最強の妖怪に興味はありますか? 作:匿名:名無し
書きたくなったので。
「暑いぃ〜……」「暑いでうぃす〜……」
蒸し風呂のような状態になっている部屋に、ケータは思わず愚痴をこぼしていた。
「ニャッハハ、扇風機は涼しくていいにゃん〜」
「ちょっと! ジバニャンばっかり使ってズルいよ!」
「そうですよ! こっちはこんなに苦労してるのに、このジバ野郎……!!」
「今なんて言ったにゃんか……?」
「じょ、冗談ですよジバニャンさん〜」
「……あ」「……」
「あっ、逃げるなにゃん! 待つにゃん!!」
「ひぇ〜お助けを──!!」
「あ〜扇風機涼しい〜」
いつも通りに過ごすケータ達。
しかし次の瞬間、辺りに鈍重な気配が漂う。
ケータ、ウィスパー、そして鈍感なジバニャンですら、この強大な力の気配を感じ取っていた。
「ねぇウィスパー、今の何?」
「さぁ、私にもさっぱり……」
「そ、そんな心配しなくてもきっと大丈夫にゃんよ……多分」
「そうかな〜……」
紅色の空に、鳴くカラスの声。
あるひとりの少年が、家の鍵を開ける。
「ただいまー……って、誰もいないんだけどね」
玄関を開けながら、誰もいない家の中に向かって言った。
今日から始まる夏休みに、心を踊らせながら家に帰ってきた小学5年生の男の子──蒼月ノア。
彼は急いで荷物を持って、二階へと続く階段を足早に駆け上がり、自分の部屋へと向かう。
ドアを開けると、部屋の中は既に薄暗い。
いつも通りに電気をつけるノア。
すると、暗闇が晴れた部屋の中には
なんだ──? と思いながら、いつも通りの場所にランドセルを置き、"彼"の前に立つ。
普通の人なら、この異常な事態に気がつくはずだ。
この時点で叫び声をあげたり、恐怖のあまり失神するか、相応の反応をするだろう。
話は変わるが、この家─蒼月ノアの家には、他の家とは違うある特徴があった。
この家には一種の呪いのようなものがかけられており、ノアが家へと帰ると、様々な怪奇現象……ポルターガイストがよく起こるのである。普通は気味が悪くてまず耐えられないであろう。
しかし、ノアは違った。ノアはそういうものを見ても、そういうことが起こっても全く怖がらない、最強のメンタルの持ち主であった。
そう、彼はその四六時中起こる怪奇現象に耐え続けた猛者なのだ。
そんな歴戦の者にとって部屋に不審人物がいることなど、全くもって驚異ではなかったのだ!!
部屋の真ん中にいる人物(?)はとても美少年で正座をしていて、彼の右手には刀の入った鞘が置かれていた。
服装は、武士。胸元が空いており、赤い袴や羽織を着ていた。とても背が高く、180cmはありそうだ。
とりあえず、相手が正座しているので、自分もと彼の前に正座をするノア。
すると相手が準備OKと悟ったのか、彼が重い口を開く。
「俺の負けだ……っ!」
──?
?????
「説明が遅れた。俺の名前は"山本五郎左衛門"、魔王……ではもうなくなったのだったな。ただの驚かせ好きな妖怪だ」
キュッ、と唇を結びながら、神妙な顔で彼は話し出した。
「山本五郎左衛門さん……って、長いな。山本さん、貴方は妖怪? なんですか……?」
「さっそく我が名前を省略とは、やはり肝が据わっているなぁ! いいだろう、許そう!
