あの…色々とトオルちゃんのキャラが定まらなくて…あと、オリキャラじゃない子のキャラ解釈が合ってるか書く度に心配になってて…
えっと…トオルちゃんの過去を書くまでエタる気は無いので許してください…
「さて、色々と説明したり見せたりして来ましたが、ここが最後の場所です」
そう言うとツボネはドアを開いて手招きした。
手招きに従ってドアを潜り、辺りを見回す。
多種多様な的に透明な仕切り、整備用のスペース、これは…
「射撃訓練場、ですか…何故ここを最後に? ここまででもう少し相応しい場所があったように思えるんですが」
「あー…実はですね、貴女に会いたいと強く希望する人が知り合いに居まして、勝手ですが紹介の場にさせて頂こうと思いまして」
(あれっ? これは…誰か片付け忘れてしまったんでしょうか、仕方ありません、今のうちに本官が片付けてしまいましょう)
「…まだ施設の案内までしか済んでいません、研修を受けずに仕事、などというのでは支障が出ますよ」
(入りませんね…仕方がありません、無理やり押し込んで…うわわっ、中身がっ! )
「いやいや、そんな風にするつもりは無いですとも!
紹介だけですのですぐに済みますよ、ホントです」
お願い! とでも言うように手を合わせ、苦笑いをするツボネ。
ふむ、今日初めて会っただけの相手と言えばそうではあるが、ここまで頼み込まれて断るのも少々心が痛むな。
まあ少し付き合ってやるのも後輩としての甲斐性という物か。
…そもそも推定待ち合わせの相手がもう居るしな。
「仕方がありませんね、少しだけですよ。
それで、待ち合わせの相手というのはそこの物陰に隠れてる方でよろしいんでしょうか? 」
ため息と共に吐き出した言葉に反応したのか、備品を入れる箱の後ろから覗いていた白い頭がビクッと動いた。
…むしろアレでバレてないと思ってたのか。
そもそも見えてるのを置いておいても明らかにガサゴソ言ってたし、なんならちょっと焦った感じの独り言とか出てたぞ。
「ええ、その子です、受けてくれてありがとうございます。
…ほら、キリノちゃん、さっさと出てきて挨拶! 」
「はっ、はいぃっ!? 」
慌てて立ち上がったキリノと呼ばれた生徒が私の近くへ寄ろうと歩き出し、足元に散らばっていた弾丸を踏みつけてスっ転げる。
飛び散る弾丸、たなびく2本の長い三つ編み。
なるほど、先程の焦った声は備品の片付けをしくじった声だったか。
「…彼女はいつもあのような感じなんですか? 」
「いつもって程でも無いですけど、焦れば焦るほどボロが出るタイプですね」
なるほど、そういうタイプ…いや、良いのか? 焦りやすい非常事態に対応するのが警官なのでは?
「いやー、思ってる事はわかりますけど、あの子の素質はそこじゃないので。
私が思うにあの子ほど警官に向いてる子は居ませんよ」
「…ふむ、貴女の事をよく知らないで言うのもなんですが、人を1人そこまで惚れ込ませるというのは並大抵ではありませんね」
そんな会話をしていると、一連の騒動でボロボロになったキリノがなんとか私の前まで戻ってきた。
「ヴァ、ヴァルキューレ警察学校生活安全局所属、1年の中務キリノです! よろしくお願いします! 」
ピシリ、という擬音がしそうなほどキッチリとした敬礼。
全身から真面目そうな雰囲気が溢れ出ている…あと目が澄んでキラキラしてるし真っ直ぐだ。
本能的に恐れるはずの体格の大きい相手に対してこうまで真っ直ぐ来れる気質は確かにヴァルキューレ向きかも知れん。
…観察している場合では無いな、こちらも返答せねば。
「ヴァルキューレ警察学校公安局に今日より所属する2年の奥野トオルです。
年齢こそ上ですがヴァルキューレでの経歴は貴女の方が長いですから、色々と教えていただけると助かります、先輩」
「せ…せんぱい…! 」
キリノは噛み締めるように目を瞑ってそう呟くと、先程からもう既に輝いていたその瞳を一層輝かせながらこちらへずずいと近寄った。
…うーむ、眩しい、純朴さが眩しい。
1年の子ウサギ達が入ってきた頃の私もあんなんだったんだろうか。
「ええ、勿論です! 本官にお任せ下さい! まずはこの施設の案内…」
「は、私が済ませたから別な所で力になってあげてねー?
