最強の妖怪に興味はありますか? 作:匿名:名無し
「ここかっ!?」
「そんな所にあるわけないダニ! ちゃんと探すダニ!」
そう言いながら、投げ捨てられているゴミ袋を持ち上げているイナホさん。ウォッチを探す気があるのだろうか。
僕が今いるのは、アオバハラのメイドカフェの横にある路地裏だ。
目の前ではイナホさんとUSAピョンによるコントのようなやり取りが行われている。
何故こんなことになっているのか。
それは今から30分ほど前に遡る……。
「ここが、イナウサ不思議探偵社か……」
山本さんに出会ったあの日。
確かにあの日から僕の家の怪奇現象は全く起こらなくなった。
山本さんの言う通り、本当に彼の仕業だったのだろう。
しかし、何か腑に落ちない。あの日起こったことが全然飲み込めていないのだ。
ベットに入っても、気持ち悪いぐらい静かな家に違和感を感じる。
小槌を振っても、全く山本さんは来ない。
助けに来るんじゃなかったのか?
とにかく俺は、あの日から困っていたのだ。
そして今、僕はアオバハラにある探偵社……イナウサ不思議探偵社に来ていた。
インターネットの情報によると、どんなことも解決してくれるのだとか……。
それを見た僕は、この前家に来た山本五郎左衛門、山本さんのことについて相談しようとわざわざアオバハラにまで来たのだった。小槌も持ってきている。
「すみませーん、電話でご相談させてもらったノアなのですが……」
探偵社のドアを開きながら言う僕に、目に入っていたのは……小学生の女の子の姿だけだった。
「ちわっち! ささっ、どうぞ座って下さい!」
さぁて、唯一あった希望が早速消えそうだ……。
「改めまして、この探偵社を運営している未空イナホであります! それじゃ早速、依頼の内容をお願いしまーす!」
「え、あはい」
僕はとりあえず事の顛末を全て話した。
家で怪奇現象が度々起こっていたこと……山本五郎左衛門のこと……そして小槌のこと……
「なるほど、なるほど……。USAピョン、山本五郎左衛門って?」
僕が全部話終えると、探偵社の人……未空イナホさんが何も無いところに話しかけていた。
もしかしてこの人結構危ない?
話しかけた後も「えー! 何にも分かんないの!? これだからウチの小動物は……」と言ったと思ったら、今度は急に走り出して「わー! ごめんごめん謝るからー!」と何かから逃げていたり……。
「ちょ〜っとこっちの事情で取り乱しちゃいましたね、すみません」
「……」
一旦落ち着いたのか、座り直したイナホさんは謝ってきた。大丈夫なのか、ここ。
「それでこの件について、早速調査したい所なんですが……」
「ですが?」
「いやぁちょっとこっちの都合で、調査ができないというか……妖怪ウォッチがないというかなんというか……」
「え? ……ちょ、調査出来ないんですか!?」
「わざわざ来てもらったのに申し訳ない!」
新事実! 調査した結果何も分からなかったとかではなく、そもそも調査出来ない!!
なら何故電話の時点で対応したんだ、イナホさんよ!
色々つっこみたい所だが、それよりも僕はイナホさんのある言葉が気になっていた。
「……ん? もう一つの"妖怪ウォッチ"がないってなんですか?」
「え? あぁえぇ〜っと、それはですね……」
先程からしばしば見受けられるイナホさんの奇行。何も無いところに話したり逃げたり。
そして山本さんが自己紹介の時に話していた、"魔王"と"妖怪"……『妖怪』?
僕は何か言おうと悩んでいるイナホさんに対して、一つの疑問を投げかける。それは、かなり無作法な質問だった。
「もしかして、見えてます? 『妖怪』のこと」
「!!? な、ななな何のことでしょうかね!!」
あぁ、図星だこれ。こんな分かりやすいものなんだ。
「僕言いましたっけ? その山本五郎左衛門さんと話したとき、彼が『俺は妖怪だ!』って言ってたこと……
何なら、今からこの小槌で呼び出すこともできますよ?」
「くっ……こうなったら、USAピョン! ちょっと妖怪オシラセッター使わせて!」
無の空間から何かをひったくると、手には謎のiPadのような何かが。
何をしてくるつもりだ?
