転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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六話『五条悟と禪院透』

 透が高専に入学して早半年が経った。

 傑や硝子と仲良くなり、よく一緒に遊びに行くようになり、勉学も楽しく充実した学生生活を過ごしていた。

 そんなある日、一つあることに気づいた。

 

 ──私、全然任務受けてなくないですか?

 

 透は入学してから呪霊を祓うような任務は一度も受けていない。

 任務として行ってきたのは全て怪我の治療のみだ。

 

 しかし、透が高専に入学した目的は"力を見せつける為"。

 このままではまずい。そう思った透は教師である夜蛾正道の元に向かった。

 

 一級呪術師なのに呪霊の討伐依頼が来ないのはおかしいです! と正道に伝えると困ったような顔で「すまない」と謝られてしまった。

 呪術高専の上層部は透を危険な呪霊の討伐任務に送りたくなかった。

 理由は透の反転術式だ。四肢の欠損や臓器の破壊まで治せる反転術式の使い手をみすみす危険な呪霊討伐に送るなど、高専としてはあり得なかった。

 

 しかし、禪院家からも透を回復役に使っていないか? と抗議の連絡が入った。

 もしこのまま回復役として使い潰す気ならば透は家に戻して二度と高専関係者とは関わらせないと脅しまで入れた。

 それを受け、高専上層部は急遽一級もしくは特級クラスの任務を透に受けさせる事にした。

 

 透は今、青森県にあるとある町に来ていた。

 五条悟と一緒に。

 

「なんで俺とお前が一緒の任務なんだよ……」

 

 悟は透の事を見ながら嫌そうな顔で言った。

 

「そんなに嫌そうにしなくてもいいじゃないですか。私は悟さんとの任務嬉しいですよ!」

 

 透はニコッと笑う。

 そんな透を見て悟は頭を抱える。

 

「……五条家の人間と禪院家の人間を一緒にするかよ普通」

 

 透は俯く悟に近づいて袖を引っ張った。

 

「そんなに嫌いですか?」

 

 透の問いに悟は苦そうな顔で答える。

 

「嫌いだ。禪院家の腐った考え方は反吐が出る。うちの方がだいぶマシだよ」

 

「いや、禪院家ではなく私の事です」

 

 透は自分を指差した。

 悟は目を細めて透を見る。

 

「……お前の事は、正直もう何とも思ってねぇ。いや、変で馬鹿なやつとは思ってるな」

 

「変で馬鹿!? 酷くないですか!?」

 

 透は悟からのあまりの評価に後ずさって落ち込む。

 気持ち的には膝から崩れ落ちたいくらいだ。

 そんな透を悟は無視して歩く。

 

「任務だるいなぁ」

 

「無視ですか!?」

 

 透は歩いて先に行く悟に入って追いつく。

 悟は耳をほじって振り返る。

 

「うるさいな。とにかく、お前の事はもう嫌いでもなんでもねぇよ。ただ禪院家だから距離を置いてるだけ」

 

 そしてため息を一つ吐いて悟は続ける。

 

「てか、なんでお前はそんなに仲良くしたいわけ?」

 

 悟は透の目を見る。

 そして、顔を近づけた。

 それは六眼で呪力の流れを見て、噓を吐いているかを判断するためだ。

 

「どうせ、家のやつに言われてやってるんだろ? 俺と友好関係を築いて弱点を探ってこいとか……そんなところか? 生憎だな。俺はそんな見え見えの罠には乗らないよ」

 

「いや、全然禪院家とか関係ありませんよ?」

 

 呪力の揺らぎを一切出さずに透は答えた。

 つまり、嘘ではないという事だ。

 その事に悟は驚き、首を横に振る。

 

「いやいや、そんな訳ないだろ。俺と仲良くなってもお前にメリットないじゃん」

 

「折角四年も同じ学び舎に居るんですよ? 仲良くなりたいのっておかしい事ですか?」

 

 透は首を傾げて言った。

 そう、透は本当になんの悪意もなく悟と友達になりたいだけだった。

 

「……いや、でも俺とお前は五条家と禪院家の人間で──」

 

 悟の言葉を遮って透は話す。

 

「──その前に私は透であなたは悟さんじゃないですか。家とか関係ないですよ」

 

