転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話 作:おにい
「で、話とは何だ?」
禪院家二十六代目当主。特別一級呪術師。
つい半年前までは抜け殻のような印象だった娘は自分の意見をよく言いすぎるほどになっていた。
「父様、先日の件なんですが力で示す準備ができました」
「父様ではなく当主様だ。ほう、たった一日でか?」
直毘人は胡坐をかき、膝に肘をつきながら問うた。
「はい父様」
「……して、その内容は?」
透は頑なに父様という呼び方を改めようとしない。
実は直毘人的には少し嬉しかったりもするのだが当主と言う建前上一度は注意をするようにしていた。
しかし、一度注意したという実績を作ってしまえばもう注意はしない。直さなかった透が悪いということにできるからだ。
「私と仲の良い家族は甚爾兄様だけです」
「ふむ……ふむ? え、アイツと仲が良いのか?」
威厳のある態度で接していた直毘人だったが予想外の名に驚く。
透と甚爾が話すようになったのはつい一か月ほど前でまだ直毘人の耳には入っていなかった。
「はい。それはもうお互いにハグをするほど」
嘘である。ハグをするのは透だけで甚爾からしたことなど一度たりともない。
それに透は家族であれば誰彼構わず抱き着くので、甚爾だけ特別という事もない。
直毘人に抱き着かないのは一応当主という立場を立てての事だった。
「……まさかアイツが、信じられんな」
直毘人は信じ額に手を当てた。
普段の甚爾をよく見ていたのなら信じないだろうが、そこまでよく見ていなかった直毘人は簡単に騙された。
「紛れもない事実なので、私と甚爾兄様はとても仲が良いのです。なので他の仲良くない皆様を皆殺しにして仲の良い私と甚爾兄様だけ残ればいいじゃないですか! と考え至りました」
これも嘘である。家族が一番という考えの透が家族を殺すなんてことはあり得ない。むしろ命を懸けて守る。
しかし、透の嘘に騙され直毘人は傍らにあった小刀を抜き透に突き付けた。その速度は透であっても目で追うので精一杯なレベルだ。
過去対峙してきた者の中でもトップクラスの速度だと透は内心冷や汗をかく。
「駄目ですよ父様。もし私が死んだら甚爾兄様が怒って皆様を殺します」
冷静を装い透は笑みを浮かべながら言った。
またしても嘘である。とも言えない。
もし直毘人がここで透を殺したら甚爾は直毘人だけでも殺すだろう。
「チッ、でわざわざ報告しに来たという事は何かあるんだろう。早く話せ」
直毘人は小刀を鞘に直した。
「はい! 私も仲が良くないというだけで家族を殺したくはないので、一つ勝負を致しませんか?」
透は提案する。ここまでの演技はこの勝負を受けて貰いやすくするためのものだった。
もし、いきなり勝負を持ち掛けたとしても断られて終わりだが、勝負をしなければ皆殺しにするという状況を作れば断ることなどできない。
「ほう、勝負か。しかし、甚爾が本気で参加するのなら勝敗は目に見えている」
直毘人は禪院家の中でもしっかりと甚爾の実力は評価していた。
もし戦えば禪院家総出でも壊滅させられることが分かっていた。
「もちろん普通の勝負では縛りとして成立しません。こちらが強すぎて」
「言ってくれるな。しかし、縛りまで設けるのか」
縛りとは呪術を用いた契約の事である。縛りを結ぶことで契約は絶対のものになる。
しかし、他者との縛りは簡単にできるものではない。
しっかりとした対価にお互いの了承が必要となる。
「今回は本気のお家改革なので!」
「全く恐ろしい娘だ」
直毘人は鼻で笑いながら言うが内心は透の舐めた態度に屈辱を感じていた。
「では勝負内容ですが、私と甚爾兄様の二人対禪院家で戦える人間すべてです。術式の使用や呪具の使用もあり。殺しや後遺症になるレベルの怪我はさせません。私達は皆様を戦闘不能状態にしたら勝ちです」
にこにこと笑いながら透は続けた。
「そして、皆様は私と甚爾兄様の二人にかすり傷でもつければ勝ちです」
「……それは、舐め過ぎだな」
透の言葉に直毘人はキレた。
六十を超える人生でここまでコケにされたのは初めての経験。
それも齢五歳の幼女にだ。キレるのも大人げないとは分かっているが、禪院家の呪術師としての矜持が透の発言を許さない。
「いえ、ここまででやっとフェアだと思いますよ」
