転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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八話『死にますよ?』

 透が硝子と初対面した日から数日が経った。

 透はあの日から硝子と話すことはなく、これまでと変わらない毎日を送っていた。

 

 だが、この日はいつもとは違い朝いきなり悟から「じゃ、行こうか」と場所も目的も伝えられずに外に連れ出されていた。

 透は「はい! 行きます!」とノータイムで答えていた。

 

 透が連れてこられたのは東京郊外のとある山奥にある廃工場の前だった。

 ここは界隈で心霊スポットとして有名な場所だった。

 

 透はなぜこんな場所にいきなり連れてこられたのだろうか、と疑問に思いながら廃工場を見ている。

 肝試しでもするのかなと、どう考えても違うだろという予想をしていた。

 

「遅刻だぞ。悟」

 

 透が廃工場を眺めてこれから肝試しかと微笑みながら考えていると、スーツ姿の男性に声をかけられた。

 透が振り返るとそこには過去に悟から写真で見せてもらった悟の親友の姿があった。

 そう、夏油傑だ。

 

(この方は確か……バカ前髪さん……)

 

 透は写真で姿は知っていたが、夏油傑という名前は教えてもらっていなかった。

 

「あぁ、道が混んでてね」

 

 なんの悪びれもなく嘘とついた悟。

 道など混んでいなかったし、普通に悟が寝坊した。

 何なら道中、運転手伊地知に「どのみち遅刻だしゆっくりでいいよ」と言っていた。

 

「混んでませんでしたよ?」

 

「嘘つくなよ」

 

 傑は頭を抱えてため息を吐いた。

 

「悟兄様、今日は一体何をする予定なんですか?」

 

 ここまで聞いていなかった透だが、流石に疑問に思い悟に連れて来た理由を聞いた。

 そんな透の言葉に傑が驚いていた。

 

「……悟、せめて透ちゃんには話しておくべきだろう」

 

 傑はもう一度頭を抱えた。

 傑は悟から何をするのか聞いているため、しっかりと事情を把握している。

 そして、同行すると事前に伝えられていた五条透の存在もしっかりと知っていた。

 

「あれ、話してなかったっけ?」

 

「朝いきなりだったじゃないですか」

 

「君も来る前に聞きなよ」

 

 傑のツッコミが止まらない。

 悟は報連相が全然できず、透はそれを受け入れて何も聞かずについていく事が多い。

 傍から見ればそれはツッコミどころしかない。

 

「今日はね。この廃工場に住み着いてる二級呪霊をこの前髪さんと祓ってもらう」

 

 悟は廃工場を指さしながら言った。

 二級呪霊。

 等級だけで言えば上に特級と一級、準一級があるため言葉だけでは大したことないように思えるが、二級呪霊は決して弱くない。

 大多数の呪術師が三級から準二級に分類されることから二級は一般の呪術師で対応できる最高峰の呪霊と言える。

 

「はい頑張ります!」

 

 だが、透はノータイムで頷いた。もう怖い。

 これは透が二級呪霊程度なら余裕で倒せるほど強いというわけではなく、家族からの頼みはほとんど聞いてしまう悪癖だ。

 今の透の強さを呪術師の等級に合わせるならば高く見積もって準二級程度だろう。

 

 もちろん五歳の幼女が準二級相当の強さを持っているのは規格外である。

 だが、今回の相手は二級呪霊だ。確実に勝てる相手ではない。

 

 もし、切札の転生術式による不死化、呪力の無尽蔵化が使用できれば一級相当にはなるだろうが、透はアレが嫌いなのでよほどの危機でなければ使わないだろう。

 

「待て、前髪さんってなんだ。もしかしなくても私の事か?」

 

「……今回は肝試しで学生が行方不明になってるから、できればその子たちも連れ帰ってきてね」

 

「無視するな!!」

 

「それじゃ、僕は次があるからね! ばいばい!」

 

 後で迎えに来るからと言い残して悟は颯爽といなくなった。

 取り残された二人。

 透は悟の去った方を睨む傑の手を握る。いきなり手を握られた傑はびくっと軽く驚いていた。

 

「それでは行きましょう! バカ前髪さん!」

 

 満面の笑みで言う透。

 

