泉浜鎮守府航海日誌 ツバサよもう一度   作:沖野潤一

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決戦海域

一.

 

 まるで、霧が晴れたよう。

 その時加賀の胸中を埋めていたのは、それまでのどす黒い感情……怒りや憎しみ、妬みや悲しみではなかった。

 喜び――或いは、希望。

 全ての生あるものへの怒りは、深海棲艦とてその一つであることの喜びへ。自己矛盾を起こしていた自分に対して、加賀なりの答え……一度沈んだ身だからこそ、艦娘も深海棲艦も『死』が終わりの安らぎをもたらしてくれるわけではない。『今』の生を全力で生きるしかないと知ったことが、怒りを喜びへと変えた。全ての艦娘たちへの妬みは、深海棲艦と艦娘が根ざすところを同じくしていると実感したおかげで、儚く消え去った。

 何より、半分は深海棲艦である自分を『愛している』と言ってくれるひとがいる。それだけで彼女は、他の存在に嫉妬する必要などなかった。全ての物事への悲しみは、自分の力で希望へと繋げられることを知ったことで泡と消えた。いや、それはしつこく彼女の胸の奥で黒く息づいている。しかし、加賀は悲しみを抱えてでも海と陸の上で生きることを選んだ。仲間――艦娘や、多くの人間たちと共に。

「夕張……幸一さんを、提督をお願いします」

 今にも崩れ落ちそうな真田を夕張に引き渡し、加賀は佐伯と空母棲姫の前に立ち塞がった。佐伯の瞳は怒りに燃え、空母棲姫の瞳は悲しみに揺れている。

(――悲しみ?)

 空母棲姫との、ほのかな繋がりを感じながら……一瞬だけ胸をしくりと刺した感情を、加賀は今だけ置いておくことにした。

 佐伯が下がり、空母棲姫が前に出る。

「……さテ、加賀……これカラどうスルノ?」

 矢筒に矢はない。飛行甲板に申し訳程度ついている機銃では牽制にもならない。何も武器を持たない加賀を、空母棲姫は僅かな憐みと共に見つめた。それに返す、加賀の答えはただ一つ。

「戦うだけです」

 それは空母棲姫の問いへの答えのようでいて、そうではなかった。

「――この命、尽きるまで」

 加賀の行動は早かった。一瞬のうちに駆け寄り、鋭いガントレットの指先を向ける。空母棲姫へ吶喊すると見せかけてその脇を抜け……背後の佐伯提督へと牙をむく。

「佐伯ッ……!」

 咄嗟に佐伯を庇った空母棲姫の手が、加賀を受け止めた。一瞬で怒りに染まる空母棲姫の瞳に、加賀は薄く笑う。()()を守る深海棲艦。()()を襲う艦娘。あべこべな攻防は、すぐに終わりを迎えた。

「沈メ……沈んデシマエ!」

 燃え盛る怒りを、空母棲姫は解き放つ。横へ跳んだ加賀の足元、岩が激しい着弾で抉れて破片を散らす。加賀を襲ったのは、立ち直った空母棲姫の一撃、砲撃だった。

 岩場から跳んだ勢いのまま、加賀は入り江の海へと漕ぎ出す。ちらと目線をやると、いつかのあの日に見た空母棲姫の大型艤装が、ぬるりと岩陰から姿を現した。先ほどの砲撃の主だ。黒く光る砲が加賀を狙い、次々と弾丸を放つ。戦闘起動で躱す加賀は、少しずつ大型艤装との距離を詰めていった。

 これこそが、加賀の狙い。

(艦載機が使えなければ、出てくると思っていたわ……!)

 『夕張メロン』による妨害で、艦載機との通信が不通の今、通常の手段で空母が戦う方法はない。しかし、深海棲艦――空母棲姫の場合は別だ。自律して動くこの大型艤装がある。

 一つの確信を持ちつつ、加賀は左右に着弾を避けて艤装へと肉薄した。

「寄越しなさい……あなたの、『中身』をッ」

 最後の砲撃を躱した加賀が、大型艤装に飛び乗った。大きく振り上げた加賀の右手は、まるで柔らかな肉を引き裂くように大型艤装の深海黒鉄で出来た装甲を抉った。

 その内側から、加賀は求めるものを引きずり出す。

「オマエは……何をスルつもりダッ」

 加賀が手にしたのは、格納されていた艦載機。かつて、彼女を泉浜鎮守府の沖で傷付け、沈めた時のものと同じ。加賀は大型艦装から飛び降り、再び回避航行を続ける。至近弾が水しぶきを上げ、加賀の頬を濡らす。

 そんな加賀の手で熱を持ち、口を開け閉めしてうごめく球状の艦載機。加賀は静かに、『彼』へと呼びかけた。

「あなたも……」

 聞かせなさい、その想いを。問いかけた加賀の中に、虚ろな声が響いた。

 ――飛びたい。

 ――けたけた。もっと飛びたい。敵を倒すために。

 ――まだ戦える。敵を沈めるために。けたけた。

 ――けたけたけた。もっと、もっと!

 それは深海棲艦と同じ。かつて空母たちと共に戦った艦載機たちの内なる声。無念の声。後悔の声。怨嗟の声。嘲笑を含んだ声が、加賀の心を揺する。

「そう……でも」

 今までの加賀であればその声を無理やり押さえつけていただろう。しかし、今の加賀は違う。

「私は違うと思うわ。あなたたちが戦ったのは何のためか……よく思い出しなさい」

 砲撃を戦闘機動で躱しつつ、加賀は問いかける。彼らの無念が、一体なにに根差したものなのかを。何故なら、加賀はもう()()を知っていたから。

 ――守りたい。守りたかった。

 ――国を、街を、仲間を、家族を、人を。

 戦争は、国が相手の国に対して勝つために……勝つことで得られる結果を求めて行われるもの。しかし事実、勝つことで守れるものがある。だからその下で戦う多くの者たちは戦う。負けたら守れない。だから負けられない――戦わなくてはいけない。

 全ての根っこは同じなのだ、と加賀は知った。道を違えた艦娘と深海棲艦が相容れないのは仕方のないことであっても、それでも分かり合える部分はある。

 だから、加賀は呼びかけた。

「私は、私の守りたいもののために戦います。だから」

 私に力を貸して頂戴。

 半身を黒く染めた加賀の内なる呼び掛けに――堕ちた『艦載機』が、答えた。

「ナニ……?」

 空母棲姫は信じられない思いで見ていた。加賀の手にあった自分の艦載機が、見る見るうちに数本の矢へと姿を変えていく。見慣れないその矢には、日本の空母艦娘お決まりの日の丸が描かれていない。

 矢羽に光る『星』を見た空母棲姫は、その輝きに戦慄した。

「オマエは……ソイツらが憎くハないのカ……!」

 加賀はいつも通りの慣れた手つきで矢を弓に番えた。無言の答えは、空母棲姫の顔から余裕を奪う。かつて自分たちを沈めた艦載機の名を冠した戦闘機たち。加賀の手にある彼らを、加賀は平然と味方にしている。それは過去の怒りや憎しみを糧とする空母棲姫からすれば、信じられないことであった。

