理子ちゃんが欠席した校外学習の、その間に撮ってきた写真。思えばそれが始まりだった。
その当時、私と理子ちゃんは隣の席で、校外学習のレポートを書くことになったときに写真を見せたのだ。彼女が見られなかった分もと思って何枚も撮ってきたから、喜んで貰えたときは本当に嬉しかった。
「写真、もっと見せてよ」
「いいよ。でもまだまだ未熟者だからちょっと恥ずかしいな」
それから、理子ちゃんから写真を見せて欲しいとしばしば言われるようになった。何でも自分は滅多にお出かけができないから、どこか離れた場所の景色を見るのが楽しいそう。私からすれば日常風景を撮った写真であっても、彼女にはそれも例外ではなく離れた場所のようだった。
特に小学校の卒業旅行で行った沖縄の写真はいたく気に入ったようで、後日現像して渡したら目をキラキラさせていた。
「
「カメラの性能ありきみたいなとこあるけど、でも嬉しいや。理子ちゃんはファン一号だね」
幼い頃から好きでずっと撮り続けてきた写真を褒めてくれるのは純粋に嬉しかった。
気づけば私たちの仲は良くなっていた。もともと隣の席だし、別に普段から話しはしていたのだけど、それでも仲が深まったのはこの時期であったように感じる。旅行のお土産には写真もセットで渡すようになった。
「灯は人の写真撮らないよね~」
「あ、気づいてた?嫌って訳でもないけど、花とか動物とか、街並みを撮る方が性に合ってるんよ」
この頃には、理子ちゃんも写真の世界に片足を突っ込んでいた。この構図が好きとか、どんな景色に惹かれるとか、それぞれの好みについて語り合えるようになってまた楽しみが一つ増えた。
一つ学年が上がっても同じクラスになれたとき、私は内心でガッツポーズを決めていた。照れるからこれは理子ちゃんには内緒だけれど。
来年も、高校生になっても、理子ちゃんとこうやって話せるのだと、何の疑いもなく信じていた。
「これ受け取ってよ。私、来月に転校するからさ、皆にお礼配ってるの。仲良くしてくれてありがとう」
「───え」
帰り際、寂しそうに笑う理子ちゃんからハンドクリームを手渡された。私がびっくりして固まっているうちにも話は進む。
「もう二度と会えないようなところに行っちゃうから、灯と話すのも残りの時間でホントに最後になる。毎日同じ景色しか見れないから、灯の写真、いつも楽しみだったよ。ありがとう、私を違う世界に連れて行ってくれて」
お別れはまだ先なんだけどね、と付け足して彼女は言葉を切る。
もう二度と会えない、この言葉が頭の中で反芻される。ものすごくショックだった。写真を見て喜ぶ彼女の顔を見るのが好きだった。その楽しみが消えてしまうのはすぐに受け入れられることではない。
それでも、悲しいのは彼女も一緒だ。私だけメソメソする訳にはいかない。
「そっか。それなら、今ある写真ありったけ現像して持って来るから、楽しみにしててよ」
「─────うん!待ってるね!」
私との別れを寂しいと思ってくれるのなら、私にできる形で思い出を残したい。それ以外は来月まで、残された時間を大事にすることくらいしか出来ないけれど。
「また明日」
その日から、毎日おまじないのようにその言葉をかけたのだった。
理子ちゃんが転校してしまう前の最後の週。何の因果か遊園地の前売りペアチケットを貰った。
以前滅多に出かけられないって言ってたし、ダメでもともとだけれど理子ちゃんを誘って一緒に行こうと思い立った。
一緒に行けたら、理子ちゃんに被写体になって貰おう。ファン一号になってくれたのだから、初めての人物写真は彼女に捧げよう。
どんなのがいいかな?メリーゴーランドをバックにしてもいいし、観覧車からの景色を一望する姿も絵になる。淡い期待を胸に現像した紙袋いっぱいの写真を引っ提げ、鞄にチケットを忍ばせて学校ヘ向かった。
