魔法少女保護機関   作:蟹ノ鋏

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少年は青年になってもヒーローが好き。
魔法少女も好き。
プリキュアもすき。
日曜日朝に天元突破していたあの頃に戻りたい。
そんな作品。


第一話 『ヒーローはどこに?』

000

 

 ――の行方は、誰も知らない。

『羅生門』 芥川龍之介

 

001

 

「――目が覚めた」

 

 昼下がり、ぼくは漸く自室で目を覚ました。

 寝過ごした。八時には起きるつもりだったというのに、もう正午を回っている。

 自堕落な生活は体内時計を狂わせてしまい、今までの人生で体に刻まれていたはずの八時間睡眠など簡単に崩れ去った。別に寝不足なわけではない。ただ、朝起きてもやることがないという今の生活が惰眠を貪らせている。

 ぼくは、絶賛ニートを満喫していた。

 26歳、無職。求職もしておらず、アルバイトもせず、手に職つけようと訓練したり勉学に打ち込んでいるわけでもない。

 貯金を切り崩しての一人暮らし。今の生活になる前は寝る暇すらなく働き通しだったので、貯金通帳はかなり厚みがある。

 何もしないのでは体が鈍るということでアルバイトでもしようと思ったけれど、まともなことが履歴書に書けないので止めた。なんせぼくは高校を中退している。最終学歴は中学校である。26歳の無職で最終学歴が中学校は不審がられるだろうし、自身の経歴は言うのが憚られるほどには碌なものではない。

 そんなわけでぼくは無職であり、子供の頃に読みたかった漫画や本を買いあさっては日々の時間をつぶしていた。

 

 

「……お腹減った」

 

 食材はないから買い出しに行かなければならない。できるだけ自炊を心がけている。貯金が底をつく――なんてことは恐らくないだろうけど、贅沢をするのが怖かった。小市民的な感覚であるぼくとしては無理のない節制を常に考えている。

 出前は配達員の人に少し申し訳なく思ってしまい利用していない。なんせここは22階なのだ。

 ジャージを脱いでいつものパーカーとジーンズに着替える。

 2年前に買ったボロボロの靴を履いて玄関から出る。

 寝ぐせを隠すためフードを被ってエレベーターへに乗り込んだ。

 ぼくの住んでいるマンションは駅から少し離れた場所にある、25階建ての高層マンションだ。ここら一帯ではかなり高めの物件なのだが大家のご厚意でかなり安く住めている。

 正直身の丈に合わないような高級物件で、広すぎる部屋は持て余しており、その余るスペースには本や漫画が雑多に積まれているといった状況だ。

 男の一人暮らしには優良物件過ぎる。

 

 つらつらと無作為に考え事をしながら踏切を待つ。スーパーはこの踏切の向こう側にある。肉は安いが野菜が高い。あと雑貨の品ぞろえはいまいち。一人暮らしとしては歩いて迎える範囲にあるだけでもありがたい。

 この街に住み始めて三ヶ月は経ったが未だに駅と駅前の本屋とスーパー以外の道筋を知らない。出不精ということもあるのだが、仕事もなければ趣味もなく友人すらいないぼくには街を歩く理由がなかった。

 運動不足の解消ということでジョギングでも始めてみてもいいのかもしれないけれど、人と会うのが苦手なぼくは走るにしても夜か明け方になるだろう。しばらく散髪をしていないぼくの髪はボサボサであり、元の情けない顔とよれた服装と相まって不審者に見えなくもない。そんなぼくが夜や明け方にジョギングなんてしていたら警察に職務質問されるだろう。そしてぼくは無職です、と答えるしかないのである。

 ぼくが怪しい外見をしているかどうかはさておき、ぼくは無職で親や友人との縁もない何の後ろ盾もない人間であるため警察みたいな権力にはめっぽう弱いのである。一応、普通免許と大型バイクの免許は持ってるから身元は証明できるのだけれども。

 権力に強い人間と言うのはごく一部しかいないから、ぼくみたいなのは極端な例にしても警察を前にすれば多くの一般人はタジタジするだろう。

 権力を握る側に立ちたかったなあ。メイドと秘書を同時雇用できるような。……それは財力の問題か。収入源のない今のぼくには家政婦や秘書を雇い続ける財力はない。

 メイド喫茶に通うことも考えたが流石に遠い。それにメイド喫茶のメイドはメイドというよりはコスプレイヤーに近い。あるいはサービス精神旺盛なウエイトレスか。

 本物のメイドとは何当たるかなんて語る資格はぼくにはないが、家政婦としてのメイドが素晴らしいという一般事実は確かにある。つまり、エプロン姿で掃除をするメイドはいいぞということだ。