「確かに甚爾は強い。だが、我々が総出でかすり傷すら付けられないとでも?」
「はい!! その通りです!! 甚爾兄様というか私にもかすり傷一つ付けられないと思いますよ」
ここで盛大に煽ることで確実に勝負に乗ってくれると感じた透は笑顔で煽りまくった。
結果、直毘人はキレを通り越して唖然としてしまった。
「ふっ、はっはっは!! いいだろう。乗ってやろうではないか。吠え面をかかせてやる」
直毘人は笑い始め、眉間にしわを寄せて言い放った。
「やった! それでは私達が負ければ二度と禪院家の方針に逆らわない。勝てば禪院家の家訓は取り消して「家族仲良く・いじめは禁止・悪い事をしたら謝る」に家訓を変更です!」
「小学校の校訓みたいだな!?」
先程まで五歳のくせに賢い事を言うと思っていたが、新しい家訓が学級スローガン並のチープさで驚く直毘人。
「それでは準備が出来たら教えてくださいね!! いつでも大丈夫なので!!」
そう言うと透は直毘人部屋を後にした。
※ ※ ※
「──マジでその日のうちにこうなるとは」
透と甚爾は禪院家の道場に呼ばれた。
そこにいたのは禪院家の兵隊である"
その全員が眉間にしわを寄せ透と甚爾の二人を睨んでいる。
「流石父様です。行動が早くて素敵です」
三日ほどはかかるだろうと考えていた透は目を輝かせて直毘人の事を見ていた。
「お前のその家族愛なんなんだマジで」
そんな透を甚爾は引き気味に見ていた。
「これくらい普通です」
普通ではない。
「よしっ、これでいいだろう。他のヤツらには俺から説明している」
術式を持たない躯倶留隊の者に呪具という術式が込められた道具を渡した直毘人が前に出る。
「透、オマエどんな煽り方したんだ? アイツ等めっちゃ睨んでんぞ」
「私もあんなこと言いたくなかったんですが、乗ってもらうために心を鬼にして言いました」
「何をだよ」
「あなた達では甚爾兄様どころか私にもかすり傷一つ付けられませんよ、と」
「そりゃあんだけキレるわけだ」
甚爾は両手を上にあげた。
作戦説明の時に「まず、禪院家の皆様をやる気にさせるために少しだけ煽ります」と言っていた透だったが、それは煽りすぎだろうと思う甚爾。
周りから蔑まれる視線は何度も感じてきたが甚爾だが、ここまで敵意剝き出しなのは初めてだった。
「お喋りはその辺にしておけ、それでは始めるぞ」
直毘人の声に前を向いた透と甚爾の二人。
相手方はやる気満々で構えていた。
「甚爾兄様、心配はせずに私を信じて全員ボコってください禪院だけに」
「笑えねぇよ」
「──はじめッ!!」
太鼓の音が鳴った。
──瞬間、透が両手を合わせる。
「
仮想領域展開──それは透が編み出した唯一無二の領域。
周りが黄金色に染まり、透の呪力で満ちる。
(何、領域だと!)
直毘人をはじめ特別一級呪術師は御三家秘伝の技"
落下の情は御三家に伝わる領域対策であり、その効果は自身の体を膜のような呪力で覆い領域の必中効果が触れた瞬間にカウンターで呪力を解放し身を守るというもの。
相手が領域を発動したならば、即座に使うのは正解の行動だろう。
しかし……
「落花の情ですか……やっぱりそれを使いますよね」
透の仮想領域は通常の領域とは違い必中効果や必殺効果は付与されていない。
むしろ、結界術に近い性質であった。
「何ッ!?」
そのことにいち早く気付いたのは落花の情が使えず、即座に術式で対応しようとした者だった。
しかし、"術式は使用できず"甚爾に瞬殺される。
「落花の情では甚爾兄様を感知する事は出来ない」
「グッ──!?」
特別一級呪術師の一人"
術式に必中の効果がない事を察した直毘人とその他特別一級呪術師は落花の情を解除し術式にて反撃しようとするが……
「術式が使えん……!」
術式が使用できない事に気づく。
一人また一人と甚爾に沈められる。
「仮想領域はシン・陰流に伝わる簡易領域に近い物です。自分の中に術式を作り出し、領域として展開する」
透は自身の領域を説明する。
「この領域内では術式を中和させる。つまり、術式の使用をできなくする領域という事です」
仮想領域"黄昏"は反転術式の応用で展開される。
反転術式にて生み出す正のエネルギーを領域内に充満させることで負のエネルギーを中和し、術式の使用を不可能にする。
そして縛りとして領域展開中の反転術式による肉体の治癒を無くすことで釣り合いを取り、術式のみを使用不可にする領域を可能にしていた。