あと今日はちょっと時間無いから手短に本題だけお願いできる? 」
「はっ…! 失礼しました! 」
割り込んだツボネにぺこりと頭を下げるキリノ。
…危なくヴァルキューレ本館を2周させられるところだった、それも同じ日に。
「ま、そういう訳なので、早速本題に入って頂いても構いませんか? 」
「はい、ではなるべく手短に話しますと…その…」
キリノは口篭り、先程までこちらをしっかり見ていた青い瞳を所在なさげに泳がせながら続ける。
「大変恥ずかしい話なのですが、本官はヴァルキューレ生でありながら射撃能力に難がありまして…ですので…」
ここで一旦彼女は言葉を切り、意を決したようにキッとこちらを真っ直ぐ見つめた。
「本官の射撃訓練を監督しては頂けないでしょうか! 」
…なるほど、そう来るか。
「何故…と、聞くのも野暮ですね。
確かに私は自分で言うのもなんですが射撃は得意な方ですし、SRTに居た頃に下級生への教導を行った事もあります、適任ではあるでしょうね」
「では…! 」
「ええ、引き受けましょう。
先程頼んだように貴女には色々と教えて貰うつもりですし、それと交換と考えれば安いものです」
「ありがとうございます! 」
「
「へっ? 」
頭を下げていたキリノの目が点になる、状況を呑み込めていないようだ。
「先に、貴官にとって正義とはどういう物なのかを聞かせてください、深く関わるであろう相手には聞くことにしているので」
「あっ…じゃあ逆に言うと私、そんな深く関わる感じじゃないつもりなんですか? 」
予想外の方向から応答来た!?
「えっ!? いや、そんなつもりでは…」
「いや、良いんですよ気にしなくても、所詮私は局長の命令で同行しただけの人…親密さなんて、求める方が間違ってますよね…しくしく」
あ、あまりにもあからさまな嘘泣き…どうやら我が公安局の先輩は存外愉快な人らしい。
…これ、どう返すのが良いんだ? まあとりあえず折角だからこっちにも聞いておくか。
「じゃあ聞きますけど、貴女にとって正義ってなんだと思います? 」
ツボネは少し顎に手をあてて考えるような仕草をしてから、ニコリと笑って言った。
「いやぁ、初対面の人に聞く内容じゃなくないですか? それ」
「急にハシゴ外しますね!? 」
本来予想できたはずの反応だったのに思わず素で驚いてしまった…やはりこの手の揺さぶりに弱いのは克服すべき点だろうか。
「さて、真面目な新人さんをからかいすぎるのもよろしくないですし、話を戻しましょうか。
それでキリノちゃん、今の質問の答えは出た? 」
「はっ…!? 」
頭を抱えて煙を吹き出していたキリノが弾かれたように返事をする。
どうやら思索の世界から戻ってきたらしい。
「えーっと…ヴァルキューレ生として恥ずかしい事なのですが、いざ言われると本官にとっての正義というのはちょっとよくわかりませんでした」
「そうですか」
まぁそれはそうだろう、パッと答えが出る物でも無い癖に、大抵の人間はそんなことは普段は考えないし…
「ですが…」
そんな事を考えていた私の思考をキリノが続けた言葉が打ち切る。
「本官は市民の皆さんが安心して暮らせるような立派な警官になりたいと思っています。
ですから、射撃訓練の指導を諦める訳にはいきません! お願いします! 」
白い頭が勢い良く下がる。
誠実で真っ直ぐな気持ちが伝わってくる良い礼だ…それも市民の安心の為に立派な警官に、と来たか。
「あらあら、口角が上がってますよ新人さん」
「ん…失礼しました。
中務さん、貴女の正義は確かに見せて貰いました、銃と整備用具の用意と…それから連絡先の交換をお願いします、射撃は一朝一夕に成るものでも無いので」
「で、では! 受けて頂けるんですか!? 」
「それについては最初からそのつもりでしたが…思ったよりもいい物を見せて貰ったので、私も本気で臨ませて貰おうかと」
そう言ってポケットから端末を取り出し、モモトークを開いてキリノに見せると、キリノもまた端末を取り出して私を友達に登録した。
…エンジニア部と小隊の皆くらいとしか交換してなかったからうろ覚えだったのだが、どうやらこれで良かったらしい。
「これでよし、と…ああ、それから今から指導用の口調に切り替えますので、少々口調が荒くなりますがご容赦ください」
「え? はい、良いですけど」
「ありがとうございます…ではまずは整備からだ。
普段しているように私の前でやってみろ」
「はいっ! 」