 

「――あのーそこのお兄さん、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

 青い制服を着た男性が声をかけてきた。制服は当然メイド服などではなく市民の安全と財産を守るのがお仕事の公務員つまるところ警察官の制服である。某小説のように警察官好きの人間が自作した制服を着て職務質問のまねごとをしているのかもしれないが、近場に留めてあるパトカーをみてそれはないだろうと判断する。というか、不審者は誰からどう見もぼくである。昼下がりの平日、何も持たずに若い男が街中をぶらぶらしていたら警察官でなくとも不審に思うだろう。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「いやはや、済みませんね。近隣のパトロールを行っているのですが、お兄さんは今日は休暇かな?」

 

 警察官は二人いて一人は今話しかけてきている三十代半ばくらいの男性。その後ろからミニスカではない三十手前ぐらいの婦警さんがついてきている。

 男性警官はやせ形で警察官特有の圧迫感がない柔和な顔つきをしている、おっさんらしいおっさんといった風貌をしている。婦警さんの方は丸眼鏡をかけているツリ目の髪を後ろで括っている武道でもやっていそうな容姿だ。……警察官なら基本的には武道を修めてはいるだろうけど。

 男性警官は警察手帳を見せながらいろいろと質問してくる。婦警さんはそれをメモを取り静かにこちらを見つめている。喋る側と威圧する側、刑事だったら素晴らしいコンビだろう。職務質問をするお巡りさんとしては豪華に過ぎる。

 質問内容は大したことのないことだ。前に別の警察官に職務質問されたときとあまり変わらない。何をしているのか、どこに住んでいるのか、職業は――そしてお名前と身分証の提示。

 

「ああ、ごめんなさいね。フードを取ってもらえるかな」

 

 細い目で笑みを見せながら男性警官が問う。

 

「分かりました」

 

 運転免許を警察官に手渡しながら、フードを外す。寝癖が立つのは恥ずかしいので髪を手でそっと抑えながら男性警官に向き合う。

 ぼくの免許を見ながら男性警官は顔を確認してくる。

 

「とばり……トバリ・マモルでいいのかな?」

 ジロジロと免許証を確認しながら男性警官は尋ねる。

「はい。あってます」

 一か月ぶりくらいに名前を呼ばれた。前回も警察官の職務質問だったので、最近のぼくの名前は警察官に呼ばれる専用みたいなところはある。あ、宅配の人にいつも確認されているのを忘れていた。あれは作業のようなものなので名前で呼ばれているよりも記号で呼ばれているように思えて忘れていた。

 名前は記号だ。名前の持ち主にとっては最も重要な記号ではあるが、知らない人間にとっては識別の記号以上の価値はない。

 

「トバリマモルねえ……どっか聞いたことがあるような」

 

 だから自分の名前を勝手に知っている他人は怖い。お巡りさんなら特に。

 

「ぼくはお巡りさんのことは知りませんよ。今日初めて会ったはずですけど」

 

 事実知らないお巡りさんである。お巡りさんの顔なんて覚えているわけがないけど。刑事さんなら顔見知りはいる。名前は忘れたけど。

 

「……まあ、そうですね。見たことのない顔ですし、思い出せないということは恐らく大したことではないのでしょうな」

 

 男性警官は作り笑いをしてぼくに免許証を返却する。

 それを受け取りながら、なにか適当な受け答えを返そうとしたとき、

 

  ずるり

             と

              

        が

                        ずれた

 

 続いてノイズが響く。

 ガラスを擦り合わせたような。

 発泡スチロールを無理やり引き裂くような。

 地鳴りとも耳鳴りとも違う。

 ただ不快で吐き気のするノイズ。

 

 ノイズとともにずれた空が開かれる。

 開かれた空の先は七色の暗闇。

 シャボン玉の通して深い海の底を眺めているような景色だ。

 

