転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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三話『呪術高専東京校』

 禪院家の家訓や家族トラブルを解決するために戦った日から二年が経った。

 あの日から家訓は"家族仲良く・いじめは禁止・悪い事をしたら謝る"に変わり、家訓を守らせるという縛りで過度な才能差別や男尊女卑は無くなっていた。

 最初は皆戸惑っていたが、家の雰囲気は良くなり、前よりも断然居心地の良い空間になっていた。

 しかし、未だに反発する者も少なくない。だが、家訓を縛りとしているため実害はなかった。

 

 毎日の日課で寝る前に透の部屋の横にある縁側で話をする透と甚爾の二人。

 

「え、家を出るんですか?」

 

 その日、甚爾から突然聞かされた報告に目を丸くして驚く透。

 

「あぁ──」

 

 返事をする甚爾の表情はどこか愁いを帯びており、禪院家から離れるのは清々するが透と離れることには寂しさを感じているようだった。

 だからこそ、他の家の者には伝えず透だけに家を出る事を伝えにやってきたのだ。

 

 確かに家訓を変えたあの日から家の雰囲気はどんどん良くなっていった。だが、それでも甚爾が受けてきた迫害の過去が消えるわけではない。

 そんな過去のあるこの家に居続けたいと甚爾は思えなかった。

 

「そうですか……悲しいですね」

 

「止めねぇんだな」

 

 甚爾は意外そうに透を見た。

 そんな甚爾に首を傾げながら透は聞く。

 

「止めてもいいんですか?」

 

「お前の事だから家族が離れるのは駄目とか言ってくると思ったんだがな」

 

 そう言われて透は少し黙る。

 確かに家族が遠くに行ってしまうのは寂しい。

 それでも止めようとは思わない。なぜなら、

 

「……家を出たからって家族は離れませんよ。家族はどこにいても、死んでも家族なんですから」

 

 その価値観が、彼女を彼女足らしめる要素だった。

 家族を愛している透だが、束縛はしない。助けはするが過保護はしない。

 なぜなら、そんなことをしなくても家族とは家族であるから、という考え。

 それが彼女の持つ家族愛だった。

 

「そうか……それじゃあな」

 

 最後に、と思いながら甚爾は透の頭を撫でる。

 すっかり撫でなれた頭だが、今までで一番優しく撫でた。

 

「また会いましょう甚爾兄様」

 

 透は家を去ろうとする甚爾に微笑みながら言った。

 その言葉に返事はなく。その後、透と甚爾が再会する事はなかった。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 甚爾が家を出てさらに数年後のある日。

 透は当主である禪院直毘人に呼び出され、直毘人の部屋までやってきていた。

 

「父様、お話があると伺いました」

 

 当主である禪院直毘人に呼ばれるという事は滅多に無い為、透はいつもより真剣な面持ちで聞いた。──直毘人の膝の上で。

 

「なんでナチュラルに膝の上に座っているんだオマエは?」

 

「今は父様と私の二人きりですし、これくらい別にいいのでは?」

 

 普段二人きりになる機会などないのだから、今くらい甘えたいと考えた透は直毘人の部屋に入るなり、何の躊躇いもなく直毘人の膝の上に座った。

 あまりにスムーズな行動に直毘人も最初ツッコめなかった程だ。

 

「オマエは今いくつだ?」

 

「十四歳ですが」

 

「……もっとこう、反抗期とかないのか?」

 

 直毘人は警戒心の全くない娘が心配になってしまった。

 普通の十四歳の少女であれば亭主関白の父親など鬱陶しくて仕方のないものではないのか? そんなことを考える直毘人だったが、透にとっては家族なのだから警戒心とかあり得ないし、鬱陶しいというのもあり得なかった。

 

「五歳の時に一度反抗期しましたが?」

 

「あれは反抗期ってレベルじゃないだろう」

 

 直毘人はあの日の事を思い出し頭を抱えた。

 禪院家の主戦力連中はあの日の事がトラウマになっていた。

 

「娘が父親に甘えるのはおかしい事ですか?」

 

 純粋な目でそう聞く透を見て直毘人は諦めた。

 別に膝の上でも話はできるしな、と自分に言い聞かせる。

 

「はぁ……まぁいい。オマエに一つ頼みがある」

 

「はい、了解です! 頑張ります!!」

 

「内容を聞いてから了承しろ」

 

