転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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五話『夏油傑と禪院透』

 七月某日。呪術高専東京校の一年生の教室。

 その日は珍しく、透と傑の二人だけが居た。

 

「傑さんと二人って珍しいですね」

 

 透が傑の机の前に立ち話しかける。

 傑は読んでいた小説から目を離して透を見た。

 

「硝子の任務に悟が護衛だからね。硝子は透も一緒がいいって駄々を言っていたよ」

 

「どちらともが高専を離れるのは駄目みたいですからね」

 

 反転術式の使い手である透と硝子の二人は怪我人の治療のために出張をすることがある。

 しかし、二人が同時に高専を離れる事はほとんどない。

 そして残されるのは四肢の欠損まで治すことのできる透の方が大半であった。

 

「重傷の患者が運び込まれやすいのは高専の方だからね。君は残しておきたいんだろうね」

 

「私も皆さんと旅行したいです」

 

「おいおい透、任務を旅行感覚で行うのは駄目だろ」

 

 傑は正論を言うが、そんなことは無視して透は話を続けた。

 

「傑さんはどこに行きたいですか? 北海道とかどうです? ご飯が美味しいですよ」

 

「……旅行か。私は海外に行ってみたいな」

 

 無視されたことを若干気にしながら傑は答える。

 海外に行ってみたいと言ったのは丁度海外旅行が題材になっている小説を読んでいたからだ。

 

「スケール大きいですね。イタリアとかどうですか? ご飯が美味しいらしいですよ」

 

「なんでそんな食べ物推しなんだい……お腹空いてるの?」

 

 傑は苦笑いしながら透に聞いた。

 

「いえ、別にそういう訳では……あっ、今日は何食べに行きます?」

 

「やっぱり空いてるんじゃないか。二人で食べに行くことは確定なんだね」

 

 透と傑の二人は少し前から一緒に食事をすることがあった。

 とは言っても傑から誘うことはなく、傑が透に半ば強引に連れていかれるのだが。

 

「お友達を誘いたいならいいですよ? 私、初対面でも結構話せる自信あります」

 

「……いや、二人でいいよ」

 

 傑は透から目を逸らしながら言った。

 傑に高専生以外の友人は居なかった。

 

「美味しそうなお鍋屋さん見つけたんですよね。そこでどうですか?」

 

「いいね」

 

 そう言うと、二人は教室から出て料理屋のある場所まで向かった。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 向かっている途中、人気の少ない街路地にて呪霊を見つけた二人は寄り道をしていた。

 

「四級程度の呪霊ですね……祓っていきましょうか。私に任せてください」

 

「いや、私が取り込もう」

 

 傑が透の前に出た。

 そんな傑を見て透は少し青い顔をしている。

 

「四級呪霊って役に立ちますか?」

 

 首を傾げて透は聞いた。

 そんな透に傑は答える。

 

「何が役に立つかはわからないものさ。不測の事態の為に備えるのは当然の事だよ」

 

「……凄いですね」

 

 透は傑の方を細目で見た。

 傑が呪霊に手を(かざ)すと、呪霊は野球ボールほどの大きさの玉になる。

 それを見た透は顔をさらに青くした。

 

「四級の呪霊なら何をしなくても取り込める……何も凄いことはないよ」

 

 傑はそう言って玉になった呪霊を飲み込む。

 呪霊操術──夏油傑が持っている術式でこのように取り込んだ呪霊を操ることができる。階級換算で二級以上の差がある呪霊は降伏無しに取り込むことができる。

 その能力は凄まじく、特級の術式だと言われているほどだ。

 

「いや、それを食事前に飲み込めるのが凄いですねって事です」

 

 透は自分の口の前に手を置きながら言った。もう数十以上も前の前世で透は呪霊操術を授かった事があった。

 その時は友人と日本中を旅しながら呪霊を取り込み使役していたが、呪霊を飲み込んだ時の不快感と味は今でも忘れられないトラウマになっている。

 

「……!」

 

