という訳で焦り投稿です、はい。
(うーむ、どこを見ても不正まみれだ、望む所と言えばそうだが、やはり早まったか? )
辺りを見回してため息をつく。
人々がごった返し、やいのやいのと騒ぎ立てて目当ての商品の値段交渉を行っている姿はとても活気があり、休日の中心街のような様子だ…取引している品がどれも何がしかの条約やら規則で禁止されている品や表にはとても出回らない希少な品ばかりで無ければ、だが。
そう、ここはブラックマーケット、今日の晩御飯から違法な兵器、格安の傭兵まで何でもござれな闇市だ。
取り扱われている品はどれもこれも何がしかの後暗い所があり、1番マトモな商品ですら入手経路に何がしかの闇が存在する程。
それゆえ普通の人間が態々休日に来る場所では無いが、私には少々目的がある。
シッポを掴まねばならない組織があるのだ…その組織とは、カイザーコーポレーション、言わずと知れた超巨大企業だ。
この超巨大企業と私は少々因縁があるんで、不正の証拠でも引っ張り出して勢力を少しでも削げれば、と思って態々変装して来たのだが…
(目に映る不正が少々多すぎる…これではどれがカイザーに繋がっているのかもわからん、絞りようが無いぞ)
ご覧の通り立ち往生、という訳だ。
やはり先に事前情報を調べておくべきだったか…しかしこんな私的感情での行動にDOG2を付き合わせるのは少々気が引けるし、私自身ではそういった後暗い情報まで辿り着くのは難しいだろう。
「うっ、うわああ! まずっ、まずいですーっ! ついてこないでくださいー! 」
「む? 」
思案する私の耳に不意に悲鳴が飛び込んできた。
こんな場所に入り浸っている人間同士のいざこざだ、どちらが悪いのかわかったものではないが…
「悲鳴に動けん人間が、公僕を名乗るものでは無いな」
やはり性分なのだろうか、何のかんのと理由をつけて私の足は勝手に走り出していた。
目の前を遮る人混みを飛び跳ねて躱しながら悲鳴の聞こえる方向へと向かうと、ベージュのローツインテールを揺らしながら走るトリニティの生徒が目に入る。
…なんだってトリニティの生徒がこんな所に? 私が言えたギリでは無いが、こんな事がティーパーティーにバレたらまずいのでは無いか?
まぁ私の下らん疑問など後でどうにかすれば良かろう、まずは後ろを走るガラの悪そうな生徒共々彼女を止める!
「うわあ!? 」
壁を蹴って落下地点を調節し、トリニティ生の目の前に飛び降りる。
周囲には…見覚えの無い制服を着た生徒の1団もいるな、1番近くに居た狼耳の生徒が咳き込んでいる…着地時の土煙に巻き込んでしまったか。
「失敬、少々乱暴な着地になった…急いでいたのでな」
「うへ〜、気にしないで良いよ〜、おじさん達土煙には慣れてるからね〜」
己の事をおじさん、と呼称したオッドアイの小さな生徒が構えた盾の後ろでゆるーく笑う。
…あの速度の私の接近を感知していたか、手練だな。
「そう言って頂けると私も助かる…さて、私の用事は君達の方だ」
改めて背後に向き直ると、呆気にとられていたガラの悪そうな生徒達と…何故だか酷く怯えているトリニティの生徒が目に入る。
「マ…マーケットガード!? うわあ、なんでこんな事に…」
「マーケットガード…? 君達、マーケットガードという名前なのか? 」
「違うわよ! どう考えてもアンタの事でしょ! 」
憤然と抗議する赤目で猫耳の生徒を見て、ようやく昔DOG2とブリーフィングをした時の事を思い出す。
確かにブラックマーケット内での紛争を取り締まる装甲兵がそんな名前だったような…ああ、なるほど、私が今全身にアーマーをつけているから間違われたのか。
…私生活でも気を抜かないという私なりの意思表示が裏目に出るとはな。
ヘルメットを取ってつとめて穏やかに笑いかける。
今の私はカツラを被って銀髪にし、メイクで肌色を変えてある、素顔を晒しても問題無い。
「落ち着け、私は君の思うような存在では無い。
単純に普段から臨戦態勢を取っておくのが趣味なだけの一般人だ、事によっては君を助けるつもりもある」
「な、なんだてめぇ! 邪魔する気か! 」
「そ、そうだそうだ! ちょっとゴツい装備してるからってこっちに勝てると思うなよ! 」
「…ふむ、ちょうどいい、君達にも事情を聞きたいと思っていた所だった。
何故君たちはこの子を追い回していた? 何かこの子にされたのか? 」
真っ直ぐ見つめると、少し怯んだような仕草を見せながらもガラの悪そうな生徒が叫び返す。
「そんなもん決まってんだろ! そこのトリニティの生徒を拉致って身代金をトリニティからふんだくるんだよ! 」
「そーだ! 中々の財テクだろ? 良かったらアンタも仲間に入れてやろうか? 」
…あちらに同情の余地は無さそうだな、まぁ良かったと思っておこう。
1度安心させた相手をもう一度殴り飛ばすのは私にとっても少々後味が悪い。
さて、どう制圧を…
バスッ! バスッ!