 その暗闇から何かが這い出してくる。

 緋色の半透明な菱形をしたクリスタルを蛇のように連ならせて、オマケに紫色した煙でできた翼を大きく広げた何か。

 恐らくクジラよりは大きいだろう。

 空高い場所に穴は開いているというのにビルよりも大きく見えるのだから。

 東京ドーム何個分とかで表されるしっくりこない大きさだ。

 ただただ大きいことだけは見たらすぐにわかるだろうけど。

 

 

「い、侵略者(インベーダー)……!!」

 男性警官が震えた声で呟く。

 ゲームの世界から現れたかのようなソイツらはどこから来たのかどうして来たのか誰も知らない。だけれども確かにこの地球に現れた。

 そうして。ソイツらは、大暴れを繰り返し、理由もなく街を焼き、誰もが理解できないままに地球を壊していく。

 地球のものとは思えないその外見と容赦なく破壊を齎す様子から、いつしか誰かにこう呼ばれた。

 

 

 侵略者(インベーダー)

 

 

 侵略というよりは破壊活動を行うソイツらはどちらかといえばデストロイヤーな気はするけど。そもそも宇宙で生まれたかどうかも怪しく、生物というよりも現象に近いと生物学者がテレビで発表していた。となるとディザスターとかのほうが適切か。

 

 ……よく見たら蛇じゃなくてムカデかも。ムカデみたいな二つの牙がついた顎が見える。ムカデの牙は実のところ足が変化したものだって、ムカデ用冷凍スプレーを作っている企業の営業マンが言ってたけど。

 この際些細な見た目の差異はどうでもいいか。少なくとも侵略者は蛇やムカデの仲間ではないのだから。

 

「――カモイさん!!」

 

 切羽詰まった婦警さんの声があがる。

「分かってる!!クキ、お前は本部に連絡しろ。俺は近場の連中に避難勧告を行うように呼びかける」

 

 男性警官はすぐさま指示を出して対応する。スムーズに指示出しできるあたり、マニュアルがしっかりしているのかそれとも経験豊富なのかぼくには判断できない。

 

「お兄さん済まなかったねえ。今日はもう帰りな――いや、できるだけ遠くに逃げるんだ。走って逃げろ、パニックになっている人たちに巻き込まれないように」

 

 男性警官は諭すようにぼくに避難を促す。

 逃げると言ってもどこにだろう。

 ぼくに逃げる場所などもう残っていないのだけれど。

 そんな一身上の都合を男性警官が把握しているわけもなく、ぼくは適当に頷いて、パトカーに乗り込んで去っていく警察官たちを見送った。

 この町に住んでいればまた会うこともあるかもしれない。別段会いたいとも思わないけれど。

「……生き残ってほしい」

 思ってもいないことが口から出た。酷く空虚な言葉だなと思った。そもそもこの人でなしに思いなんてものがあるとは思えないが。

 勝手なことをしている。誰もが望んでいない、頼んでいないこと。その自覚はおおよそ十年近く前からあった。

 道を引き返すことはなかった。気が付けば辿り着いていた。

 スーパー近くの公園。子供の姿はなく、それどころか人気がない。

 いるのは空を悠々と泳ぐ巨大な侵略者。それだけ。

 悔しいことに雲一つない快晴だ。ぼくと侵略者を遮るものは何もない。

「やるべきかやらざるべきか。選択肢はあるけれど理由はない。はあ、何で引き返さなかったんだろ」

 自問自答、自己矛盾。いつだってこうして生きてきていつだって迷ってる。

 結局、何がしたかったのかなんて自分が一番よく分かっていない。

 藻掻き続けただけの十年間。這い上がることもできなければ沈めもしなかった。

 気が重くなって地面に視線を落とす。ここまできてもうじうじしているあたりぼくには本当に決断力がない。

 こんな為体でよくぼくは――

 

「私たちの故郷、大切な人たちを滅茶苦茶になんてさせないっ!!」

 

 『肉体変異(メタモルフォーゼ)!!快晴の蒼姫(スカイブルー)!!

 

「え?」

 

 ぼくの葛藤などいざ知らず、見ず知らずの中学生くらいの少女が唐突に現れ大きな声を上げたかと思うと、何やらペンダントのようなものを空にかざし眩い光に包まれ、透き通った水色を基調としたフリフリのドレスっぽい衣装にこれまた淡い青色の三角帽を被った姿に一瞬で変わり、水晶で出来ているかのような半透明な箒にスケボーのように飛び乗って、もの凄い勢いで空へと舞い上がった。

 

「えぇ……」

 

 何なんだあの少女は?

