もたれに体重を預け、愛用のマグカップでコーヒーを1口啜る。
「さて、まだ仕事が残っているな。
どうにも私も他人の心配をしている場合では無さそうだ」
そう言って苦笑し、転入生の事をひとまず頭から追い出すとカンナはまた他の書類を手に取った。
公安局長の一日はまだ終わらない。
(ゲーム風プロフィール)
星3 奥野トオル
学園 ヴァルキューレ警察学校2年(SRT特殊学園からの転入)
部活 公安局(元DOG小隊)
年齢 16歳
誕生日 10月28日
身長 183cm
趣味 鍛錬、散歩
基本情報
SRT特殊学園DOG小隊を率いていたが、事情があってヴァルキューレ警察学校に転入、公安局所属になった。
かなりの肉体派で知られており、『核シェルターの扉を殴って壊した』や『対物ライフルを何発も顔面に叩き込まれた後に正面から戦車の主砲で撃たれてもピンピンしていた』などの噂話がまことしやかに囁かれているが、本人は『流石に核シェルターは素手では壊せん』『別にピンピンしていた訳では無いが』と否定気味。
SRTの小隊の新人への洗礼は、単身で突撃してくる彼女が何故かどうやっても止まらないという恐怖の体験から始まるらしく、そのおかげかSRTの小隊が作る陣地は非常に堅牢である。