転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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六話『羂索と■■』

 ──羂索とは脳を移植することで他者の体を奪う術式を持つ呪詛師だ。

 その術式は強力で乗っ取った人間の体に刻まれていた術式も使用することができる。

 

「びっくりしましたか? 実は生きていたんですよー!」

 

 目の前でニコニコと笑う女性──禪院透を五条透は睨んでいた。

 

 五条透は以前に五条悟から禪院透の写真を見せられていた。

 その時に見た顔とほとんどが一致している女性──だが、彼女の頭に縫い跡なんて存在していなかった。

 

 五条透は目隠し用の布を人差し指で外す。

 六眼で真っ直ぐに禪院透を名乗る人間を睨みつけた。

 

「……私が悟兄様に見せていただいた禪院透さんには、そのような縫い跡がなかったと記憶していますよ」

 

「あぁ、これですか! 実は怪我しちゃっていましてね。最近まで寝たきりだったんですが起きれたので」

 

 禪院透を語る女性の言葉がすべて嘘であると気づいている五条透は話を遮る。

 

「まどろっこしいです。貴女は禪院透さんではないですよね。いくら(うそぶ)いても騙されませんよ……?」

 

 五条透は完全に臨戦態勢に入っている。

 五条家に転生して初めて、本気で戦う態勢になる透は六眼を手に入れたことでより緻密になった呪力操作でもとより人外の域に片足を入れていた結界術をさらなる高みで発動できるようになっていた。

 

(羂索……あなたの事は誰よりも知っています……正直、貴女が本気で私を殺しに来たら私は勝てない)

 

 もしも、禪院透を名乗る女性が少しでも攻撃の意思を見せた瞬間に動けるようにしていた。

 透は禪院透を名乗る女性が偽物であり、恐らく羂索という人物であるということは分かっているが、決して羂索の名を口に出すことはない。

 

 もし羂索の名前を口に出せば、"転生術式の縛り"に抵触し喉が焼かれてしまう。

 その激痛は動きを鈍らせ隙を生んでしまう。

 透はとある前世にも似たようなミスをしたことがある。二度目のミスはしない。

 

 一切の取り付く島もない透の様子に、禪院透を名乗る女性はため息を吐いた。

 

「あはは、もう、なんでですか?」

 

 そして、先ほどまでの優しい微笑みから変わり、気持ちの悪い悪辣な笑顔を透に見せながら頭の縫い跡に通された糸をツーっと抜いた。

 糸をすべて抜いて、禪院透を名乗る女性は自分の頭に手を乗せて、髪を引っ張り持ち上げた。

 

「──なんで、私が本物じゃないと分かるんですか?」

 

 すると、禪院透の頭が外れ頭の中には口のようなものが付いた脳みそがあった。

 それは初めて見る者からしたらゾッとする光景だろう。

 気持ちが悪く、トラウマになったとしてもおかしくない。

 

 だが、五条透は一切の反応をせずに臨戦態勢を維持している。

 

「あなたは素直だと聞いていたから、簡単に騙せると思ったんですが……」

 

「それこそ嘘でしょう……もしも私を騙すつもりならもっと方法があったはずです。何が狙いですか……」

 

 透は偽物の禪院透を睨みつけている。

 予想外の返答に偽禪院透は驚いたように目を見開いて透を見ていた。

 そして、ニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 

「狙い。狙いですか……そんなの決まっていますよ?」

 

 偽禪院透は透に近づく。

 透はいつでも動けるようにしているが、一切の悪意も殺気もない偽禪院透の様子を不思議に思い、その場から動かない。

 

 偽禪院透は透の前に立つと腕を広げる──。

 

 

 

 

「お久しぶりです──義母さん。愛娘の羂索(けんじゃく)です」

 

 

 

 

「………………は?」

 

 

 

 

 まさかの羂索の言葉に透は一瞬だけ完全に停止した。

 その隙を見逃さずに羂索は透を抱きしめた。

 

「お会いしたかった──まさか、また会えるとは思っていませんでした」

 

 透は予想外を超える予想外の展開に脳がフリーズして言葉を発することもできていない。

 だが、思考だけは徐々に加速していく。

 

(なぜ羂索が私を認識できる? 転生術式の縛りが機能していない? いや、逆です──なぜ私は……"転生術式の縛り"がまだ有効だと思い込んでいた? 私の中に転生術式がないと感じてから一番簡単に確かめられる方法のはずなのに、なんで一度も前世の事を口に出さなかった? なぜ、縛りを破ろうと思いすらしなかった? 分からないです。 でも、もしも、私の転生術式がなくなっているなら、羂索が私の事に気付いて接触してきてもおかしくない)

 

 透は完全に臨戦態勢を解いた。

 思考していくうちに、透の中に一つの大きな感情が生まれる。

 

