転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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十一話『伏黒甚爾と禪院透』

「甚爾兄様……!?」

 

 透は予想外の甚爾との再会に驚く。

 傑はすぐさま呪霊を出し、甚爾を飲み込ませた。

 

「悟!!」

 

 駆け寄る傑を安心させるように笑みを浮かべる悟。

 

「問題ない。術式は間に合わなかったけど、内臓は避けたし呪力で強化して刃をどこにも引かせなかった。ニットのセーターに安全ピンを通したみたいなもんだよ。マジで問題ない」

 

 確かに急所は外している。だが、相当なダメージだ。

 透は悟のやせ我慢にすぐ気づき、駆け寄った。

 

「強がらないでください悟さん! すぐに治します!」

 

 そう言って透は悟の傷口に反転術式を施した。

 

「っ、さんきゅー……」

 

 悟の傷を治しながら透は甚爾の情報を喋り始める。

 甚爾は自身の大事な兄ではあるが、今現在、敵であるというのは確定だ。

 そこで甘さを出すほど透も馬鹿ではなかった。

 

「禪院甚爾……襲ってきたのは私の兄です。天与呪縛で呪力を完全に無くした代わりに人を超越した五感と身体能力を持っています。万全の状態の私でも手も足も出ません」

 

「マジかよ……とにかく今は天内優先だ。透と傑は先に天元様の所に行ってくれ。透、オマエの兄貴殺しても恨むなよ」

 

 悟は厳しい顔でそう言った。

 そんな悟の目を透は真剣な表情で見る。

 

「……殺す気でやらないと甚爾兄様には勝てませんよ」

 

 透が真剣な眼差しでそう言うと悟は冷や汗を流して頷いた。

 家族を愛していると常日頃から言っている透が真剣な顔で言うのだ。

 悟もより敵に集中する。

 

「油断するなよ」

 

 去り際に傑が言った。

 

「誰に言ってんだよ……」

 

 悟は軽く笑いながら返す。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 高専最下層。薨星宮(こうせいぐう)の参道。

 透達は無事逃げ、天元の待つ薨星宮本殿へと向かっていた。

 四人が並んで歩いていると、透の隣を歩く理子が透の袖を引っ張った。

 

「五条に任せて良いのか……禪院の兄なのじゃろ?」

 

 理子の問いに透は真剣な面持ちで答える。

 

「……私では甚爾兄様の足止めはできません。それにもしもの時……私は理子ちゃんと美里さんの傍にいないといけない」

 

「もしもの時……?」

 

 理子は首を傾げた。

 

「理子ちゃんと美里さんが殺されてしまった時です」

 

 透の答えに理子は驚く。

 透の目は真剣だ。

 

「っ!? こ、殺されてしまった時……殺されてはどうしようもないのではないのか?」

 

「殺されても五分以内なら生き返らせられます……これは甚爾兄様も知らない事です……」

 

 透の答えに理子は驚く。

 五分と言う制限があるとは言え、死んだ者を蘇らせるなど神の如き所業だ。

 理子の斜め後ろを歩く美里も驚いていた。

 

「透……呪力の方は大丈夫か?」

 

 前から透の蘇生を知っていた傑は特に驚いた様子もなく透に聞いた。

 悟と違って透の呪力は確実に消耗する。

 二日間結界を出しっぱなしにして切れていないのが不思議なほどだ。

 

「正直まずいです……残り一割もないですよ」

 

 と、苦笑いで言う透だが、これは傑を安心させるための嘘だ。

 本当の話をすると、もうほぼほぼ枯渇している。

 恐らく反転術式を二、三回行使すれば完全に呪力は底をつくだろう。

 

「……じゃ、じゃが、五条は強いのじゃろ?」

 

 理子が不安そうに透に聞いた。

 確かに五条悟は現代の異能と呼ばれるほどに強い。

 しかし、透が知る禪院甚爾という男もまた五条悟とは違う現代の異能……いや、現代の異端と呼べる存在だった。

 