しかし、相手が術式反転を使える場合は突破されてしまうので注意が必要。
今の禪院家で術式反転はおろか反転術式も使える者はいない。
"黄昏"の突破は不可能であった。
「いくら禪院家の皆様が強くても術式なしの皆様と甚爾兄様では相手になりません」
「ならばっ──」
直毘人は諦めずに透に向かって加速する。
その速度は甚爾ですら一瞬追えないほどであった。
「──お前を狙えばいい!!」
「残念です。──構築術式」
直毘人が拳を振りかざした瞬間。
透の周りに金属の壁が現れた。
透が今世に手に入れた術式は"構築術式"、己の呪力を元に物質を無から構築する術式だった。
「なっ!」
直毘人の拳は弾かれる。
「この領域内であっても私は術式を使用できます」
仮想領域"黄昏"の効果対象に自身は入らない。
(まぁ、呪力消費が通常の三倍なのでこの箱を作るので限界ですが)
反転術式とは通常の呪力、つまりは負のエネルギーと負のエネルギーを掛け合わせて正のエネルギーを生み出す技術。
単純に考えて普段の倍の呪力消費になる。
その上に通常の負のエネルギーを使った術式を使う場合は通常の三倍の呪力消費となる。
ただでさえ燃費の悪い構築術式とは相性最悪だった。
「終わりだ、ジジイ」
しかし一撃凌げればそれでいい。
あとは甚爾が決着をつける。
「ふっ……あっぱれだ──」
振りかぶった甚爾の拳が直毘人の顔面を射抜いた。
※ ※ ※
「どうでしたか甚爾兄様」
透と甚爾の二人以外が倒れている道場で透は聞いた。
「あっさりだったな」
甚爾は自身の拳を眺めながら言った。
そこにある思いはすっきりとしたものだった。
こんなに簡単ならもっと早くやっても良かったかもしれない。と思うが、今回の計画は透の領域無しでは成立しない。
これが最速だったんだろうと結論付けた。
「皆様術式や呪具を使う気満々でしたからね。それが使用できなくなっていきなり対応できる父様や一級の皆様が凄いだけです」
「お前、本当に五歳か?」
甚爾の問いに透は驚いてしまう。
透の術式の縛り上、自身の転生がバレる事はないしバラす事もできない。
しかし甚爾は感づき始めていた。
「……五歳ですよ」
「なんで落下の情や簡易領域を知ってる?」
(! そうか。甚爾兄様は呪力を全く持っていない。つまり私の術式の対象外……)
そう、甚爾は呪力が完全に無いというイレギュラー。
術式による縛りなどは多少の呪力に反応して発動する。
呪力が皆無の甚爾には適用されない。
「あの、甚爾兄様──!!」
気づいた透は自身の転生術式について話そうとしたが、口を開いた瞬間に喉を焼けるような痛みが襲い声を発する事が出来ない。
(声が出ない。なるほど、甚爾兄様が自分で気付く分には大丈夫でも私から伝えるのは不可ということですか)
甚爾が自身で気付き、転生術式を暴く分には問題ないが透が自身からバラすのは縛りの対象内だった。
初めて自身の術式や過去について話せると思っていた透は落ち込む。
「すみません。何も言う事はできないみたいです」
「そうか。ま、なんでもいい。お前は俺の妹なんだろ?」
甚爾は透の頭を撫でながらあっけらかんとした様子で言った。
透に何かあるという事に感づいてはいたが、甚爾とってそれよりも自身を初めて認めてくれた家族、妹であるという方が重要な事だった。
「……はい! それは絶対に言い切れます!!」
透は甚爾に抱き着いて涙を浮かべながら答える。
「ならそれだけでいい。……変な事聞いて悪かったな」
甚爾は優しく微笑んだ。
そんな甚爾の普段とは違い過ぎる様相に透は若干引いてしまう。
「な、なんからしくないですね」
「……おめぇのせいだよ」
甚爾は透の頭を強くガシガシと撫でた。
仮想領域展開"黄昏"
・景色が黄昏時のような黄金色になることから命名。
反転術式の応用で領域内を正のエネルギーで充満させることで負のエネルギーを用いた術式の使用を不可能にする。
五条悟の術式反転赫とかは使える。
呪霊は入っただけでダメージを受ける。
使用後も術式は焼き切れないので、すぐに術式を使えるが呪力消費が半端じゃない。
甚爾兄様が全員を気絶させるのに掛かった時間
・二分弱。
反省
・調べたら甚爾さんって直毘人さんの息子じゃなかったです。
この物語では息子になります。バタフライエフェクトです。