転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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七話『いってらっしゃい』

 透が高専に入学して早くも二回目の夏が来た。

 その日は晴れており、二年生の教室で透は……とても不機嫌な顔をしていた。

 

「そんなに不機嫌そうな顔をするな透」

 

 二年生の教室。透と担任の教師"夜蛾正道"の二人だけだ。

 五条悟、夏油傑、家入硝子の三人は任務に出て二日間連絡の取れなくなった冥冥と庵歌姫という呪術師の捜索の為、教室に居ない。

 

「だって……私だけ高専で待機なんですよ! 仲間外れです!」

 

「貴重な反転術式使いを二人も派遣はできん。仕方がないだろう」

 

 普段は硝子も派遣されないが、二日間連絡が取れていないという事で最悪のケースも想定し反転術式を使える硝子も任務に同行した。

 こうなった場合、同じ反転術式使いでも高度な治癒が可能な透は残されることが多い。

 

「それはそうなんですけど……仕方ないですね」

 

「すまんな」

 

 納得して肩を落とす透に申し訳なさそうにする正道。

 

「いや、先生が悪いわけじゃないのは分かってます……わがままですよわがまま」

 

「そうか……」

 

 しばらくの沈黙。沈黙の苦手な透はたまらず右手を上げて質問をする。

 

「……先生って恋人とかいるんですか?」

 

 透のいきなりの問いに驚く正道。

 呪術高専で教師を始めてそんな質問をされるのは初めてだった。

 

「なんだいきなり……」

 

「いや、よくある質問じゃないですか。考えてみると先生と二人で話すことも少ないなって思いまして」

 

「俺と話してもつまらんだろ」

 

 そっぽを向きながら言う正道。

 

「そんなことないですよ。人と話すのはいつだって楽しいです!」

 

「……そうか」

 

 笑顔で真っ直ぐに言葉をぶつけてくる透。

 その明るい無邪気な姿に何かを思い出したのか正道は軽く微笑んだ。

 

「それでどうなんですか? あ、もしかしてもうご結婚済みだったり?」

 

「…………いや、俺に妻はいない」

 

 しばらく考えるそぶりを見せ、暗い顔で正道は言った。

 透は長年生きてきたからか。この時、正道が嘘を言っていると気づいた。

 しかし、追求はしなかった。

 

「えぇ、意外ですね……先生ってお父さんっぽいのに」

 

「……なんだそれは」

 

「お父さんっぽいはお父さんっぽいって事です。なんか先生からはお父さん特有の優しくて守ってくれる感じがするんです。私、そういうの分かるんですよ。外れたのは久しぶりです」

 

 優しく微笑む透を見て正道は少し悲しそうな顔をしていた。

 それを透に悟られないように背を向け、黒板の方を向いた。

 

「……下らん話してないで授業をするぞ」

 

「はーい!」

 

「俺は……優しくも守ってやれもしない……そんな大層な人間じゃない」

 

 正道が何を想いながらそんなことを言っているのかは分からない。だが、どこか悲しそうな背中だった。

 そんな背中に向かって透は言う。

 

「……そんなことないですよ。先生は私たちの事をちゃんと見てくれてます。五条家の次期当主、禪院家の人間、一般家系の呪術師、皆を平等に見てくれています……とっても優しい先生ですよ。そんな先生が好きですよ」

 

 透の言葉を聞いて、正道は少し黙ってから授業を再開した。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 任務から帰ってきた傑、悟、硝子の三人は正座をさせられていた。

 透はその三人の後ろでちょこんと椅子に座っている。

 

「──この中に"帳"は自分で降ろすから、と補助監督を置き去りにした奴がいるな。そして帳を忘れた。名乗り出ろ」

 

 正道が正座をしている三人に鋭い視線を向けながら言った。

 (とばり)──帳とは呪術師としての素養が低い物でも使用可能な簡単な結界術であり、帳の中での出来事を外から認識できないようにしたりする事のできる術。

 呪術師は非呪術者に存在を知られてはいけないというルールがある。そのため、外からの認識を阻害する帳を降ろすのは呪術を行使する前に必ずすべきことである。

 

