一.
「――そろそろ、実戦と行くか」
「実戦なのですか!」
「実戦なのですだ」
受話器を置いた真田の横で、電が目を輝かせた。別に血がたぎるわけではないだろうが、書類仕事と射撃訓練、それに平和な近海見回りばかりでは、飽きが来ても仕方がない。曰く、彼女は「ふね」なのだから。――船にとっての数週間、数か月は長いようで短いとは言え。
緊張した面持ちの電に、真田はうなずく。
「ええと、期日は……三日後だな。マルロクマルマル。泉浜第一艦隊は指定座標の海域にて姫島大佐の艦隊と合流したのち、随伴艦隊として作戦行動を共にせよ……だそうだ」
練習航海と言う名の水遊びにも飽きた頃だった泉浜鎮守府。そこに飛び込んで来たのは、元々泉浜の担当を務めていた姫島大佐からの連絡だった。
近海で小規模な討伐作戦が予定されており、教導航海を兼ねた随伴任務を命ず。転任したとは言え、自分の古巣を預ける相手への置き土産にも似た命令だった。
「さしずめ、新入り提督に稽古をつけてやるってところだろうな」
「――緊張するのです」
龍田たち、そして引き続いての建造による艦娘たちの加入でようやく艦隊の形を成したところである泉浜鎮守府。既に制海権を取り戻した近海での戦闘訓練、はぐれ深海棲艦の討伐ぐらいはあるものの、本格的な実戦は未経験。前任の姫島大佐が残した結果を引き継いだせいとは言え、いつまでも鎮守府に引きこもっているのが仕事ではない。
海を守り、取り返すこと。それが提督と艦娘、鎮守府にいる者の使命だった。
「いよいよなのです。……あの、司令官さん」
「どした」
「あ、いえ。何でもないのです」
「そうか。何かあったら言ってくれよ」
真田は、電が先日龍田たちを迎えて以来、たまに何かを言いたそうにしていることを気にしていた。
彼は彼で何となく察しているものの、それを軽々しく訊いていいとも思わない。少なくとも、電から話してくれるまではそっとしておくつもりだった。
妙な雰囲気を振り払うかのように、真田は話題を変えた。
「今日は午後、地域本部に呼び出されてるんだ」
「本部に、ですか」
「新任提督への追加研修らしいけど……何をするのか具体的には書いてないな」
「そういえば聞いたことがあるのです。艦娘に触れてから、改めて提督さんたちに向けて覚えてもらうことがあるって」
「最初からやればいいのにな」
真田はそう言ってから気付く。彼が属しているのは仮にも軍事組織。既存のそれらに比べれば柔軟な部分があるとは言え、曲がりなりにも組織のトップである提督の育成に関していい加減なやり方をするだろうかと。ある程度各自に任されていると言っても、何かしらの教育プログラムは存在するだろう。
ならば、これは必要なタイムラグということになる。実際に艦娘たちと暮らして、彼女たちが海へと浮かぶ姿を見ることで、提督たちに生じると思われる
(オレの抱えた疑問や迷いを、他の提督もきっと抱くはずだ。上層部は、それを見越して……?)
真田が心中に呟いたそれを見透かしたように、上目遣いの電が口を開く。
「司令官さん。お悩み、解決するといいのです」
頼りない司令官を気遣ってくれる彼女の頭に笑顔でデコピンを当てて、真田は執務机を立った。
二.