 一方の加賀は、そうした自分をどこか冷静に見ていた。

(――怖いくらいね。大したわだかまりもなく、この子たちを手に取る自分が)

 この世界に戻ったばかりの自分であれば、積もった澱のような何かを抱えて戦っていたかも知れない。自分と、自分と共に戦った多くの仲間の命を海に沈めた彼らに対して。

 しかし、加賀は知っていた。彼らもまた自分たちの守るべきもののために戦っていたことを。そして加賀たちと同じようにこの世へ舞い戻り、戦っている多くの『()』がいることを。

 そこにあるのはもはや、自分たちの大切なものを守りたいという思いでしかない。ならば、共に並び立つことに何の不満があるというものか。

 張りつめた弓の弦が、その力を解き放つ。

「行きなさい……!」

 空母棲姫の頬を掠めた矢が光を放ち、一瞬の後に姿を変える。F4F、ワイルドキャット。『ゼロ』と戦ったじゃじゃ馬娘が、今加賀の手で大空を舞う。

「馬鹿ナ……!どうシテ飛ばせる……!」

 空母棲姫の声に、加賀はさらりと返す。

「彼らは、飛びたいと思っただけ。私の指示で動いているわけではないわ」

 加賀の言葉通り、ワイルドキャットは彼女の制御下にあるわけではなかった。加賀の手で空へと翼を広げてはいても、加賀の言うことを聞いているわけではない。

 しかし、加賀とは想いが通じている。共に戦い、敵を倒し、大切なものを守りたいと思う者同士で。連携が取れない分は、『彼ら』の経験が埋めてくれる。

 ただ信じる。加賀が彼らの抱いた想いの強さを信じ、彼らはかつて、自分たちを動かしていたものを思い出した。たったそれだけのことで、加賀は自らを守る翼を手に入れた。

 そんなことが出来てしまう加賀を、空母棲姫はただ妬ましく思った。

「それならバ、私モ。行ケ……!」

 一切の制御を艦載機へと任せて、空母棲姫は自らの艦載機を空へと飛ばした。その根幹を同じくする戦闘機が、互いの守りたいものを賭けて空を舞い、火花を散らす。

「あなたも分かっているでしょう。彼らの想いを」

「黙レ……黙レ黙レェ!」

 動揺する空母棲姫。好機を逃すまいと、加賀は二の矢を番える。

「攻撃隊――」

 その瞬間――加賀の耳に飛び込んできたのは、真田の声。

「加賀、回避行動ッ!」

 呼ばれた瞬間、加賀は舵を切っていた。一瞬前まで加賀のいた空間に巨大な水柱が立つ。声を上げた真田も、それを支える夕張も……そして、戦う加賀も冷や汗を流す。加賀を狙った者の正体に。

「戦艦棲姫……!」

 まさに半年前、加賀を海に沈めた一撃を見舞った者の名。多くの海で艦娘を海に還して来た彼女が、今再び加賀の目の前に立っていた。唸り声を上げる大型艤装を愛しく撫でて、戦艦棲姫が笑う。

「攻撃隊、発艦」

 寸隙を突いて、加賀は二の矢を放った。その名はSBD、ドーントレス。かつての空母加賀を海へと沈めた爆撃機が、まさに当の加賀によって空を舞う。しかし――()()()()()()

 一瞬だけ焦りを覚えた加賀だったが、しかし一瞬垣間見た真田の瞳に勇気づけられる。

(――提督。彼の目は、死んでいない……つまり)

 湧き上がる期待。提督(かれ)が動揺していないということは、これは……()()()()だ。彼が信じるものを、加賀は何のためらいもなく信じることにした。真田は変わっていない。加賀を失ってから彼が過ごした絶望の日々は、提督としての能力を奪ってはいない。そう信じて。

(いいえ……私が好きになった人だもの。きっと)

 そう、加賀は確信していた。真田は必ず、過去を乗り越えて、今を生きているはずだと。戦艦棲姫が微笑と共に砲を構え、挙げた手を振りおろそうとした時――。

『ファイヤァアア!!』

 真田の『新たな力』が、吠えた。

 加賀を狙うあまりに周囲警戒を怠っていた戦艦棲姫。元より索敵を自律艤装に任せがちだった彼女は、『夕張メロン』で通信が死んだこと……それによる索敵能力の喪失に気付いていなかった。

 その油断を撃ち抜いたのは、泉浜鎮守府『()』第一艦隊旗艦――。

「バァアアアアニングッ、ラァァアアアヴッ!」

 金剛型一番艦・金剛。小高い丘から颯爽と姿を見せた金剛が、自慢の主砲を一斉射した。大型艦装の背面を狙った主砲弾が着弾の爆炎を撒き散らし、傷付いた大型艤装は痛みに咆哮を上げる。戦艦棲姫の焦りを横目に見て、知らず歯噛みする空母棲姫。

「どこを――見ているの」

 そんな空母棲姫を、加賀は容赦なく狙う。敵機直上、急降下――。

「チィッ!」

 加賀のドーントレスに狙われて、ついに空母棲姫が動く。初めて加賀の前で回避行動をとった自分の姿に、空母棲姫は怒りを隠していない。

「目障りナ!」

 そこで、空母棲姫はようやく気付く。円形の()()()を囲むように、艦娘たちが立っているのを。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 天龍、龍田。

「へへ……いいザマだな、提督」

「慎重なのはわかるけど…‥通信で呼んだんだから反応して欲しいわぁ。まぁ、いいけれど」

 主砲は片門が焼け落ち、対艦刀は刃こぼれしている。片方欠けた電探を揺らし、それでも笑う天龍。その隣には、同じく傷付いた龍田が寄り添った。夕張から引き受けた『仕事』をこなした二人の龍が、切っ先を二人の姫へと突き付ける。星の光に、刃が瞬いた。

 金剛の反対側、戦艦棲姫の正面に現れたのは、まさに修羅の顔。

「……榛名は()()、大丈夫じゃありません……」

 一方的とはいえ、真田に思いを抱く榛名。その真田が傷つけられたことに、かつてない怒りを込めて主砲を構えた。動作不良を起こした主砲の一門が火花を散らすが、榛名は構わず睨み付ける。

