転生する術式を持つ少女がいろんなキャラの地雷になる話   作:おにい

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九話『黒閃』

 透達はマンションを出て天内理子が通う廉直女学院に来ていた。

 流石に校内で理子の傍にいる訳にもいかないので誰も来ないであろうプール脇で待機する。

 

「理子ちゃんの周りには私の呪霊を配置しておくよ。視覚共有なんかはできないが何かあれば感知できるからね」

 

「では、私は学校全体に結界を張っておきます。一般人以上の呪力を持っている人間なら一挙手一投足が分かります」

 

 そう言って透は両手を地面に当てて帳の様な結界を学校を覆うように展開した。

 何十を超える転生の中で透は天元程ではないが結界術の極みにいた。

 軽いノリで高難易度の結界を展開した透に驚く悟。

 

「なんだよそれ。またとんでもない結界術簡単に使いやがって」

 

「私の呪霊必要なくない?」

 

 傑が苦笑いをしながら透に聞いた。

 だが、透は真剣な顔のまま首を横に振る。

 

「いえ、何があるか分かりません。何かあっても私達が守ると言ったのですから、万全でいましょう」

 

「……お嬢様の為に、ありがとうございます」

 

 天内理子の従者である黒井美里が三人に頭を下げた。

 

「お礼なら透に……私達も反対派でしたから」

 

「だな。透が言わなかったら無理矢理にでも高専に向かってた」

 

 傑と悟の二人はそう言って透の方を見る。

 すると、美里も透の方を向いた。

 

「禪院様……ありがとうございます。お嬢様には家族がおりません。幼い頃、交通事故で……それ以来、私がお世話して参りました。ですからせめて、ご友人とは少しでも──」

 

「──それなら、美里さんが理子ちゃんの家族だったんですね」

 

 透は優しく微笑みながら言った。

 そんな透の言葉に美里は目元を熱くする。

 

「はい……!」

 

 瞬間。透は結界に侵入してきた気配を感じ取る。

 すぐさま美里から視線を移した透は悟と傑を見た。

 

「っ……悟さん傑さん。来ました。呪力からして呪術師が三人です」

 

「Qか?」

 

「いえ、そこまでは分かりませんが……校内を探っている様子……校舎裏に被り物をした大男、校内に背の低い老人、体育館付近にスキンヘッドの斧を持った男……おそらく校舎裏の呪詛師が一番厄介ですね」

 

 透は頭に流れてくる結界からの情報に集中して侵入者の性別、背丈、年齢、恰好を割り出す。

 予想外に細かい情報に悟と傑は驚いていた。

 

「そこまで分かれば十分だろ」

 

「! 私の呪霊も二体祓われた。急ごう」

 

 傑は少し焦ったように言った。

 状況は切迫している。

 

「私は体育館付近の相手をします。悟さんと傑さん別の方を……」

 

「おい、一人は危ないだろ」

 

「理子ちゃん優先です……悟さんは礼拝堂を、傑さんは校内の方をお願いします」

 

「ちっ、しくじるなよ!」

 

 悟の言葉に親指をぐっと立てて返事をした透はその場からすぐに動く。

 続いて他三人もその場から動いた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 廉直女学院。体育館裏に一人の男が立っていた。

 その男はスキンヘッドに斧を持ち、目元には一本の刺青があった。

 

「へへっ、ここに星漿体がいるのかぁ……きっといいバッグができるぜぇ……」

 

 恍惚とした表情を浮かべる男は一歩前進する。

 瞬間。透がその場に到着した。

 

「止まってください」

 

「あ?」

 

 透の言葉に足を止めて振り返る男。

 男は透を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「アナタ、理子ちゃんを狙ってきた呪詛師ですか?」

 

「なんだよ。星漿体だけかと思ったけど他にもいい女いるじゃん……オマエもいいバッグになるぜ」

 

 会話になっていない。

 透は男が狂人であることを瞬時に判断する。

 そして、いつでも戦闘に移れるよう構えた。

 

「……決定ですね。自己紹介をしましょう」

 

「は?」

 

 男は透の言葉に首を傾げた。

 