 透の目は真剣そのものだった。

 そんな透を見て悟は吹き出した。

 

「ぷっ……あははは、マジかよ。それ本気で言ってんの?」

 

「私、悟さんに嘘吐いたことないですよ」

 

 透はむくれた。

 

「俺もお前の事、透って呼ぶわ」

 

「急にですか!? でも是非!!」

 

 透は驚きながらも笑顔で答えた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 呪霊の目撃情報のあった場所まで向かいながら、透は自分が高専に入学した理由を悟に話していた。

 その話を聞いた悟は驚く。

 

「何お前、俺の対抗馬として高専に入ったの!? マジで仲良くする必要ないじゃん」

 

「そうですよ。警戒されてたの初めて知りました」

 

 傑や硝子から見たら警戒されているのは分かりやすかったが、当事者である透は気付いていなかった。

 透は人の悪意に鈍感だった。

 

「俺と同じタイミングで普段高専に通わない禪院家の人間が来たら警戒するだろ。てか透お前、全然俺の対抗馬になれてないじゃん。上層部はお前のこと便利な回復アイテムだと思ってるぞ?」

 

 悟は透を指差しながら言った。

 その言葉に透は額に手を置く。

 

「ですよね。私も薄々そうなんじゃないかと……全然任務を回してもらえませんし、今回も正道先生に無理言って任務を当ててもらったんですよ」

 

 正確には禪院家の圧力により任務を回されたのだが、本人はそのことを知らない。

 

「なるほどな。それで上層部は俺をお前の護衛として同伴させたと……」

 

「私、悟さんと同じ一級呪術師ですよ? それを護衛って……完全に下に見られてますね」

 

 透は肩を落として落ち込んだ。

 

「実際下だから仕方ないだろ」

 

 そんな透を煽る悟。

 透は怒り、悟を睨む。

 

「は!? 私、本当に強いんですよ!?」

 

「つっても燃費のクソ悪い構築術式だろ? 俺と並ぶのは流石に無理じゃね。せめて傑の呪霊操術とか相伝クラスくらいは持ってこないとな」

 

 構築術式は大変珍しい術式でもない為、悟も情報を知っていた。

 中でもやはり、燃費の悪さは有名だ。

 無から有を作り出す構築術式は石ころ一つ作るにも大量の呪力を消費する。

 なら、最初から石ころを持っていた方がいいと言われるほどだ。

 

「出ましたよ術式差別! 私は術式に頼らないタイプの呪術師なんですよ!」

 

 これは本当である。

 透は二十年しか生きないという特性上、術式を極めるより呪力操作や結界術や簡単な使役術の方を注力して鍛えていた。

 術式は持っていればラッキーで、奥の手にする程度だ。使わなくても一級呪霊程度なら難なく祓えた。

 

「よくそれで一級になれたな……コネ?」

 

 悟の最後の一言に透は膝から崩れ落ちた。

 

「全然信じられてない!?」

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 透と悟は呪霊の目撃情報の近くまで来ていた。

 今回は危険な任務と言うことで補助監督は同行していない。

 資料等は事前に目を通していた。

 

「そろそろ今回の呪霊を探しましょう!」

 

「確か一級は確定の、下手したら特級案件だろ?」

 

「はい、憶測が入りますが補助監督さんの話では町を一つ無くした程の呪霊だそうです」

 

「だとしたら確定で特級案件だな。透は宿で待ってていいよ。俺一人の方が良さそう」

 

 悟の言葉に足を止めて驚く透。

 悟からは完全に舐められていた。

 

「足手纏いだと思われてます!?」

 

「思ってる」

 

 即答だった。

 

「思ってた!?」

 

「冗談はこれくらいにして……目撃情報はこの辺か……」

 

 公園の前で悟は立ち止まる。

 その公園には古い遊具と小さな池、お地蔵様があった。

 

「見た目は人型で小学校低学年くらいの男の子らしいですよ」

 

「そんなんが本当に特級なのかよ」

 

 悟が頭に手を置いて搔きながら言った。

 そんな悟の横に立つ透は軽く微笑む。

 

「まぁ、流石に町を一つ無くしたというのは誇張だと思いま──」

 

 透の言葉が遮られる。

 

『手を合わせなさい』

 