 戦艦棲姫を挟んで、金剛が胸を叩いた。

「へーィ、テートク! ナイスタイミングだったでショ」

「……まったく、お前は最高だ。金剛!」

 互いに提督を抱えた状態で睨み合う両部隊――のはずだったが。

「おい提督! 黒ずくめヤローはどうした」

 天龍の言葉通り、いつの間にか佐伯は姿を消している。

「――恐らく」

 ある種の確信を持った真田の目線に、空母棲姫が微笑んだ。

「ソウ。彼ナラ……後始末をしてイルワ」

「さすが、不利と見た時の判断は素早いな。証拠隠滅と主力部隊の撤退か……オレたち人間と違って、お前たち深海棲艦は、不要なものを切り捨てるのに躊躇いがない」

 真田の言った『不要なもの』。その対象には、佐伯や目の前の空母棲姫自体が含まれていることに、真田の言葉で数名が勘付いた。

「あらぁ、深海棲艦にも派閥争いがあるのかしら」

「知ったことじゃない。だが、わざわざ回りくどいことをせず数で押したい連中と、地道に戦力強化を図る佐伯提督との相性は……悪いだろうな」

 そうするうち、島を覆う闇の中に炎が上がる。青い断末魔の炎は、数か所でほぼ同時に燃え上がった。空挺降下部隊……御影提督のあきつ丸たちが動き出したのだ。

 それに気を取られた一瞬、空母棲姫の大型艤装が主砲弾を放った。狙いは榛名。入り江の出口方面を固めていた彼女の至近に着弾し、榛名は短く悲鳴を上げる。

「ちっ……させるかよォ!」

 狙いが脱出口の確保だと悟った天龍。前に出ようとした彼女の腕を龍田が掴み、自然と天龍は後ろにつんのめる。

「っ!」

 体を反らした天龍の胸を掠めるように、戦艦棲姫の主砲弾が抜けていった。真横の岩山に開いたクレーターのような弾痕に、天龍は冷や汗を一筋。

「怖ェエ……! 龍田、サンキュな」

「お安い御用よ。でも――」

 洋上に出た大型艤装は、その見た目に似合わぬ速度で島から離れていく。それらを従えた空母棲姫と戦艦棲姫は、背中越しに泉浜第一艦隊へと目線を送った。

 さあ、お前たちは、どうする――。

 空母棲姫たちは陸上では鈍重な大型艤装、そして、弱点である佐伯提督を抱えての戦闘は不利と見て撤退した。一方、泉浜艦隊の作戦目標は敵泊地の攻略および、佐伯提督の確保。現時点で傷付いた泉浜艦隊が空母棲姫たちと戦う利点は、薄いように思えた。

 しかし、二人の旗艦は、ほぼ同時に決断する。

「チェイスしまショ」

「追撃しましょう」

 異口同音の金剛と加賀、二人は顔を見合わせて、笑みを浮かべた。このまま空母棲姫たちが大人しく離脱してくれるとは限らないこと。下手に逃がして別働隊と合流し、再襲撃される可能性もあった。

 何より、一連の襲撃を行っていた部隊をみすみす逃がして、新たな犠牲者を出すわけにはいかない。加賀と金剛が、目線だけでそう語り合って頷く。

「夕張。あなたは提督を護りつつ撤退準備を。島の敵部隊は……空挺降下してきた艦娘たちが相手するんでしょう。慎重に退いて頂戴」

「了解しました」

 先に岩山を駆け下りていく金剛の背中を見つつ、加賀はため息ひとつ。

「提督。金剛を建造するのに、どれだけ資材を使ったんですか」

 かつて泉浜鎮守府で唯一建造できなかった金剛。躍起になって建造しようとしては加賀に窘められていたことを思い出し、真田は苦く笑った。

「一発建造だ。何ごとも力を抜くのが大事なんだろうな」

「そう」

 加賀は短くそう答えてから、真田に駆け寄り――。

「――続きは、帰ってからしましょう」

 ほんの僅かに口付けて、真田に背を向けた。

 その背に真田が掛ける言葉は、ただ愛を叫ぶしかなかった()()()とは違う。

「明日からの秘書艦は、しばらく加賀にしておくよ。また、覚えてもらうことが山ほどあるんだ」

 かつて、建造されたばかりの加賀にそうしたように。

 真田の口にした『明日』という言葉。加賀が今聞きたかったのは、まさにその一言だった。自分たちには明日がある。戦って勝ち、生き残り、過ごすべき明日がある。

 そして、真田の隣には加賀の席がある。加賀は敢えて、あの時と同じ言葉を口にした。

「その言葉だけで百人力です。鎧袖一触……心配、要らないわ」

 ちり、と加賀の右手に燃える青い炎。真田の目には、すっかり先程とは違う輝きに見えていた。

 青は海の色。空の色。そして、加賀の色。加賀の中に渦巻いていたすべては、混ざって溶けあい――。

「私の中に在る『()()』の欠片も……もう、私そのものですから」

 今は痛みではなく温もりを発するようになった、深海黒鉄の輝き。そう言って、加賀は、ゆっくりと第一艦隊の単縦陣に加わった。

 

 

 

二.

 

 重巡リ級は混乱していた。

 突如自分の艦隊を襲った謎の通信妨害。侵入した人間たちの部隊による工作と予想は出来たが、孤立した彼女たちが状況を把握するその前に、まず旗艦のル級が沈黙した。すぐ近くにいたはずの旗艦が何も音を発しなくなって、彼女たちは驚きや恐怖より先に困惑を抱く。しかし、ル級が言葉を発することが出来なくなった理由を他の深海棲艦が知ることはなかった。ル級がどうなったか考えるより、自分たちの生存を優先せざるを得なくなった――つまり、それが『敵』の襲撃によるもので、今まさに彼女たちは『狩られている』状態だと判断したからだ。

 事実、彼女たちは狩られていた。

 リ級は慎重に足を運ぶ。訪れた夜の闇に奪われた視覚ではなく、聴覚に飛び込んでくる様々な情報を整理しながら。風の音、葉擦れの音、遠く洋上の砲雷撃戦の音。かちり、と鳴る撃鉄の音。

「――!」

 リ級の頬を弾丸が掠める。体勢を崩しながらも、リ級は腕部の主砲を発射音の方角へ向けて引き金を引こうとした。しかし、手応えはない。何故なら、既に彼女の主砲は半ばから斬り落とされていた。

「遅い」

 彼女を狙う『敵』……あきつ丸によって。

 リ級は体を捻って蹴りを叩き込む。直撃したと思った足に伝わってきたのは、大したことのない感触。ふわりと宙に舞った外套だ。

 『敵』はどこに――。

 回避や防御ではなく索敵に移ったその一瞬が、リ級の命取りとなった。洋上の砲雷撃戦ではない肉弾戦、その咄嗟の行動は、元より陸上戦を得意とする『敵』の予想の範囲内だった。

 どんな生き物でも、首が胴と離れて無事なものはいない。それがル級の沈黙した理由だとリ級が理解したのは、恐らく自分が同じ目に遭ったその瞬間だっただろう。

 鈍く光る軍刀が、次の獲物を狙う。あきつ丸は闇に潜み、闇を纏い、木々の合間を縫って奔った。

「そこか……!」

 予め各自に割り振られた区域を単純に()()する。あきつ丸の部隊は、ただそれだけを遂行するために空から舞い降りた。無事に降りてしまえば、あとは大したことのない作業だ。陸に上がった有象無象の深海棲艦(にんぎよ)など、陸戦に秀でたあきつ丸たちにとって敵ではない。

「次」

 落とした首の数など数えるに値しない。軍刀の血を払い、あきつ丸はただ進む。

「――区域A1から25、Bは仕舞いか。手応えのない」

 高台に配した通信要員からの情報は、部隊の攻略が予想よりも順調であることを示していた。無論、この作戦の要となっている通信妨害は、敵味方の例外なく通常の連絡を困難にしている。だったら、(ふね)らしく使える手段を使えばいい――そう、光通信。

 海岸近くにて確保された人質たちを数名発見との報を受けて、あきつ丸はほんの少しだけ頬を緩めた。取りあえず作戦の体面を保てるだけの()()がなくては、自分たちで体を張る意味がない。

 回収の手筈を整えるよう通信を送ったあきつ丸。小型探照灯を手遊び、呟いた。

「海に生きるものならば扱えて当然のものでも、いざ敵地で使うとなれば多少の不安はありますが……高台には()()に要員がいる。信じるとしましょう……さて」

 そろそろ頃合いか。自分に割り当てられた区域の掃討を終えたあきつ丸は、通信担当に向けて信号を飛ばした。次の通信は、作戦終了の報になるはずだ。

 ――こちら、突入部隊隊長。各自、作戦を続行せよ。『HK12』は、予定通りの行動に入る。

 背後を肩越しに見やって、あきつ丸は走る速度をわずかに落とした。

 

 

 

三.