「私、本気でやり合う時はできるだけ名前を知っておきたいんです……もしかしたら親戚かもしれませんし」

 

 この"親戚かもしれない"というのは前世も含めての事だ。

 できれば親戚であってほしくないと思う透。

 男はにやけた顔をさらに笑わせる。

 

「ははっ……面白いなオマエ。いいぜ。俺は組屋鞣造(くみやじゅうぞう)だ」

 

「組屋さん……親戚ではないですね。私は禪院透です」

 

 組屋鞣造という名前に聞き覚えのない透は胸を撫でおろし、自分も名乗る。

 

「禪院!! いいなぁ。これはいいバッグが作れるぜぇ。真っ赤なな」

 

 鞣造は斧を振り回りながら透に迫る。

 しかし、透は軽く避ける。

 

「遅いですよ」

 

 避けられた鞣造は諦めず斧を透に向けて振る。

 しかしその全てを軽くいなす透。

 長い転生の中で技術を学んだ透にとって素人の攻撃など当たるわけがなかった。

 

「バッグッ! バッグッ!!」

 

「黒閃って知ってますか。呪力と打撃の衝突の誤差が限りなくゼロの時に起きる空間の歪み。私、あれ得意なんです」

 

 透は斧を回避しながら、そんなことを言った。

 黒閃──それは打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。

 その衝撃は、平均で通常時の2.5乗という驚異的な威力を発揮する。

 

 しかし、黒閃は現象であって技ではない。

 黒閃を狙って出せる呪術師は存在しない。

 

 透を除いて。

 

「うっぐッ──!?」

 

「──黒閃」

 

 透が鞣造の顔面に拳を当てた瞬間。黒い稲妻の様なものが光り、鞣造の顔面を破壊した。

 

 黒閃とは呪術師が極度の緊張状態の中で限界の集中力を発揮した時に起こる。

 緊張と集中が呪力と打撃の衝突のラグを極限まで削る。

 

 透は脳に大量の呪力を高速で送り込むことで、極度の緊張状態と極限の集中を人為的に生み出せる。

 通常、そんなことをすれば脳が沸騰してしまうが、透は同時に反転術式を使用する事で沸騰した脳を治し続ける事で行為を可能にしていた。

 呪力を高速で送り込むことによって生まれる極限の集中力と脳を沸騰させ反転術式で治すことによる死を隣り合わせとした極度の緊張が黒閃の成功率を跳ね上げる。

 

 ──この状態の透の黒閃成功率は七割を超える。

 

「さて、悟さん達の方は大丈夫ですかね」

 

 鞣造を倒した透は悟に連絡をするため携帯を取り出す。

 するとタイミングよく傑から連絡が来た。

 

『透、悟と理子ちゃんは無事学校を脱出した。私は悟の方に向かう』

 

「分かりました。私もすぐに向かいます」

 

 理子の無事を聞き胸を撫で下ろす透。

 だが、話はそれだけでは終わらなかった。

 

『どうやら理子ちゃんの首に3000万の賞金が掛けられてる……Qとは関係ない他の呪詛師にも警戒してくれ』

 

「賞金……! わかりました」

 

 予想外の事に驚く透だが、すぐに冷静さを取り戻し電話を切ると悟の元に走った。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 悟の元に透が到着する。

 すでに傑も到着していた。

 

「良かった! 理子ちゃん無事ですね!」

 

 怪我一つない理子を見て安心する透。

 だが、悟は暗い顔をしていた。

 

「いや透、まずい事になった。黒井さんが攫われた」

 

「なっ、美里さんが!」

 

 悟の言葉に驚く透。

 すると、横にいた傑が頭を下げた。

 

「すまない。私のミスだ……! 敵側にとっての黒井さんの価値を見誤っていた!」

 

「いえ、私も結界を張っておきながら気づけませんでした……同罪です」

 

 透は戦闘中も結界を解いていなかった。

 それでも美里の異変に気付くことが出来なかった。

 暗い顔をする二人に悟は話しかけた。

 

