転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話 作:おにい
星漿体。天内理子の護衛二日目の朝。
那覇空港に二人の高専生が来ていた。
「どう考えても、一年生に務まる任務じゃない」
七三分けがトレードマークで、母方の祖父がデンマーク人のクォーターであり深い掘りの顔立ちをしている。
今回は五条悟と夏油傑、禪院透の三人から依頼され、空港の警戒のために沖縄までやってきた。
「僕は燃えているよ! 夏油さんと透さんにいいとこ見せたいからね!」
見るからに好青年で、明るい雰囲気を感じる少年だ。
建人と同じく依頼で空港の警戒のために沖縄までやってきた。
「あっ、来ました来ました! 雄、建人! 遠路はるばるご苦労様です!」
二人が空港に着き、検査所を抜けると透が待っていた。
「透さん!」
「……なぜ居るんですか?」
二人は透がいる事に驚いているようだった。
そんな二人の反応に透は首を傾げる。
「えっ、悟さんから聞いていませんか……? 一年生の二人だけじゃ不安だろうってことで私も空港の警戒に回ったんですけど」
今回の依頼は一年生で準二級の二人には荷の重い案件だった。
それを心配した透が増援として合流する。
そのことを二人に伝えてくれと悟に頼んでいた透だったが、二人の反応からして連絡し忘れていたようだ。
「ぐっ……また五条さんですか……」
建人は頭に手を当てて苦い顔をして言った。
「聞いてません!!」
雄は元気よく言った。
「あぁ……悟さんらしいですね」
そんな二人の反応に透は苦笑いで答える。
「そのらしさは無くして欲しいです」
建人は苛立っているようだ。
そんな建人の反応に透は申し訳なくなる。
「透さんが居るなら百人力ですね!」
「流石に一年生のお二人だけに任せられませんからね。少しの間ですが一緒に頑張りましょう!」
元気な雄に便乗して透は腕をまくって言った。
「台風が来て空港が閉鎖されたら頑張り損です」
冷静にそんなこと言う建人。
「確かに! でも、台風の情報はありませんし大丈夫ですよ!」
透がそう言った時、雄の携帯が鳴った。
雄は携帯を見て、その後建人と透の方を見る。
「七海! 透さん! 滞在一日延ばすって!! 何かあったのかな!」
「チッ……」
建人は二人に聞こえないように舌打ちをした。
建人は残業が嫌いだった。
「あら、どうしたんでしょうか……?」
透は首を傾げる。
何か重要な案件なら透にも連絡は来るはず。
だが、連絡は雄に来た。つまり、重要なことではないのだろう。
「心配ですね!」
雄が元気よく言うと、次は透の携帯が鳴った。
透が携帯を取り出し、悟から届いたメールを確認すると『滞在一日延ばすことにした。観光する』という内容だった。
「……なんか一日観光する事にしたみたいです」
透は苦笑いで言った。
「チッ!!」
建人は大きく舌打ちをした。
これは悟が悪い。
※ ※ ※
建人、雄、透の三人は三手に別れ、透は空港の入口付近の警戒をしていた。
敵を感知するために結界を展開していると、結界に悟達が入ってきた。
透は何かあったのかと悟達が居る駐車場まで走った。
「おーい! 透ー!」
駐車場に到着すると、一人車から降りていた悟が透に向かって手を振っている。
透は悟の元まで走る。
「悟さんどうしたんですか?」
透は悟を見ながら首を傾げる。
「これから水族館行くんだけど一緒に行こうぜー」
悟はまるで休日に友人を誘うように言った。
そんな悟の発言に透は驚く。
「水族館!? いや、私一年生二人と空港警戒中なんですけど……」
「空港の警戒なんて一年二人で十分だろ」
「いや……万が一がありますよ」
透は譲らない。
空港を警備する目的は万が一にも空港が占拠され飛行機が飛ばないという状況を防ぐためだ。
もし、そうなってしまったら最悪、天元との同化に間に合わない。
天元と星漿体の因果を知っている透からしたら、そうなることはないと思ってはいる。
だが、何か事件が起きるのは理子の精神衛生の為にも避けたいのだ。
「万が一を考えるなら透が天内の傍にいるのが一番だろ。最悪、空港が占拠されたとしても俺と傑で何とかできる。今は天内の身が一番の優先対象だろ」
