転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話 作:おにい
透が呪術高専に入学して二か月が経った。
二か月も経つとクラスメイトとの関係も完成されつつある。
入学当初から一級呪術師として認定されていた五条悟と夏油傑の二人は任務などでも行動を共にすることが多く良好な関係を築いていた。
同じく一級呪術師と認定されていた透だったが、"とある事情"から任務に駆り出されることは少なく、同じく任務に出ることの少ない家入硝子と共に高専で行動することが多く良好な関係を築けていた。
透としては同級生の全員と仲良くなりたいのだが、共にする時間が短い上に、話しかけても悟には避けられてしまうことがほとんどだった。
「──別に無理して五条と仲良くする必要ないんじゃない? 家同士が仲最悪なんしょ?」
放課後。一年生の教室で一つの机を囲み、透と硝子の二人は駄弁っていた。
二人の仲は良好で二か月しか経っていないが親友と呼べるほどになっていた。
「せっかく四年も同じ学び舎に居るんですよ? 仲良くなりたいじゃないですか」
「ふーん、そんなもんか」
適当に返事をする硝子。
透は椅子から立ち上がり、硝子に近づいた。
「そんなもんです! きっと悟さんも本当は仲良くなりたいけど、素直になれないだけだと思いますよ!」
「それはないだろ」
それはなかった。
入学してからの二か月間、透は機会があれば悟に話しかけたりしていたが、その反応は良いものではなかった。
透はそれを「反抗期なんですかね」と勘違いしていた。
「傑さんの方は誘えば遊びに行ってくれるくらいにはなったのでいいんですが、悟さんとは話すことも困難です……」
「え、夏油と二人で遊びに行ったの?」
「はい、先日一緒にご飯を食べに行きました」
硝子は透と傑が二人だけで遊びに行った事実を知り、少し不機嫌になる。
透は悟だけでなく傑とも仲良くなろうと機会があれば話しかけていた。
悟とは違い傑は透に"禪院家"というフィルターを掛けていない為、話しかければ普通に答え、遊びに誘えば少し迷って来てくれるくらいの関係性にはなれていた。
問題は悟との仲だけであった。
「……呼べよ」
むすっとした表情で硝子は透に言った。
硝子は明らかに嫉妬していた。だが、透は気付かずに話を続ける。
「あの日、硝子は任務で京都だったじゃないですか」
「あぁ、その日か……チッ」
透から顔を逸らして舌打ちをする硝子。舌打ちは透の耳には聞こえていなかった。
「どうすれば悟さんとも仲良くなれるでしょうか」
透は机に肘を突いて考える。
仲良くならないという選択肢はなかった。
「別に無理して仲良くなる必要ないでしょ。私が居るし」
「私は四人で仲良くお買い物とかしてみたいです」
「想像できねぇ……」
硝子は四人での買い物を想像するが、結局二対二になって別れそうと思った。
「うーん、いっそサプライズでも──」
二人が話していると教室の扉が勢いよく開けられた。
教室にやってきたのは透達一年生の担任である夜蛾正道であった。
正道は額から汗を流し、焦った様子だ。
「硝子、透居るか!」
「いまーす」
「二人で仲良くお喋り中でした」
「急務だ! 重症の呪術師が運び込まれた。頼む!」
正道の言葉に透と硝子の二人は立ち上がった。
走って教室を去る正道の後をついて行く。
「すぐに向かいましょう」
※ ※ ※
特別保健室と書かれた看板のある部屋に入る透と硝子の二人。
そこには両腕を欠損して顎から下の顔が無くなっている男性の呪術師が横たわっていた。
応急処置はされているが瀕死の状態。恐らく数分も持たない状態だろう。
「これは重傷ですね」
「……ごめん。これは無理」
硝子は瀕死の呪術師を見て暗い表情で言った。
反転術式──本来負のエネルギーである呪力を掛け合わせて正のエネルギーを生み出すことで傷などを治すことのできる技術だが、使える者は少なく、他者に使える者はさらに少ない。
現代で確認できている反転術式のアウトプットを可能な呪術師は透と硝子の二人のみであった。
故にその希少性から危険な任務に向かわされることは少なく、基本的に高専内に滞在している。
そんな他者に反転術式を施すことのできる希少な呪術師の硝子だが、過度な肉体の欠損を治せるほどの出力は持っていなかった。
「大丈夫。私がやります」
透が硝子の前に出て瀕死の呪術師の胸に手を当てる。