 家族に対しての警戒心の無さに驚く直毘人。

 まだ頼みの内容も言っていないのに両手の拳を握りながらやる気になっている透。

 

「父様が私に酷い頼み事をするわけがないので」

 

 過去に直毘人から一級案件の任務を任されたりもした透だが、それは酷い頼み事にはカウントされていないようだ。

 

「何その信頼。どこからくるの?」

 

 直毘人は透に引いていた。

 

「家族を信じるのは当然の事です」

 

 満面の笑みでそう答える透を見て直毘人はおかしな奴だと思う。

 例え禪院家がまともな倫理観の家系だったとしても、そこまで家族だからと信じる事は普通ではないだろう。

 

「よくこの家に生まれてその価値観に育ったな……して、頼みだが呪術高専に属してくれ」

 

「呪術高専ですか?」

 

 透は首を傾げる。呪術高専とは日本に東京と京都の二校しか存在しない呪術教育機関。

 普通の呪術師の家系ならば高専に通い、呪術師としての資格を手に入れるのがセオリーだ。

 だが、禪院家などの御三家と呼ばれる家では高専に通わずとも"特別呪術師"として活動することができる。

 

 禪院家に生まれた透は今"特別一級呪術師"という肩書を持っており高専に通う必要はなかった。

 

「どうやら東京の方に五条の坊が通う予定らしくてな。そこに合わせての入学だ」

 

 五条の坊とは禪院家と同じく呪術師御三家の一つ五条家の次期当主"五条悟(ごじょうさとる)"の事である。

 禪院家と五条家は大変仲が悪い事で有名だ。

 

「……つまり五条家の方とお友達になって今の不仲な状況を解消しようというわけですか!」

 

「なんでそうなる!? 違うわ! オマエ一人が五条の坊と仲良くなったところで禪院家と五条の溝は埋まらん」

 

 透の的外れな意見にずっこける直毘人。

 禪院家と五条家の軋轢は一個人がどうこうできる段階をとうに過ぎていた。

 

「ではなぜタイミングを合わせて入学を?」

 

「五条の坊、五条悟の誕生で御三家のバランスは五条家に傾いた。気に食わんだろ、俺は気に食わん」

 

 直毘人は膝の上に座る透の頭を撫でる。

 直毘人に頭を撫でられるのは初めてだった透は驚いて目を丸くした。

 

「はっきり言ってオマエは五条の坊にも負けんほどの異能だ。家に閉じ込めておくにはもったいないと思っていた。五条の坊が高専に行くならちょうどいい。オマエが五条より有能だと高専連中に知らしめて来い」

 

 数多の前世から技術を磨いてきた透は呪術師の名家である禪院家でも特出した才能であり、まさに五条家の異能五条悟の対になる禪院家の異能であった。

 今までにない直毘人の期待に透は嬉しくなり立ち上がった。

 

「……はいっ!! 見せつけてきますよ!!」

 

 透はその場でシャドーボクシングを始めた。

 直毘人からの期待にテンションが高まり体を動かしたくなったのだ。

 

「本当にコイツに任せて大丈夫か……?」

 

 そんな落ち着きのない透を見て直毘人はまた頭を抱えていた。

 

 ※ ※ ※

 

 

 一年後。東京都立呪術高等専門学校。

 透は無事に入学を果たし、初登校の日を迎えていた。

 

「高専……久しぶりですね。あの人は今も元気でしょうか」

 

 透は沢山の和風な建物が並ぶ高専を見ながら呟いた。

 そこに思い浮かべるのはかつての友人だ。

 

「まぁ、"不死"に元気も何もないですね」

 

 そんな独り言を呟きながら、今日から自分がお世話になる教室の前へとやってきた。

 

(力を見せつけると言っても四年間を共にする学友の皆様……第一印象は良くしないとですよね)

 

 禪院透の力を見せつけるとは言っても、素行が悪ければ禪院家の評判が落ちる。

 それに透は折角四年間を共にするのなら仲良くありたいと思っていた。

 一つ深呼吸をして教室の扉を開けた。

 

「はじめましてー!! 禪院家からやってきました禪院透です!! よろしくお願いしま……す?」

 

 元気よく挨拶をしながら教室に入った透だったが、すぐに返事が返ってくることはない。

 教室にいたのは男子が二人に女子が一人だ。

 様子を窺うように三人は透を見た。

 