だけどその日は訳が分からないほど色々起こった。学校に派手な見た目のお兄さん(理子ちゃん曰く従兄弟)が突然入って来るし、窓ガラスは割れるし、皆1日中ざわついていた。
あと、いつの間にか理子ちゃんが居なくなっていた。そして、次の日も、その次の日も学校に来なかった。メールを送ってみたけれど、反応が無い。
紙袋はロッカーの隅に窮屈そうに佇んでいた。
翌週、待っていたのは理子ちゃんが亡くなったという報せだった。
* * *
お葬式はすでに執り行われたそうだ。
二度と会えないと言ってたけど、まさか本当に会えなくなるなんて思わないじゃないか。
あの日から、学校で理子ちゃんの話は出なくなった。これも一つの気遣いの形だ。別に間違っているとは思わない。それでも、その空気は心に空いた穴を吹き抜ける風のように、冷たく無機質だった。
家に帰ると行き場を失った写真、使いかけのハンドクリーム。あれから蓋を開けていない。微かに残る彼女の面影が私を出迎える。
私は理子ちゃんへの感情を拗らせた。未練とか後悔とか、色々ごちゃまぜになった結果だ。君がお別れも言わせてくれずに死んだせいだぞ、会えなくなったとしても元気に長生きしろよ。
今はもう、生前の理子ちゃんへどんな想いを向けていたのかすら見失ってしまった。
私にとって彼女は、大切な友達で、貴重なファンで、それから───────。
それでもきっと、大人になったらこの気持ちに区別がついて、あの頃は若かったのよ、なんて笑えているのだ。たぶん。でも、そうやって笑うのは君の前でありたかったんだよ。
『灯の写真、私好きだよ!どれも上手で写真家みたい』
理子ちゃんの言葉が忘れられない。彼女が遺した言葉に縋るように、駆られるように、今でも彼女へ宛てた写真を撮り続けている。
* * *
十月。夏の気配はすっかり消え、木々の葉が各々色付いている。
この数ヶ月で撮ってきた写真は数百枚は下らない。渡しそびれたのも含めて、年明けにでも焚き上げようかと思ってたけど、その頃にはえげつない量になっていそうだ。そもそも、全て現像していたらいくらかかるかも分からない。口惜しいけど吟味しないとなぁ。
大量の写真を送りつけたら、理子ちゃんに「いや、重い重い」と笑われてしまうかもしれない。否定は出来ないが、原因はそっちにあるのだから素直に受け取って欲しいところだ。
「─────あれいいかも」
ホームの天井にハトの巣。そこからヒナの頭が見え隠れしている。差し込む光が温かみのある雰囲気を醸し出す。
いろんな角度から観察して、一つシャッターを切る。
「お〜、こりゃここイチの出来じゃない?理子ちゃん」
久々に自信作が撮れた。とりあえず、これは絶対に彼女に届けよう。そう心に決めた。
「もしかして、天内理子ちゃんの友達ですか?」
後ろから声が掛かった。振り返れば、妙に見覚えがある制服を着た男の人。
変わった前髪、ボンタン、
「…そうですけど。どちら様ですか」
「ああ、すまない、いきなり話しかけて。大分迷ったけどやっぱり気になってね。私は夏油傑。短い間だったけれど理子ちゃんと縁があった者さ」
困ったように笑って自己紹介する夏油さん。
怪しい。理子ちゃんの人づきあいの全てを把握してる訳じゃない。今は亡き彼女の名前を知ってるのだから嘘は言ってないだろう。それでもやっぱり不審に思う気持ちは拭えない。
彼のことをまじまじと眺めていると、その制服にピンと来た。
「背が高くて、しら…あー、銀髪?でサングラス掛けてるお兄さん知ってますか?」
「悟のことかい?知ってるも何も彼とは同級生だよ」
やはり思い当たりはハズレではなかったようだ。理子ちゃんの従兄弟の友達か。…ならそこまで警戒しなくても大丈夫かな。
「そうなんですね。私は
何の気なしに質問したら、夏油さんの顔がほんの一瞬苦しそうに歪んだ。え、嘘。私地雷踏んだ?