「それ、すっっっごくまずいですよね?」

 

 透の言葉に傑は目を丸くして驚く。

 呪霊の味は誰にも話したことが無かったからだ。

 

「……よく分かったね」

 

 傑は透の方を見る。その表情は暗い。

 自分の弱みを仲間に知られたくなかったのだ。

 

「確かに……呪霊の味はまるで吐瀉物を掃除した雑巾のようだよ。それでもこれは私がやらねばならない責務だからね」

 

「責務ですか……」

 

 透はその言葉に引っかかる。

 

「あぁ。行こうか」

 

 そんな透をよそに傑は料理屋に向かおうとした。

 透は傑の服の背中を掴み歩みを止めさせる。

 

「傑さんは呪術師に向いてないですね」

 

 いつも明るく肯定的な透からは想像できない否定的な言葉に傑は驚き、振り向いて聞き返した。

 

「は……? いきなりなんだい?」

 

「傑さんは呪術師向いてないから辞めた方がいいですよ」

 

 その表情は真剣で一切の冗談は無かった。

 傑はそんな透を睨む。

 

「……透、もしかして喧嘩を売っているのかな?」

 

「違いますよ。傑さんは何のために呪術師をやっているんですか?」

 

 透は傑が逃げないように手を掴んだ。

 いつになく真剣な透に傑も真剣に返す。

 

「何のためか。私は弱者や非呪術師を守るためにこの力を授かったのだと思っているよ。弱者生存、それが世のあるべき姿だと考えるからね」

 

「とても立派な考えですね……やっぱり向いてないですよ呪術師」

 

 あまりの物言いに傑は怒り、手を振り払おうとするが透は離さない。

 

「どこがっ! ……どこが向いていないのか教えてくれ」

 

 一瞬怒鳴ってしまうが、抑えて冷静に聞く傑。

 そんな傑を透は冷たい目で見ていた。

 

「自分の力の使い道や生き方を、自分以外の見ず知らずの他人に委ねているところがですよ」

 

 透は真っ直ぐに傑の目を見つめる。

 そんな透から傑は目を逸らした。

 

「吐瀉物みたいな味のする呪霊を飲み込んで、命を懸けてまで守っている弱者や非術師が呪いよりも悍ましい存在だった時……壊れちゃいますよ?」

 

 透が握る手に力が入る。

 それは遠い過去に透自身が経験した事なのか、それとも近しい人間が経験した事なのか、重みのある言葉だった。

 そんな言葉に傑は逸らしていた目を合わせる。

 

「そんなにやわじゃないさ。弱者や非術師に悪人がいる事だって分かっている」

 

「悪人ですか。そんな生易しい話ではないんですけどね……命を懸けるというのはあなたの大切な仲間も含まれるんですよ。そんな仲間が死んだ時……死んでまで守った人間が悪人だったら、傑さんは呪わずにいられますか?」

 

「っ!」

 

 普段明るく、お気楽な透とは思えないほど冷たい目が傑を見つめていた。

 透の瞳を見た傑はすぐに返事を返すことができない。そうなった時に、自分が呪わないと断言できなかった。

 "呪わない"と(うそぶ)くのは簡単だ。だが、真摯に話している透を見て嘯くことなどできなかった。

 

「呪術師なんていういつでも死と隣り合わせの生き方に、見ず知らずの他人を使ってはいけませんよ……私はそれで失敗した人を沢山見てきました」

 

 その時、思い出したのは誰なのか。透は遠い眼をしている。

 そんな透の姿に傑は先ほどまでの怒りを無くしていた。

 

「死んだ時に、受け止められるだけの理由を持っていなければ呪術師なんてやってられません。傑さんは強いから経験が少ないんでしょうけど……大切な人って案外簡単に死んでしまいますよ?」

 

「……じゃあ、聞かせてくれ。透は何のために呪術師をやっているんだ?」

 

 傑は透の目を真っ直ぐ見て聞いた。

 

「──大切な人の為です」

 