「この体を手に入れてやっと義母さんの事に気づけました。本当に嬉しいですね。姿はお互い変わりましたが、またあなたを抱きしめられて幸せです」

 

 自分を抱きしめ言う羂索の言葉に透の感情は爆発した。

 

「……羂索……羂索……ぅ……うぅ…………」

 

 透は自分を抱きしめる羂索を抱きしめ返して涙を流していた。

 

 透は恐らく、数百年泣いていない。

 それは諦めていたからだ。

 

 ──転生術式の運命から逃れることはできない、と。

 

 転生術式は傍から見たら不老不死に近い夢のような術式だ。

 だが、透にとっては呪いでしかなかった。

 それから解放された。 

 

「今では私の方が大きいですね。どうぞ、私の胸で泣いてください」

 

 透は泣いた。

 羂索の胸に顔を埋めて、今までの全ての悲しみを吐き出すようにひたすらに泣いた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 一時間ほど経って、目を真っ赤に腫らした透は泣き止んだ。

 大きな声で泣きすぎて喉から血の味がするが、反転術式ですぐに治療した。

 

「もう大丈夫ですか?」

 

 羂索は透の隣に座って肩に手を置いている。

 透は羂索の事をまっすぐに見つめる。

 

「はい……すみませんみっともないところを……」

 

「いえ、気づくのが遅くなり申し訳ありませんでした」

 

 羂索の言葉に透はまた泣きそうになるが必死に堪える。

 そんな透の姿に羂索は目的を忘れて持って帰ろうかな、と考えていた。

 

「それで羂索……」

 

「はい、なんですか?」

 

 透は優しい目で羂索を見つめて──ノーモーションで羂索と透の周りにだけ結界を張った。

 

「──本当の目的を話しなさい」

 

「! ふふ」

 

 透の張った結界はいわば中身のない領域だ。

 基本的な結界術や反転術式を応用し、結界内の人間の術式行使を禁じ、領域の外壁以上の硬さで出ることも許さない不殺の領域。

 例え羂索ほどの使い手でも、この檻から出るのは容易じゃない。

 

 そんな高度な結界術をノーモーションで繰り出してきた透を見て、羂索は嬉しそうに笑っていた。

 

「義母さんに嘘はつけませんね」

 

「なぜ、禪院透さんの体を使っているのか。何を企んでいるのか。すべて答えなさい」

 

 透の鋭い視線に羂索は心底嬉しそうに笑顔だ。

 

「嫌です」

 

「……そう、ですか」

 

 羂索の返答に透はため息を吐いて、結界術を解いた。

 

「あら、結界を解いていいのですか?」

 

「はぁ、貴女も分かっているでしょう。あの結界術で貴女をどうこうすることはできません。あれは貴女が質問に答えるまで出れないようにするための結界です」

 

 そう、透が今回張った結界には閉じ込めて術式の行使を妨げる以外の効力はない。

 つまり、両者は呪力や術式無しでの身体能力のみしか攻撃手段がないのだ。

 羂索が透を殺すことはないが、首を絞めて気を失わせるくらい容易い。

 そうすれば透はなすすべがない。

 

「でも私はまだ企みを話してませんよ?」

 

 羂索は人差し指を顎の前に持っていき首を傾げながら言った。

 そんな羂索の様子に透は頭を抱える。

 

「答えないという答えを出したじゃないですか。そうなったら貴女は絶対に答えない」

 

「なるほど、まぁ話してしまっては後々の楽しみが減ってしまいますから……あっ、でも」

 

 羂索は両の掌を合わせて思いついたように

 

「もし、義母さんが今日の事を全部忘れてくれるなら話しますよ?」

 

 と言った。

 

「それでは結局、何も聞いていないのと変わらないじゃないですか!」

 

 透は怒ったように言った。

 そんな透を見て羂索は「あはは」と悪戯っぽく笑う。

 

「まぁそうですよね。でも、正直に言ってしまうと義母さんには今日の事を忘れて欲しいんですよね」

 

「何故ですか……」

 

「実は、恥ずかしいんですけど、今日私が義母さんに会ってしまったのは我慢できなかったからなんですよね」

 

「へ?」

 

 少し顔を赤くして言う羂索に透は困惑した。

 

「だって、義母さんに会えるのに我慢できないじゃないですか」

 

「……いや、私も羂索に会えた事自体は嬉しいですが……」

 

 透は羂索から言われた予想外の言葉に困惑したまま答えた。

 透の知る羂索はもっと思慮深く闇の濃い子だ。言い換えれば底なしの無邪気とも言える。

 好奇心のためならば何を犠牲にしてもいいと思っている。

 だが、今の羂索の言動はその印象から大分外れている。

 

