元SRT生はカイザーが嫌い   作:猫山白

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着任

「本日から公安局に所属する事になりました、奥野トオルと申します! 」

 

 必要以上に声を出し、普段は意識して少し丸めている背を伸ばして敬礼を行う。

 

「公安局長の尾刃カンナだ、貴官を歓迎する」

 

 低い声、値踏みするような鋭い眼差し。

 声や姿勢で多少動揺を誘ってみたが、堂々とした物だな、お飾りでは無さそうだ。

…そういえば公安局長は”狂犬”の異名を持っていると聞いた事がある、この程度の事で怯えるような人間な訳は無いか。

 

「早速で悪いが公安局は人手不足だ、貴官には今日一日で概ねの仕事をおぼえてもらうぞ」

 

「わかりました、研修を行う方は…そちらの方でよろしいでしょうか? 」

 

 私が目線で局長の脇に控えていた生徒を示すと、局長が軽く頷く。

 

「その通りだ、本来なら私自ら叩き込んでやりたいところだが…」

 

 タイミングが良いのか悪いのか、ちょうどデスクの電話が鳴り響き、それを取った局長が簡潔に状況を聞き取って指示を出して受話器を置いた。

 漏れ聞こえてきた言葉が”バスジャック”とか”いつもの奴ら”だった辺りからロクな内容では無さそうだ…特に”いつもの”という部分の不穏さが凄い。

 

「このように少々多忙でな、私にしか出せん許可や書類もある以上、ここを離れる訳にはいかんのだ。

…もっとも新人研修なら元より私より他の生徒の方が適任なのもあるがな」

 

「なるほど、時間がさほどかけられないというのも頷ける。

 ではそこの方…いや、先輩と呼んだ方がいいでしょうか、早速案内をお願いしても? 」

 

 急に水を向けられた公安局員の生徒がビクリと身動ぎし、一拍遅れて答える。

 

「え、ええ。局長がそれで構わないのならそうしますが…えっと…」

 

「構わん、どの道私から伝えるべき事は伝えている。

 新人の為に必要な書類についてもこの通り…」

 

 カンナがファイルを棚から取り出して局員へと渡す。

…見間違いでなければとんでもない量だったが、もしかして全部私が埋めなくてはならないのだろうか。

 

「すべて纏めてある、確認を頼めるか? 」

 

 局員がザッと目を通し、頷く。

 こういう書類への対応は流石に早いな、SRTのオペレーターにも匹敵する程の速度だ。

 いや、連邦生徒会の書類関係のうるささを考えてみれば、こちらの方が早いとすら言えるのかもしれん。

…とはいえこの書類への慣れはヴァルキューレが動くまでの手続きの煩雑さも大きく関係している筈だ、そう考えるとやはりあまり良い環境では無いとも言える。

 

「…考えている事はわかるが、ある程度仕方の無い事だと割り切ってくれ。

 所詮我々は治安維持装置、与えられた力が大きい分付けられる首輪も頑丈になるのは道理だろう? 」

 

「理屈はわかりますが…いえ、これ以上は実際の仕事をおぼえてからという事にしておきましょう、あまり知らない事について論じる事ほど失礼な事はありませんから。

…ああ、必要なら後ほど報告書でも上げましょうか? 」

 

「できるならやってくれ、新人からの意見は貴重だからな。

 それで、他に何も無いならこのまま行ってもらうがどうだ? 」

 

 何か…何かか…ああ、折角だからアレを聞いておくか、価値観のすり合わせは大事だものな。

 

「では局長、突然であやふやな質問ですが、貴女にとって正義とは何ですか? 」

 

「哲学的な質問だな、それを私に聞いてどうする? 」

 

「どうするという事もありませんが、SRTには正義の為にって子が案外多くてですね。

 それで聞いてみると案外それぞれ思う正義が違って面白いので、付き合いが長くなりそうな人には聞くことにしているんですよ。

 というわけで強いて言うなら趣味です、なので嫌なら答えなくても大丈夫ですよ」

 

「…いや、答えよう。

 私にとって正義とは『子供の幻想』だ、失望したか? SRT」

 

 そう言う局長の顔は自嘲するように歪んでいた。

 

「いいえ、気が合いそうで何よりですよ

…ああ、それから私の事はトオルとお呼び下さい、もうSRTという名を背負える立場でもありませんからね」

 

…そして多分、私の顔もそうなのだろう。

 やれやれ、DOG2が心配するのもわかるというものだ…しかし、こればかりはな。

 これ以上この場に居るのも少々居心地が悪い、ここらで退散するとしようか。

 

「聞きたい事も聞けましたので、この辺りで私は私の業務に移らせていただきましょう。そこの、ええと…」

 

「あっ! 申し遅れました、ヴァルキューレ公安局3年、員本(かずもと)ツボネと申します」

 

「ではツボネさん案内をお願いしますね」

 

「ええ、任されました! 」

 

 元気よく答えるツボネを後目に、私は局長に向き直って再度敬礼を行う。

 

「では、奥野トオル、退出させていただきます。

 次に来る時は報告書を持って参りますので」

 

「期待して待っている、報告書の事も貴官自身の事もな」

 

「では、こちらも期待に添えるようにして参ります」

 

 そう言って私達は、今日話している間で初めて冷徹でも皮肉げでも無い表情を浮かべた局長を後に残し、部屋を出ていった。




『員本ツボネ』
学園  ヴァルキューレ警察学校3年
部活  公安局
年齢  17歳
誕生日 8月31日
身長  154cm
趣味  後輩をからかう事、街を眺める事

 ヴァルキューレ警察学校のモブを少し大人っぽくした感じ、キャラが多くなると大変なので名乗らせないつもりだったがどうしても名乗りたがったので名前がついた。
 後輩とドーナツ屋でお茶しながら街の喧騒を眺めるのが何よりも好きだが、公安局の3年生という立場上そういった穏やかな時間を過ごすのは中々難しく、本人も『こんな事なら公安局なんて入らなきゃ良かったです』とちょくちょく漏らしているものの、街の治安を守る仕事自体へのやりがいは感じているのか実際にやめようとしたことは無い。
 観察眼には自信があるらしく、実際彼女の前で隠し事を隠し通せた犯罪者は居ない、とまことしやかに囁かれている。
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