「先生!! 犯人捜しはやめませんか!!」

 

 悟が右手を上げ抗議する。そんな悟を指差す他二人。

 

「悟だな……」

 

 悟の脳天に正道の拳骨(指導)がぶつけられた。

 

「以後気をつけろ」

 

 正道はそう言って教室を出た。

 悟は頭にたんこぶを作り手で押さえながら涙目になる。

 ここで無下限呪術を使って拳骨を防いだりしないのが悟の良い所である。

 

「いっつぅ~……」

 

 悟は頭を摩りながら透の方を見る。反転術式で治してくれという視線だ。

 

「自業自得ですね。私、治しませんよ」

 

 透はそんなことを言いながらそっぽを向いた。

 そんな透の腰辺りに抱き着く悟。

 

「そんなこと言うなよ透~」

 

「……駄目です! ……でも少しだけなら」

 

 そっぽを向いていた透だが悟の方を見て悩み、頭に反転術式を使用しようとする。

 透は甘やかし体質だった。抱き着いて頼まれたら断れない。

 悟は透の甘やかし体質を知っていて抱き着いたのだ。そして普通に抱き着きたかったのもあった。

 

「甘やかしちゃだめだよ透。てか五条、透に抱き着くなよ」

 

 反転術式を使用する前に透の手を握り止める硝子。

 硝子は冷たい目で悟を見た。

 

「悟、それはセクハラなんじゃないか?」

 

 傑が注意するように言った。

 

「別に透が嫌がってないんだしいいだろ。な、透?」

 

「まぁ、私は別に気にしませんが……」

 

 透は抱き着かれるという行為に何の嫌悪感も抱いていなかった。

 だが、別に誰に抱き着かれても平気という訳ではない。仲の良いと思っている相手の悟だから大丈夫なのだ。

 

「……なら私も」

 

 透の言葉を聞いた硝子が透の胸に抱き着いた。

 それに便乗して傑も後ろから黙って抱き着いた。

 そんな二人の行動に悟は驚く。

 

「はぁ、なんで硝子も!? って傑もかよ!!」

 

 悟がツッコむが自分も抱き着いているので、それ以上強くは言えなかった。

 透は何も気にしていないように「別に構いませんよ?」と言う。いや、かまえよ流石に。

 

「そもそもさぁ。帳ってそこまで重要? 別に一般人(パンピー)に見られたって良くねぇ? 呪霊も呪術も見えねぇんだし」

 

 悟の言葉に傑がため息を吐いて答える。

 

「駄目に決まっているだろ。呪霊の発生を抑制するのは何より人々の心の平穏だ。そのために目に見えない脅威は極力秘匿にしなければならないのさ。それだけじゃない」

 

「わかったわかった。弱いやつらに気を遣うのは疲れるよホント」

 

 話を続けようとする傑の言葉を遮り悟が言う。

 悟の言葉に傑は頷いた。

 

「……それは同感だよ。でもそれが廻り回って自分自身の大切な存在を守ることになる。呪術は"自分の大切な人"を守るためにある」

 

 一年前の傑からは考えられない言葉だが、今の傑は弱者を守るためという正論で動いていなかった。

 

「ふーん、傑の大切な人ってなんだよ?」

 

「秘密だ」

 

 傑は顔を少し赤くして顔を逸らした。

 

「なんだよ。教えてくれよぉ。透も硝子も気になるよなぁ?」

 

 悟は抱き着いている透の体を揺らしながら言った。

 透は首を後ろに向けて傑の方を見る。

 

「私は気になります」

 

「どうでもいい」

 

 三人の言葉に傑は恥ずかしそうに口を開く。

 

「……だよ」

 

 か細い声で傑は言った。

 しかし、小さすぎる声に三人は聞き取れなかった。

 

「んだよ。聞こえねぇって」

 

「君達だって言ったんだよ!」

 