「だから、義母さんには今日の事を忘れて欲しいんです」

 

「いや、そんなこと」

 

 できるわけないじゃないですか、と答えようとしたがその言葉は羂索に阻まれる。

 

「じゃあ、条件を付けましょう! もし忘れてくれないなら私は五条悟を除く五条家の全員と義母さんと仲の良い高専の人間を皆殺しにします!」

 

「──ッ!!」

 

 羂索の言葉に透はすぐさま羂索を取り押さえようとするが、ひらりとかわされる。

 

「待ってくださいよ義母さん続きありますから」

 

 透は羂索の言葉を聞いて攻撃しようとしていた動きをやめる。

 

「もしも、忘れてくれるなら、私は五条悟を含めた五条家の人間を殺しませんし、高専の人間も殺しません。それに、忘れてしまうから意味がないとは思いますが私がこの体を手に入れた経緯くらいは教えますよ」

 

「羂索……」

 

 もしも、ここで透が全力で羂索に挑んだとしても勝ち目はゼロだ。

 それは透が一番よく分かっている。

 

 こういった状況で羂索が嘘をつかないことも知っている。

 

 そもそも、どれだけ呪術の基礎を極めていたとしても肉体が四歳児の幼女だ。フィジカル面で劣りすぎている。

 その上に、転生術式が無くなった事がほとんど確定した今──切札の技が使えない。

 

 つまり──透に選択肢などなかった。

 

「……分かりました」

 

「義母さんとの会話はスムーズで心地いいですね」

 

 ニコニコと笑っている羂索を睨む透。

 

「さて、この体を手に入れた経緯ですが」

 

 羂索はソファに座って語りだした。

 

「元々、とある計画のために禪院透の体は狙っていたんですよ。五条悟に禪院家、高専上層部の一部から絶段の信頼と信用を持たれている人間の体はかなり使いやすい」

 

 羂索は自分の顔に手を当てる。

 

「それに禪院透は五条悟にも劣らないほどの異端であり、通常ありえない技術の結界術に反転術式の練度だったんです。その知識が欲しかったのも理由の一つ」

 

「結界術に反転術式ですか……」

 

 羂索の言葉に透は自分の掌を見た。

 元々似ている人間性である事は知っていたが、そこまで似ているとは。

 

「義母さんにそっくりですね。そして私は手に入れるために準備をしていました。まぁ、本当はもう少し後での入手の予定だったんですけどね。呪術高専へ私の間者を忍び込ませ、検死の際に用意していた偽の遺体と入れ替える。そのあとはその遺体が火葬されておしまいです」

 

「ですが、それではお葬式の際に偽物の遺体だと気づく者がいるのでは?」

 

「ふふ、そうですね。もし葬式に五条悟が参列していれば六眼で見破られていたし、伏黒甚爾という人間がいたらすぐに偽物と気づかれていたでしょう。ですが、その二人は葬儀への参列を許されなかった。まぁ、禪院透が死んだ理由の一端ですしね」

 

「……は? 悟兄様が禪院透の死んだ理由の一端?」

 

 透は悟から禪院透が死んだ理由などは聞いていなかった。

 聞こうともしなかったが、羂索から告げられた予想外の真実に動揺する。

 

「まぁ、そこはいずれ知るんじゃないですか? いや、面白かったですよ、偽の死体だと知らずに泣く禪院家の人間は。どんなだったか教えましょうか」

 

「羂索……黙りなさい」

 

「……はーい」

 

 羂索は微笑みながら透を見て立ち上がる。

 

「それじゃあ義母さん。また会える時を楽しみにしてますね」

 

 そう言って羂索が一度拍手をすると、透は糸が切れたように意識を失った。

 ──縛りが執行された。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 透が気を失った後、羂索は透をベットに寝かせて高専を離れた。

 高専から遠く離れた森の奥で羂索は思いに耽ってた。

 

「やっぱり義母さんは面白い人間です……」

 

 思い出すのは先ほど会った五条透の姿。

 自分を睨みつけて、本気で攻撃してこようとする姿。

 自分の義理の母親をしていてくれた時とはまた違う姿。

 

「それでは次は敵になってみましょう。義母さんはどんな顔をして私を殺しに来てくれるんでしょうか」

 

 羂索は邪悪な笑みを浮かべる。

 

「義母さんの幸せな表情は沢山見てきました……だから──」

 

 羂索は邪悪な笑みのまま、空を見上げる。

 

「──次は義母さんの歪んだ表情を見てみたい…………」

 

 羂索は自分の好奇心のためなら何者でも犠牲にできる。

 それが例え、過去自分に最愛を教えてくれた相手であっても──。




最愛の人間の表情を全てみたいのは当たり前ですよね。

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