転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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七話『禪院透だけ』

 五条透が高専にやってきて一年ほどが経過した。

 一年も経てば透も高専に慣れ、今では一人でも高専内をある程度移動することを許されている。

 

 最初のうちは「絶対に部屋から出ちゃダメ」と悟や正道に言われていたが「過保護すぎます! 私もう五歳ですよ! 反抗期になりますよ!」と抗議をして、色々と紆余曲折を経て許された。

 

 高専の人間も最初は透の名前の事もあり、遠巻きに邪険にする者もいた。

 だが、透の尋常ではない厚かましさと類稀なる図々しさの前にほとんどの者が透の友人となっていた。

 

 悟や正道は最初、透は自分たちが傷つかないように守らなければと思っていたが、予想以上に透は図太かった。

 

 嫌われるのが怖くないのか、と正道に聞かれた際に、好きになってもらうまで頑張るので大丈夫です、と瞬時に返していた透に悟は少し引いていた。

 透が過去1000年で培ったコミュ力は下手な術式よりも強力な透の武器だった。

 

 そんな透ではあるが、そんなコミュ力を持ってしてもどうしようもないかもしれないという場面に冷や汗を流していた。

 

「──で、この可愛いのが僕の妹の五条透だよ」

 

 悟が透の頭を撫でて目の前に立つ女性に紹介をする。

 透たちは現在、高専内にある保健室にいる。

 

「へぇ、その子がね。初めまして家入硝子だよ」

 

「初めまして! 五条透です!」

 

 透は自分に名乗ってくれた女性──家入硝子に会釈をしながら自己紹介をした。

 家入硝子は五条悟の同級生で旧友だ。

 

 そのことは透も悟から聞いているので知っている。

 

「私が大学行っている時にみんなを助けてくれたんだってね」

 

 家入硝子は医師免許を入手するために高専卒業後二年間大学の医学部に入学していた。

 その間はほとんど高専に戻っていないため、家入硝子の反転術式での治療は中断していた。

 

 だが、透が来てからは透の反転術式で治療をしていた。

 その事を悟から硝子は聞いていた。

 

「いや、たまたま反転術式が使えたので……」

 

「反転術式ってたまたまで使えるものだっけ?」

 

 照れながら言う透に悟はツッコんだ。

 

「私の代わりにありがとね」

 

 そう言って家入硝子は透の頭を撫でた。

 いつもは誰に撫でられても嬉しそうな顔をする透だが苦笑いで少し震えている。

 

「いえいえ、できることをしただけですので」

 

「謙虚でいい子だね」

 

 そう言って微笑む硝子。

 その様子に悟は嬉しそうな顔をしている。

 

「あっ、そうだ! 僕、今から予定があったんだった。ごめんね硝子! しばらく透の事を預かってて! それじゃ!」

 

 わざとらしく言う悟はその場から走り去った。

 そんな悟を止めようとする透だが、早すぎて何も言えなかった。

 

「え、悟兄様!?」

 

「ふーん、そういうこと……」

 

 透は若干怯えながら硝子の事を見る。

 そんな透と硝子は目線を合わせる。

 

「仕方ないし、しばらくここに居な」

 

 そう言って微笑む硝子。

 そんな硝子と目を合わせながら透は思う。

 

 ──自分は家入硝子に死ぬほど嫌われている。

 

 透は長い年月を人間付き合いに費やしている。

 そんな透は目を合わせるだけで相手の感情がある程度分かる。

 

「迷惑じゃないですか……?」

 

「迷惑だよ。でも、頼まれたしね」

 

 透の冷や汗は止まらない。

 ただ嫌いなだけだったり、多少の嫌悪だったり、憎まれているだけなら透も対処できる。

 だが、透が硝子の目を見て読み取った感情は最愛の人を殺されたレベルの嫌悪だ。

 

 それはもう嫌いとか憎まれているという言葉で表せないほどの嫌悪だ。

 正直、他の者が見ても分からないだろうが、透だけは感じ取れる。

 

 なぜ自分はまだ殴り掛かられていないのか不思議だと思っているくらいだ。

 

 流石の透も一朝一夕で仲良くなることはできない。

 というか、不可能に近い。透はこの場から逃げたいと思っている。

 

「……君ってさ」

 

 硝子は保健室のベッドに腰掛けて透を見て問いかける。

 

「反転術式、どれくらい使えるの?」

 