 顔を赤くしながら傑は叫ぶように言った。

 カミングアウト。透はその言葉に嬉しそうに微笑んだ。

 硝子の表情は変わらないが、どことなく嬉しそうだった。

 そして悟は──

 

「ぷっ、あはっはっは!! マジかよ!」

 

 透のお腹に顔を埋めながら涙を流して爆笑した。

 

 ──プチっ。

 

 顔を真っ赤にした傑が真顔に戻り、何かが切れる音がした。

 傑の後ろの空間が割れ、何かの目が覗いていた。

 

「……外で話そうか。悟」

 

「寂しんぼか? 一人でいけよ」

 

 一触即発。喧嘩寸前の状況だ。

 

「喧嘩は駄目ですよ」

 

 透は冷静に突っ込んだ。

 

 教室の扉がガラッと開いた。

 そこには担任の正道が立っている。

 

「──お前たち席に着け」

 

 正道の言葉に透に抱き着いていた三人は自分の席に戻った。

 教卓の前に立つ正道は全員の顔を確認して言う。

 

「今回、悟、傑、透の三人で任務に行ってもらう」

 

「硝子ではなく私の方ですか。珍しいですね」

 

「私は仲間外れかぁ」

 

 少し寂しそうに硝子は言った。

 最初にも説明したが、任務で外に出る時は大半が硝子になる。

 それは透と言う万能の反転術式の使い手を高専に残しておきたいからだ。

 そんな透が任務に出るという事は、高専よりも優先しなければいけないほどの重要任務であるという事だ。

 

「今回は重要な任務だ。上層部も出し惜しみをしてられないという事だろう。正直、荷が重いとは思うが"天元様のご指名"だ」

 

 正道の言葉に四人は驚く。

 

 天元──日本の呪術界の基底とも言える存在であり、日本国内のあらゆる結界の強化・行使を行っている"不死の術式"を持つ呪術師。

 呪術界の最重要人物とも言われる人物だ。

 そんな天元からの直々の依頼とは呪術界の最重要任務と言う事である。

 

(天元……!)

 

 どこかの前世で関りがあったのか透は懐かしそうな顔をしていた。

 

「"星漿体"天元様との適合者、その少女の護衛と──抹消だ」

 

 星漿体──それは呪術界においての最重要人物である天元の存在を維持するために、同化する存在の事。

 天元は、"不死"ではあっても"不老"ではない。定期的に星漿体と融合する事で肉体をリセットしなければ人間を辞め、より高次の存在へと進化する。

 

 正道の言った任務の内容に悟が首を傾げた。

 

少女(ガキンチョ)の護衛と抹消ぉ? ついにボケたか……」

 

「春だしねぇ。次期学長ってんで浮かれてんのさ」

 

 悟の言葉に悪乗りをした傑が答える。

 そんな傑の言葉に透は驚く。

 

「えっ!? 先生学長になるんですか!? おめでとうございます!」

 

 そこかよ。と他の四人は思った。

 正道はため息を吐いて額に手を置いている。

 

「冗談はさておき」

 

「冗談で済ますかは俺が決めるからな」

 

 怒った声で傑に言う正道。

 透は再度驚いた。

 

「えぇ、学長にならないんですか!?」

 

「それは本当だよ」

 

「おめでとうございます!!」

 

 透は手を叩いて祝福した。

 どこまでもマイペースな透の事は置いておき、傑は話を続ける。

 

「天元様の術式の初期化ですか?」

 

「? 何ソレ」

 

 悟が聞くが、「お前は知ってるだろ」という視線を傑と正道の二人は向けた。

 呪術高専の授業で過去にしっかり天元の話はしているはずだ。

 

「天元様は"不死"の術式を持っている。不老ではない。ただ老いる分には問題ないが一定以上の老化を終えると術式が肉体を創り変え"進化"。人でなくなり、より高次の存在と成る」

 

「じゃあ、いいじゃん! カックいー」

 

 冗談っぽく言う悟。

 そんな悟に真面目なテンションで透が言う。

 

