転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話 作:おにい
夜蛾正道との会話から数時間後。
五条透は五条悟の部屋まで案内された。
部屋のリビングにあるソファに腰掛ける悟の膝に腰掛ける透。
五条家ではいつもの事なので誰もこの状況にツッコまない。
「それで悟兄様。私は何をしたらいいんですか?」
透が聞いたのは先ほどの夜蛾正道との会話で出た話題だ。
高専に来た当初に聞いた理由である『自分を保護するため』とは違う理由が悟から語られた。
「ん? あー、透は何もしなくて大丈夫だよ」
悟は透の問いにあっけらかんと返す。
透は悟の態度と返答に驚いた。
「えっ、さっきのシリアスそうな雰囲気から何もしなくていいなんてことありますか!? 遠慮しなくても私は悟兄様のためならなんでもしますよ!!」
「いや、なんでそこまで乗り気なの……」
透の予想外の熱量に悟は軽く引いていた。
「だって悟兄様のお役に立てる機会なんて滅多にないことですから! 私にできることならなんだってしたいじゃないですか!」
「僕も結構重度のシスコンな自覚あるけど、透は上を行ってるよね」
悟の言う通りである。
透はブラコンを通り越してファミコンである。ゲーム機みたい。
家族全員が大好きな人間だ。それも命をかけれるほどにだ。
「家族なら普通ですよ!」
普通ではない。
「普通ではないだろ。それにね、透は僕の役に立ててないって言ってるけど、透は居てくれるだけで役に立ってるよ。心の支えになってる。もしも透がいなかったら暴れて国家滅亡させてたかもしれないよ」
悟はニコニコと笑いながら言った。
五条悟という特級呪術師が言うと洒落になっていない。
「居るだけで役に立ててるですか。コスパいいですね」
「コスパって……」
「それと、別に私が居なくても悟兄様はそんなことしませんよ。だって、悟兄様は優しいですから」
透は胸を張って言った。
五条悟という人間を知っていたら普通出てこない言葉に悟は笑ってしまう。
「あはは、透は身内贔屓で見てくれるからね。僕って透以外からはクズって言われてるよ?」
「それはひどいです! 確かに悟兄様は少しおバカで少しお調子者で少し人の心が分からなくて少し無神経で少しちゃらんぽらんで少し周りを見下しているけど、それだけでクズだなんて言いすぎです」
透の的確過ぎる予想外の評価に悟は無下限でも防ぐことのできないダメージを受けた。
先ほどまでニコニコだった悟の顔は青ざめていた。
「いや、言い過ぎは君だよ!? え、透って結構辛辣? いや、正当な評価ではあるんだけどさ……」
「家族なんですから、私はちゃんと悟兄様の事を見ていますよ! 確かに私は家族に少し甘いですけど、いや凄く甘いですけど、それでも家族だから無条件で好きになるわけじゃなくて、悟兄様の、あなたの事を見て好きになってるんです。だから、私はちゃんと悟兄様の事を優しいと思っていますよ?」
落ち込んでいる悟に笑顔で答える透。
そんな透を見て、悟はため息交じりに微笑む。
「……あー、そうか、そうだよね。透はそういう子だ……」
「はい、私はこういう子です!」
笑顔の透を悟は優しく撫でた。
「だからね。透はそのままでいいんだよ。最初の話に戻すけど透は透のままで皆に対応してくれればいいよ」
悟は優しく微笑む。
禪院透を亡くしたばかりの頃からは考えられないほど穏やかな笑みだ。
そんな悟を見て透も嬉しそうに微笑む。
「そうですか……正直よくわかってないんですけどわかりました。普段通りに生活しようと思います」
「むしろやらなきゃいけないことが多いのは僕の方なんだよね。アイツを連れ戻さなきゃ」
悟は透を膝の上からどかし、携帯を取り出した。
何やらメールを開いているが、なにをしているのかは透からは見えない。
「アイツ?」
透は悟の過去の思い出を断片的に聞いてはいるものの人物名などは禪院透以外意図的に隠されていた。
「そう、名前はソイツから直接聞いてほしいから伏せとく。一旦、前髪さんで憶えてて」
悟は自分の前髪を持ち上げて、思い浮かべているアイツの──夏油傑の真似をしながら言った。
そんな悟をきょとんとした表情で透は見る。
「前髪さん……」
「ぶふっ……そう、前髪さん……バカ前髪さんだ……」
透の前髪さんという言葉に悟は堪えられず笑ってしまう。