 

「ヘイ加賀、白かったり黒かったりするケド、あなたはダイジョブ?」

 右手は変わらず、深海黒鉄の手甲(ガントレツト)に覆われた加賀。洋上を最大戦速で奔る第一艦隊、単縦陣の先頭から金剛が意地悪く呼びかけた。

「心配要りません。――よろしくお願いします、金剛」

「テートクのことなら、私がばっちり任されちゃうネ」

「それは譲りません。来るわ――対空防御はF4F(ワイルドキヤツト)がやります。榛名、天龍、サポートを」

「はい。少しですが、三式弾もあります。大丈夫です」

「残弾がちと心許ないんだけどさ、根性でなんとかするぜ」

「天龍ちゃん、私たちは昔、根性で負けたんだから、もう少しスマートにいきましょ?」

 元より泉浜で共に戦った榛名、龍田はさておいて、加賀にとっては初めて顔を合わせる金剛、天龍。しかし連携に不安はない。彼女たちは、()()()()()。わずかなやり取りで、加賀はそう感じ取った。

 あの人が連れてきた艦娘に、間違いはない――加賀にとってはなにより勝る信頼は、直接彼女たちと相対することで確信に変わる。

 飛ばした戦闘機たちが空戦に入る。もはや妨害装置の張り巡らされた島ではない、慣れた洋上に出たことで、互いが全力を出せる環境が整ったが――。

「ヘイ、榛名。三番主砲は?」

「大丈夫です――と言いたいのですが、砲塔の回転機構に異常が。無調整で撃つだけがやっとです」

「ち、電探は駄目か。龍田、リンク頼む」

「細かい調整は自分でやってね。私もあんまり余裕なさそう」

 潜入任務という性質から、連戦に次ぐ連戦を経て補給もなし。傷付いた艤装は火花を散らし、機能を停めたものさえある。低下した戦力でどこまで追いすがれるか。

(それでも……あの二隻(ふたり)を逃がすわけにはいかない)

 索敵機からは、周囲から集まってくる敵艦が見てとれる。今さら雑魚どもに遅れをとる加賀たちではないが、戦力を割くのはよろしくない。しかし、敵も待ってはくれない。

 天龍が対艦刀を構えて叫んだ。

「回避行動ッ!」

 弾着の水柱が派手に上がり、戦艦棲姫の攻撃が始まったことを知らせる。同時にF4Fの網を抜けた敵機が現れた。幸いにもやや波が高く、追撃にはともかく敵の攻撃を避けるには悪くない。

「金剛、榛名、天龍。あななたちは戦艦棲姫を。空母棲姫は私と龍田が抑えます」

「任せてクダサーイ!」

 あっさりと言い放つ加賀に、応える金剛。

 その時、第一艦隊が視界に()()を捉えた。追いすがる艦娘たちを引き連れるのは止めて、挟撃にするつもりか。それとも――いずれにせよ、泉浜第一艦隊と二隻の姫は近距離戦闘の状態に突入した。

「全砲門、ファイヤァ!」

 金剛の斉射と同時、天龍が対艦刀を手に突っ込む。大型艤装からの意外に繊細な砲撃は、狙い違わず天龍の顔面を吹き飛ばしに掛かった――正確故に、天龍はまったく臆せずに直進する。

「オッケーイ、天龍……ぶっ倒せ(Go ahead)!」

「天龍さまの、お通りだァ!」

 構えた対艦刀で砲弾を両断。背後に爆発を置き去りにして、天龍が戦艦棲姫へと躍りかかった。

「おらぁあああ!」

 戦艦棲姫へ一閃した対艦刀は、大型艤装の腕部に阻まれる。表面を傷付けはしたが、致命傷にはほど遠い。舌打ちと共に姿勢を下げた天龍の頭上を、大振りな腕が通り過ぎた。武器としても、盾としても使われる腕部が、見上げるような高さから勢いよく天龍に振り下ろされる。

「っクソ……!」

 咄嗟に面舵を切った天龍の眼前、腕が波を立てた。離脱する天龍の背中を、戦艦棲姫の主砲が狙う。

「ストォーップ!」

 もちろん、それを黙って見ている旗艦がいるはずはない。金剛の主砲弾が大型艤装を狙う。やはり腕で防がれて、金剛も歯噛みをした。大型艤装の主砲弾、そして腕。加えて空母棲姫の艦載機隊が空爆を始めた。加賀のF4Fが追うが、制空権を取るには至っていない。

 同航からのけん制ですら疲弊を招く状況を横目に、加賀は手にした矢を番える。

「龍田、少しカバーお願いします。とにかく、上げられるだけ上げます」

「矢が無くなったら?」

「また引っぺがすまでです。()()()まで」

 もう一度、空母棲姫から奪う。冗談交じりにそう言った加賀は、同じように()()を待っているらしい龍田に、前へ出るよう促した。

「もう、二人とも無茶言うんだから。でも――」

 私たち、そういう無茶言う人の部下で、ついでに好きになっちゃったんだもの。仕方ないわよね。

 目線でだけそう語って、龍田は薙刀の切っ先を空母棲姫へと突きつけた。

 

 

四.

 

「提督、傷は……大丈夫じゃないですよね」

 背後の真田を気にしつつ、夕張は通路のクリアリングを続ける。狭い通路は相変わらず薄暗く、混乱した今の状況で素直に直進できるものでもない。しかし、()()の確保にはぐずぐずもしていられない。

「まだ動ける。痛み止めもそろそろ効いて来た……佐伯さんをぶん殴るまでは、起きてないとな」

「声が震えてますよ。あまり無理しないで下さい」

 角を曲がり、崩れた岩を乗り越え、通路を先へ。鼻を突く火薬の匂いに、夕張は顔をしかめた。

「この残骸……恐らく、何らかの設備ですよね、提督」

 明らかに通路より大きな空間が崩れたと思しき崩壊跡。一瞥した真田だったが、立ち止まった夕張を置き去りに前へと進む。一瞬遅れて、夕張も続いた。

「位置だけ記憶しといてくれ。どれぐらいの情報が残ってるか分からんが、調査は後回しだ」

「了解……痕跡からして、崩壊から時間は経っていません。恐らく、すぐ近くに」

 作戦目標……佐伯提督の確保。機密情報と運命を共にしていなければ、人間の移動できる距離などはたかが知れている。決着の時が近い。真田は知らず、拳を握りしめた。

「明るい……外です、提督!」

 夕張の言葉通り、仄かに光るのは外から差し込んだ月光。まるで吸い寄せられるかのように、真田は光の方向へと進んでいく。闇にいる生き物が光を求めるのは本能。例えそれが、希望のフリをした罠であっても。