あちこちに点在する基地や鎮守府を統括する地域本部。集められた真田を含む数名の提督は、施設の地下へと向かう斜行エレベータにいた。待機していた会議室から言葉少なに呼び出され、大した説明もなしに載せられた無骨なエレベータには、階数の表示がない。暗闇に続いている誘導灯を数えることでしか、深さを測ることができないでいる。
(――海の匂い? 建物の中だってのに、妙だな)
雰囲気に圧倒される真田たち。先導する施設の職員を含め、誰も言葉を発しない。それは自分たちが向かっている場所が、明らかに普通ではないことに気付いているからだろう。
低い駆動音だけが響く中、誰かが身じろぎをした。
真田はすぐにそれが、薄暗い眼下にぼんやりと青白い光を見たからだと知る。
その正体は海水。洞窟のような場所に溜まった海水に、照明が反射していた。神秘的な光景にも見えなくはなかったが、溜まっている海水の上には無骨な足場が組まれている。誰の目にも、そこに何らかの施設があることは間違いがなかった。
エレベータはゆっくりと停止し、提督たちが目的地へ辿り着いたことを教えてくれている。
「総員整列……おっと、私と君たちに指揮命令系統はなかったな。楽にしてくれ」
今回の研修を担当する特海の隊員、青木大佐は宣言した。
提督たちが案内された先は、さながら海底洞窟といった趣の場所。
さすがに物珍しいのか、暗闇に慣れ始めた提督たちは周囲を伺い始める。この場所がどこか、提督が抱いた疑問に、青木大佐はあっさりと答えた。
「ここは別に過去の遺跡だの宇宙人の研究所などではない。単純な隔離施設だと思ってくれ」
正直な物言いに、数名から笑いの吐息が漏れる。
「無論、ここにいるのは遥か昔に封印された古代生物でもない。諸君らの現実だ」
ぼんやりと照明が明るくなり、ついにそれは確かな実像として姿を表した。
(――これは確か)
「『駆逐イ級』と呼ばれている特殊海棲生物、深海棲艦の一種だ。実際に目にした者も多いだろう」
並ぶ提督たちの正面、少し広くなっている場所に宙吊りの形で固定されていたのは深海棲艦だった。一見して活動していないように見えるが、ほのかに光る眼球が『まだ』を教えている。何らかの処置で動かないようにされているようだ。
青木大佐が提督たちに背を向け、吊るされたイ級を見上げる。
「こいつは別に特殊な個体というわけではない。ただ、こういうことが表に出ることは好ましくないというのは理解してもらえるだろう」
彼のその言葉で、その場にいた提督は善意が理解した。つまりこいつは『実験用』だと。続けて彼が口にした言葉は、それを裏付けるものだった。
「誰でもいい。こいつにこの拳銃を撃ってみてくれ」
真田は、自然と手を挙げていた。
「では、自分が。泉浜鎮守府の真田少佐です」
「泉浜……そうか、姫島の交代か。いいだろう、頼む」
提督となってから早数週間が過ぎていたが、彼は自分の仕事の及ぶ範囲を知りたいと思っていた。
人間、ひいては人類の用いる兵器によって深海棲艦に傷を付けることはできない。それは彼女たちと戦争状態に突入して数週間で導き出された絶望的な結論だった。非公式な情報ではあったが、ある国は核すら持ちだした。しかしそれが何ら有効打にならなかったことは、各国への艦娘の出現と組織化まで人類が押し込まれ続けたことが証明している。
今、真田や他の提督たちはそれを自分の手で実感しようとしていた。
受け取った拳銃を構え、慎重に狙いをつけ、安全装置を外し、そして――真田は、引き金を引いた。
命を奪う短い破裂音は、その音だけを虚しく響かせていた。撃ち出された弾丸が、イ級に当たろうとするその瞬間。まるで突進力を失ったように地へ落ちた。
薬莢の転がる音、そして弾丸が跳ねる金属質の音が耳を突く。分かっていた結果とは言えど、それを間近で見るのは提督たちにとっては初の経験だった。
「見ての通り。この生物たちはどうやら、彼らを傷付けようとする全ての攻撃を遮断している。冗談のように思えるだろうが、それが現実だ」
青木大佐の言葉に、真田は提督になる際に受けた教育での言葉を引用した。
「ある種の強力な力場、防御壁のようなものと説明を受けましたが」
「そうとも言えるし、またそうでないとも言える。……おい、やってくれ」
大佐の言葉と共に、戸惑いの残る提督たちの背後から機関砲が現れた。既に自衛隊では使用されなくなった、対空用の高射機関砲。それが現れた意図を察した提督たちが、一斉に距離を取る。