「ば、バカ前髪さん……流石に失礼すぎるのでは……?」
透は首を傾げながら聞いた。
「アイツはそう呼ばれると喜んでたんだよ」
そんなわけあるか。
「世の中にはいろんな人がいるんですね……」
透の神妙な面持ちに悟は心の中で爆笑した。
※ ※ ※
透が高専に住みだして数週間が過ぎた。
最初の数日は五条悟が付きっきりで、ほとんどの時間を二人で過ごしていたが、この日は五条悟に仕事が入り、透が一人で過ごしている。
勝手に動き回る事を悟から禁止されている透は悟の部屋で一人待っていた。
「一人は苦手ですよぉ……」
透はベットに寝っ転がりながら独り言をつぶやく。
意外でもないが透は一人が苦手である。
いつでもどこでも誰かと一緒にいたい。そういう人間なのだ。
(五条家に生まれて早四年……いつもだったらまだ意識は戻ってない時期です。転生回数に理由あるのか。前世に理由があるのか。六眼に理由があるのか。その全部に意味があるのか。いや、それよりも気になる事があります……)
普段、一人になる時間が少ない透はなかなか深い考え方をすることはない。
だが、恐らく五条家に生まれて初めて一人で数時間過ごす。
そうすると、普段は考えないようにしている事を──転生術式の事を考えてしまう。
(これは感覚の話でしかないけど、転生術式の存在を感じない……)
そう、透は生まれてから一度も転生術式の存在を感じていない。
転生術式は普段は透の奥深い部分に隠れているため、元々存在を感じ取りにくくはある。
だが、一切の存在を感じることができないというのは初めての経験だ。
いつもならば、集中し自分の奥深くを探れば──ドロドロとした気持ちの悪い汚泥のような存在を感じることができた。
(簡単に確かめる方法はある──【死んでみればいい】)
透は自分の頭に手を当てる。
転生術式の有無を確かめるのは簡単だ。
転生術式は透が二十歳になるまで死ぬことを許さない。
もし、透が死ぬような事があれば、転生術式の防衛反応で呪力が溢れ出し、常時反転術式を自身に発動し続ける。
「呪力を脳に一気に送り込めば簡単に自死できる……」
透の手に呪力が集まる。
(そうすれば簡単に転生術式の有無が分かる。もし生き返れば転生術式は存在してますし、死ねば存在していない……)
透は呪力の集まった手を──
「いやリスク高すぎますからね!?!?」
自分から遠ざけツッコんだ。
一人で騒がしい透。
(もう一つは気長に二十歳になるまで待ってみればいい……そこで死ぬか生きるか……)
透は目を閉じて再度考える。
そう、転生術式は透が二十歳になるまで死ぬことを許さず──
──二十歳より生きることも許さない。
もし、二十歳まで生きて死ななければ転生術式はなくなった事になる。
これはリスクが少なく確実に確かめる事ができる。
(でも、そうするといつものように二十歳で死ぬ前提の動きができなくなる、というかしたくないです……もし、生きられるなら……もっといろいろな事をしたい……)
透は自分の
確かに二十歳で転生術式の有無を判断するのは確実だ。
だが、普段の透は自分が二十歳で死ぬことを前提に『未練を残さない生き方』をしている。
それは、何も残さない生き方だ。
もしも、もしも二十歳以降も生きられるなら、透はそんな生き方をしたくないと思っていた。
「あー、ダメです……とりあえずはある前提で動かないと死にたくなくなっちゃいます……」
透は起き上がり自分の頬を軽く叩きながら独り言ちる。
(でも……でも、もしも、本当に転生術式がなくなっているなら……)
透は自分の手を眺める。
そして、過去を思い出す。
普段は思い出さないようにしている前世たちの事を。
「──死にたく、ないな……なんてね……」
透は自分の手を顔に当てていた。
その表情は誰にも分からない。
※ ※ ※
転生術式について考えてから数時間後、透が五条悟の置いていったゲーム機で遊んでいると部屋のドアがノックされる。
透がゲーム機の電源を落として扉に近づく。
「いるか?」
「あっ、はい! いますよ!」
すると、透の聞いたことのある男性の声がした。
透はすぐに扉を開けた。
「学長先生!! どうしたんですか! 何か御用でしょうか?」
透は元気いっぱいに出迎えた。
そこに立っていたのは呪術高専の学長である夜蛾正道だった。
「元気だな君は……」
透のテンションの高さに驚きながら正道は言った。
「元気は特技ですから」