 闇を抜けた真田と夕張を迎えたのは、打ち寄せる波音。

「遅かったじゃないか」

 そこは、大して広くもない断崖だった。海面までの高さ自体はある。落ちたら助からないだろう。

 そんな岸壁に独り立っているのは漆黒の提督。月光を背に浮き上がるシルエットから、彼の浮かべた表情は真田たちには伺い知れない。真田は、静かに彼へと呼びかけた。

「そう言うあなたこそ、諦めるのが早いんじゃないですか」

 必死になれば逃げ切る手段もあったのでは、と真田。振り向いた佐伯の言葉は、どこか悲しげだ。

「自分のしでかした不始末は、自分の責任で処理する。それが軍人というものだ」

 両手を広げた佐伯は、そう言って、声だけで自嘲の笑みを浮かべた。

「さて、真田。今回、艦娘と深海棲艦の垣根が、またひとつ取り払われたわけだが……お前はこの意味を理解しているのか」

「開戦当初から疑われていた、艦娘と深海棲艦の同一性……しかし、そんなことは、最初から分かっていたのでは? 彼女たちは同じ存在、カードの表と裏。ただ、存在する目的の違いだけだと」

「分かっていたことと、それが()()()()ことの隔たりは大きい。だが、それを防ぐのは困難ではない」

 佐伯の言葉に、夕張が顔色を青ざめさせる。

「そんな……提督、まさか、私たちが助けた提督や艦娘たちが」

 情報を漏れさせないために、一番有効な手段。それを想像した夕張が、思わず島を振り返った。

 真田は、佐伯から目線を外さない。

「させませんよ。諦めたあなたは……黙って、諦めていないオレたちのやることを見ていて下さい」

 提督の戦いは戦闘行為だけではない。そして、陸に上がっても続く。少なくとも、事態を知る中将を巻き込んでひたすら()()()のもいい。真田にはいくらでも算段があった。佐伯もそれを勘付いていないわけでもない。だが、彼は――もう、深海側の人間だった。人間の事情を利用こそすれ、自分に関係のないこととしか捉えていなかった。それが、彼の表情を皮肉な笑みに変える。

「ほお。まだ、私を連れ戻せると思っているのか」

 嘲るような佐伯の言葉。夕張は、手にしたワイヤーネットのトリガーに手を掛ける。射程距離からは多少外れており、しかも一発勝負。恐らく漆黒の提督は、この一回を逃せば海へ飛び込むだろう。

 慎重に夕張が立ち位置を変えようとするのを、真田も勘付いた。

「佐伯さん。空母棲姫は、明らかにあなたを特別視していた。提督としてじゃない、佐伯和人として」

「真田……お前が気にしているのは、まさか、彼女が取り込んだ加賀の感情を引き継いだとでも?」

「違いますか」

「もうどちらでも構わない。いいか真田――()()()()()()()()()()()()。海に融けた彼女ともう一度出会うには、これしかなかったのは確かだ。だがな」

 その時だけ、佐伯の表情はかつて真田と語らった時のものに戻っていた。真田は黙して言葉を待つ。

「情を交わすのに、昔の女と重ねるほど相手に失礼なものはない。彼女がどう思っていたかは知らんが」

 佐伯は彼なりに、空母棲姫を空母棲姫という存在として尊重していた。真田はそう理解した。

 一歩、佐伯が足を断崖に向けて進める。

「真田、これだけは言っておいてやろう」

 今から自分が口にする言葉が、真田を苦しめてくれることを祈って。佐伯の言葉は、艦娘と共に立ち、そして艦娘を()()()真田に対する皮肉でもある。

「人と艦娘は、違う生物だ。彼女たちは、独自の輪廻構造を備えた別種の存在であり――神だ。人間の造った身勝手な世界を許さない荒魂(あらみたま)が深海棲艦。人の側に立つことを選んだ和魂(にぎみたま)が、艦娘」

 奇しくも、建造の時に真田が抱いた感想。荒魂と和魂……日本の神の性質を表す言葉だった。

「神を引き摺り下ろしたお前たちに、相応の報いが訪れることを――心底祈っているよ」

 そう言って、にやり、と笑った佐伯。それを合図に、真田は自分の体を横にずらした。

「やれ、夕張ッ……!」

 ()()を確保するためのワイヤーネット。夕張が必中の間合いで、まさに引き金を引こうとした瞬間。

 乾いた音が、波音に混じって世闇に響いた。

「なっ……」

 真田が絶句する中、時間が静止し、色を失ったような空間で、佐伯の胸からは鮮血がにじみ出る。

「……ああ」

 血塗れの手を見て、佐伯は笑った。まるで、それが目的だったかのように。力を失った佐伯の体が、ゆらりと断崖へと倒れ込んでいく。その様に、真田は思わず手を伸ばした。

 真田。私は、海へ逝く。せめて、彼女(かが)の近くに居られるように――。

 まるで意識へ直接届いたかのような、佐伯の()()の言葉。

「くそっ……」

 その余韻に浸る暇もなく、真田は背後へと振り返った。そこにいるだろう、決着をつけるべき相手に向けて――ただ一言、真田は叫ぶ。

「どうしても……撃たなきゃいけなかったのか! 御影!」

 構えた拳銃を下げないまま、この島に降り立ったもう一人の提督は、ただ狙う先を真田へと変えた。

 

 

五.

 

 主砲弾がル級を屠る。その弾着の爆炎を切り裂いた天龍が、連携すら怪しい重巡の胴を切り裂いた。戦況は膠着――いや、攻め込めていない泉浜第一艦隊に、敵増援が取り付きつつある。

 これ以上の数に同航で併走されたら、万一にも勝ち目がなくなる。第一艦隊の艦娘、全員が同じ認識だったが、敵の数を増やさないことで精一杯の状態。そして、確実に蓄積していく疲労。

「おい榛名っ」

 天龍が叫ぶ。榛名の使えない主砲三番の分が手薄になった上空から、敵機が飛び込んで来た。天龍はカバーしようと主砲を放つが――。

「しまったっ……弾切れかよッ」

 主砲が放った最後の弾丸は、狙い違わず数機の敵機を葬る。しかし、空中を飛び回る無数の艦載機は次々と手負いの榛名へと殺到する。どうやら、空母棲姫の狙いは彼女らしい。

 一発、二発。回避行動中の榛名を中心に水柱が立ち、雷跡がその行く手を阻む。ついに一発の爆弾が、榛名の艤装を直撃した。

「いけない、主砲がっ!」

「シィット! 榛名ッ」

「きゃあぁああっ」

 榛名の第一主砲塔が誘爆し、背面の艤装は殆どが消し飛んだ。咄嗟に艤装をパージして直撃を避けたものの、ほぼ丸腰となった榛名。金剛も既に、使用可能な連装砲は残り一基となっている。