 どこからともなく、まるで頭の内側から声がするような感覚。

 透と悟の二人は一瞬であたりを警戒する。

 全身に纏わりつく様な嫌な気配。しかし気配の出どころは分からない。

 

「今の声……!?」

 

 透があたりを見渡していると悟の首に刃物で斬られたような跡が出現する。

 悟は首を押さえてる。

 

「っ!」

 

「悟さん!」

 

 透は瞬時に悟の首に手を添えて反転術式を施す。

 傷が治り落ち着くが、呪霊の気配がない。

 

「無下限を突破してきた……」

 

 悟は呟く。悟は軽口で透と話していたが、この公園に到着する前からサングラスも外し、無下限呪術を発動していた。

 

 無下限呪術──呪術師御三家の一つ五条家に伝わる相伝の術式。

 収束する「無限」を現実にする術式。

 自身の周囲に術式によって"無限"を現実化させることで、自身に近づく程低速化し接触出来なくすることで、攻撃を自分に当たらなくする事ができる。

 

 決して油断はしていなかった。

 だが、呪霊の攻撃は無下限を突破し、悟の首に切り傷を付けた。

 

『手を合わせなさい』

 

 また声が響く。

 透は咄嗟に悟の耳元で話す。

 

「悟さん。私が一度声に従ってみます……何かあれば頼みますよ」

 

「は!? 罠だったら──」

 

 悟が止めようとしたが透は手を合わせた。

 

『祈りましたね』

 

 ──声が聞こえた瞬間、全身に纏わりつく様な気配が消失する。

 

「気配が消えた……?」

 

「ねぇねぇ……お姉ちゃん……」

 

 透は後ろから突如聞こえた声に振り向く。

 そこには一人の少年が立っていた。

 背丈は小学生くらいの小さな少年。

 

「!? いつの間に……」

 

 透は驚き距離を取ろうとしたが体が動かない。

 

「お地蔵様に手を合わせたら駄目なんだよ」

 

 少年は一歩ずつゆっくりと透に近づいた。

 

「みんな首を切られちゃうんだ」

 

 少年の首に一筋の切り傷が浮かぶ。

 

「友達も……」

 

 隣にいた悟の首が"ボトッ"と鈍い音を立てて地面に落ちた。

 いつの間にか首を斬られていたのだ。

 

「悟さん!?」

 

 透は即座に反転術式を施そうとするが体が動かない。

 どれだけ力を入れてもピクリともしない。

 

「家族も……」

 

 次に透の両手の指がすべて切り落ちた。

 その痛みに透は顔を歪める。

 

「っ!?」

 

「みんなみんなみんな……僕みたいに……」

 

 少年の背後から公園にあったお地蔵様が近づいてきた。

 そして、少年の首に鉈を当てて──

 

 

 

「──起きろ透!!」

 

 悟の声に透は目を覚ます。

 

「はっ!?」

 

「何があった!」

 

 すべて幻覚だった。

 しかし、透の指は全て切り落とされており、自分の首には深めの斬りこみがあった。

 即座に反転術式で治す。

 

「悟さん。手を合わせたら駄目です。これは精神系の術式……それも精神へのダメージが肉体に帰ってくる」

 

 透は先ほど見た幻覚の内容からそう判断した。

 説明を聞いた悟は納得する。

 

「精神系の術式……だから無下限も無視して俺にダメージが入ったのか……」

 

「術者も分かりました……仮想領域展開──黄昏」

 

 透は両手を合わせ領域を展開した。

 いきなりの事に悟は驚く。

 

「領域……!?」

 

「術者はあのお地蔵様です。恐らく土地神……私と悟さんはこの町に入った時点で術式を施されていた……。この町全体があの呪霊の簡易領域の中なのでしょう」

 

 そう、悟が六眼をフルに使い始めたのも無下限呪術を使い始めたのも"すでに町に入ってから"だった。

 町全体が簡易領域だとすれば時すでに遅しという事だ。

 

「っ! だからこっちも領域を張って対抗したのか……この町全体を取り込む領域か。そりゃ六眼でも分かんないわけだ。広すぎる」

 

 悟は舌打ちをする。

 領域内ではこちらも領域を使うことで中和し、術式の必中効果を無効化することができる。

 だから、透は仮想領域を展開したのだ。

 

「その代わりあの場から動けないという縛りなのではないかと推測します」

 