 透の答えに傑はぽかんとした表情になる。

 

「大切な人の為……他人を使うのは駄目だと言っていたじゃないか」

 

「"見ず知らずの他人"を使うのは駄目なんです! 大切な人は見ず知らずじゃないのでセーフです!」

 

 透は頬を膨らませて言った。

 

「なんかずるくないか……?」

 

「ずるくありません!」

 

 透は片足を上げてタンッ!と地面に蹴りを入れて答えた。

 子供のような怒り方だ。

 

「……だが、それならさっきの話はどうなる? 大切な人が死んだ時、死んでまで守った人間が悪人だったらというのは……透は呪わずにいられるのかい?」

 

 むくれていた透は傑の問いに真剣な表情へと戻った。

 そして、何かを思い出したか優しい表情になり答える。

 

「それが、その人の生き様なら私は笑顔で"頑張りましたね"とお別れできます」

 

 その優しい表情に傑は不覚にも見惚れた。

 いつもの明るい無邪気な笑顔とは違う。

 どこか慈愛に満ちた優しい表情だ。

 

「……」

 

「傑さん……私は傑さんの事を友人だと思っています」

 

「私も透の事は友人だと思っているさ」

 

 真っ直ぐに見つめてくる透の瞳からまた目を逸らしてしまう傑。

 だが、逸らした理由は先ほどとは違った。

 

「だから、私にとっては傑さんも大切な人なんです。そんなあなたが命を捨ててまで"責務の為"に守った人間が悪人なら……私は呪ってしまいます」

 

「……透」

 

 傑の手を握る透の手は自分と比べて酷く小さい。

 そんな小さい手を傑は見る。

 

「だから傑さん、私の為に呪術師を辞めてくれませんか……?」

 

 そんな小さな手の少女にここまで言わせてしまった。

 最初は怒りを感じたが、聞けばすべて傑の為の言葉だった。

 今も、私の為にと自分のせいにしてまで自分の事を守ろうとしてくれている。

 こんなに小さな手の女の子がだ。

 

 ──傑は自分を情けなく思った。

 

「──ありがとう透。でも呪術師を辞める事はできない」

 

 傑はもう一度透の目を見つめる。

 その目はずっと真っ直ぐに自分を見ていた。

 

「責務だからですか?」

 

 悲しそうな顔をする透。

 

「いや、それで呪術師を続けるのは駄目だと言われてしまったからね。一旦は、透と同じ大切な人の為にやり続けてみるよ」

 

「私の真似っこじゃないですか!?」

 

 透は驚く。

 そんな簡単に生き方を決めないでほしい。

 そう言おうとする透だが傑は笑いながら、

 

「いいじゃないか。とはいっても私に大切な人というのは少ないからね。家族は危険の少ない場所に住んでいるし、悟は……自分で何とかできるだろうし、硝子は反転術式があるしね。しばらくは透の為だけになってしまいそうだけど」

 

 と言った。

 その言葉に透はまた頬を膨らませて怒った。

 

「いや、私も結構強いし反転術式使えますから!」

 

 透は握っている傑の手をぶんぶんと振り回しながら抗議した。

 

「とは言っても私よりは弱いだろう?」

 

 ナチュラルに煽ってきた傑に驚く透。

 そして振り回していた手を力で抑えられてしまう。

 確かに呪力無しのシンプルな格闘なら透が傑に勝つのは不可能だった。

 

「えぇ!? 私ってかなり強いですよ! これでも傑さんや悟さんと同じ一級呪術師なんですからね!」

 

「一級もピンキリだしね」

 

 傑は鼻で笑い答えた。

 

「私はピンの方です!!」

 

 透はさらにむくれた。

 そんな透を傑は肩に担いで「ほら鍋閉まっちゃうからそろそろ行こ」と言った。

 頑張って振り払おうとする透だが結局店の前まで担がれてしまった。




 感想貰えてモチベ上がり過ぎて一日二本投稿になりそうです。
 皆様ありがとうございます!!
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