かますぜハッタリ!! 作:美味しい呪霊玉
特級呪術師、外連甲斐。
呪術界において彼の名を知らない者は居ない。特級呪術師の中では、数年以上後に現れる乙骨憂太を除き、唯一のアウトプット出来る反転術式の使い手。戦闘面に関してはどういう訳か一切、呪力の残滓を残さないので分からない。また任務は必ず一人で受ける変わり者でもある。
そんな彼は今、怯えている。それはもう小学生がウンチをしているのが友達にバレたくらいには怯えている。
「あのォ〜甚爾さん…もう安全っスか?」
「ん?あぁもう呪霊は祓った。だから安全だぜ」
「いや困っちゃいますよね!全く上層部の糞ども!本当は絶対特級だって分かってて一級呪霊の討伐任務って言ってますよ!」
「まぁ良いじゃねぇか。オレはお前から貰った金で家族を養い、弱っちいお前は安全。まさにwin-winの関係だ」
もう一度言おう。彼は特級呪術師である。
しかし、彼には秘密がある。それは彼が持つ術式、’’ハッタリ’’が呪力を持つ者には尋常ならざる者に見える能力にある。またこの術式は天与呪縛により本人の意思に関係なく常に発動しており、本来なら常に呪力を切れを起こすクソみたいな縛りの筈だったが、消費呪力は時間経過での呪力回復が上回るほど極めて少ない。しかも天与呪縛の効果で術式効果がかなり強化されている。
その他の要因を諸々含め、任務をこなす内にあらゆる人々が勘違いを犯し続け、呪霊を甚爾が祓う事により、気づけば特級呪術師になっていたのだ。尚、彼自身の実力は準一級術師相当で、反転術式を会得しているので別に弱いわけでは無い。また呪力量も乙骨よりちょい少ないくらいで相当多いのだが、呪力を大量に使う術式なんて持っていないので宝の持ち腐れとなっている。因みに術式、ハッタリは術師の総呪力量によって効力が変化する。
───────
「どうやら今回も無事祓ってしまった様だぞ」
「…忌々しい。あの小僧の儂等を愚物として扱う様な視線…!!どうにか始末できんものか…」
此処は呪術界の中枢。此処に集まった数名の老公達は絶対的な権力を持っており、天元を除けば彼らが呪術界の今後を決める様な重要な決断を行う。
「…チッ。噂をすれば来た様だな」
重苦しい雰囲気に合わない事この上ないが、カラカラと引き戸を開ける音が嫌に室内に響く。扉がおおよそ半分開いた瞬間、一度引き戸の音が止まり、ガッガッと音を立てるとそれは来た。
「相も変わらず凄まじい呪力よ…!!」
「やはり同じ人間とは思えん!!」
扉の先に居るとは思えない溢れ出る圧倒的な呪力。殺気こそ込められていないが、身体から漏れ出たと思われる常軌を逸した呪力と圧力は然ながら台風の様である。
カツン。
甲斐の革靴が地面に触れる音が静かな室内に響く。気がつけば老公達は障子越しに冷や汗を垂らしていた。更にもう一度皮靴の音が鳴る。今度はいつの間にか口内に溜まった唾液を飲み込む。更にもう一歩、更にもう一歩と続け、数度繰り返して遂に中心へとやってきた。
「久しいな御老公方」
先に口を開いたのは甲斐だ。ちなみに本来の話し方は甚爾と話していた時の様にもっと三下っぽいのだが、「特級呪術師になったし威厳って必要だよな」とかいう下らない理由で外様に対しては、なんかそれっぽい口調に変化している。またこの喋り方が勘違いを加速させており、甲斐自身も気付いているが、もう今更引き返せない段階まで来てしまっている。
「それで此度は何の要件だ。オレに何を望む」
溢れる呪力に老公達は少し圧されるが、臆してならないと腹を決めると言葉を発する。
「イレギュラーにも関わらず特級呪霊の討伐ご苦労だった。だが、任務明けすぐに悪いのだが──」