「なんだそれは……。君はまだ昼食をとっていないだろう」
正道は手に持った弁当を透に渡した。
これは五条悟が仕事に出る前に正道に押し付けた物だ。
透は弁当をキラキラした目で受け取る。
「えっ、一緒にお昼ご飯を食べてくれるんですか! やったー!」
「なぜそうなるんだ。私は食事を持ってきただけだ」
「そんなこと言わずに一緒にご飯食べましょうよ。一人で寂しかったところなんですよ!」
正道は寂しかったという言葉に何かを感じたのか少し暗い顔をした。
そして、透のキラキラした目に拒否できないと悟り頷いた。
「……はぁ、分かった」
「やったー! 嬉しいです!」
透はそういうと正道を部屋に招き入れて、食事を始めた。
正道も透に食事を届けたら昼食にしようと思っていたので、自分の弁当を持ってきていた。
ちなみに手作りである。
透は「交換しましょうよ!」と言っておかず交換などをして昼食を楽しんだ。
正道は居心地悪そうに終始、最低限の言葉しか交わさなかったが、それでも透は嬉しそうにしている。
「君は……なぜここに連れてこられたのか分かっているのか?」
そんな透を見て、正道は質問をした。
「え、なぜって悟兄様の妹だからですよね? 六眼を持っていて今後、命を狙われる可能性が高いから安全な場所に置いておきたいというのと、悟兄様が寂しいから?」
透は正道の言葉に首を傾げながら答えた。
そんな透の答えに正道は首を横に振る。
「……違う。いや、それも連れて来た理由の一つだろう。そちらではなく、君が"透"として連れてこられた理由だ。六眼の事は隠し通せないだろうが名前は違う。悟が別の名で君を紹介していれば、前もって君にそのことを伝えていれば隠し通せた。そうしないということは、そこに理由があるという事だ」
「あぁ、そっちですか……。もちろん、悟兄様のやりたい事はなんとなく分かってますよ」
正道の問いに透は納得したように頷いた。
そして、分かっていると答えた。
透の答えに正道は正直驚いている。だが、それを表情に出さないように質問を続けた。
「……君はどうする気なんだ?」
「……私は、皆さんが慕っている禪院透さんにはなれません」
透は正道の目を見て優しく微笑みながら、そして困ったように答えた。
その答えは正道の予想外だった。
「意外だな。数日だが君を見ている。君は悟の望みなら実行すると思ったが」
「まぁ、悟兄様の望みを叶えたいという思いはあります。それでも、皆さんの中にある"禪院透"という穴を埋めることはできませんよ」
透は困ったように微笑みながら自分の胸に手を置いて答えた。
その表情はいつもの明るいものではない。
「…………」
正道は透の話を黙って聞いている。
「悟兄様は、もしかしたら気づいていないのかもしれませんが、悟兄様に空いた穴も私は埋められてはいません」
「……だが、悟は透の生きていた時のように明るくなったぞ。それは君が生まれて二年ほどしてからだ」
透の言葉に正道は疑問をぶつける。
そう、禪院透が死んでしまってから禪院透の周りにいた人間は落ち込み全員が暗くなっていた。
その中で五条悟だけが立ち直った。
それは五条透が生まれて二年ほどしてからだ。
正道からしたら、五条透のおかげで元に戻ったとしか考えられなかった。
「それは、悟兄様がご自分で乗り越えただけです……本当にすごい方だと思います」
正道の問いに透は優しく微笑みながら答える。
「乗り越えたか……だが、それは君のおかげではないのか」
「確かに私の影響も少しはあったと思います。でも、それでも……大切な人の、家族のように大切に想っていた人の死を、別れを受け入れ乗り越えるのは自分にしかできない事です。誰かにどうこうすることはできません。学長先生はどう思いますか?」
透の瞳は布越しではあるが、しっかりと夜蛾正道の目を見ていた。
透の言葉に正道は思い出していた。
過去に自分が亡くしてしまった──別れてしまった家族の事を。
確かに禪院透が居た時、乗り越えかけた。
だが、その時に家族を亡くした傷がなくなったかと問われれば否と答えるだろう。
「……それは、そうかもしれないな」
「私だったら六十年は乗り越えられないですよ」
正道は冗談のように言う透の言葉に少しだけ微笑む。
「そこまでいけば死ぬまで引きずるのと変わらんな」
「はい、死ぬまで引きずりますよ普通……だから、乗り越えた悟兄様は強い人なんです」