(え、なにこのクラス……暗すぎません? それに三人だけ……? いや、禪院家に生まれて忘れてましたが呪術師は万年人手不足でした……)

 

 呪術師は数が少なく、呪術高専の学生も一学年に三人居れば多い方と言われるレベルだった。

 透がそんなことを考えていると男子が一人立ち上がり、透に近づいた。

 

「やぁ、初めまして。私は夏油傑(げとうすぐる)だ」

 

 夏油傑と名乗ったのは180cmを超える長身で前髪が特徴的な黒髪の男子だった。

 傑は手を差し出し握手を求める。透はすぐにその手を握り握手をした。

 

「傑さんですね! よろしくお願いします!」

 

 透がにっこりと笑いながら言った。

 すると、次は女子が立ち上がり透に近づいた。

 

「私以外にも女子居たんだ。良かったよ。初めまして、私は家入硝子(いえいりしょうこ)

 

 家入硝子と名乗ったのは透と同じほどの背丈の茶髪ショートの女子だった。

 傑と同じく握手をする。

 その時、手から若干のタバコ臭さを感じたが透は指摘しない。

 

「硝子さんですね! 女の子同士仲良くしましょう!」

 

 透は硝子に挨拶をすませると残り一人のクラスメイトである男子の方を見た。

 

「そして、あなたが五条悟さんですね!! これから四年間よろしくお願いします!」

 

 白髪に真っ黒の丸いサングラスをした男子は五条悟であった。

 悟は透の事を若干睨むように見ていた。

 

「はっ、誰が禪院家の人間と仲良くやるんだよ。お前ら気をつけろよー禪院家ってめっちゃ呪術師至上主義の呪術界の魔窟みたいな家だからな」

 

 呪術師御三家の中でも禪院家は特に差別意識が強く、悟もそのことから禪院家を嫌っていた。

 それもわざわざ自分と合わせるように高専に送り込んできたのだ。当てつけとしか思えない。

 

「うわっ、性格悪いですね悟さん。仲良くなるの大変そうです」

 

 そう言いながら握手を求めて手を差し出す透だったが、その手は無視されてしまう。

 

「はぁ? だから俺はお前と仲良くするつもりなんて無いって」

 

「これから四年間を共に過ごす学友ですよ! 四年だけでも家の事は忘れて仲良くしましょうよ!」

 

「なんなんだよお前、本当に禪院家の人間?」

 

 禪院家のイメージに合わない透の行動に悟は困惑していた。

 透としては本当に仲良くなりたいだけなのだが、悟は何か裏があると無駄に勘ぐっていた。

 

「えぇ、私は禪院家の愛し子禪院透です! 是非、透とお呼びください! あ、傑さんと硝子さんも是非透と!」

 

 それじゃ呼ばせてもらうよ透、と傑と硝子の二人は受け入れた。

 しかし、悟は無視をする。

 

「愛し子って自分で言うかよ」

 

「私の愛しさに家訓が変わったくらいなんですよ」

 

 嘘である。家訓が変わったのは可愛さからではなく力尽くだ。

 しかしそんなことは知らない悟は首を傾げた。

 

「あ゛? 禪院家の家訓ってあの「禪院家に非ずんば呪術師に非ず 呪術師に非ずんば人に非ず」って腐った考え丸出しのやつだろ?」

 

「今では「家族仲良く・いじめは禁止・悪い事をしたら謝る」に変わりました」

 

「嘘だろ!? 頭イカれたのか禪院家!?」

 

 イカれているのは透だけだ。

 と、この場に直毘人がいたらツッコんでいただろう。

 

「家族は仲良くするべきですと抗議したらあっさりと変わりました」

 

「マジかよ……すげぇな……」

 

 悟は素で感心していた。素直か。普通信じないだろう。

 

「ということで悟さんも私と仲良くなりましょう!」

 

 そう言いながら透は再度握手を求めたが、その手は払われてしまう。

 

「何がということなんだよ! 家訓が変わったとか知らねぇよ。五条と禪院が仲良くするとかおかしいだろ」

 

 悟がそう言うと、教室の扉が開き強面の男が入ってきた。

 この男は今日から透達の担任になる夜蛾正道(やがまさみち)である。 

 

「──お前ら席に座れ」

 

 正道の一言に全員席に座る。

 

(これは友好関係を築くのは大変そうですね……頑張ろう)

 

 透は隣の席になった悟を見ながら心の中でそう呟いた。

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