「悟さん進化してしまうと"意志"がなくなり、天元が天元じゃなくなっちゃうんですよ。高専などに施されている結界や補助監督さん達の結界術。日本ではその全てが天元の力で強度を底上げされています。それに"意志"の無くなった天元は最悪人類の敵になる可能性もあります」

 

「だから五百年に一度、"星漿体"天元様と適合する存在と同化する事で肉体を一新し術式効果も振り出しに戻す、"進化"は起こらないという事だ」

 

「なるほど……メタルグレイモンになる分にはいいけどスカルグレイモンになると困る。だから、コロモンからやり直すって話ね」

 

 真面目な顔で悟は今の話をデジモンに例えた。

 天元様をそんなゲームのキャラで例えるのは不敬だろうと思い傑は苦い顔をする。

 

「えぇ……まぁいいやそれで」

 

「メタル……? なんですかそれ」

 

 デジモンを知らない透は首を傾げて聞いた。

 そんな透に悟は驚いて立ち上がる。

 

「えっ、透デジモン知らない!? マジ!?」

 

「無駄話をするなっ!」

 

 正道の拳骨が悟の脳天に振りかかる。

 

「イッタ!?」

 

 悟は頭を押さえて座る。

 

「その星漿体の少女の所在が漏れてしまった。今、少女の命を狙っている輩は大きく分けて二つ!!」

 

 正道はパソコンを取り出し、今回"星漿体"の少女を狙っている存在の資料を表示する。

 

「天元様の暴走により現呪術界の転覆を目論む──呪詛師集団『Q』!!」

 

「天元様を信仰、崇拝する宗教団体。盤星教『時の器の会』!!」

 

「同化は二日後の満月!! それまで少女を護衛し、天元様の元まで送り届けるのだ!! 失敗すればその影響は一般社会にまで及ぶ!! 心してかかれ!!」

 

 正道は三人を指差し、迫力ある声で言った。

 三人は立ち上がり、教室を出る準備をする。

 悟と傑は重大な任務に胸が高鳴っているのか微笑んでいた。

 

(久しぶりに天元に会えるかもしれませんね……)

 

 透はいつかの前世の友人に会えるかもしれないと微笑んでいた。

 

「少女の居場所はここに書いてある。すぐに向かってくれ」

 

 正道は三人に地図を手渡す。

 

「はい!」

 

「んじゃ、頑張りますかー」

 

「三人での任務なんて初めてだね」

 

「がんばれ~」

 

 地図を見た三人は教室を出る。

 硝子はまだ授業があるはずだが、便乗して教室を出た。サボる気である。

 

 四人が教室を出て数分して、透が教室に戻ってきた。

 

「……先生!」

 

 何かの伝え忘れがあったのか透は教室に居る正道の前まで行く。

 

「なんだ透?」

 

 正道は首を傾げ、透に聞いた。

 透は正道の手を握る。突然の事に正道は驚く。

 

「……同化を"抹消"なんて言い方して、やっぱり先生は優しいですよ!」

 

 手をぎゅっと握って言う透。

 それだけ言うと手を離して教室の扉まで歩き始める。

 

「……透」

 

 そんな透を正道は呼び止めた。

 

「はい?」

 

 正道の呼び止めに透は足を止め、振り向いて正道を見る。

 

「本当は俺には子供がいる……いた。帰ったら話を聞いてくれるか?」

 

 正道は、どこか苦しそうな顔で言った。

 本当は生徒には黙っているつもりであった事だ。

 しかし、真っ直ぐな透を見て話したくなってしまった。

 自分の話を聞いてほしくなってしまった。

 

「……もちろんです!! 行ってきます!!」

 

 本当は生徒に話すようなことではない。正道は言った後も苦しそうな顔をしている。

 そんな正道に透は何の曇りもない笑顔で答えた。

 

「あぁ……いってらっしゃい」

 

 正道は何かを思い出しながら微笑みながら言った。




 この二次創作には自己解釈が多分に含まれます。注意遅くない?

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