それでもすぐに穏やかな表情に戻り、彼は口を開いた。
「いや、知り合ったのは悟伝いじゃない。……成り行きみたいな感じだった。それで、皆で遊びに行ったりしたんだ、一回きりだったけど」
「─────遊びに行ったんですか、そっか」
あの子にとっての非日常の景色を、彼も共に眺めたのだろうか。
もしかしたら、私も誘えば本当に遊園地に一緒に行けたのかもな。美味しいものを食べて、珍しいものを見て、一日を満喫する彼女の姿を私も───────いや、それはもう叶わない。そもそもろくに機会を作ってこようともしなかったのに何を今更。
「もっと理子ちゃんのこと聞かせて貰えませんか?あ、もちろん、時間があったらで構いません」
せめて話だけでも。そんな浅ましい心が口をついて漏れ出した。少し間を置いて、「電車が来るまでなら」と夏油さんが答えた。
* * *
その辺にあったベンチに腰かけ、いまだ静まったホームで思い出話は始まった。
「君の方が理子ちゃんのこと知ってると思うけど。私から聞けることは少ないんじゃないかい?」
「いえ、そうでもないんですよ?私理子ちゃんと出かけたことありませんし」
だから夏油さんのことが羨ましい。私の知らない理子ちゃんを見てきた彼に、情けないことに小さな嫉妬心を抱いている。独占欲とか、そんな大それたものからでは決してないけど。
「…実は、どうやって話したものか良く分からないんだ。そっちの話を聞きながらでもいいかな?」
「別にいいですよ。でも私も話すことが全然纏まらなくて」
参りましたね。ぽつりと呟いたきりしばしの間二人で唸っていた。
「じゃあ、そのカメラのこととか。さっきそれ覗きながら理子ちゃんのこと呼んでたし、気になってたんだ」
夏油さんが助け船を出してくれた。確かに話し掛けられたきっかけもこれだから、丁度いいかも。
「これですか?趣味で写真撮ってて、結構溜まってるんです。…理子ちゃんに褒めて貰ってから自信もついてきて撮る量も増えました。これなんか理子ちゃんから好評だったんですよ」
そう言って沖縄の写真を見せる。しばらく眺めてたら、「やっぱり、そうか」とぼそりと言われた。
「?」
「理子ちゃんからとっても写真が上手な友達がいると聞いててね。沖縄の写真が特にお気に入りなんだと自慢げに言ってたんだ。凄腕の写真家だって」
「………もう」
あの子ったら、私の居ないところで何言ってんのさ!超照れるんですけど。
赤くなった顔を誤魔化すように手で仰いで見せるけど、きっと彼には気づかれてる。その様子を見て笑い声を溢したのだから。
「そ、それで写真の話で盛り上がるくらいには仲良くなれたんです。理子ちゃんは明るくて素直で、いい反応してくれるしで一緒に話すと楽しかったなぁ」
「へぇ、灯ちゃんの前ではそんな感じだったんだ。私達といる時は少しだけ高飛車だったかな。だけど素直というか、年相応な一面もあったけど」
「高飛車」
強引に話を戻すと、私の知らない理子ちゃんの姿が一つ増えた。高飛車な彼女なんて全く想像がつかない。夏油さんにツンケンした態度を取ったりしたのかな。
「仲良かったんですね」
「どうだろう。そこまで気を許して貰えるほど長い間一緒だった訳でもないし」
「ホントですって。そんな理子ちゃんに遭遇したら絶対一枚撮ってたのに」
どんな表情で夏油さんと話してたんだろう。サングラスのお兄さんが来たときに唇を尖らせてたっけ?あれに近いかもしれない。
「……あー、もっと早く撮らせてって言っときゃ良かった」
「写真を?」
「はい。最後の思い出にって、遊びに行って写真を撮らせて貰おうと思ってたんです。でも誘うどころかお別れも言えず終いで、ちょっと今拗らせてます。一枚も撮れてないから尚更」
「………」
本当に、あれさえ果たせていれば、例え死に別れたとしてもこんな変な引きずり方しなかったと思う。
「せっかく人生初の人物写真をって思ってたのに、全くあのファン一号は。せめてファンサくらいさせてくれても良かったのに」
やり場のない気持ちを紛らわすように悪態をついてみる。でもダメだ。