「……まぁ、ミスって程ミスでもないだろ。相手は次に人質交換的な交渉をしてくるだろ。でも交渉の主導権は天内の居るこっち側だ。交渉の場さえ設ければ俺達で何とかできる。天内は高専に届けて透に影武者でもさせれば」

 

「ま、待て!!」

 

 悟の言葉に理子が慌てて大きな声を出した。

 その声に全員が理子の方を見た。

 

「取り引きには妾も行くぞ! まだオマエらは信用できん!!」

 

 必死な表情で理子は言う。

 そんな理子の言葉に悟は苛立つ。

 

「あぁ? このガキ、この期に及んでまだ──」

 

「助けられたとしても! 同化までに黒井が返ってこなかったら……まだ、お別れも言っていないのに……!!」

 

 悟の言葉を遮って必死に涙ながらに伝える理子。

 理子の手には痛いほどの力が入る。

 理子の言葉を聞いた悟はため息を吐く。

 

「……その内、拉致犯から連絡がくる。もし相手の頭が予想より回って、天内を連れていくことで少しでも黒井さんの生存率が下がるようなら、やっぱりお前は置いて行く」

 

 それは理子が交渉に同行するのを許可するという意味だった。

 理子は顔を上げる。

 

「分かった。それでいい……!」

 

 理子の瞳は、力強く覚悟のできた瞳だった。

 そんな理子の瞳を悟は睨むように見る。

 

「逆に言えば途中でビビって帰りたくなってもシカトするからな。覚悟しとけ」

 

「分かった……!!」

 

 こうして、理子の同行は決定した。

 

「……優しいですね悟さん」

 

 俯き「よかった」と呟く理子に聞こえないよう、透は悟に近づいて小さい声で言った。

 

「俺が言わなくても、どうせ透が似たようなこと言ってただろ」

 

 ぶっきら棒にそんなことをいう悟。

 そんな悟を透は優しい目で見た後、首を横に振った。

 

「私だと甘くしてしまうだけですから……悟さんのような優しい行動はできなかったと思います」

 

 きっと、透なら「いいですよ。行きましょう」と甘くしてしまうだけだった。

 悟のように覚悟を決めさせるという事はできなかった。

 だからこそ、透は悟を優しいと言ったのだ。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 その後、誘拐犯から人質交換の連絡が来た。

 指定された場所はなんと沖縄だった。

 すぐにチケットを手配した四人は、細心の注意を払い交渉の場までやってきた。

 

 が、結果として誘拐犯の警備はザルだった。

 難なく黒井美里を救出し、現在は夜。

 セキュリティのしっかりしたホテルの最上階に泊まることにした。

 

 部屋の配置も悟と傑が理子の部屋の両脇を押さえる。

 

 透は理子と美里の部屋に泊まる。

 透の結界でホテル全体を覆うことで万全の態勢を作っていた。

 これならば万が一にも奇襲はないだろう。

 

 そして透と理子、美里の三人はホテルの一室で話をしていた。

 

「まさか沖縄まで来ることになるとは思いませんでしたね」

 

 透はソファに座ってそんなことを言った。

 

「盤星教の非術師にやられるなんて……自分が情けない」

 

 美里が俯いて悲しそうな顔をする。

 そんな美里に理子は言う。

 

「不意打ちだったなら仕方ない。黒井は悪くないぞ!」

 

「私はお嬢様を守らなければいけないのに……私がお嬢様を危険な目に合わせるとは……」

 

 理子の励ましを聞いても気持ちが収まらない美里。

 そんな美里を悲しそうに見る理子。

 

「黒井……」

 

「まぁまぁ、飛行機も悟さんと傑さんのおかげで安全でしたし、ここに来てからも襲われてはいません。危険な目というほど危険な目には合っていませんよ。ですよね、理子ちゃん」

 

 透は優しく微笑みながら言った。

 その言葉に理子も顔を上げる。

 

「そうじゃ! だから黒井……落ち込まないでほしい」

 

「お嬢様……禪院様……ありがとうございます」

 

 美里は涙混じりに答えた。

 そんな美里に抱き着く理子。

 

「黒井が無事でよかった……」

 