 龍田が撃ち落とした敵機が、煙を吐きながら最後の()()()とばかりに突っ込んでくる。丁寧にそれを切り刻んだ天龍は、背後の榛名を気遣った。

「おい榛名、舵は!」

「っ、無事です! 航行に支障なし……盾には、なれますっ」

「バカ言うな! 回避に専念しろ、少しでも引きつけてくれ……金剛、十時方向ォ!」

 天龍の叫びに、金剛は咄嗟の行動に出た。ほぼ倒れ込みながら舵を切る。海面に突いた手を軸にして急制動をかけた金剛のわずか十数センチを、戦艦棲姫の主砲弾がかすめていった。

ダムニット(Damn'it)……!」

 金剛の口から、普段は口にしない粗野な言葉がこぼれ出る。

 危うい回避を決めた金剛だったが、止まっている余裕はない。即座に全速、回避航行に入った背中を、増援の空母から発艦した艦爆が狙う。金剛の三式弾が敵機をくず鉄に変え、荒波を使って跳んだ天龍が投下された爆弾を斬り割った。

 爆発を置き去りに、天龍は舵を切る。

「ええい、雑魚はどいてろォ!」

「天龍ちゃん! 後ろカバーするわ、二時、軽空母!」

「おォ、足下気をつけろ、魚雷来てんぞ!」

 加賀は、少し引いた位置でわずかに唇を噛んだ。

 圧倒的な火力。圧倒的な正確さ。それらに裏打ちされた空母棲姫の操る艦載機たちの戦闘力。必死にF4Fで応戦する加賀は、数と質に勝る空母棲姫に対して航空均衡すら取れないでいる。

 不意に、あざ笑うように、加賀の脳裏へ飛び込んできた言葉。

『フフ……他愛無いのネ。また、()()()のように……沈メテあげまショウか』

 触れたら切れそうな目線を、加賀は声の主へと向けた。戦艦棲姫は、その殺気すらも哄笑で受ける。

『アンマリからかっては駄目。一応、カガはこの後モ使ウノヨ』

 言葉とは裏腹に、空母棲姫の仕草は()()()()()()。高く高く挙げた手を振り下ろす。それは、上げた艦載機たちへの一斉攻撃命令。空を埋めんばかりの敵機が、隊列を乱した泉浜第一艦隊へと襲い掛かる。

「ヘイ、加賀! ちょーっと、マズくないデス?」

「……そうね」

 ()()()()()()

 泉浜第一艦隊の誰もが、飲み込んだその言葉を意識した瞬間だった。

 その海域にいた艦娘も、深海の姫たちも。全員がひとつの感覚を共有した。

「――来る」

 加賀の言葉は、全員が抱いた感覚を端的に表したものだ。()()()()()()。戦場へ割って入ろうとする存在など、今の状況ではひとつしか考えられない。

 人類側の介入。それも、とびきり荒っぽいやり方の。

もう、なんなの(What's the Fxxx)!」

 艦娘たちの疑問に答えるものはいない。いや、正確には回答そのものがあったのだが、誰も気付いていなかった。戦艦姉妹の腕で、()()が自分の居場所を主張し始めていることに。まるで脈打つなにかが動き始め……手招きをするかのごとく。

「早ぇぞ、なんだ……!」

 数キロ先から放たれた、それは……希望の矢だった。

 

 

六.

 

 護衛艦『かんなづき』作戦指揮所。司令官である桂は、突如レーダーに反応した敵艦の群れに対して作戦本部からの命令を待たず動いていた。この大所帯では、どうせ細やかな指示など飛んでこない。

「第一艦隊、突っ込んできた一団は赤城が抑える。大井と北上で一気に潰せ……第二艦隊は対潜警戒、第三は後方警戒に当たれ! 赤城、空母は戦闘機厚めに上げさせろ!」

「やっています」

 刻一刻と増えていく敵艦のサインに、桂は思わずこぼした。

「クソっ、なんて数だ」

 提督を始めとする特海隊員――人間の乗る護衛艦は、通常、戦闘海域の外で艦娘のサポートを行う。通常兵器による攻撃が深海棲艦に通用しないこと、逆に深海棲艦の兵器は護衛艦の装甲など紙のように引き裂いてしまうこと――艦娘だからこそ耐えられる戦闘に、人間の存在は弱点にすらなる。

 そして今回、まさにその状況が発生した。攻略作戦のため艦娘と近い場所に陣取っていた護衛艦群の隊列を食い破るかのように、深海棲艦たちが()()()()()いる。

『桂提督、こちら本部。周囲の各艦に、個別の対応を指示願う』

「こちら桂。敵の進出状況はどうなってます!」

『敵艦多数確認。なおも増加中……各艦隊、防衛ラインを死守! 艦隊戦用意! 第二、第三連合艦隊で弾幕を張り敵艦の侵入を防ぎつつ、第一および第四の連合艦隊は戦闘序列に移行!』

 思ったよりも冷静に事態を掴んでいるらしい本部からの返答。しかし――。

『水上レーダーの反応がおかしい、これが例の妨害とやらか?』

 今さら敵のやり口に混乱するような艦隊がいるかと思えば。

『こっちは空母中心なんだ、今さら対水上戦なんて! こっちに水上部隊を回してくれ!』

 自艦隊の弱点すらカバーできていない艦隊も紛れている。

「発、第四連合艦隊旗艦・かんなづき。あー、敵艦の妨害でよく聞こえません。各艦隊は個別に行動し、事態に対処するように願います。どうぞ」

 そう言いながら、桂は『かんなづき』艦長を始めとするブリッジクルー、そして傍に控えた赤城へと目配せをする。はっきり言ってしまえば、これはもう予想できていた事態だった。

「ただでさえ二艦隊分抱えてクソ忙しいときに、これ以上面倒見てられるか」

 大事の前の小事。桂はとある事情から、今は余所のお守までやっている余裕がなかった。周囲に展開した艦隊も無能ではない。自分の()()が終わるまでは持ちこたえるだろう。

「赤城、本島提督のとこにホットライン繋いでおいてくれ。あそこの五航戦は使える。真田んとこの、水上部隊と組ませちまえ。邀撃艦隊として再編成しろ」

 旧知の提督となら連携もやりやすい。桂の真剣な眼差しに、赤城が頷く。

「了解。すぐ取りかかりま――あら?」

「どうした、変な顔して」

 厳しい表情だった赤城が、不意にインカムから飛び込んで来た()に反応した。それは、呼び出し音。

「提督。至急のお呼び出しです――泉浜の第二艦隊――()()さんからです」

「真田んとこの?」

「はい。ですが、通常の通信ではないようで……」

 先の戦闘で()()、戦線を離脱していた()()からの通信。桂は即座に通信回線を開かせる。この通信がただの風変わりな問い合わせでないことは間違いない。何故なら、桂は知っていた。

「桂だ。待ってたぞ」

『こちら()()です。桂提督、お待たせしました』

「提督……どういうことです?」

 どうやら、自分の提督に隠しごとをされていたらしいと気付いた赤城の問い。桂は申し訳なさそうに片目を瞑ってみせた。赤城はわざとらしく眉をハの字にしてから、マイクに被らないよう息を吐く。

 そんなやり取りをよそに、泉浜の()()は淡々と通信を続けていた。

『こちらの二式偵察機からの座標を送ります。そちらのシステムに直結できますか』

「事前にプロトコルは合わせてある。()()こそ、偵察機の多重中継なんて無茶してるんだ……そっちに集中してくれ。すぐデータは拾ってやる、心配するな。赤城、座標解析とデータ入力頼む」