……ってちがぁう! それ以前に、俺がここに居ることに疑問は持たないのか!?」
「いや別に。この家で起きる怪奇現象よりはマシだしね」
「あぁ、そりゃあそうか……何かゴメンな……。
っと、話を戻そう。俺は魔王と呼ばれる存在なのだが、もう一人この世界には『神野悪五郎』という魔王がいてな……」
「と、だからちょっと待ってください。その前に貴方は妖怪、なんですよね?」
「あぁすまんすまん、質問されたことを忘れていた。ついこの間復活したばかりだが、妖怪だ」
「そんなの、ほんとにいるんですね……」
「現に目の前に居るだろ?」
「世界がいろいろ変わってて困惑してません?」
「そりゃあ困惑したさ……。夜なのに日があるみたいに明るいし、皆昔より怖がってくれなくなったし……」
「苦労してるんですね、妖怪も」
「あぁ、いっその事復活しないままでも良かったかもしれないとも思っているぐらいだ……。
って、だからちがぁう!!! 愚痴を聞いてもらうに来たわけじゃない!」
「え? 違うんですか?」
「おかしいだろ! わざわざ気配を消してこそこそとこんなところまで来てすることが愚痴を言うって!」
(この人……じゃなくて妖怪面白いな)
「……それじゃ、今度こそ真面目な質問を。魔王って、そんなに何体もいるものなんですか?」
「いっぱいいる訳では無いがいるな。まぁ魔王って言っても勝手に名乗ってるだけのやつもいるし。
俺と悪五郎の場合は別の奴らがそう言い始めたから、魔王になっているだけだ。俺はあまり魔王という言葉は好きじゃないんだが、悪五郎は気に入っていていた」
結構いるならそこまで凄くないのでは……? というツッコミをしたいのをなんとか抑え、新たな質問をするノア。
どうやら山本さんはツッコミモードとポンコツモードの2パターンを持っているようだ。
「それで、俺の事を敵視している悪五郎が、魔王の肩書きを自分だけのものにしたいと言い始めたんだ」
「山本さんが魔王の肩書きが要らないんなら、魔王を降りればいいんじゃ?」
「そうしようとしたんだが、それじゃ悪五郎が納得いかないと。そこで、魔王の座をかけたある勝負をしようということになった」
「あーなるほど。それで貴方は私のせいでそのゲームに負けたと」
「そういうことだが……先読みしてネタバレしないで欲しいな。こっちも話の流れとか考えてるわけで……」
話を聞き流しながら正座をしていたノアは、ふっと昨日までのことを思い出す。
「そういえば、昨日まで起こっていた怪奇現象が今日は起こってない?」
「お! よく気がついたな! 実は何を隠そう、その怪奇現象の仕業はこの俺だぁ!」
急に立ち上がり、じゃじゃーん! とばかりに胸に手を当て誇らしそうにする山本さん。
美少年のする自意識過剰は、とても需要がある。
「足、痺れてません?」
「え? ……っあ! いっててて!」
ほーら言わんこっちゃない。
「怪奇現象が貴方の仕業なら、その勝負とやらに関係があるんでしょう?」
「そうっ、その通り……!
日本の人間100人を先に驚かせた方が勝ち、という単純明快な勝負だ……っ!」
痺れている足を必死におさえながら、丸まった姿勢で回答をする山本さん。
そんな山本さんを軽蔑した目で見ながら、もう一つ質問をする。
「っていうか、魔王降りたいならわざと負ければいいのでは?」
「いや、勝負には真面目に取り組まないとだろ」
いやそんな丸まった無様な姿のまま言われても説得力の欠けらも無いぞ。
「まぁ、経緯は分かりました。それで、僕になんの用があってここに来たんですか?
負けた腹いせに僕をボコボコにしよう、とか?」
「いやそんな理性をかなぐり捨てたようなことはしないぞ!?
お前を讃えに来たというのに、全く……」
「あ、讃えに来たんですか。でも結構です。別に讃えられても、腹の足しにもなりませんし受けられる恩恵もありませんしね」
「ほぉ……言うじゃないか。せっかくこの小槌をお前にやろうと持ってきたのに、これじゃあげられないなぁ」
そう言いながら山本さんは懐から小槌を取り出す。
妖怪が持っているということは、何かしら特殊な能力がついているはずだ。
「で、でもやっぱり!? どうしてもというなら、讃えてくれてもいいんですよ!?」
「最初からそうやって素直にしていればいいんだよ
ほら、大切にしろよ?」
そう言いながら小槌を僕に差し出す山本さん。
それは大きくもなく小さくもない、見た目だけなら至って普通な小槌だった。
「……お金取ったりしませんよね? 「しねぇよ」……いや、これが何の変哲もないただの小槌で、あなたを騙してみましたーっていう怪奇現象だったり……」
「だとしたら幼稚すぎるだろ! はぁ……その小槌は俺の手製、振れば俺がいつでも助けに参上してやろう」
それじゃあな、と言い、窓を開けてベランダから外へと出ようとする山本さん。
何かほかに罠はないかと粗探しをするために顔を下に向けていた僕は、その言葉に驚いて急いで顔を上げる。
「え? ちょっと待ってくださいよ!」
「なんだ? もう用件は済んだし、俺は帰るぞ」
「いや、どうせ勝負に負けて暇なんでしょうし、もっと話しましょうよ」
「暇って言うな! 暇って! ……はぁ、なんで俺はこんな奴に負けたんだか……」
「あっ、ちょっと! あぁ〜あ、行っちゃった……」
飛んでいく山本さんの背中を見ながら、ポツリとつぶやく。
突然に辺りを覆う静寂。さっきまでの非日常が、まるで嘘のようだ。
(夢でも見ていたのかな……?)
そう思うノアだが、手元には何の変哲もない小槌が残っている。それは、さっきまで起こっていたことが事実であることを裏付けていた。
怪奇現象が起こらない部屋で、ノアはただ一人呆然と佇むのであった。