銃声と共にガラの悪い生徒が倒れ伏す。
「悪人は懲らしめないとです☆」
「うん」
後ろを見るとゆるい雰囲気の大きめの生徒と先程まで咳き込んでいた狼耳の生徒の銃口をガラの悪い生徒に向けていた。
いくら思案していたとは言え私よりも手が早いとは…
「あっ、えっ? えっ? 」
明らかに困惑するトリニティ生…色々とお互いの事情を聞く前にどうやらこの子を落ち着かせる必要がありそうだ。
───────────────
「奥野ライコちゃんって言うんですね、可愛い名前です☆」
「ふふ、可愛いと言われたのは初めてだ、この図体だからな」
あれから少しして、お互いの自己紹介を済ませた。
小さい手練の生徒が小鳥遊ホシノ、狼耳が砂狼シロコ、猫耳が黒見セリカ、トリニティ生が阿慈谷ヒフミ、そして今私の偽名を褒めてくれたのが十六夜ノノミというらしい。
…そう、偽名だ。
今まではSRTの、これからはヴァルキューレの生徒が黒い噂のある所に出入りしているというのは、いくら事件捜査の為であったとしても少々よろしくない。
だから私はいつも偽名を用意してそれを使っているのだ…ちなみに奥野ライコはキチンと学籍もある。
百鬼夜行連合学院所属の…多分授業に出てないせいで留年してるから1年だ。
”確かにかわいいよりはカッコイイって感じに見えるかもね”
「ああ、自分で言うのもなんだが実際そういう風に言われることの方が多いな」
ああ、それから忘れてはいけないのがこの”先生”だ。
大人の男性、というのは初めて見たが…なんというかシワシワの白衣の下にヨレヨレのシャツを着てるところとか、明らかにそのシャツで拭いてそうな跡のあるメガネとか、とにかくズボラそうな印象だ…髪もなんかボサボサっとしてる感じだし。
それから目の下に深めの隈があるし、ほっといたらなんかそのまま倒れそうな儚い雰囲気を放っている。
「まぁ私の事は一旦良いとして…ヒフミ君、何故ブラックマーケットなんかに居たんだ?
君みたいな普通の子が来る場所じゃないだろう? 」
自分の事を深掘りして聞かれるのは少々困る…という事でヒフミの方へと水を向けると、若干話しにくそうにヒフミが口を開く。
「あはは…それはですね…探し物がありまして…」
「もしかして…戦車とか? 」
「もしくは違法な火器? 」
「化学武器とかですか? 」
「傭兵を雇う気ならやめておけ、ブラックマーケットの傭兵は士気が低いぞ」
「えっ!? い、いいえ…えっと…ペロロ様の限定グッズなんです…あの、これです! ペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定のぬいぐるみ! 」
「えっ」
首を横に振りながら差し出したそれは、白い鳥がアイスで窒息死している手乗りサイズのぬいぐるみだった。
…これが? 本当にこれが最近の巷では流行っているのか?
最近の女子高生は皆こんな舌が出ていて瞳孔まで開いてるように見える人形の為に態々ブラックマーケットまで来るのか?
…い、いや、これを最近の常識と捉えたせいで取り乱したが、まだこの子がとても奇特な趣味を持っている人間である可能性が残っている、私の価値観が浮世離れしていると決まった訳では………!