 硝子の問いに透は首を傾げた。

 質問の意図は分からなかったが透は少し悩んで素直に答えることにした。

 

「えーと、腕が無くなったとかくらいならなんとか治せますよ」

 

 にょきにょきっと、と透は言った。

 すると硝子はため息を吐いた。

 

「そう、凄いじゃん。病気とかは治せるの?」

 

「いや、無理ですよ」

 

 透は硝子の問いに"正直"に答えた。

 

「へー、透は治せたけどね」

 

「透というのは禪院透さんですか?」

 

「そうだよ。他に透はいらないから」

 

 少し怒ったように言う硝子の言葉に透は納得した。

 なるほど、そのパターンかと硝子の考えを理解した。

 だが、自分の予想が正しければ硝子が透に手を出す可能性は少ないだろうと透は判断し、少し安心した。

 

「凄いですね! 病気を治すなんて反転術式の常識外じゃないですか!」

 

「……そうだよ。それも透は生まれつきの病気や不治の病でも治せた」

 

「いや、もうそれは反転術式とは違う術式だったのでは……凄いとかそういうレベル超えてますよ?」

 

 透の言葉に硝子は気分を良くしたのか少しドヤ顔になる。

 

「それだけじゃないよ」

 

「それ以上に何かできたんですか!? いや、でもそれ以上ってもう……」

 

「透は五分以内かつ体の七割が残っているなら死んでても生き返らせることができたんだ」

 

「それはもう神様の領域なのでは……!?」

 

 透は驚きのあまり目を見開いた。

 実は透も反転術式の能力に自信があった。

 自分以上の使い手と出会った事は数える程度しかない。

 

 だが、その中でも病気を治したり死者の蘇生を可能にしている者は一人もいなかった。

 いや、もしかしたら病気の治癒くらいならできた者もいたかもしれないが、死者の蘇生に関しては常軌を逸している。

 

「どうだ。すごいだろ」

 

「凄いなんてものじゃないですよ……!」

 

 透のあまりの驚き様に硝子はさらに気分を良くした。

 そして、透の事を睨んだ。

 

「──だからお前が透の代わりになるのは無理だよ」

 

 鋭い眼光の硝子。

 そしてベッドから立ち上がり、出入口の前で立っていた透の前に立つ。

 

「私の中で透は禪院透だけ、もし五条に何か言われてるならむッ!?」

 

 透は喋っている途中の硝子の口に手のひらを置いて黙らせた。

 それは喋れば喋るだけ硝子の目が濁っていくのを感じ取ったからだ。

 

「私は禪院透さんの代わりになるつもりなんてありませんよ。なれませんし」

 

 硝子は透の言葉にキョトンとした表情に一瞬なり、またすぐに睨んだ。

 そして硝子の口を押さえている透の手を退かす。

 

「嘘をつくなよ」

 

「嘘じゃないですよ。縛りでも作りますか?」

 

 そう言って透は目を覆っている布を外した。

 露わになった透の瞳は優しく硝子の瞳を見ていた。

 

「……お前がそうだったとしても、五条はそのつもりだろ」

 

「私も五条なんですけど……。正直な話をすると悟兄様が私に何を求めているのかってよく分からないんですよ」

 

「何をって……透の代わりにする以外に何が」

 

「最初は私もそう思っていたんです。でも、最近はなんだか違う気がしているんです。多分、私が聞いたらダメな事だと思うので聞いてはないんですけど、悟兄様も私が禪院透さんの代わりになることはできないって分かってると思うんです」

 

「……意味わかんねぇよ」

 

「みーとぅー」

 

 透は硝子に人差し指を差しながら言った。

 この状況でおちゃらけられて軽く毒気を抜かれる硝子。

 

「はぁ……じゃあなんで、アイツは私とお前を一緒にいさせてんだ。ってお前も分かんないんだった」

 

 硝子はため息を吐いて再度ベッドに腰掛けた。

 透はどさくさに紛れて、硝子の隣に座った。

 

「あぁ、それは多分ですけど」

 

「分かるのかよ」

 

 硝子は優しく透の頭にチョップをしながらツッコんだ。

 

「多分ですけど、私と硝子さんに仲良くなってほしかったんじゃないですか?」

 

「はぁあ?」

 

 硝子はすごく嫌そうな顔をした。

 

「うわ、嫌そうな顔ですね。悟兄様は自分の好きな妹とお友達に仲良くなって欲しかっただけだと思いますよ?」

 