「お嬢様……」

 

 二人は泣いた。

 きっと、今まで我慢していた涙が溢れたんだろう。

 そんな二人を静かに優しい顔で見る透だった。

 

 しばらくして、理子は泣き疲れて寝てしまった。

 そんな理子をベットに寝かせ、透と美里の二人はテーブルを囲んで喋っていた。

 

「──理子ちゃん寝ちゃいましたね。ここまでずっと緊張状態でしたし、疲れてたんですね」

 

「禪院様、何から何まで何とお礼を申し上げればよいか言葉もありません」

 

 美里は透に向かって頭を下げた。

 

「美里さん……ははっ、アナタからお礼を言われると嬉しくなってしまいますね……恩返しができたようです」

 

 そんな美里に透は少し困ったような顔をして、少し何を言うか悩んでから笑って答えた。

 透は美里の先祖に前世でお世話になった思い出があった。

 美里にはその人の面影があり、透は優しい表情になった。

 

「恩返し……? 私は禪院様に何も」

 

 しかし、そんなことを知るわけもない美里は首を傾げた。

 透も縛りで説明ができないので黙る。

 

「あぁ……気にしないで下さい。それより、美里さんもそろそろおやすみになった方がいいですよ。明日も大変でしょうし」

 

「……はい、そうですね」

 

 美里はそういうが、理子を視線から外さない。

 その目には悲しみが感じられた。

 

「やっぱり、理子ちゃんが星漿体として天元と同化するのは嫌ですか?」

 

 そんな美里に透は少しに困ったように聞いた。

 

「……私はお嬢様が幼い頃より仕えてきました。良い事ではありませんが、私はお嬢様を妹のように娘のように思っております……。天元様との同化が日本の為に必要な事も重々承知しております……それでも、納得はできていません」

 

 美里の手には力が入り、拳を強く握っていた。

 透は悲しそうな顔で答える。

 

「納得なんてしなくていいと思いますよ」

 

「え……」

 

 正直、怒られることすら想定していた美里は予想外の透の答えに驚く。

 

「正直、私も可能なら理子ちゃんを連れて逃げてあげたいです……代われるなら代わってあげたい」

 

 それは透の本心だった。

 透から見た理子は未練でいっぱいだ。

 そんな少女を星漿体として天元と同化させるなんて間違っていると、透は思っていた。

 しかし、同化の運命は変えられない。透は悲しそうな顔をしていた。

 

「禪院様……」

 

 そんな透を見た美里も悲しそうな顔をする。

 

「天元との同化はそれだけ残酷な事です。どれだけ美化しても……それを、アナタは立派ですなんて勝手に納得するのは、理子ちゃんが可哀そうじゃないですか」

 

 無理に作った笑顔で透は言った。

 

「だからせめて美里さんと私だけでも納得しないであげましょう……」

 

 透は理子を見る。

 その目は慈愛で満ちていた。

 だからこそ、今にも泣いてしまうのではないかと思えてしまうほど悲しそうにも見えた。

 

「納得しなくて……良いのですか……?」

 

 美里は俯きながら言った。

 今まで、黒井家の人間として理子の為に弱音は言わなかった。

 そんな彼女が初めて言った弱音だった。

 

「はい……なんなら天元を恨んでも、日本を恨んでも……理子ちゃんを星漿体にするために護衛する私達を恨んでも、呪っても構いません」

 

 透は肯定する。

 自分が恨まれても呪われても構わないと本心から言っていた。

 そんな透の目を美里は顔を上げじっと見た。

 そして、首を横に振る。

 

「いえ、お嬢様が耐えているなら私も耐えます」

 

「……そうですか。やっぱり、似てますね」

 

 透は美里に聞こえないほどの小さい声で言った。

 

「禪院様……重ね重ねありがとうございます」

 

 美里は再度頭を深々と下げた。

 そんな美里に透はまた困った顔をする。

 

「頭を上げてください……お礼なら、そうですね。私の事、禪院じゃなくて透って呼んでください」

 

 笑顔で言う透。

 

「……はい、透様!」

 

 美里は嬉しそうに返事をした。




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