全員が安全圏まで退いたことを確かめた隊員が無感動にスイッチをひねる。
回転する砲身からは三十五ミリ砲弾がイ級に降り注ぐが、やはり傷ひとつ付けることはない。
「ッ! ……これも、結果は同じなのか」
着弾すらせず、弾は拳銃弾と同じようにイ級の手前で力を失っていく。
「撃ち方やめ!」
鋭く響いたその声で、再び地下に静寂が戻った。誰かが息を呑んだ音が、妙に大きく聞こえる。
「大石少佐。以上の実験を以って、何が言えると思う」
「――申し訳ありません、自分には、何も……」
真田の前にいた神経質そうな一人の提督が指名されたが、彼は顔を伏せる。無理もない。知っていたこととは言え、人間の兵器がこうも無力であることを間近で見せつけられたのだから。
「この実験が持つ意味を、自分は見出せません。人間が深海棲艦を傷付けることは適わない、ということは既に周知の事実です。それを自分たちに再確認させて、どうなさろうとおっしゃるのですか」
すなわちそれは、自分たちの存在意義に行き着く。唯一、艦娘だけが深海棲艦に対抗できる手段だという事実の前には、人間の存在などただの足手まといに過ぎないのではないかという。
自身の足許を揺るがされた全員が言葉に詰まる中、お構いなしに青木大佐は続けた。
「提督という指揮命令系統の存在が艦娘の助けとなっていることは、しばしば忘れられがちだ」
艦娘だけで艦隊行動をさせた時と、そこに提督を組み入れた時のパフォーマンスを計測したデータがある。確かに後者は前者と比較すると、戦闘力を始め、航行速度に至るまでの全ての値が倍――或いは数倍の数値を示していたという。
理屈ではない。『艦』という存在にとって、それが最も能力を発揮できる形だったということだと、提督に対しては講義などで幾度となく言われていた。
しかし大佐は、そこで首を振った。
「大石少佐を始めとして、ここに呼ばれた君たちは艦娘との相性を示すFGPの値が低いと算出された提督たちだ。つまり、君らがその艦隊を指揮することで艦娘のパフォーマンスが向上する効果は薄い、ということになる」
冷酷な宣言に、再び全員が言葉を失う。ほぼ唯一と言っていいメリットである戦力向上の能力、自分たちはそこすら劣っているというのかと。
だが、真田を含めた数名は考え込む仕草を見せていた。
(――この『儀式』が、単に提督の心を折るためのものなら、着任前研修の段階で行われているはず)
現時点で人類の兵器は深海棲艦に通用しない。机上の事実として知ってはいても、提督として戦えと辞令を受けた人間たちがそれを実感するのは難しい。何故なら、実際に相対して銃を撃ち込む機会などないからだ。そして、それを確認する必要も本来はない。戦うのは艦娘だからだ。
だからこそ、この無意味とも思える儀式には何らかの目的がある。
(提督に必要なのは、攻撃が通用しないという事実の向こう側にある何か……?)
ふと、真田の脳裏に情景が思い浮かぶ。それは、今朝電と交わしたやり取りだった。
「失礼ですが大佐。もしこれが落第生に対する公開処刑ではないのなら……」
真田は思い切って前に出た。自分たちに求められているのは落ち込むことではなく、この儀式を経て何かを掴むこと。沈む提督を見る大佐の目は、真っ直ぐに現実を見ていた。その目が真田を捉える。
「質問をしてもよろしいでしょうか」
大佐の帽子、目深に被ったそこから覗く瞳が細められる。
「深海棲艦は、自身を傷つける意図を持った物理的干渉を、無効化しているのではありませんか」
「ほう」
「先ほどの実験では、まるで物理法則を無視していたようにも見えましたが……深海棲艦が物理法則の外にいるのならば、そもそも彼らが海に浮かんで泳ぐ必要すらないはずです。奴らには物理的な実体があり、その中で攻撃に関するもののみ無効化している……というのは、的外れでしょうか」
拳銃。機関砲。恐らくは爆弾、ミサイルや刃物に至るまでの攻撃。彼らがそれを無効化するというならば、何かの仕組みがあるか、或いは物理的な実体が『ない』かのどちらかだ。
そして触ることができるならば、実体不在は簡単に否定できる。
「我々人類ではせいぜい触れるだけですが、それを越えて殴れるのが艦娘。違いますか」
帽子を被り直した大佐は、控えていた隊員に何かを促した。どうやら『儀式』の後始末らしい。この研修が結論にたどり着こうとしていることを、参加した提督たちは肌で感じ始めていた。
「満点ではないが、求めている答えに近づく質問ではある。……真田少佐だったな」