「……確かに、一理あります」
透はなかなか頷かない。
確かに身の安全を考えるのが一番ではあるが、悟と傑が居れば十分だろうと考えていた。
なら、余る戦力の自分は空港の方がやはりいいのでは、と考えていた。
「それに天内がオマエとも一緒に居たいって」
「行きます」
悟の言葉に即座に透は頷いた。
ここまでの事は全て理子の精神の為にしてきた。
もし、自分といる事を理子が望むなら、それはすべてに優先することだ。
「そう言うと思った。七海達には俺から連絡しておくから」
「ありがとうございます!」
透は笑顔で悟に返事をした。
透が車に乗ると、理子が嬉しそうな顔をした。
先日、ホテルで一緒に話したことで透と理子の距離は縮まっていた。
「禪院も一緒に来てくれるのか?」
「はい! ここからは私もご一緒します!」
透はそう言って理子の髪を撫でた。
すると、理子はさらに嬉しそうな顔になる。
「……頼もしいのじゃ!」
「おい、俺達は頼もしくなかったのか」
理子の言葉に悟はツッコむ。
すると、理子は黙ってそっぽを向いた。
「……」
「黙んな!」
その後、悟は連絡を忘れ「透さんが攫われた!?」とひと騒動あった。
透は二度と悟に連絡は任せないと学んだ。
※ ※ ※
星漿体。天内理子の護衛二日目の夜。
水族館を楽しんだ一行は、先日と同じホテルに泊まる。
沖縄を出発するのは明日の朝だ。
幸いなことに空港では何のトラブルも起こらなかった。
「水族館楽しかったですね」
先日と同じホテルの一室で透と理子の二人は同じソファに隣り合って喋っていた。
黒井美里は二人と交代でホテルのお風呂に入っていた。
「楽しかったのじゃ!」
「私、水族館って禪院家に生まれて初めてでした……あんなに綺麗になっていたんですね」
透が最後に水族館に行ったのは前世でのことだった。
「妾も初めてだった!」
理子は笑顔で答える。
そんな理子を見て、透は優しく微笑む。
「星漿体は自由な行動が制限されてしまいますからね」
「そうなのじゃ……だから今日は本当に楽しかったぞ」
「それは良かった」
「……また、行きたいな」
それは理子の小さな弱音だった。
その言葉を透は聞き漏らさなかった。
「理子ちゃん……理子ちゃんは星漿体として天元と同化することをどう認識していますか?」
透は真剣な表情で理子に聞いた。
透の言葉に理子は少し驚いていた。
「……天元様との同化をどう認識しているか」
「はい」
「同化と死は違う。妾は天元様となるが天元様もまた妾となる……じゃから、妾の意思や魂は生き続ける」
理子は先日のように自信満々ではなく、透から視線を逸らしながら言った。
「……その認識は半分正解で半分間違いです。やはり、同化のことを詳しくは伝えていないのですね」
透がそう言うと理子が身を乗り出した。
「! 禪院は何か知っているのか!?」
「……はい」
透は暗い顔をして答える。
それは何かを思い出してのことなのか、透にしては珍しいほどに暗い表情だ。
「お、教えて欲しい! 同化とは……本当はどういうものなのだ?」
「酷な話になりますよ……? それでも聞きたいですか?」
「……妾は……星漿体として天元様と同化する者として知っておきたいのじゃ……!!」
理子の目は真剣そのものだった。
そんな理子の目を見て、透も口を開く。
「先程、半分正解で半分間違いと言いましたよね」
「あぁ……言ったのじゃ」
理子が頷く。
「半分正解の部分は"同化は死と違う"という部分と"魂は生き続ける"という部分です。そして間違いは"意志が生き続ける"という部分……」
「ど、どういうことなのじゃ?」
理子は冷や汗を流しながら首を傾げる。
透はそんな理子に人差し指を向けて話す。
「天元との同化は天元の肉体をリセットするために行われます。簡単に言うと、星漿体とは天元の魂と相性のいい肉体を持つ人間の事です」
「天元様の魂と相性のいい肉体……」
理子は透に指差された"自分の体"を見る。
そう、天元が術式のリセットに必要としているのは星漿体の体だけだった。