「種が分かれば祓うのは簡単か。術式順転『蒼』」

 

 悟が指をお地蔵様の方に向けて術式を使う。

 お地蔵様は粉々になって祓われた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 呪霊を祓い終わった後、透と悟は公園のベンチで休憩をしていた。

 

「あの領域なんだよ……? 禪院家の秘術とか?」

 

「いや、あれは私が独自に作った術ですよ」

 

 透の言葉に悟は目を丸くした。

 

「マジで……」

 

「教えましょうか?」

 

「いいのか?」

 

 普通、あれほどの術なら家に保管して門外不出とするレベルだ。

 それをあっさり教えると言った透に驚く悟。

 

「はい! この術を習得できたのは私以外いませんが、悟さんの六眼ならできるかもしれません!」

 

 そう言って透は悟の目を見る。

 六眼──呪力の詳細を見ることができ、緻密な呪力操作を可能にする特異体質。

 

「まぁ、見た感じ相当な技術だったしな……普通の領域の方が簡単じゃないか?」

 

 悟の見立ては正しい。仮想領域展開『黄昏』は過去、どんな呪術師であっても真似する事が出来なかった神業。

 通常ならば普通に領域展開をする方が容易い。

 

「……私、普通の領域展開はできないんですよ」

 

 悟の言葉に落ち込んだ透は俯く。

 

「は? いやいや、絶対にさっきのやつの方が高難易度だろ」

 

「六眼のある悟さんには分からないんですよ! 私の術式で領域を展開するのってすっっっごく大変なんですから!! 呪力も足りないしコントロールも緻密なんです! 黄昏の方が万倍簡単なんですよ!」

 

 透の言っている"私の術式"と言うのは構築術式の方ではなく転生術式の方だ。

 透の領域は転生術式の方しか機能せず、転生術式の方の領域を展開するには魂を緻密にコントロールし、呪力のロスを限りなくゼロにしなければいけない。

 そんなことが可能なのは六眼を持っているものくらいだ。

 そのため、透は通常の領域展開は長い転生歴の中でも一度たりともしていない。

 

「構築術式ってそんなにむずいのかよ……」

 

 悟は誤解した。

 しかし、転生術式の事は縛りで口に出せないので何も言わない。

 

「あーぁ、私も六眼欲しいです! やっぱり羨ましいですよそれ! ズルですズル!」

 

 透は悟の目を指差して言った。

 

「指差すな……お前さ」

 

 悟は突然真面目な顔になる。

 声のトーンも心なしか下がった。

 

「なんですか?」

 

 透は首を傾げる。

 

「あんな風に危険なことするのやめろ」

 

 悟はどこか怒っているように言った。

 

「……手を合わせた事ですか?」

 

「そうだ。たまたま意識を戻せたから良かっただけで意識が戻らなかったら死んでたぞ?」

 

 悟は透の首に手を添える。

 もし意識が戻るのが数秒遅れていたら首と体は繋がっていなかっただろう。

 

 ──だが、そうならない事を透は知っている。

 

「まだ死にませんよ」

 

 透の転生術式の縛りの一つ"二十歳で必ず死ぬ"と言うのは、裏を返せば"二十歳まではどうしても死ねない"という事だった。

 だから、透は死なない事が分かっており危険な真似ができた。

 

「なんで言い切れるんだよ」

 

「……分かるんです!! 私はまだまだ生きますよ!! でも、心配させたのはごめんなさい……私も同じ事されたら怒ったと思います」

 

 透はそう言って頭を下げた。

 

「別に心配は……したな。はぁ、五条の俺が禪院家のお前を心配とか……笑えるわ」

 

 そんな悟の言葉に「私は嬉しいですよ」と小さい声で答えた透。

 この日、透と悟のわだかまりは無くなった。




 作中で解説できなかったこと①
 転生術式を五条先生が見抜けなかった理由。
 転生術式は肉体に刻まれる術式ではなく、魂に刻まれた術式なので五条先生の六眼でも気づくことはできません。
 五条先生が認識できるのはあくまで肉体に刻まれた術式と言う解釈です。

 ちなみに魂に刻まれた術式がメインの術式で体に刻まれた術式は外付けの術式という判定です。外付けの術式だから領域展開は使用できません。
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