「わあ☆モモフレンズですね! 私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねえ! 」
…どうやら私は最近の女子高生では無かったらしい、そういう未練は捨てた物だと思っていたが、目の当たりにすると結構しんどいな。
その…モモフレンズとやらについて話しているようだが、まったく話が入って来ない…そうか、私はもうそういう感じなのか…そうか…。
「皆さん! 大変です! 四方から武装した人達が向かっています! 」
「何だと? 」
…と、落ち込んでいると聞き捨てならない情報が耳に飛び込んでくる。
集中してみると確かに大人数がこちらに駆けつけてくる音、人数は…足音で特定できる量を超えているな、少々面倒な組織に喧嘩を売ったか。
「あいつらだ! 」
「よくもやってくれたな! 痛い目見せてやる! 」
先頭には先程制圧されてコソコソと逃げ出していたガラの悪い生徒─面倒だからスケバンで良いか─が、銃を乱射しながら走って来るのが見えた。
「なるほど、報復という訳か…それで、諸君は逃げるのかね? 」
「いや〜、ありゃ逃がしてくれないでしょ〜…あ、お姉さんが1人で逃げるなら別かも? 足、速そうだもんね〜」
「ん、巻き込んだお詫び、足止めくらいならしてあげる」
ふむ…確かにここで暴れて騒ぎになるのは望む所ではないが…
「申し出はありがたいが、謹んで辞退させていただこう。
ここで君たちを置いていくのはあまり気分の良いものでは無さそうだ」
”なら応戦だね、アビドスの皆の指揮は私が取るけど…君はどうする? ”
「…いや、無用だ。私の戦闘は少々特殊だからな、初対面の人間が指示を出すのは難しいだろう」
”わかった”
さて、話はついたなそれでは迎撃を…
「待って待って! 何その構え!? あなた銃はどうしたの!? 」
くっ! 勢いで誤魔化せるかと思ったがさすがに無理だったか…そう、私の銃は2つあるのだが片方はSRT時代の物でもう片方は先日支給されたヴァルキューレの物…つまりどっちを使ってもわかる人が見れば身分が即バレするのだ。
ええい! どの道誤魔化す以外の手は無い! 後で納得してもらおう!
「訳あって今は使えん、無手だが足を引っ張るつもりは無いから安心したまえ」
「そうじゃなくて…ああもう! 勝手にして! 」
よし、押し切れたな! ならばあとは突っ込むだけだ!
「私闘を行うのは本意では無いが…貴君らが仕掛けてきたんだ、悪く思うな」
「うおっ!? コイツいつの間…」
に、と言い切る前に距離を詰めきり、頭をひっつかんでコンクリートにドン! 動かなくなったのを確認して次の相手に目を向ける。
「えっ? ちょっ…しっ、死んでっ…」
「死んでない、力加減は弁えている、意識を刈り取っただけだ」
「えっでもめり込んで…」
埒が明かないので喋っているスケバンを引っ掴み、同じようにコンクリートに叩きつけた後2人とも引き抜く。
ほら、白目を剥いてグッタリとしているが両方キチンと生きている。
「…問題ないだろう? 」
群衆は一瞬静まり返り…そして騒めく。
そのうち、1つの声がやけに響く声で叫んだ。
「こっ…殺される前に物量で押し潰せーっ! さもなきゃ死ぬぞーっ! 」
「「「うっ…うおーっ! 」」」
叫び声が轟き、人の津波が銃を乱射しながら押し寄せてくる。
「ふーむ、威嚇は失敗か」
「なに呑気に言ってるの!? 相手凄いやる気出しちゃってるんだけど! 」
「いや、面目ない…思えば仲間からもよく、威嚇する時の加減が間違っていると言われた物だ」
「それなのにあんなに自信満々で向かっていったの!? バカじゃないの!? 」
「本当に面目ない…だが責任は取る、私の方への一切の援護は要らないし敵も通さない、諸君は他方の敵に集中してくれ」
「何言って…」
返答を待たずに駆け出して手近な相手の銃を掴んで引っ張る。
抵抗しきれず前のめりになるスケバン。
その無防備になった首に腕を回して首を締め上げつつ暴徒の方へと向けて盾にし、相手がたじろぐうちに絞め落とす。