 通常、艦娘と偵察機は『リンク』と称される繋がりで偵察機からデータや視界を得る。()()がやっているのは、彼女自身を偵察機通信の中継器とすること。偵察機から()()へ、()()から偵察機へ。そして、終端の偵察機から『かんなづき』へ。

 通信妨害が発生している敵泊地を迂回することで実現させた中継通信。

 真田の()()から桂の赤城へ。同じ魂を持つ別の器が、細い糸のような希望を繋ごうとしていた。その情報の中身は――。

「提督……この座標は」

 赤城の手元、タブレット端末に表示されたのは、はるか十数キロ先の洋上に立つピン。少しずつ動くそれが示すものを、彼女は遅れて理解し、息を呑む。()()が伝えた座標は、泉浜第一艦隊の現在位置。

「ああ。泉浜第一艦隊と、今回の本命だろう」

『空母棲姫級、戦艦棲姫級……それに、有象無象の深海棲艦。戦況は最悪です』

「だろうな。俺の記憶が正しければ、こいつらは……半年前、真田の鎮守府を襲ったのと同型の艦だ。事件の特殊性を考えれば、ひょっとしたら同じやつって可能性もある」

『私は当時着任していませんが……その可能性が高いと考えます』

 ノーマルレーダーの感知範囲外、確かに存在するターゲット。桂と赤城は、画面表示の上ではただの点でしかない情報ながら、()()の緊張を読み取っていた。彼女は、今まさに()()()()のだ。第一艦隊が傷付き、苦戦している様を。見えているのに、今は何もできない。赤城は()()の歯がゆさを思いやり、同じ貌の自分(あかぎ)がどんな表情をしているか想像しようとしたが、凜とした()()の通信に()()とした。

『このあと、()()および隼鷹、不知火は援護に向かいます。至急、作戦を開始して下さい』

「任せておけ」

『ありがとうございます。私の()()は数分が限界ですが……あとのことは、お願いします』

 通信、終わり。その一言すら惜しいとばかりに、()()からの連絡は打ち切られた。

「さぁて、赤城。こっちもひと仕事始めようか。泉浜の連中を援護するぞ」

 腕をまくる桂。しかし彼の意気込みとは対照的な表情を赤城は見せる。この提督は、一体何を言っているのか、と。

「ですが今から援護を飛ばしても、恐らく泉浜第一艦隊は持ちません。どうやって援護を……」

 護衛艦に申し訳程度搭載されている、ミサイルを始めとする通常兵器は深海棲艦に効かず、援護にはなり得ない。しかし艦娘の援護は今からでは間に合わない。では、どうすれば――。

 ふと、赤城は気付く。自分たちの乗る護衛艦『かんなづき』には、とある実験兵器が搭載されていることに。打撃を与えるのではなく、()()()()()()ことができるものが。

「提督。この情報が、あなたのところに託されたのは……あれがあるからですね?」

 確信に近い赤城の問いに、桂は、にぃ、と笑ってみせた。

「『ジャーヴィス、準備できてるな?』だな」

「は?」

「二回言わすな。映画好きの真田がそう言ったんだ」

 珍妙な単語に赤城の眉根が寄るが桂は気にしていない。赤城も手は止めていない。すべては、彼らの仕事に作戦の成否が掛かっていることを理解しているからだ。提督の無言の心意気はクルーに伝わり、『かんなづき』のCICは緊張と高揚に包まれた。

 張り詰めた空気の中、桂は赤城に最後の問いかけをした。

「おい赤城。座標入力は完了したか」

「問題ありません――発射準備に入ります」

 コンソールに()()を設定し終えた赤城を横目に、桂は護衛艦の艦長へと呼びかける。

「艦長、こちら桂。例のやつ、準備はどうか」

『座標までの障害物なし、風向き問題なし。行けます。ただし、周囲の状況がやや不安定です』

「それは本島提督の艦隊にカバーしてもらう。何しろ、しばらく動きが止まるからな」

『了解。回頭と微調整に三分――いや、二分待って下さい』

 予想以上の早さで動き始めた事態に、桂は真田から出撃直前に受けた連絡を今さら思い出していた。

 ――黙って、お前のとこで試験してる大型レールガンを使わせてくれ。なに、ただ()()を送るだけだ。

 どこから聞いた、と言うことも忘れて、桂はただ頷いた。真田が寄越した秘話通信回線のコード……その意味するところに気付いたからだ。

 コードは昔遊んだ公園の秘密基地に二人で付けた名前。つまり――『誰にも話すな、二人の秘密』。

 どうやら真田が踏み込んだ()()はかなり根深いらしい。桂は直情的だが、バカではない。あちこちに黙って仕込みをしているということは、真田がある意味で孤立しているという状況を示していた。

 それは単独行動を強いられるというだけでなく、特殊な今作戦の中で、という意味も含む。

「待ってろよ、真田。俺特製、とびっきりの()()()()、お前の艦隊に届けてやるからな」

 その時、艦内に警報が鳴り響く。

『桂提督、発射準備完了。いつでも行けます』

 飛び込んだ艦長の通信に、桂は手元の通信機に叫んだ。

「全艦に達する。こちら桂だ。これより本艦は甲板設置の試製電磁加速砲の発射シークエンスに入る。蓄電状況は充分だが、試験でも一度発生してるからな……総員、発射に伴うブラックアウトを警戒せよ」

 桂の乗る『かんなづき』の艦橋には、超大型のレールガンが装備されている。本来は投射兵器として開発されたものだが、通常兵器の効かない深海棲艦の出現によって別の用途が模索された。

 すなわち、戦闘海域()からの物資運搬。

「――前線で孤立した艦隊へ補給したいとなれば、確かにコイツしか()ぇな」

 すっかり発射準備を終えた赤城が、桂を見上げた。

「既存の巡航ミサイルでは、深海棲艦の勢力圏内で失探・無効化してしまう……その点、超高速で飛翔する実体弾ならば、座標設定を誤らない限り、間違いなく目標へ向けて飛んでいく……乱暴、ですね」

「手口は乱暴だが、仕込みは別だ。なにしろ真田は、パッキング方法まで指定して来やがったからな」

「パッキング?」

「ああ。中には()()()が組み込んである」

 桂の言う二段目とは、ロケットのことか。そんな赤城の疑問は、発射シークエンスのカウントダウン開始にかき消された。淡々と30秒から開始されたカウントは、見る見るうちに数字を減じていく。

「赤城、もう一度対空警戒を呼びかけろ。場合によっちゃ、お前も出てくれ」

「了解しました――提督?」

「あん?」

「帰ったら、美味しいもの……また、作って下さいね」

 きょとんと目を瞬かせた桂。その表情に、どうしてそんなことを考えたのか、赤城は自問自答する。

(ああ――そうか。きっと、そうね)

 真田提督がこの作戦で果たそうとしている、加賀の奪還。人と(ふね)という垣根など無いかのようなあの二人が、赤城にとっては羨ましくもあり――。

(私もそうなれるかしら。()と……)

 赤城の抱いた想いを載せたかどうかは知らない()()が、『かんなづき』の船体を激しく揺らした。

 

 

七.