「はい」
「君は、出身はどこだ」
問われた真田はわざわざ出自に言及された理由を考える。たまたま隣にいた提督と目が合い、真田はすぐ大佐の質問が持つ意図を察した。
「陸上自衛隊、第一空挺師団です。大佐」
陸上自衛隊の組織の一つを口にした真田に、他の提督たちも反応する。
「大石少佐、君は」
「空自、小松の第六航空団です」
「小林少佐は元から海が担当だったな」
「はい、海自第二護衛隊群です」
「もう分かるな。君たちは、民間登用ながらFGPの高い提督たちと全く別の意図で運用される目的で編成されている。つまり、元から『軍人』であるか否かだ」
「既存の兵器が有効でないこととは分けて考えろ、そういうことですか」
大石少佐の問いに、大佐は黙って頷いた。
「真田少佐が言ったことと併せて考えてくれ。我々から仕掛けた物理的な攻撃は通用しない。しかし、奴らに物理法則は適用される。見ることはでき、触ることはできる」
「――妨害や、破壊を目的としない物理干渉は有効であると」
「その通り。艦砲射撃で波の一つも立たせて航行を邪魔してやればいい。煙幕を焚き、サーチライトを照らし、我々に代わって戦う艦娘たちの支援をしろ」
「軍隊として行動の出来る、人間が持つ装備の能力を知っている我々だからこそ、ということですね」
「そうだ。触れることの出来る相手に、我々が出来ることなどいくらでもある。よく考えたまえ、このイ級は何故こうして捕縛したままに出来る? そうすることの出来る手段があるからだ!」
力強い大佐の宣言に、全員の顔が引き締まる。
「悲観する必要はない。君たちなら、支援という行動が如何に重要かは分かっているはずだ。それは、艦娘たちも同じ……いや、過去から来た彼女たちにとっては、より一層重い意味を持っている」
過去の敗北を背負って、艦娘は戦っている。過去の失敗を背負って、人類は今を生きている。
人類が本当に過去から学ぶことが出来るならば――。
「彼女たちに、もう一度敗北を刻ませるわけにはいかない。それは、過去の戦争で力を尽くした全ての人々に、歴史に対してあまりに失礼だ。そうは思わないか」
次の敗北は国と国同士の敗北ではなく、人類そのものの敗北。提督や艦娘たちが敗けるというのは、つまりそういうことだった。
「君たち提督は、これからより艦娘を知り、敵を知り、そして人間の限界を知ってくれ。知った上で、その範囲で死力を尽くして欲しい。艦娘のおかげで人類が反攻に転じた今、次世代戦力として君たちが担うべき役割は多いのだから」
さっきまで死んだような目をしていた元自衛隊所属の提督全員が、かつて人類にやれることを探して自衛隊の門戸を叩いた時の輝きを取り戻していた。心を折る前段から、自分のアイデンティティを元に自信を取り戻させる。この教育プログラムを考案した人間の底意地が知れて、真田は苦笑した。
すっかり様子の変わった提督たちを眺めて、青木大佐は満足げに笑った。
「本日の資料は、追って各鎮守府に送付しておく。これから忙しくなるぞ、全員解散!」
敬礼の靴音が、灰明るい地下に響いた。
三.
「お帰り提督ぅ。先にやってるよぉ」
「おい早いな。酒癖の悪さは聞いてたが」
鎮守府への帰途で『懇親を兼ねて今日は飲む』と連絡を受けた真田を鎮守府で迎えたのは、すっかり出来上がった隼鷹、そしてほんのり赤い顔の龍田たちだった。電を始め、新たに艦隊に加わった夕立や時雨たち駆逐艦も泡立つ飲み物を手にしている。
「お前ら酒って大丈夫なのか。……いや、艦娘に年齢も何もないんだろうけど」
「い、一応ただのジュース……のはずなのです」
しゃっくりをする夕立を見て、真田は敢えてそれ以上追及するのを止めた。不知火などは目が完全に据わっている。艦娘なら死にはしないと納得することにしたらしい。
駆逐艦は電を始め、不知火、夕立、時雨、睦月。軽巡洋艦には龍田、そして夕張。重巡洋艦の摩耶、鳥海。唯一の空母に隼鷹。戦艦こそ着任していなかったが、この数週間で泉浜鎮守府に着任した艦娘はなかなかの顔ぶれだった。急ピッチで建造を進めた真田は、その結果を眺めて一人頷く。
隼鷹が派手に拍手を始め、全員の注目を集めた。
「じゃあ、主役が来たとこでご挨拶してもらおう! いぇーい、ひゅーひゅー!」
「お前、どっからそんな知識を仕入れて来たんだ」
過去からやってきた酒飲みが、すっかり学生飲み会のノリを知っていることに肩を落とす真田。
「こんぐらいは、ちょこっと今の連中と付き合ってみりゃ分かるってもんさ」