「そこの障子…少し汚れているぞ」
「ッ!!」
新たな任務を言い渡そうとした時、鋭い眼光で話に割り込んだ甲斐の発言に元々喋っていた男は直に心臓を握られたかの様な錯覚に陥る。
甲斐が指差した先にある障子。本来この障子は高度な結界術の効果を持つ呪具で、ある種の防護壁の役割を担っている。それが老公達の配置が360°になる事で、作られる擬似的な封印術は正に堅牢だ。
だが甲斐の指摘通り障子は汚れていた。いや、正確には長年使用された為、呪具の効力が落ちていたのだ。そのもそのはず、本来この呪具は数年おきに新しい物に取り替える必要がある。しかし、近年はその取り替えを忘れており、障子が劣化し汚れていたのだ。つまり、今の発言の真意を汲み取ると
「オレの命令するとは傲慢だ。その気になればこの程度の結界は瞬時に破壊でき、貴様らを始末できる」
こういう事だろう。
「外連ッ!!お主脅しのつもりかァ!!」
「意味が分からんな。貴公らに対し、脅しを仕掛ける意味がない。本当にただの親切心だとも」
甲斐は優しそうな笑みを浮かべる。しかし、老公達は一見、本当に親切心で言っているのかと思ったが、いや騙されてなるものかと拳を握る。
「あぁそれとあの入り口の引き戸、建て付けが悪く少し開けにくかった。しかも少し破損していた様だったな」
「あっあり得んッ!!」
「だが、それが全てだ」
続く甲斐の発言にまたしても老公達は驚く事になる。あの引き戸もまた呪具の一種であり、込められた力は一度は凡ゆる攻撃を無効化し、その後も一級術師未満の攻撃ぐらいなら弾ける強力な強固な扉である。しかもそれは最近新調したものなので破損は勿論、建て付けが悪いのもほぼあり得ないだろう。
つまり、だ。
今、甲斐が言ったことの真意を汲み取るとこうである。
「貴様等がどれだけ守りに徹しようとオレにとってはあってもない物だ。全くもって臆病が過ぎる…。まぁそれも仕方ない。貴様等は所詮、生まれる前から負け犬根性の染み付いた下郎ども故な。おっと天与呪縛に失礼だったか」
やはりこういう事だろう。
任務の報告書などでは決して戦闘に関する事は語られないし、知る者も居ない。だからこそ、態々面倒ながらもこの場に来る事によって、甲斐は実力を匂わせる事で老公達に恐怖という首輪をつけに来たのだ。まさに狡猾で悪逆である。
因みに先日、お茶会に誘った所、既に酒に酔いながらこの場に来て、帰り際に引き戸に対しガンをつけ、本気の蹴りを数度かました禅院直毘人特別一級術師は関係ないに違いない。かの御仁が酔っていてもまさか扉を破壊する様な事はあり得ないだろうからだ。なにせ御三家と呼ばれるほど高貴な出で、マナーもしっかりしているから。だからこそ禅院直毘人が破壊したなんて事は、両面宿儺の器が現れて、なんやかんやあって復活するぐらいにはあり得ないに違いない。うんうん。
「よっ…呼び出してすまなかったが、実は労いの言葉を掛けようと思ってな。し、しかしどうやら、お主に取っては今すぐ休む事が最大の労いだったな。いや、済まない。もう帰ってもらって結構だ」
老公達はもう限界だった。どれだけ暗殺の計画を立てようと意味はなく、こうして恐怖を植え付けられる事に耐えられ無かったのだ。
だからこそ老公のうちの1人が声を捻り出して、そう告げると他の老公達は思わずスタンディングオベーションして拍手したくなったが、なんとか踏みとどまる。
「ほう…では有り難くそうさせて頂こう。貴公等も元気でな」
身を翻し帰って行く姿は隙だらけで、今攻撃を仕掛ければ暗殺できそうなものだが、恐らくそれすらもブラフなのだろう。老公達は震えながら甲斐が帰るのを待っていた。