 少女が周り見ずなのはいつの時代でもよくあることだけれども、ものありげにため息ついて侵略者を見上げている大人に一切触れずに飛び出していくのいかがなものだろうか?

 少女に対するコメントは山ほどある。ぼくの中で抜粋するとなれば、あの少女の大切には少なくともぼくの命は含まれていないだろうことになるかな。そもそも眼中にもないけれど。

 

「でも、あれ、勝てないだろ」

 

 少女はぐんぐんと高度を上げていき侵略者の近くまでたどり着く。

 何かしら口をもごもごと動かした後で少女の乗る箒の先からレーザーのような光線が放たれた。

 その光線は数秒間5秒ほど放たれ続け、遅れて爆炎が噴き出しその爆音が伝わってくる。

 侵略者は避けようもなく、直撃した。

 ――が、爆炎が晴れた先には何事もなく大空を漂う侵略者の様子があった。

 当たり前の結果である。

 少女が放った光線にどれほどの威力があるのかはわからないが、少女と侵略者ではあまりにもスケール感が違い効果があるようには見えない。象と蟻、それほどの体格差がある。ぼくら人間もナイフで切りつけられればそりゃあ出血するしすごく痛いが、針で刺されてもチクリとするだけで効果があるわけではない。

 少女の光線もあの巨体に対し針ほどの威力はあったみたいで侵略者は身じろぎをした。

 その身じろぎを避けられなかった少女が吹き飛ばされるのは、当たり前といえば当たり前の結果である。

 

 落下していく少女を見つめながらぼくはようやく踏ん切りがつく。

 やるしか解決策はない。最初からわかってはいたけれど。

 

「変身」

 

 腰につけているベルトにある3つのボタンの中で黄色いボタンをカチリと押し込む。ベルトに付随しているメーターが『Low』→『Danger』に変わる。

 体が内側から作り変えられていく。

 ぼくの体表から黒色の黒曜石みたいな結晶が肌を覆うように生えてきて、まるで昆虫の外骨格のように全身を包む。それはさながら騎士の鎧のようであり、見ようによっては悪魔のように見えるかもしれない。

 

「モード、【(レイヴン)】」 

 

 その鎧の肩甲骨あたりの部分が膨れ上がり中か同じく黒曜石のような物質でできた黒い翼が生えだす。

 少女が地面に落ちるまでもう数秒もない。

 でも、十分すぎる猶予だ。

 翼が広がりきることを待たずにぼくは地面を蹴る。

 地表はみるみるうちに離れ落下する少女の目と鼻の距離までに近づく。

 右手をそっと少女に触れて、

 

「【重力制限(グラビティリミッター)1%】」

 

 そっと離れる。

 少女の周りに蚊帳のような膜が発生し、ゆっくりと少女と落ちていく。羽のように静かに。

 さて、ぼくは空を見上げる。

 相変わらずそこにはムカデのような見た目の巨大な侵略者が居座っている。

 暴れる様子はないところを見るにほんとにただこの世界に紛れ込んでしまっただけなのだろう。キョロキョロと周囲を確認するかのような仕草も見られる。

 ぼくは近くを見渡して、侵略者の背後にまだこちらへ来たときにくぐってきた空間の入り口があることに気がつく。

 押し返せる。やれればの話だけど。

 改めてその悠々とした破格のスケールの巨体を見つめる。大きすぎて視界に入り切らない。高層ビルとかそういった巨大建築物よりもさらに大きい。

 でも、恐怖はわかない。それはぼくがおかしいからか。

 それにもう、躊躇いもない。決意があればあとは実行するだけだから。

 

「【拘束解除(アーマーパージ)】。モード、【信天翁(アルバトロス)】」

 

 左腕の鎧がぼろぼろと剥がれ落ちていく。中から現れるのはゆで卵のようにつるりとした白い拳。

 数秒ならば持つだろう。

 ぼくは考えながら空を翔ける。

 左腕に全力を載せて。

 ばいばい、インベーター。

 思いっきり振り切った。




仮面ライダーよくわかんない。
響鬼がかすかに記憶にある。
でも響鬼は仮面ライダーじゃないらしい。
そんな作品。
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