「いつも写真見せてって言ってくれて、どんな写真でも喜んでくれて、嬉しかったんです。写真家だなんて呼んでくれるから、本当になってもいいかもなって」
止められなかった。夏油さんだってこんなこと聞かされても困るだけだろうに。誰にも打ち明けられずにいた気持ちがとめどなく溢れていく。
「あの日から、もっと早く言えてたらってずっと後悔してて、何も出来なかった自分が不甲斐なくてっ、届けたかった物だってホントは直接渡したいのに」
喋ってるうちに声が震え、熱くなっていた目頭からついに滴が流れ出した。
「……灯ちゃん」
「っ、ごめんなさい、いきなり。こんなところで泣かれたって迷惑ですよね」
あーあ、泣いてしまった。初対面の人相手に何てことしてんだ私。きっと彼もドン引きしているに違いない。
そう思って夏油さんの顔を伺うと、彼もまた眉間に深いシワを浮かべて、口を真一文字に結んでいた。想定していたのと違って、驚いた。
「理子ちゃん、やっぱりもう居ないんだなって実感しちゃって。ちょっと気持ち落ち着かせますね」
「────────すまない」
「え?」
しゃくり上げながらなんとかそう告げると、夏油さんが謝罪の言葉を口にした。
「理子ちゃんは、本当なら今も元気に過ごしているはずだったんだ。私が情けないせいで、本当なら、写真だって何枚でも撮れたはずなんだ。私が───────」
「いや、ちょ」
この人、ヤバい。明らかに私より心が擦り減っているのが見て取れるくらいヤバい。最初見たときはそんな風なこと感じなかったのに。
目の前に取り乱している人がいると、逆に自分は冷静になる、なんて言説はどうやら本当のようだ。気づけば涙が引っ込んで彼の心配を始めている。
「だ、大丈夫ですか?何があったのか知りませんけど、私別に怒ってませんよ。だから謝らないでください」
「違う。理子ちゃんが死んだのは私のせいなんだ。もっと私が気をつけていたら、守れていたら今だって君と理子ちゃんは会えた」
今も会えたのかは定かではないが、話から察するに彼の目の前で理子ちゃんは致命傷を負ったのだろうか。想像するだけでも辛い憶測が浮かぶ。だったらトラウマになっても仕方がない。
私は夏油さんを責める気にならないし、彼が悪いとは思わない。しかしそれをどう伝えたものか。彼がどんな言葉を掛けて欲しいかなんて、私には分からない。うかつなことを言って傷つけやしないか。
「私は、あの日を境に自分のことが良く見えなくなったように感じるんだ。この状態にいつか終わりが来るって考えても駄目だった。命の価値について最近よく思い悩んでしまう自分が嫌になる」
「あ、あの!」
最後、自嘲気味に呟いた夏油さんに、悩んだ末切り出した。
「さっきも言ったように私は何が起きたのか知りません。でも、自分の気持ちが分からなくなる感覚は、理解できます。程度は違うかもしれませんけど、私だって理子ちゃんへの想いを今は見失ってて、それで」
勢い任せに
「それで、理子ちゃんの死を受け入れてる最中ですけど、それが終わったらこの気持ちと向き合いたいんです。命の価値とかは、その、あまり考えたこと無いけど、きっと私には怖くて決められないです。大切な人は、大切。それで終わっちゃう気がします」
だんだん自分でも何を言いたかったのか分からなくなってきた。考え無しに突っ込んだ弊害が出まくっているが、まだ止まれない。
夏油さんはこちらを向いて名状しがたい表情をしているが、あれこれ気にするのはまだ後でも大丈夫。
「誰彼構わず気に掛けてたら疲れちゃうから、自分のために人のことを想ってたいなって。すごいゴチャつきましたけど、私が言いたいのは、私基準で言えば、夏油さんは今でも
だって、命の価値なんて重大なものが揺らいでいても、それでもあの子を慮ってくれてるのだから。雑に結論まで持って行っちゃったけど、ちゃんと伝わったかな。
「…………そうか」
「あ、すみません。私ばっかりベラベラと」
「いや、私も私だ。気にしないでいい。それに、聞いてるうちに落ち着けた」
柔らかい表情、とまではいかないけど、眉間のシワは取ることができた。少しはためになれたかな?