「──え?」

 

 透の言葉に驚きのあまり言葉を失う傑なのだった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 廃工場内。傑は透の言ったバカ前髪さんという言葉の真相を聞き、誤解を解いた後に帳を下し、二人で廃工場内へと向かった。

 廃工場内は薄暗く、窓はすべて黒いインクのようなもので塗りつぶされていた。

 

「すみません。まさか悟兄様の嘘だったなんて……」

 

「騙されるかい普通……」

 

「世の中にはいろんな趣味趣向の方がいますから」

 

「少なくとも私にそんな趣味はないよ」

 

 傑はため息交じりに言った。

 透は申し訳なさそうに傑に頭を下げた。

 そんな透にもういいよと傑は頭を上げさせる。

 

「あっ、そうでした自己紹介をしていませんでした! 私、五条透って言います!」

 

 しばらく会話もなく歩いていると透は思い出したかのように言った。

 透の名乗りに傑は少しだけ苦そうな顔をした。

 

「……私は夏油傑。よろしくね透ちゃん」

 

 だが、すぐに表情を戻し自己紹介を返した。

 そんな傑の姿に透は嬉しそうに微笑んだ。

 

「はい! よろしくお願いいたします! 傑さん!」

 

 透は満面の笑みだ。

 高専にやってきてから初対面は印象最悪で始まる事が多かったため、こうして普通に返してくる人は久しぶりで嬉しかったのだ。

 人にひどい扱いを受けても大して傷つくことのない図太い透だが、嬉しいというわけではない。

 もちろん普通に接してもらえた方が嬉しいに決まっている。

 

「傑さんは今日なぜここに?」

 

 透はニコニコと笑いながら聞いた。

 傑は透の問いにため息を吐いた。

 

「……悟がしつこいからね」

 

 透は傑の返しに首を傾げた。

 しつこいとはどいういう事だろうか。

 

「一年間だよ、一年間ずっと呪術師に戻れって、一度でいいから任務を受けてくれって、毎日毎日……流石に折れて一度だけ任務を受けることにしたんだ」

 

 透は傑の発言に驚いた。

 そして足を止めた。

 

「傑さん呪術師じゃないんですか!? 危ないですよ! 引き返しましょう!」

 

 透は傑の服の裾を握り引っ張る。

 そんな透の姿に苦笑いをする傑。

 

「大丈夫だよ。呪術師じゃないと言っても二級くらいの呪霊には負けないし、完全にやめられたって訳ではないから」

 

「……そ、そうなんですか?」

 

 透は服を引っ張るのをやめて聞いた。

 そう、夏油傑は特級術師であるため簡単に呪術師をやめることなどできるはずがなかった。

 

 夏油傑が呪術師を引退するというのは認められず、活動休止という扱いになっている。

 そのため活動の再開は簡単である。今回のような一度だけ任務を受ける事も許可されている。

 そして、呪術師という肩書を捨てられないため、もし高専上層部などから重要任務が言い渡された場合は強制的に再開せざるを得ない。

 

 現在は五条悟という規格外の存在がいるため強制的な任務などは発生していないが、もし五条悟が居なくなった場合や五条悟が呪詛師になった場合は確実に任務を言い渡されるだろう。

 

「そうだよ。だから心配しなくて大丈夫」

 

 そう言って透に目線を合わせて微笑む傑。

 身長差もあり、透が傑の目をまっすぐに見たのはこれが初めてだ。

 そんな傑を見て透は心底心配そうな顔をしていた。

 

「本当に大丈夫ですか……?」

 

 そう言いながら透は傑の頬に軽く手を当てる。

 

「こんなに辛そうなのに……」

 

 透の言葉に目を見開いて驚く傑。

 

「辛そう……かい?」

 

「はい、辛そうです」

 

 透の言葉は当たっている。

 傑は禪院透が死んでから呪術師という生き方ができなくなっていた。

 こうして呪術師として活動するのは数年ぶりだが、この場にいるだけで禪院透のあなたは呪術師に向いていないという言葉が頭の中を反芻している。

 

「傑さん……そんな状態で呪霊に会えば──死にますよ?」

 

 透はまっすぐに傑の目を見ながら言った。

 透は過去に何人も今の傑のような目をした人間と会っている。

 