「……あぁ……確かに悟は強いな」
正道は悟の事を思い出す。
悟は禪院透が死に、禪院透だけではなく夏油傑や家入硝子も失った。
正道自身も禪院透がいたときと変わらずに悟に接していたかというと否だろう。
皆が皆、禪院透という傷から逃げるように散り散りなった。
──五条悟を除いて。
五条悟だけは禪院透という傷を乗り越え前に進んだのだ。
「だから、私が禪院透さんにどれだけ似てても代わりにはなれませんし、傷を治すことはできません。本物の傷なら反転術式でちょちょいのちょいっなんですけどね」
透はいたずらっぽく笑う。
「なら、君はどうするんだ? 何もしないのか?」
「まぁ、なにもできませんね──」
透は自分の手を顎に置いて、困ったように答えた。
そして、
「──だから、私は私のしたい事をやります」
少しぎこちなく微笑みながらそう答えた。
「やりたい事……?」
「はい、きっと高専の人の多くは私の名前が"透"が嫌い……というか受け入れられないと思うんです。でも、私は私の名前が大好きです。悟兄様のくれた大切な
透は優しく微笑みながら自分の胸に手を置いた。
思い返すのは、自分の名前を呼んでくる家族の事だ。
「私が禪院透さんの代わりになれないように禪院透さんが私になる事もできません。だから、皆さんにそれを分かってもらって、私と仲良くなってもらって、名前を呼ばれたいです」
「名前を呼ばれたい……」
少し悲しそうに言った透に正道は俯く。
「はい、名前を……
「透と君は別人か……」
「はい、私は禪院透さんではありません。五条透です!」
悲しい表情を隠すように笑いながら元気に答える透の姿に、正道は胸を痛めた。
──自分は一度も、五条透の名前を呼んでいない。
今回、本当だったら正道は五条透に改名をさせる。もしくは偽名で過ごすように説得するつもりだった。
だが、透の言葉に正道は自分の考えを後悔した。
こんなに幼い、純粋な少女に勝手に禪院透の影を見て、それから逃げるために
「……そうだな。あぁ、本当にそうだ……。君と透は似ている。それでも君と透は違う。君も透に成り代わろうとしているわけではない」
情けなさから、正道は手に力を込めて爪が食い込んでいた。
「皆さんの大事な人に成り代われると思うほど傲慢じゃないです」
正道の言葉に透は優しく微笑んだ。
「……すまなかったな」
正道は弁当を片付け、立ち上がった。
「えっ、いきなりなんですか!? 私、何かひどいことされましたか!?」
いきなりの謝罪に透は驚いた。
「……長居しすぎた。そろそろ出る」
「無視ですか!? それにもっともっとお喋りしたいので長居してください!」
ノリが良く、マイペースで、ポジティブな言葉をくれる透。
その姿に禪院透の姿はどうしても重なってしまう。
だが、そこに打算は感じられず、五条透の言動は禪院透を真似ているわけでないことが分かる。
「君は本当に似ているな……」
透に聞こえないように、小声で呟く正道。
「え、なんて言いました?」
「…………夜蛾正道だ」
「えっ? し、知ってますよ……?」
夜蛾正道のいきなりの自己紹介に困惑する透。
透は正道の名前を五条悟から聞いていて知っていた。
「しっかりと名乗っていなかっただろう。君は名乗ってくれたのに、な」
それは五条透と夜蛾正道が初めて会った時の事だ。
申し訳なさそうに言う正道に透は思い出したように手を合わせた。
「あぁ、初めて会ったときですか! でも、あれは仕方ないのでは?」
透はしっかりと正道の感情を理解していた。
あの時、自己紹介を返さなかったことを少しも気にしてなどいなかった。
「いや、名前を知るのは大事な事だろう。思えは私はあの時から君を見ていなかったのだろうな」
正道は申し訳なさそうに、そして優しく微笑みながら言った。
「……本当に──」
「んっ?」
そんな正道の言葉に透は嬉しそうににっこりと微笑んだ。
そして正道に近づいてギュッと手を握った。
「──正道先生は優しいですね! 改めまして、五条透です! よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしくな。透──」
正道は握られた手を握り返し、笑いながら答えた。
自分も乗り越えられるように頑張ってみるかと、そう思いながら。
思っていたよりも憶えて貰えてうれしかったです。
感想もたくさんありがとうございます!