すると、突然イナホさんがメガネをキラリと光らせてこちらに向かって叫ぶ。
「喰らえっ!!」
「うっ!!」
叫び声に驚きながらイナホさんの手元を見てみると、謎のiPadが光を纏っていた。
そしてその光は僕の方へと勢いよく向かって来る。
避けよう! とも思ったが、時すでに遅し。
あまりに突然の出来事に体は反応せず、僕は光に包まれたのであった。
せめてもの抵抗として顔を覆っていた腕を恐る恐る降ろすと、そこにはイナホさんと……"黄色い宇宙服を着たウサギ"のような小動物がいた。
僕が呆然とその小動物を見つめていると、"それ"もこちらの視線に気づいたのか目が合ってしまう。
そして小動物はイナホさんと僕を交互に見ると、完全に姿が見えていると悟ったのか、
「テメー何考えてるダニ!?」
と呆れたような、とても驚愕の表情でイナホさんに対して怒っていた。
「いやーよつめの力を使ったら妖怪が見えるようになるかなーって……」
「そういうことを聞いたんじゃないダニ! どーしてノアに妖怪の姿が見えるようにしたんダニ!?」
「こ、これが『妖怪』……?」
妖怪と呼ぶにはおこがましいほどデフォルメされている姿をしているそれは、イナホさんとまるで友達のような、当然のように口論をしていた。
「だいじょぶだいじょぶ! ……」
イナホさんが小動物に対してなだめるように言うと、突然空気の流れが変わる。
イナホさんのメガネがキラリと光ると、おもむろにどこから出てきたか分からないメダルを上に弾き、噛み締めるように言う。正直、"かっこいい"。
「私の友達、出てこい忘れん坊! 妖怪メダルセットオ……」
そこまで言いかけると、突然イナホさんが固まる。見ると、キャッチしたメダルが左手首の上にあるまま止まっていた。
「イナホ……妖怪ウォッチが無いから呼び出せないダニよ」
刹那。あたりが静寂に包まれる。永遠のように感じられる一瞬をぶち壊したのは、イナホさんの叫び声だった。
「あぁー!! すっかり忘れてた!? どうしよどうしよ!!」
「もしかして妖怪ウォッチが無いこと忘れてて、わざとノアに妖怪見せてから忘れん坊を呼び出して忘れさせようとした訳じゃないダニよね!?」
「その通りだよUSAピョンー!」
「テメー何してくれてるダニか!?」
「えーっと…これもしかして僕ヤバい?」
「もしかしなくともヤーバいですぞノアさん!」
「もっと危機感を持てダニ!」
さっきまでのイナホさんの姿をかっこいいと思ってしまった自分を殴りたい。
「…ということなんですなぁ」
「全く、これだからイナホはダメなんダニ…」
「いやぁ、お恥ずかしい…」
あれから15分後。妖魔界のこと、その他もろもろのことについて全て話してもらった。
どうやらイナホさんは僕に妖怪を見せた後、ある妖怪の力で忘れさせようとしたらしい。が、妖怪ウォッチが無いことを忘れていて計画が失敗したらしい。
妖怪ウォッチとは、この人間界と妖魔界を繋ぐ橋渡し的なやつらしく、そこに妖怪と友達になると貰える『妖怪メダル』なるものをセットすることで妖怪を呼び出したり、妖怪をサーチしたりなどの機能が付いているウォッチらしいのだが…それをうっかりイナホさんは無くしてしまったらしい。
こんな重要なアイテムはイナホさんが持つべきじゃないのでは…?とも思ったが、妖怪ウォッチをイナホさんに渡したのはこの小動物らしい。
そうそう、この黄色い特徴的な宇宙服を被った小動物は妖怪の一種(といっても海外の妖怪(?))らしく、名前をUSAピョンと言う。なんの捻りもない面白くない名前だ。
それを言ったら山本五郎左衛門も人間と遜色ない名前だから一緒なのだが…どうやら妖怪の名前をつけている人はセンスが地獄の底レベルに低いらしい。実際にいるのは天界だが。
「それで…どうするんですか?僕が知っていい情報じゃ無さそうですが」
「もうここまで来たら仕方がないダニ。イナホはともかくノアは何も悪くないダニ。妖怪オシラセッターで忘れん坊のアカウント見たダニが…」
そう言いながら、手元のiPadもとい妖怪パッドを見せてくる。そこには
『妖魔界のリゾートに来ています!嫌なことを忘れられそうです〜』
とサングラスをしながらビーチでパラソルの下でジュースを優雅に飲む緑色の帽子のバケモノの姿が。これが忘れん坊という妖怪らしい。
「ということで、呼び出すことはおろか、よつめみたいに妖力を妖怪パッドで送ってもらうことも出来ないダニ」
「よーし、妖怪ウォッチ探すぞー♪」
「テメー何呑気にしてるダニ!?」
「いやさ、もう過ぎたことじゃん?どうにもならないことじゃん?だからどうせならこれからのこと考えた方がいいかなーって」
「ユーのせいで苦労してるんダニからね!?」
そうUSAピョンが言うと、イナホさんは「はぁ〜」と深いため息をつく。まるで「何も分かっていないな」とでも言うように。
「いやなんかさぁ〜?こう他人のミスをクドクドずっと言ってるのとか、やっぱり人間のこと何にも理解してないというかなんというか…。所詮小動物というか…」
さっきまでいいツッコミをしていたUSAピョンが何も言わないので、気になってUSAピョンの方を見ると、プルプル震えながら宇宙服のヘルメットの横にあるボタンに手を伸ばし、そして…押した。
『"ベイダーモード"』
唐突なナレーターのような声に驚く僕。
何が何だか分からず後ろのイナホさんの方を見ると、イナホさんは勘づいたのか覚悟を決めたような、ただ恐れているだけなのか分からない表情をしていた。
そして、背後から聞こえる『スチャッ』という、よくアニメ等で見る銃を構える時にする音に僕は気がつく。
急いで前に向き直すと、そこにはヘルメットに映っていた小動物の顔が、真っ黒に赤い目があるだけという正に『妖怪』に相応しい顔をしているUSAピョンがいた。
手には銃を持っており、さっきの音の正体はこれだろう。
次の瞬間、USAピョンは手を持っている銃を"乱射"しはじめた。
…え?
「わー!勘弁勘弁ーー!?」
「いやなんで僕までーー?!」
USAピョンから逃げている途中、僕は思ったことがある。
このコンビ、相性がいい…!