「甚爾兄様は禪院家の全員が相手でも勝てるほどの人ですよ。禪院だけに……」

 

「透、笑えないよ」

 

 傑は呆れ顔で言った。

 

 薨星宮への参道をしばらく歩いていると、黒井美里が立ち止まる。

 

「理子様……私はここまでです……」

 

 薨星宮の本殿は限られた者しか入ることを許されていない。

 つまり、理子と美里はここでお別れだった。

 理子は美里の顔を見る。

 美里は今にも泣きだしてしまうのではないかというほど悲しそうな顔をしていた。

 

「黒井……」

 

「理子様……どうか……!!」

 

 理子が美里に抱き着いた。

 理子の目には涙が浮かんでいる。

 

「黒井──大好きだよ!!」

 

 抱き着く理子を美里は抱き返す。

 これまで妹のように娘のように思っていた理子との別れに、美里も涙を抑えられなくなる。

 

「ずっと……!! これからもずっと!!」

 

「私も……!! 大好きです……!」

 

 理子と美里。二人の別れを傑と透は優しい目で見ていた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 薨星宮の本殿。

 中央の大木を沢山の古めかしい建物が埋め尽くした空間。

 そこは国内主要結界の基底。重い空気があたりに立ちこめていた。

 透、傑、理子の三人はそんな空間に到着した。

 

「ここが天元様の膝元。国内主要結界の基底。薨星宮(こうせいぐう)、本殿」

 

「ここが……」

 

 傑の紹介に理子はあたりを見回した。

 その目にはまだ涙の跡がある。

 

「階段を降りたら門をくぐって、あの大樹の根元まで行くんだ。そこは特別な結界で招かれた者以外は立ち入れない。同化まで天元様が守ってくれる」

 

 傑は中央の大木を指差しながら言った。

 理子の表情は暗い。

 そんな理子に傑は優しい目を向ける。

 

「──それか引き返して黒井さんと一緒に家に帰ろう」

 

「……えっ?」

 

(傑さん……)

 

 傑の言葉に少し間を開けて理子は驚く。

 透は悲しそうな表情で二人を見ていた。

 

「担任から任務を聞いた時、あの人は"同化"を"抹消"と言った。あれは、それだけ罪の意識を持てということだ。うちの担任は脳筋のくせによく回りくどい事をする」

 

 傑は一歩理子に近づいた。

 そして思い出すように軽く下を向く。

 

「君と会う前に悟や透との話し合いは済んでいる。理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私達が保証する。大丈夫──」

 

 ──私達は最強なんだ。

 

 傑は優しい表情で理子を見ながら言った。

 その言葉に疑いはない。

 

「……私は──」

 

 傑の言葉に、理子はぽつりと言葉を零した。

 

「生まれた時から星漿体(とくべつ)で、皆とは違うって言われ続けて、私もそれが普通だった。お父さんとお母さんがいなくなった時の事は覚えてないの……もう寂しくも悲しくもないの」

 

 理子の声が震え始める。

 そんな理子を変わらず優しい表情で見る傑。

 透は理子を悲しそうに見ていた。

 

「だから、同化で皆と離れ離れになっても大丈夫って思ってた。どんなに辛くたって、いつか悲しくも寂しくもなくなるって……。でも……!」

 

 理子の目に再び涙が浮かぶ。

 その口調は天元を意識したものではなく、天内理子の自身の言葉だ。

 

「でもやっぱり……もっと皆と……一緒に居たい!! 皆に忘れられるのが怖い……!!」

 

 叫ぶように、強く伝えてくる理子。

 そんな理子を見て、傑は優しく微笑んだ。

 

「もっと皆と色んな所に行って……色んな物を見て……もっと!!」

 

(ごめんね……理子ちゃん……)

 

 透は理子の変えられない因果を知っている。

 理子の言葉を聞いて、助けたい気持ちは誰よりも強い。

 それでも助けられない。だから、心の中で静かに謝る。

 

「帰ろう。理子ちゃん」

 

 傑は理子に手を差し伸べた。

 差し伸べられた手を見て、理子は涙を拭き手を伸ばす。

 

「……うん!!」

 

 ──パンッ!!