バタバタと駆け出して整備用具を取りに行くキリノを眺めていると、ツボネがニヤリと笑いながら背中を叩いてくる。
「正義は子供の幻想、だったんじゃないんですか? 」
「それは私のじゃなくて局長のですよ。
…勿論同意した事は否定しませんが、私は子供が幻想に浸れない社会になったらそれはもう終わりだと思っているのでね。
でなければ態々人の正義観なんか聞きませんよ」
「おやおや? 私よりも年下の子が何か言ってますよ」
「別に私は大人ぶるつもりはありませんよ…単に夢をもう、無くしてしまっただけです」
「そうですか…じゃあ私は貴女がそんな風に誤魔化さなくても良くなる日が来るのを願うとしましょうか」
「私は別に…! 」
「あっ、ほら、可愛い可愛いキリノちゃんが銃の整備を始めますよ、見てあげて下さい」
確かにキリノはもう作業を始めている、この話をここで切り上げるのは不本意だがちゃんと見てやらねば不義理というものか。
…ふむ、清掃も組み立ても申し分ない手際だ、日頃の努力が見て取れる。
この分なら射撃訓練を行っていないから射撃が苦手、なんてことは無さそうだ、となれば根本的に何がしかが間違っているのだろう。
「できました! 」
「よし、ここまでは問題なさそうだ。
ではあの最も近い的を撃ってみろ、アドバイスはそれから行う」
「はいっ! キリノ、射撃を開始します! 」
そう言うとキリノは流れるように構えて…待て待てもう撃つのか!?
狙いをつけるのが早いのなら良いが、一切照準器を見ないで撃つのはダメだろう!
しかも引鉄を引く勢いが良すぎる…典型的なガク引きだな。
狙いも良くない、頭を狙うのは確かに少ない手数で相手を無力化するのには有効だが、射撃が苦手な人間が狙うには少々的が小さい。
なるほど見事に壊滅的だな…とはいえこういうのは全て新兵にはよくある事だ、ささっと矯正して今日のうちに1発くらいはあたるようにしてやろう。
「ど、どうでしょうか…」
5発撃って1発もあたらなかったキリノが少ししょんぼりしながらこちらに振り返る。
…いかんいかん、もうちょっとで今日初対面の人間の頭を撫でくりまわす所だった、この子の人に好かれる才能みたいなの凄いんじゃないか?
「そうだな、私に見られて緊張しているのもあるだろうが、全体的に少々焦り過ぎだ。
足を肩幅に開いて姿勢を安定させ、照準器をしっかり見て狙いをつけ、引鉄をゆっくり絞るように引いてみろ。
さっきよりはマシになるはずだ…それから狙いは胴体にしておけ、ひとまず今日は命中させる事から考えるんだ」
「わかりました! 」
そう言って先程とは違い、落ち着いて銃を構え、胴体にしっかりと狙いをつけたキリノの銃弾は…
「あれぇ!? 」
1発も命中しなかった。
…な、何故だ? 理論は間違っていなかったはず、不完全とは言えキリノもちゃんと動きに反映してくれていた。
動く的ならわかるが止まっている的で距離も近いんだぞ? 1発あたるくらいはしたっていい筈では無いのか?
「見ていただけましたか!? 本官の射撃が的に掠りましたよ! 」
「そ、そうだな、1歩前進だ、良くやったなキリノ。
…次はさっき言った事を意識しつつ、自分の銃の癖を把握してみろ、銃というものは同じ種類ならばどれも同じように見えるが、存外個性がある物だ。
誤差の修正までは考えなくて良いから正照準から着弾点がどの方向にどの程度逸れるかだけ雰囲気で良いから把握しろ」
そうだ、確かに改善はされているんだ。
例え少しずつでもあてられるようになっていけば………!
────2時間後
「うーん…あと少しな感じはするのですが…」
相変わらずキリノの弾は的にあたらなかった。
なにかこう、大いなる意思を感じるくらいにあたらなかった。
下手な鉄砲数打ちゃ当たると言うが、私はあの諺を今後使うのはやめようと思う。
何が悲しいってキリノは至って真面目にやっているのだ、そして改善点を指摘したらそれをちゃんと直そうと努力するし、概ね直せるのだ。
1個おぼえたら1個忘れる、みたいな事も無い訳では無かったが、何度もやるうちに全体的には改善されていたのは間違いない。
なのにあたらない、何故かあたらない。
銃に問題があるのかと思ってキリノから借りて私が撃ってみたが、射撃場の全ての的に問題なく命中させられたので銃の問題でもない。
「あのー…そろそろ研修の方に…」
「待ってくれ! いや、待って下さい。
もうちょっと、もうちょっとであたるようになるはずなんです! 」
「そう焦ることもないんじゃないですかー? 射撃は1日にして成らず、なんでしょう?