「えへへ、それなら良かったです」
そう返した瞬間に、ホームにアナウンスが鳴り響いた。
「あれ、もう電車来ちゃう!夏油さんもこれに乗るんですか?」
「いや、私は反対車線のに。これでお別れだね」
「あ〜…ちょっといいですか?」
鞄をまさぐって、取り出したのはいつかの遊園地のチケット。それを二枚とも彼に差し出す。
「これ、お礼です。今月末で期限切れちゃうんで、お友達とぜひ」
「え?ああ…」
そんな場所に行く気分でもないかもしれないが、行くつもりの無い私が持っているよりはマシだ。
「写真撮ったら、理子ちゃんに見せてあげてくださいね。きっとあの子喜びますから」
「もし行けたら、そうするよ」
微妙な笑顔でそう返ってきた。まあいっか。
「本当にありがとうございました。理子ちゃんのこと話せて、気分がスッキリしましたよ」
「私も、こんな話友人にはできないから、少しだけ荷が軽くなったよ」
電車がブレーキを掛けながらゆっくりと止まっていく。別れはもう近い。ベンチを立ちホームの端ヘ向かおうとして、一つ思い出した。
「────あと、厚かましいこと言いますけど、友達との時間は大事にして、ちゃんと言いたいことは言ってくださいね!じゃないと、私みたいな拗らせマンになっちゃいますよ〜」
「…気をつけるよ」
最後の会話がこんななのは、最高に締まらないけど。
電車に乗るまでの足どりが、いつもより軽かった。
* * *
モクモクと空高く登る煙。鼻腔を刺激する物が焼ける匂い。
冬真っ盛り。私は写真を焚き上げに来ている。理子ちゃんに届けたい写真を選ぶのに難航して、二つ目の紙袋は一回り大きくなってしまった。そっちに届いたときに困惑するがいい。
───────君への想いはまだ探し途中だけど、あの頃よりは前に進めてるよ。いつか必ず見つけてみせるから。
今日はよく晴れている。この景色は絵になりそうだ。
少し離れた場所から、焚き上げの様子を撮影した。うん、いい出来。
そのまましばらく様子を眺めてから帰路につく。早く帰って温まりたい。
「やっぱ寒〜!肉まん買い行こうぜ」
「よっしゃ、丁度ヤニ切れてきたから乗るわ」
「私たちまで警察のご厄介になるのは勘弁だよ」
そんな話し声が聞こえて、道の反対側を高校生らしき三人が通り過ぎた。
振り向けば、銀髪のお兄さんとお団子頭のお兄さん、それから茶髪のお姉さんが並んで歩いているのが見える。
一瞬、それも後ろ姿だから確信は持てないけど、もしかしたら。
そうでありますように。ささやかに願いをかけた。
「ふ〜、あったまる〜」
帰ってから、お茶を飲みながらミカンを食べていた。冬のお茶は格別なんだと再確認する。
手をさすってから、今日の一枚をもう一度見ようとカメラを取り出した。
「────え」
あの場で確かめたときには見当たらなかったのに、写真に人影のようなものが映っている。ボンヤリとだけれど。目を凝らせば女の子に見えないことも無い。
…………マジか〜。
「人生初の人物写真が心霊写真とか、ねぇわ。お祓い行こっかな」
そう独りボヤいたくせに、私の口角は上がって、にやけ顔を作っている。
─────信じても、いいよね。
だって、もう会えなくなってしまった君に、今でも会いたいから。
後編は夏油視点です。