 

 銃声。

 理子は脳天を銃で撃ち抜かれ、その場に倒れた。

 

「──理子ちゃん……?」

 

 傑は倒れた理子の死体を呆然と見る。

 即死だった。

 

「理子ちゃん!!」

 

 透はすぐに理子の元に走った。

 これは透にとっても予想外の事だった。

 

 傑が銃声のした方を見ると、そこには一人の男が立っていた。

 

「ハイお疲れ。解散、解散」

 

 禪院甚爾。

 悟が戦っているはずの男が立っていることに傑は驚く。

 甚爾の声に振り返った透は苦い表情になった。

 

「甚爾兄様……!!」

 

「なんで、オマエがここにいる……」

 

「なんでって……あぁ、そういう事ね──」

 

 少しの笑いの後、手に持った銃を捨て甚爾は続ける。

 

「──五条悟は俺が殺した」

 

「そうか。死ね……!!」

 

 傑は背後から数体の呪霊を出現させる。

 その中の一体、龍の形状をした呪霊"虹龍"が甚爾を咥え、薨星宮本殿の中央付近まで飛んでいく。

 

「傑さん……私は理子ちゃん連れて逃げます! 数分で大丈夫です。足止めをお願いします!!」

 

「……殺しても文句を言わないでくれよ」

 

 傑の言葉に「死ぬ前に逃げてください」と呟き、透は理子を抱えて薨星宮本殿から逃げる。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 透は来た道を必死に引き返していた。

 片手に抱えている理子を一瞬見て、再度死んでいる事を確認する。

 そして、考える。

 

(なんで……なんで甚爾兄様は理子ちゃんを殺せた……?)

 

 普通ならば因果の関係で星漿体である天内理子を殺すことは不可能だ。

 いや、昨日やそれ以前なら可能性はあったかもしれない。

 それは新しい星漿体が生まれ、替えが利くからだ。

 だが当日、替えなんて間に合う訳がないというタイミングで星漿体を殺せたことに透は疑問を抱いていた。

 

(私が居たから? いや、私はこのまま理子ちゃんを治さないことだってできる。理子ちゃんを殺せること自体がおかしい……)

 

 そう考えながら呪力を理子に流し、反転術式で蘇生を開始する透。

 もし反転術式を今止めれば、確実に理子は死ぬ。

 そんな状況になっている事自体が因果として狂っていた。

 

(もしかして甚爾兄様は……因果を断ち切ることができる……!?)

 

 透はその発想に至る。

 そして、さらに思考を巡らせた。

 

(あり得る……呪力が完全に無い人間なんて、この千年でも生まれてこなかった異端……)

 

 しばらく考えながら走っていると血溜まりに倒れている美里を発見した。

 

「美里さん……!! まだ息はある……」

 

 即座に駆け寄り、生死を判断する。

 死に掛けではあるが、美里の息はあった。

 美里も抱え、薨星宮からの脱出を再開する。

 

(天元と星漿体、そして六眼は因果で結ばれている……その因果は呪術的なもの……呪力の無い人間は因果の範囲外……)

 

 透はそこまで考えが纏まると、自然に頬が緩んだ。

 笑う状況ではない。だが、透は笑みが止まらなかった。

 

「理子ちゃんを助けられる……!!」

 

 右手に抱えた理子を見ながら透は声を漏らす。

 

(あぁ……甚爾兄様大好き!!)