「つまり天元にとって必要なのは肉体のみ……しかし、基本魂は肉体とイコールで繋がっています。肉体の主導権は天元に移りますが魂は残り続ける」
透の小難しい言い方に理子は首を傾げる。
「それは……どういう事なのじゃ?」
「天元と同化後のあなたは永遠に近い時間を物言えぬ魂として天元と共に存在し続けるという事です……同化した天元ですらあなたの声には気づけません」
「……」
透の答えに理子は俯いて黙ってしまう。
透の言っていることが本当なら、それは死ぬよりもずっと恐ろしい事だった。
「不死の天元が死ぬまで……魂として孤独に存在し続けないといけない……」
「これが天元と同化するという事です」
透は理子の目を真っ直ぐ見た。
その目からは怯えが感じ取れる。
「それは永遠に近い時間を孤独に存在し続けるということか……」
理子は顔を青くして聞いた。
そんな理子の質問に苦虫を嚙み潰したような顔で頷く透。
「はい……」
「……怖いの」
理子は俯きながら小さな声で言った。
「理子ちゃん……」
理子は静かに隣に座る透に寄り掛かった。
透は黙って理子の肩を抱く。
「禪院……怖いのじゃ……覚悟はできていたはずなのに……」
「ごめんなさい……理子ちゃん……」
涙を流す理子に透は悲しそうな顔で謝る。
理子は首を横に振った。
「ううん、禪院は悪くない。教えてくれて感謝する……悪いのは覚悟の甘かった妾だ」
理子がそう言うと透の肩を抱く力が強まった。
理子はそんな透の行動に肩をびくっと震わせた。
「違います……永遠に近い時間を孤独で過ごすなんて、どれだけの覚悟があっても怖いことです」
「そうか……怖い……怖いのじゃ……」
透の言葉に理子は涙を我慢できなくなった。
今まで同化に対してポジティブに考え、恐怖を誤魔化していたが、その全てが溢れ出したのだ。
理子は透に抱き着いた。胸の中で理子は泣いていた。
透はそれを受け入れ、理子を優しく抱き返す。
「……理子ちゃん」
「すまない。こんなことをして、禪院が困るのは分かっておるのに……」
こんな状況でも優しく他人を気遣える理子を透は悲しそうな目で見た。
そして透は抱きしめる力を少し強める。
「いいんです。理子ちゃんの恐怖を少しでも私に分けてください……」
「怖い……怖いよ……」
理子は十分ほど透の胸で泣くと、疲れて寝てしまった。
透は「ごめんね」と言いながら、ずっと抱きしめていた。
※ ※ ※
星漿体。天内理子の護衛三日目の昼。
沖縄から帰ってきた一行は高専に無事到着した。
理子は先日までの恐れは悟られないように、いつも通りに振舞っている。
透も先日の事は誰にも話していない。
「みんなお疲れ様。高専の結界内だ」
高専の結界内に入ると傑が言った。
高専の結界内は不審者の侵入を感知すると、自動でアラートが鳴る様になっている。
そして、高専内には上級の呪術師が数名滞在している。
ここまでくれば安全という事だ。
「んー、流石に二日間結界出しっぱなしは疲れちゃいましたね」
透は自身の結界を解除し、伸びをする。
透はこの二日間寝ずに結界を出し続けていた。
その呪力消費はとてつもなく、高専に到着するころには呪力が枯渇寸前だった。
「これで一安心じゃな!」
理子は元気よく言った。
それに続いて美里も安心する。
「……そうですね」
「悟も本当にお疲れ様」
傑は悟の方を見ながら言った。
透と同様、悟もこの護衛中は無下限呪術を出しっぱなしにしていた。
悟の場合、呪力量は心配ないが無下限呪術は処理が大変な為、脳への負担や疲労は透以上に蓄積していた。
「……二度とごめんだ。ガキのお守りは──」
悟が無下限呪術を解き、一息ついた瞬間。
悟の腹部をいつの間にか背後にいた大柄の男の"刃"が貫いた。
「「「!?」」」
悟を含め、その場の全員が驚く。
ここは高専の結界内部。侵入者の知らせもない。
あまりに不可解な状況だ。
「──アンタ、どっかであったか?」
悟は振り向き侵入者の顔を見ながら言った。
そして侵入者の男は軽く笑う。
「気にすんな。俺も苦手だ。男の顔覚えるの」
透は男の顔を見て、さらに驚いた。
そこにいたのは、
「と、甚爾兄様……!?」
自身の兄──禪院甚爾だった。