「着任研修、真面目に受けたんだろうな」
「当ったり前さあ。……まぁ、ちょっくら酒の勢いで誤魔化したとこあるけど」
頬を掻く隼鷹に真田はため息一つ。咳払いに続けて、ようやく提督の顔で口を開いた。
「真田だ。みんな、研修を終えて正式に着任となったわけだが、改めてよろしく頼む。三日後に控えた初出撃に備えて、訓練を怠らないように頼む」
「ノリが重いっぽい!」
「提督、カッチカチにゃしぃ」
駆逐艦たちから黄色いツッコミが飛び、真田はもう一度咳払いをした。
「とにかく、至らないところもあると思う、が……どうか、オレを信じて付いてきて欲しい」
何とか堅苦しい挨拶を済ませた真田に、全員からの拍手が飛んだ。今日のところはこんなものか、と座ろうとした真田の前で、隼鷹が手を挙げる。
「ん、何だ隼鷹」
「よっこらせっとぉ」
「注文ならそこのボタンを押せばいいだろ」
おもむろに立ち上がった隼鷹を茶化した真田だったが、彼女の瞳はいつもと違う。周囲もそんな彼女を見て、囃し立てるのを止めた。
前に立った隼鷹に肩を叩かれるが、何も言わない彼女に戸惑うオレ。何だ、と言おうとしたのを押し留めて、隼鷹がついに口を開いた。
「ああ、そうだ。アタシから、提督にひとつだけ注文がある」
真田の言葉を拾って、隼鷹は指で彼の胸を指差す。彼女らしからぬ真面目な雰囲気に、真田は知らず背筋を張っていた。
「アタシら艦娘は、人間じゃあないってことを忘れんじゃないよ」
「――それは、どういう意味だ」
今さらの宣言に、隼鷹の真意を図りかねた真田。龍田がそこに微笑みかけた。
「簡単に言うと、ちゃんと戦闘単位として扱ってねってこと」
「ま、そういうこったな」
「言いたいことは分かる。だが、オレも承知の上で提督を――」
戸惑う真田の言葉を、龍田が遮った。
「提督。ううん、真田クン。ちょっといらっしゃい」
「な、何だ急に」
龍田の手招きで横に座らされた真田。彼を挟むように隼鷹が座り、大人組に挟まれる形となる。
緊張の面持ちでふたりを見る提督へ、歴戦の軽巡洋艦が笑い掛けた。
「いいから、ほら。手を握ってくれるかしら」
「あ、ああ」
龍田に言われるまま、真田は差し出された手を取る。女性特有の柔らかな指先、そして手のひらから温もりが伝わる。着任式で交わした握手とは何故か感触が違ったように感じて、真田は照れた。
真田はこれから、この温もりを持つ艦娘たちを戦場に送り込まなくてはいけない。仕方のないこと、それが互いの使命であるとは言え、そこに抱く無力感はさして変わらない。
しかし、今日の出来事は少しだけ真田を前向きにしていた。
人間にはまだ彼女たちのためにやれることがある。共に戦うことができる。たったそれだけの事実が真田に自信を与えてくれていた。恐らくは雰囲気でそれを察していたのだろう、龍田がふわりと笑う。
「私たちは、こんなだけど『
何かを言おうとした真田の唇に、龍田の人差し指が触れる。
「できたら覚えてて欲しいな。私たちはどんなことがあっても、貴方たちのために戦うってこと」
「――ああ」
「貴方と一緒に笑ってお酒を飲んで、楽しく過ごす私たちと」
一度言葉を切って、龍田は立て掛けていた薙刀に手を添える。その瞬間刃先を見つめる龍田の瞳は、間違いなく戦う者の目だった。
「敵を殺す私たちは、同じってこと」
その鋭さに真田は一瞬息を呑むが、龍田の声はただ優しい。次に続いた彼女の言葉は、どこか悪戯を仕掛ける少女のようだった。
「あと一応、女の子だってこともね」
そう言って首を傾げる龍田の顔に、真田は何故だか訳もなく胸が締め付けられた。そんな真田を見た龍田が、一瞬驚いた様子を見せる。
龍田にとっても予想外だったらしい。大の男がいきなり涙を流したことは。
「す、すまない。何だか、急に。何だこれ……」
溢れた感情が処理できず、真田は顔を伏せた。
「いいのよ。ここには私たちしかいませんからね」
優しく真田の髪を撫でる龍田の手に、しばらく彼は大人しく慰められていた。
「ありがとうね、
ずしりと胸に届いた龍田の感謝が何に対してのものか。真田は、それが分かる気がしていた。
「――オレは、オレに出来ることをする。だから、みんなの力を貸してくれ」
「それでいいのよ、――
人ならぬ存在とは言え、少女たちを戦場に駆り出して戦わせるしかない理不尽。無力な人間の告白に許しを与えた龍田と、なにかを許された真田。
互いの運命を受け入れた彼らを、海という戦場が呼んでいた。