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 高専内。林の中。

 薨星宮を脱出した透は扉の付いた大きな鋼鉄の箱の中に蘇生した理子と傷を治した美里を入れた。その鋼鉄の箱は透の構築術式で作られた物だ。

 二人は気を失っている。

 

「ごめんね。すぐに出してあげますから、ここで待っていてください……」

 

 箱の中に二人を入れ、扉を閉じた瞬間。

 

「死んだ人間でも生き返らせられるのか……」

 

 甚爾が声を掛けてきた。

 ゆっくりと振り向く透。

 そこには耳から血を流している甚爾の姿があった。

 

「! 傑さんはどうしたんですか……?」

 

 透は冷や汗を流しながら聞いた。

 

「あ? アイツなら死なない程度に腹を掻っ捌いた」

 

「……流石に呪霊操術の使い手を簡単には殺せませんよね。良かったです」

 

 透は甚爾なら傑を殺さないだろうと分かっていた。

 呪霊操術は数多の呪霊を取り込み使役する術式。

 術者の死後はどこにも明記されていない。

 そんな危険を甚爾が冒すわけがないと知っていた。

 

「殺したらアイツの中の呪霊がどうなるか分かんねぇからな」

 

「流石甚爾兄様、慎重ですね……」

 

 透の言葉に甚爾は冷たい視線を向けた。

 

「もう俺はお前の兄様じゃねぇよ」

 

「何を言っているんですか……兄様は兄様です……」

 

「俺は禪院家を、オマエを捨てた……もう俺はお前の兄様じゃねぇ」

 

 甚爾は鋭い眼差しを透に向けながら言った。

 そんな甚爾の言葉に透は首を傾げる。

 

「意味が分かりません……」

 

「分かられるつもりもねぇよ」

 

 甚爾は一歩前に出た。

 透はいつでも戦闘に移れるように構える。

 

「星漿体をよこせ」

 

 甚爾の言葉に透は首を横に振る。

 

「嫌です。理子ちゃんを渡したら殺してしまうでしょう」

 

「あぁ、そういう依頼だからな。邪魔するならオマエでも容赦しない」

 

「殺すとは言わないんですね……。この箱は私の命を鍵としています。そういう縛りで作りました。私が死ぬか。この箱を術式反転で消さない限り、理子ちゃんは手に入りませんよ」

 

 透は軽く笑いながら言った。

 しかし、甚爾は冷静だった。

 

「……オマエ、俺がオマエを殺せないとでも思ってんだろ」

 

「ッ!!」

 

 言葉の直後、甚爾は日本刀のような形状をした呪具で透の右腕を切り落とした。

 目にも止まらない速度に透は避ける事はおろか反応すらできなかった。

 切り落とされ血の止まらない右腕を押さえながら蹲る。

 

「ぐぅッ……!!」

 

「最後だ。星漿体をよこせ。次は腕じゃなく首を落とす」

 

 痛みで脂汗を流しながら透はそれでも笑みを浮かべていた。

 

「ははっ……やっぱり、強いですね……手も足も出ませんよ……手無くなっちゃいましたし……」

 

「オマエにはもう反転術式で傷を治す呪力もないんだろ……諦めろ」

 

 この二日間の甚爾の工作は五条悟を消耗させるためだけではなく、透を消耗させるためでもあった。

 神がかり的な反転術式。それは甚爾にとって悟と並ぶほどに厄介だ。

 だから悟と同様に削った。

 

「──折角希望が見えたのに……諦めるわけにはいかないでしょう……」

 

 透は血の止まらない右腕を押さえるのをやめ、立ち上がる。

 そして残った左手に銃を構えた。

 透は笑顔を崩さない。

 

 その銃は甚爾が理子を撃った後に放り捨てた物だ。

 理子を抱え、薨星宮本殿を脱出する時に拾っていた。

 

「何してんだオマエ、銃なんかで俺が……」

 

 甚爾が鼻で笑いながら言った。

 しかし、銃口は甚爾に向けられなかった。

 

 ──銃口は透の頭に突き付けられた。

 

「甚爾兄様……久しぶりの再会です。長話をしましょう──」

 

 そう言って透は──引き金を引いた。

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