…それにこのまま行くと私研修が終わらずに残業になっちゃうんですよねぇ」
「前者については1度教えた技術を染み込ませるのが難しいって話で、1発あてるくらいなら1日でも行けると思うんですよ。
…後者はその、ホントにすみません」
「すまないと思うなら今日はもう終わりにして下さいよ、残業嫌いなんですよ私。
それに、キリノちゃんももう疲れたでしょ? 疲れたまま銃火器弄ると事故るよ〜? 」
「そんな事ありませんっ! 本官はまだやれます! 」
元気のいい返事ではあるが…どう見ても精神的な疲労が来てそうな雰囲気だ。
上達する事に気を取られて生徒の状態に気づけんとは、全く我が事ながら情けない。
「いや、キリノ、今日はもう次で終わりにさせてくれ。
考えてみれば確かに私は今日配属されたばかりだ。
他の人間の世話をして自分の仕事をおぼえられないとあっては、とんだ笑いものになってしまう」
「う…トオルさんがそうおっしゃるなら仕方ありません…次で終わりにします」
「悪いな、モモトークさえ送ってくれればいつでも相談に乗るからそれで許してくれ。
…それで最後だが、折角だ、命中させる感覚を知ってみようじゃないか」
「へっ!? いや、しかし本官はまだ1発も…」
明らかに顔を強ばらせたキリノの頭をポンポンと軽く叩いて落ち着かせる。
「安心しろ、何も突然自力で命中させろと言っている訳では無い。
単純に私が姿勢を整えて支えてやるから姿勢と感覚を記憶しろ、というだけの話だ」
「は、はぁ…」
…まだわかって無さそうだがまあ問題ない、どの道今回の場合はやればわかる。
「よし、まず足は肩幅だ」
「うひゃあ!? 」
キリノが変な声を出すが、構わず足を引っ張って位置を調整する。
足を横並びにするやり方もあるが、キリノは前後にずらしておいた方がやりやすいように見える為、そのように調節する…まぁ正直誤差だが。
「あっ、あのっ! 」
「背筋は伸ばしすぎず、僅かに前傾姿勢を取る」
こちらを向いて何か言おうとするキリノの頭を掴んで前を向かせ、背中を軽く押して伸ばしすぎている背筋を楽な体勢に変える。
「…」
「肘は利き腕を伸ばし、逆は軽く曲げる。
この時照準器を見て狙いをつけることを忘れるな」
キリノの背中の方から手を伸ばして肘の位置を調整した後、移動して銃を下から支える。
「これでよし、後は息を軽く止めてブレを抑えながら撃ってみろ、引鉄の引き方も忘れるなよ」
「………撃ちます! 」
響き渡る射撃音と共に放たれた弾丸は…
「み、見てましたか!? 本官遂にやりましたよ! 」
見事に狙い通り的の中心部に風穴を開けていた。
「よしっ! 偉いぞキリノ! 」
「良かったねぇ」
飛びついてきたキリノの頭をワシワシと撫でて労い、落ち着くまで待つ。
…おかしいな、2時間前には躊躇ってた記憶があるんだが。
「さて、水を差すようで悪いが、上手く的に命中したのは喜ばしいが、今のは自分の実力では無いことはわかっているな? 」
「うっ…それは、そうですね。
結局自力で撃ったものは1発もあたってない訳ですし」
落ち着いた後、現在の問題点を指摘するとキリノは唸りながらもしっかりと同意する。
自分の問題点を指摘されて冷静に真っ直ぐにそれを認められるのは立派な事だ、いつか射撃も上手になるだろう…多分、きっと、恐らく。
「今日の所はそれがわかっていれば良い、技術的な面はこれから幾らでも教えられるからな。
自分はまだ未熟で努力が必要なのだ、という心構えと、いつでも市民の事を考えている貴官の信念…この2つを持ってさえいれば、きっと貴官は立派で素敵な警官に成れるとも」
「…はいっ! 」
敬礼の姿勢を取るキリノの目はキラキラと輝いていた。
まったく、純粋な子だ…こんな偉そうな事を私のような奴から言われて素直に受け止められるとは…。
…そろそろ研修に戻らねば、ツボネも流石に待ちきれないだろう。
「では、これで今日の訓練は終了とする、よく頑張ったな」
「ありがとうございます! 」
ぺこりと頭を下げるキリノを背に、私は軽く手を振って訓練場を後にした。