「借りるぞ」
意識が飛んだ事で力の抜けた手からずり落ちた銃をキャッチし、牽制として敵に撃ち込んだ。
ダダダダッ! という激しい銃声と共に弾丸が吐き出され、マトモにくらった何人かのスケバンが倒れる。
「おいっ! あの化け物銃持ったぞ! 」
「先頭なんて冗談じゃない、誰か先いけよ! 」
「落ち着けっ! 落ち着いて隠れろーっ! 」
再び誰かの指示が飛び、がむしゃらに此方へと走ったり銃を撃ち込んだりするだけだったスケバンの動きが一時的に止まった。
「ちょっ、今私の足踏んだの誰!? 」
「知らねーよ! お前こそ蹴っただろ! 」
…が、そんなに簡単に集団が止まれるわけも無く、始まった恐慌は大混乱を引き起こす。
その凄まじさたるや、こちらに向ける筈の銃口を隣の味方に突きつける者すら居る程だ。
「思ったよりもかなり練度が低いな…そぉれ! 」
その混乱をさらに大きなものにするべく、この混乱で遮蔽物の後ろに隠れるという冷静な選択肢を取ったスケバンの頭上へ手に持っていた方のスケバンをポイと投げつける。
それに視線が集まった一瞬、それを逃さずに近くのスケバンの腰から手榴弾を拝借し、ピンを抜いて転がした。
「ギャーッ! 」
「うわーっ! 」
爆発音と共に辺りに響く悲鳴。
恐怖を煽るのはこれで充分、後は少しのパフォーマンスで何とかなりそうか。
そうと決まればやる事は単純だ…ひとまず手榴弾を盗まれた事を申告されない為に捕まえて口を塞いでいたスケバンを手近な壁に叩きつけて無力化。
その後数人のスケバンが遮蔽物に使っている車に近づき…
「どっこい…しょっ! 」
外装に指をめり込ませながらゆっくりと持ち上げる。
本来ならもっと簡単に上げられるが、今回の目的は演出。
”重さ”を表現する事で凄い事をしているように見せかけるのがこのハッタリの大事な部分だ。
「あ…え…? 」
目の前を塞いでいた遮蔽物を突如取り払われ、面食らうスケバン。
その頭上に今持ち上げた車を勢いよく叩きつける。
轟音と共にヒビ割れる道路。
もうもうと上がる土煙。
少し土煙が落ち着いて、視界が良好になった頃にゆっくりと車を持ち上げると、ひしゃげた車体に数人の人間が刺さった奇妙なオブジェが姿を現す。
「さて、次の
目線を上げ、素振りで威嚇を行う。
「だ…ダメだ…こんなバケモンが居るなんて聞いてない! わ、私は降りる! 」
「あ、アタシもこんなのとやりあうなんてゴメンだ! 」
「あっ! おい待て! 待ってくれー! 」
蜘蛛の子を散らすように逃げていくスケバン達。
…実際問題車とか無駄に重いし予備動作がわかりやすいし、銃持ってた方が余程脅威なのだが、ああいう輩は大きさとか重さしか見ないからな。
とにかくこちら方面は片付いたので手に持った車を投げ捨てて後方を確認すると、アビドス高校の面々もしっかりと奮戦していた。
先程はホシノ君のみに注目していたのだが、なるほどこう見てみると皆練度が高い…面白い人々だ。
いかん、のんびり観察している場合では無いな。
「先生、こちらは片付いたが、あちらに加勢すべきかな? 」
”うーん、別に揉め事を起こしに来た訳じゃないし、道を開けてくれたならそっちから逃げさせて貰おうかな”
「了解した、では号令を頼む。
私は道中邪魔になる残党を払っておく」
”おっけー”
タブレットに何やら話しかける先生を後目に、改めて自分が担当した道路に向き直る。
さて、どの道を使ったら逃げ切れるか…。
「あ、あの…撤退するなら私、案内できますよ」
「おお! それは助かるなヒフミ君、どうやって逃げ延びようか思案していた所だったんだ」
「いえ、元々助けて貰ったのは私の方ですし…えっと、とにかくまずはこっちです! 」
ヒフミ君の誘導に従って走り、立ち塞がる敵を払い除ける。
後ろに先生達が続いてくるのを確認し、手近な物を投げ飛ばして敵の追跡を妨害し、我々はブラックマーケットの裏道をひた走る。
この時の私の脳内に、最早本来の目的の事は残っていなかった。