 そして──その全員が死んだ。

 

 だとえ、どれだけ強い能力を持った呪術師でも心に重荷を持ったままできるほど呪術師は簡単な仕事ではない。

 

 呪霊を祓うというのは簡単に言えば呪霊との殺し合いなのだ。

 殺し合いで真っ先に死ぬのは"迷いを持った人間"だ。

 

「はは、透ちゃん。これでも私は一級呪霊だって祓えるくらい──」

「──関係ないですよ」

 

 透は傑の言葉を遮った。透は目隠しの布を外す。

 そして五歳の幼女とは思えないほどの凄みを感じさせる目で傑を見る。

 

「どれだけ強くても、判断が遅れる人は死にます。格下とか関係ないです」

 

「……私だってそれなりに実戦は経験している。呪霊と対峙して判断が遅れるなんて」

 

「遅れますよ」

 

「言い切るじゃないか」

 

 透は傑のような人間を止められず何度も何度も後悔をした。

 あの時に止めておけばと何度も何度も後悔をした。

 

 そして今、止めれば後悔せずに済む人間がいる。

 透は絶対に止めるつもりだった。

 

「傑さんは何をそんなに辛そうにしているんですか……?」

 

「…………」

 

 傑は透の問いに黙る。

 禪院透の事は辛く言葉にしたくないのだ。

 それでなくても今日会ったばかりの幼女に言いたい話ではない。

 

「もし、戦いの最中に一瞬でもその事が脳内に過らないと言い切れますか」

 

 無理だ。傑はもう気づいている。

 透の言っていることは正しい。

 

 もし、自分が逆の立場でも自分のような人間が戦うなんて認めないだろう。

 現役の時の傑ならば、呪術師を舐めるな、と叱責していただろう。

 

「……戻りましょう。幸い、呪霊と出会う前に気付けて──」

 

 

 

 瞬間。

 透たちの周りの景色が歪んだ──。

 

 

 

「ッ……!!」

 

 透は六眼と今までの経験で瞬時に判断した。

 これは未完成ではあるが──領域だ。

 

「傑さん!! これは領域です!! まだ完成していません! すぐに窓から外に出てッ──!?」

 

 言い切る前に傑が透を蹴り飛ばし、窓を突き破り外に出された。

 もし透が言い切り、二人で窓の外を目指したとしても間に合わなかっただろう。

 

 だが、こうすれば透だけは逃がせると傑は瞬時に判断し実行した。

 

「──悟の妹を死なせるわけにはいかないよ」

 

 傑は優しい口調でそう言い──

 

 ──領域が完成してしまった。

 

「ぐぅ……す、傑さん!!」

 

 透が窓から飛び出るとそこは二階であり地面に叩きつけられた。

 だが、そんなことは気にせず、即座に反転術式で治し工場に戻ろうとする。

 

 入り口に走り開けようとするが、工場が領域の外殻として利用されてしまったため開けることができない。

 通常の領域ならば外からの攻撃には弱く、透でも破壊可能だった。

 だが、工場を外殻として利用されては通常の領域よりも数段外からの攻撃に対する強度が高い。

 

「悟兄様の親友を死なせるわけには……!!」

 

 透はそれでも必死に工場の扉をこじ開けようとする。

 何度も何度も入り口を殴り、拳の骨が折れたそばから反転術式で治している。

 

 そして何度目になるか拳を振り上げた瞬間……

 

 ──ザシュッ

 

 という音を立てて、透の右腕が肩の付け根から切断された。

 透は突然の事に驚く。

 

「──アァ……」

 

 すると背後から声というにはあまりにも無機質な音が聞こえた。

 

「!!」

 

 透が振り返るとそこには人間型の呪霊が立っていた。

 透は腕の切断面を左手で押さえながら目を見開いて呪霊を見ていた。

 

「宿儺……?」

 

 その呪霊からは過去、自分の弟だった宿儺の気配がした。

 だが、姿は少しも似ていない。

 

「──ア、アァ」

 

 無機質な声が静かな森に嫌に響いた。




次回、領域展開。

一人称を間違えていましたので修正しました。
各話のタイトルを変更しました。

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