「自分で言えるのすげぇなお前。てか──」

 

「──無理ですよね」

 

 透は硝子の言葉を遮り答えた。

 硝子は驚いたように透の事を見ている。

 

「だって、硝子さんってば会った瞬間から……いや、会う前からですけど私の事を相当嫌ってますよね」

 

「分かってたのかよ」

 

「正直頭を撫でられた時にこのまま潰されるのでは!? と思ってました」

 

「……そんなに嫌ってるの分かりやすかった?」

 

 硝子は透の言葉にそう返した。

 硝子からしたら、透に自分の嫌悪がバレたのは悟が部屋を出て行った後の事だと思っていた。

 

 だが、透の口ぶりからして会った瞬間からバレている様子だ。

 硝子は自分の擬態には自信があった。だが、見破られていた。

 それが少しショックだった。

 

「あ、悟兄様は気づいてないと思いますよ? 私がそういう感情を読み取るのが得意なだけなので」

 

「……なるほどね」

 

 硝子は胸ポケットから煙草を一本取り出して吸い始めた。

 

「お前はそれでいいの? アイツは仲良くならせたかったんだろ」

 

「いいも悪いも無理ですからねぇ」

 

 透の言う通りである。

 今の硝子と透が仲良くなるのは不可能と言えるだろう。

 

「透なら諦めなかっただろうけどね」

 

「私は透さんじゃないですからねぇ」

 

 あっけらかんと言う透の姿に硝子は完全に毒気を抜かれていた。

 最初はこの高専から追い出してやろうと考えていたが、その必要がないと気づいたのだ。

 

「悟兄様はいつ戻ってくるでしょうか」

 

「しらね」

 

 沈黙の時間が続く。

 硝子は別に気まずさも感じずにいられるが、透は沈黙が大の苦手だ。

 

「あぁ、そうだ! 禪院透さんのお話をもう少し聞かせてもらえないですか!」

 

「は? なんで」

 

「だって、悟兄様は小出しでしか教えてくれないから全然知らないんですもん! 反転術式の話も今日初めて知りましたし!」

 

 悟は透に禪院透の事の詳しい事をほとんど教えていなかった。

 それには理由があり、もし禪院透の事を事細かに教えたら真似をしだすのではないかという恐怖があったからからだ。

 

「…………アイツ、透の事教えてねぇのかよ」

 

 硝子は驚いていた。

 てっきり禪院透の事を細かく教えられていると思っていたからだ。

 

「はい! だから透さんのお話聞きたいです! そこまでの反転術式の使い手ということは他の呪術もすごかったんですよね!」

 

 キラキラと無邪気な瞳で問いかけてくる透の姿に少し微笑み、硝子は口から煙草を離した。

 

「長いよ」

 

「ぜひ!」

 

 硝子はそれから禪院透の話を始めた。

 その表情は柔らかく、禪院透が亡くなってから初めて明るい気持ちで禪院透の話をできた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 数時間後。

 

「──ただいまー!」

 

 悟が保健室に戻ってきた。

 そこには話を聞いて興奮しすぎて疲れてしまった透がベッドで寝ていた。

 

「おかえり五条」

 

 ベッドで寝ている透を悟が見ていると窓際で煙草を吸っている硝子が言った。

 そんな硝子を見て五条は嬉しそうに微笑んだ。

 

「こっちのセリフだね。おかえり硝子」

 

「意味わかんねぇよ。早く連れて帰れ」

 

 はいはい、と言いながら悟は透を抱きかかえた。

 すると、透は少しだけ目が覚めた。

 

「あ、悟兄様……」

 

「や、まだ部屋じゃないから寝てていいよ」

 

 そう言う悟に透は嬉しそうに微笑んだ。

 

「硝子さんいい人でした。悟兄様はいいお友達がいて幸せですね……」

 

 寝ぼけてもう保健室から出たと勘違いしている透は言った。

 そしてすぐにもう一度寝てしまう。

 

「だって硝子。俺、幸せらしい」

 

「まだ保健室だっての……」

 

 そう言って硝子は煙草の火を消した。

 

 硝子は次の煙草を手に取ることはなく、窓の外を見て微笑んだ。




 硝子に頭を撫でられた時の透の心情

(このまま頭、握りつぶされたりしませんよね……?)

 7誌さんからファンアートを頂きました!
 ありがとうございます!
 
【挿絵表示】


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