「大丈夫ですよ。絶対に死なせません。治しますからね。安心して眠っててください。大丈夫です」
意識を失えば死ぬと感じていた呪術師は気合だけで意識を保っていた。
そんな呪術師は透の言葉に意識を手放す。
透が反転術式を使うと、欠損した両腕は再生し、無くなっていた顎から下の顔も復活する。
さらに古傷や本人も知らない肺の病気も完治した。
透は転生術式により数十の死を体験する事で"呪力の核心"と"魂の核心"を完全に理解し、反転術式のアウトプットに関しては例え宿儺であっても届かない域に達していた。
「ふぅ、何とか治せましたね。疲れました」
完治した呪術師から手を離し額の汗を拭う透。
透であっても死の淵にあった人間を完治させるというのは簡単ではなかった。
「お疲れ様。ごめんね」
透に近づき硝子は言った。
そんな硝子の言葉に透は首を傾げる。
「なんで謝るんですか?」
「いや、透と一緒の時って任せっきりが多いからさ……」
透から目を逸らしながら言う硝子はどこか暗い表情だった。
「気にしてたんですか?」
「まぁ……多少はね。正直透がいれば私って要らないし──」
硝子がそう言うと透は目を見開いた。
その後、目を細めて睨むように硝子を見る。
硝子は透から目を逸らしているため気付かない。
「……カッチーン。硝子、こっちに来なさい」
口でカッチーンと言う透は怒ったような表情だった。
初めて見る透の表情に硝子は驚いていた。
「は?」
「いいからこっちに来なさい」
透は長椅子の前に立ち、硝子に手招きをしていた。
硝子は何のこと変わらない様子のまま長椅子の前に立つ。
「この長椅子の端に座りなさい」
透は長椅子を指さした。
硝子は首を傾げる。
「なんで……?」
「いいから座ってください」
透の語気の強さに従う硝子。
すると、座った硝子の膝に頭を乗せて横になる透。
いきなりの膝枕に硝子は驚いた様子だ。
しかし、そんな硝子の様子はお構いなく透は言った。
「私は今からあなたにお説教をします!」
「膝枕の体勢で!?」
「硝子、あなたは私がいれば自分がいらないと言いました」
膝枕の体勢のまま話し続ける透。
これは硝子がお説教から逃げられないようにするためというのも兼ねていた。
「ほんとに始めた!?」
「硝子、私にはあなたが必要です。一人で死にかけの仲間を治療したりとか、手遅れの仲間を見送り続けるなんて精神的にきついです!」
「……それなら別に私じゃなくても」
透の話を聞いて硝子は擦れた様子で答えた。
そんな硝子の頬を優しく撫でる透。
「駄目です。私とこの気持ちを共有して"本当の意味で一人にしない"のは硝子だけです。私や硝子のお仕事は呪術師の中でも一番仲間の死を目の当たりにします。その時、普通の呪術師なら仕方がなかったと割り切れるかもしれません。でも私達は違うでしょう?」
「……うん」
頬を撫でられる優しい感触に絆された硝子は素直に答えた。
反転術式の使い手は、例えもう助からないと思われる重傷の状態だったとしても運ばれてくる。
だが、反転術式は万能の力ではない。助からないという事も多々ある。
「もっと反転術式を上手く使えていれば救えたのに、自分の責任だ。違うと分かっていても心の中でそう考えてしまう。そんな時に一人じゃ辛いじゃないですか」
何かを思い出したのか硝子は涙を浮かべていた。
透はその涙を指で拭き取る。
「あなたが私に寄り添ってくれているだけで、私があなたを必要とします。だから硝子、二度と自分をいらないなんて言わないでください」
「……透は本当に優しいね」
硝子は自分の頬を撫でる優しい透の手を握る。
「え、今結構自分勝手な事言ってませんでしたか私?」
透からしてみれば「私の為に自分を不要な存在だと思わないで」というのはただのわがままだった。
だが、硝子にとっては救いだった。
「自分勝手ね……透は本当に毒だよ」
「毒!?」
いきなり毒と言われて驚く透をよそに硝子は話を続ける。
「透もずっと私に寄り添ってよ……」
「……死ぬまで寄り添いますよ」
透は苦笑いで答えた。
「死なないで」
「無茶言わないでください」
その後、「次は透が私に膝枕」と硝子が言い、一時間ほど膝枕をした透。
怪我で運ばれてきた呪術師は意識が戻っていたが空気を読んで寝たふりをしていた。
次回、夏油傑落ちる
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