 

「アラ……お客様カシラ」

 空母棲姫は瞬間、はるか数キロ先からの()()()を捉えた。それが例え何であっても、深海棲艦である自分たちを傷付けることは適わない。しかし、用心に越したことはない。

「無駄なコトをするノネ……」

 正確に飛来した()()を、空母棲姫はあっさり大型艤装の片手で受け止める。まるで弾丸のような形をした『届け物』は、その一撃でぐにゃりとひしゃげ、四散する。

 しかし、その物体は煙幕を張るでもない。爆発もしない。攻撃を意図したものならば、破壊した瞬間なにかしらの反応があってもいいはずだった。

 いや、正確には、一瞬遅れて、反応はあったのだ。

「……ッ?」

 空母棲姫が抱いた一瞬の違和感……その正体を把握する前。破片に混じって飛び出したものがある。それは付近で回避行動を取っていた金剛、そして彼女が庇う榛名をまっすぐに目指す。

 その物体が目指していたのは、二人の身につけた時計だった。

 まるで、時計が()()を呼び寄せるように。

「何だッ……こっちに来やがる、避けろ金剛ォ!」

 傷付いたふたりは、悲鳴を上げる間もなく、落下物の直撃を受けた。衝撃で発生した、まるで墓標のように伸びる巨大な水柱。それを見上げた誰もが、目の前の事態を把握できないでいた。

 果たして今飛んできたものはなんだ。

 続く敵の攻撃の合間を縫って航行しながら、加賀たちは声を聞く。

 断末魔ではない。それは、爆発的な――『希望』だった。

「バアアァァニングッ……」

 金剛が吠える。

「ラァアアアァブ!」

 水柱を割って現れた金剛。その身に纏う艤装は、消し炭のようになった金剛型艤装ではない。

金剛の艤装が、替わっていた。

 背面にマウントする直線的な構造ではなく、左右を護る腕のように伸びている。中でも特徴的なのは、巨大なバルジ……いや、()のような外殻。金剛の名にふさわしい堅牢な艤装。

 金剛型改二特別仕様艤装(Advanced Garment-Prototype)、壱式『インドラ』。

「勝利を……榛名の……ッ」

 榛名が叫ぶ。

「真田提督にッ!」

 金剛に遅れて現れた榛名。消し飛んだ艤装から、金剛同様の新たな艤装へ。しかし、金剛とは大きく異なっている部分がある。

「……て、手かァ? ありゃあ」

 天龍の疑問が示す通りに、そこには巨大な『拳』があった。金剛の艤装では盾状になっていた部分。装甲がまるで拳のように展開し、艤装と一体となって動く様は、まさに第二の腕。

 金剛型改二特別仕様艤装、参式『ヴァルナ』。

 真田はとある伝手を頼り、まだ試作段階にあったこの艤装(AGP)を改二未改装である金剛たち向けに調整、届けられるよう手配していた。さる提督との縁が、この無茶を可能にした。

 そして、夕張が行っていた、艤装の遠隔着脱システムの実験。成功していなかったのは、艤装を現地まで届けた上で艦娘に取り付ける運用の部分。要求される細かい装着シークエンスが、現地輸送に使用していたジェット推進では難しく、かといって繊細な動きが可能な方法では現地に到着するまでに撃墜されてしまう。今回、パッキング方式にしたことが成功の要因だった。

 もちろん支援がなんらかの要因で失敗する可能性も高かった。しかし真っ先に敵地で陥る状況、燃料弾薬の枯渇や艤装の破損を考慮した上で、真田は手配してくれた友人……そして部下の艦娘を信じた。信じて、打てる限りの手を打っていた。

 その結果が今、泉浜第一艦隊を救った。

「ヘイ榛名! テートクをナチュラルに自分のにしちゃ、ノーなんだから」

 金剛は艤装の盾状のパーツを器用に使い、敵機の急降下爆撃を()()()()()。傷も付かない堅牢さに、金剛は不敵に笑い、空母棲姫は苦々しく唇を結ぶ。

 至近から主砲を放とうとしたル級を、金剛の()が殴りつけた。

 一方で艤装の手のひらへもう片方の握りこぶしをぶつけ、榛名は気合いを入れた。

 そう、まるで武道家のように。

「榛名は、怒っています。榛名の提督を傷付けた、この人たちに……それと、苦戦していた自分に!」

 戦場に響く金属音。まるで左右に()()()()()が取り付いたかのようなシルエット。それはまさに……対峙している戦艦棲姫と鏡映しのようだった。

 戦艦棲姫と榛名の目線が合わさり、榛名が吼える。

「あなたは、榛名が潰します……!」

「ウゥン、マイシスターはスルーが上手ネー。ッ……加賀、キャッチプリーズ!」

「! ……これは、まさか」

 降り注ぐ機銃、一瞬を縫って金剛から加賀に手渡されたのは、見慣れない艦上攻撃機の矢と――。

「提督、あなたは……」

 真田がそれを覚えていたことに、加賀は胸の奥で熱を覚えた。

 加賀の手に渡されたのは、対艦薙刀。天龍型龍田の使用するものと同型。

 かつて加賀は真田にこう言った。『自分は艦載機の載せ替え以外で、これ以上強くはなれない』と。その考えを否定された加賀が出した結論は、空母としての強さと併せて……艦娘としての能力を底上げする以外にないというもの。

「あらぁ。なかなか気が利いてるじゃない、真田クン」

「ええ……本当に、変わっていないのね……」

「ふふ。今さらよ、加賀ちゃん」

 薙刀の扱いを加賀に教え、鍛え上げたのは龍田。艦載機を失った空母が最後に頼るものは己の体のみ。だったら、より直接的に相手を倒す術があったほうがいい。相手を切り裂き、貫き、倒す力。

 真田は加賀の努力を見ていた。半年前のあの日、手渡すことの出来なかった力――真田は、半年間の後悔を、今回の作戦に全力でぶつけている。そうでなくては、半年前に失われた命に、そして、加賀に顔向けできないとばかりに。

「天龍さん、龍田さんッ! 私のほうにも、これが! 受け取って下さい!」

 榛名の『腕』から二人に、補給用の弾薬カートリッジと得物が投げ渡される。刃こぼれした対艦刀を鞘へ納めた天龍は、手にした得物にこみ上げる笑いを隠せない。

 回避行動に移りつつ、乱暴な洋上補給によって泉浜第一艦隊は力を取り戻していく。

「……へへッ、そう来なくっちゃな」

「やっぱり、使い慣れたのが一番よね」

 補給できたとは言え少量。弾薬・燃料の残りはたかが知れている。

 それでも。

「……私たちに希望を繋げてくれた人たちのためにも、ここは譲れません」

「フフン。パーティータイム、始めちゃうんだカラ!」

「榛名ァ! 俺が援護する、戦艦ヤローをぶっ倒すぜ!」

「言われなくてもッ! 榛名は、必ず倒しますッ!」

「加賀ちゃん、露払いはよろしくね」

 加賀の放った一筋の()()と共に、泉浜第一艦隊は、最後の勝負に出た。

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