「朝ね」
マーヤは、そう呟きながら、ベットから起き上がる。
周囲を見ても、いつもと変わらない光景。
彼女にとって、変わらない部屋の光景。
それと共に、彼女はすぐに朝の支度をしていた。
それは、生まれてからずっと変わらない彼女の日常だった。
そして、マーヤはリビングに降りる。
「おはよう、父さん」
そう、穏やかな笑みと共にリビングに入る。
「やぁ、おはようマーヤ」
そんなリビングで、マーヤを出迎えたのは壮年の男性。
白いYシャツを身に纏っており、穏やかに紳士的な印象を受ける男性だ。
「さぁ、朝ご飯が出来ているよ」
「ふふっ、いつもありがとう、父さん」
そんな父にお礼を言いつつ、食卓に着く。
そこには、パンとサラダ、スープといった一般的な食事が用意されていた。
そして、食卓に座ると共に。
「「頂きます」」
マーヤと父は声を合わせて、食事を始めていた。
また、母がいない分、家事全般をこなしてくれていたりもする。
マーヤにとっては優しい父親であった。
しかし、そんな優しい父親の顔に対して、マーヤは。
(なんでしょうか、この違和感は)
この穏やかな日常で、何かの違和感。それが何なのか、わからない。
「マーヤ、今日はどんな予定だったかい?」
「もぅ、父さん、忘れたの? 私は今日は大学で授業を受けるのよ」
「そうだったね、けど、気をつけるんだよ、ノイズもそうだが、怪しい奴らには特に」
「えぇ、勿論」
父と娘の会話。普通の親子の会話。
だけど、やはり、何かが違う。
(……いえ、これはきっと私がおかしいだけでしょう)
違和感を覚えつつも、マーヤはそれを頭の中で否定していた。
だって、こんなにも優しくて頼れる父親がいて、自分がおかしくなるはずがないのだ。
だから、これは自分の勘違いなのだと。
だが、それでも…… その日は何故か、落ち着かなかった。
それは、大学の授業中も同じであり、講義の内容があまり頭に入らない。
そして、そのせいか、教授からは注意を受けてしまう始末である。
「私、こんな感じだったんでしょうか」
そう、大学からの帰り道も、違和感を感じていた。まるで、自分は自分ではないような感覚。
けれど、それでも、記憶だけはしっかりとある。
マーヤという少女の記憶だけが。
(……どうして?)
何故だろうか。いや、本当にどうしてなのだろう。
確かに、今のマーヤにとって、ここは知らない世界ではある。
しかし、それでも知っていることは多いはずだ。
なのに、思い出せないことがある。
(……でも、今は考える必要もないですね)
そう思っていた。
「お前、マーヤだな」
「えっ?」
そんな帰り道に、見覚えのない集団がいた。
帽子で目元を隠しており、その素生がまるで見えない。そんな集団に囲まれてしまったのだ。
「貴方達は、一体」
「お前達のせいで、消された者達の恨みを晴らす者だ」
「えっ」
それと同時に、彼らはその腰に何かを巻いていた。
「「「執行」」」
その言葉を合図に、彼らの姿は変わる。
黒い仮面に身に纏っており、まるで兵士を思わせるスーツ。
「一体、何を」
「お前に罰を与え、大切な人を取り戻す」
それと共に、マーヤに襲い掛かろうとする。
「嫌っ」
マーヤはすぐに、その場を逃げ出す。しかし、相手の方が足が速くすぐに追いつかれそうになる。
逃げないと、殺されてしまうかもしれない。そんな恐怖から必死に逃げようとする。
だが、そんなマーヤは恐怖で頭がいっぱいになっていたため、周りが見えていなかった。
そのため、人とぶつかる。
ドンッ! と鈍い音が響く。同時にマーヤはその衝撃で倒れてしまい、地面に倒れこむ。
そして、そのぶつかった相手が、こちらを見下ろしていることに気づく。
そこには、先程の人物達と同じ姿だった。
「逃げられると思うな、大罪人が」
「大罪人ってっ」
そのまま、マーヤに銃口を向ける。
その瞬間であった。
その人物は吹き飛ばされた。
それは、1人の人物によって。
「えっ」
その人物は、マーヤにとって、見覚えのある人物だった。
「父さん」
「無事で良かった、マーヤ」
そう、マーヤを心配そうに見つめる父。
そのまま父は、前に出る。
「貴様、邪魔をするな!」
「我々には、そいつを殺す責務がある!」
「天誅騎士団として」
そう、彼らは叫ぶ。
「黙れ、お前達など、奴の手駒に過ぎないだろう」
そう言った父の声は、マーヤの知らない冷たい声だった。
「何を言っている! あの方に従えば、ネクロムの杖で、蘇らせるっ」
「願いが叶う!」
「……そのような願いは叶わない。なぜならば」
同時に、父はゆっくりと構える。
「ここで、私に消されるから」『VISIONDRIVER』
父が懐から取り出した物。
それを腰に巻くと、そのまま指をそのドライバーに読み込ませる。
『GLARE, LOG IN』
システムの起動を確認すると共に、そのまま父は、ドライバーにカードをスキャンする。
「変身」『INSTALL』
その音声と同時だった。
『DOMINATE A SYSTEM, GLARE』
赤のラインが施された黒い装甲を纏う。
その不気味な雰囲気は、マーヤの中にある父の人物像からは想像出来ない。
だけど。
「なんだ、この違和感」
まるで、それが違和感の正体のように、グレアの姿を見て、マーヤはどこか納得している自分がいた。